【OR】線形計画法の第一歩:線形計画法について
はじめに
この記事では、初学者向けに線形計画法の基本概念を解説しています。解法の解説は行なっておりません。
線形計画法について理解が曖昧な方、数式が苦手な方はぜひ最後までご覧ください。
対象読者
- 線形計画法について学習したばかりの方
- 数式がアレルギーで数式ばかり出てくる参考書等がとっつきにくい方
線形計画法について
線形計画法(Linear Programming, LP)は、目的関数と呼ばれる数式を最大化または最小化することを目的とした数学的手法。この目的関数は、通常、複数の変数を含み、それらの変数が満たすべき制約条件が与えられます。制約条件は線形不等式として表され、これらの不等式の交点として得られる領域内で最適な解を見つけることを目的としています。
定義
1. 目的関数:最大化または最小化したい量を表す線形関数。例えば、利益、コスト、効率など。
2. 制約条件:利用可能なリソースやその他の制限を表す一連の線形等式や不等式
3. 変数:目的関数と制約条件に含まれる未知数。
制約条件によって定義される多面体の頂点(基底解)を探索し、目的関数の最適解を見つけるためのものです。線形計画法は、問題の性質上、解が存在する場合は必ずその解が多面体の頂点に存在するという特性があります。この問題を効率的に解くための解法として、シンプレックス法と内点法が広く知られています。
線形計画法の解法
シンプレックス法
シンプレックス法は実行可能領域の頂点を巡りながら最適解を探索します。
特徴
- 効率的であり、多くの実用的な問題に対して高速に解を提供する
- 実装が比較的簡単で、直感的に理解しやすい
欠点
- 最悪の場合、指数関数的な時間がかかる可能性がある
- 退化した場合、無限ループが発生する可能性がある
内点法
内点法は、実行可能領域の内部点からスタートし、最適解に向かって進むアルゴリズムです。
特徴
- 一般に、大規模な問題に対して効率的
- シンプレックス法と比較して、多くの問題において計算時間が安定している
欠点
- 実装が複雑であり、直感的に理解しにくい
- 精度や収束性が初期条件に依存する
実例
線形計画法の誕生の背景に第二次世界大戦と言われています。
第二次世界大戦中、軍事作戦において資源(燃料、弾薬、食料、兵力など)の最適配分が重要となりました。ジョージ・ダンツィグは、アメリカ空軍のためにシンプレックス法を開発し、これにより複雑な資源配分問題を効率的に解決できるようになったと言われています。
また、戦時中、兵站(ロジスティクス)の効率化が重要であり、物資を最適に輸送するための計画が求められました。線形計画法を用いることで、輸送コストの削減と迅速な物資供給が可能となりました。
現代ではこれらを応用し、製造業や物流などさまざまな分野で利用されています。
製造業 - 生産計画
限られた資源(原材料、労働力、機械稼働時間など)を最適に配分し、製品の生産量や利益の最大化またはコストを最小化する。
具体例
限られた原材料の範囲で製品A / B / C を生産する時、利益を最大にし無駄なく製品を生産するためには製品 A / B / C の生産個数はそれぞれいくつにするべきか?
条件として、在庫量と製品毎に必要とする原材料と利益をテーブルにまとめてあります。
原材料A | 原材料B | 原材料C | 原材料D | 利益 | |
---|---|---|---|---|---|
在庫量 | 50kg | 200kg | 80kg | 120kg | --- |
製品A | 4kg | 22kg | 6kg | 15kg | 4万円 |
製品B | 4kg | 30kg | 4kg | 10kg | 3万円 |
製品C | 8kg | 20kg | 16kg | 20kg | 6万円 |
目的関数: 利益の最大化
制約条件: 限られた原材料の範囲で製品A/B/Cを生産
上記の制約条件でA / B / Cがそれぞれいくつ生産すれば利益を最大化することができるのかを求めます。
エクセルにて求めた結果
A製品 = 0
B製品 = 4
C製品 = 4
を生産することで、最大で36万円であることがわかりました。
また、条件式にそれぞれの値を代入し、全ての制約条件が満たされることがわかりました。
その他にもどのような実例があるのかを列挙していきます。
製造業 - 在庫管理
- 在庫コストと生産コストを考慮し、適切な在庫レベルを維持するための計画を立てる。
輸送問題
- 複数の供給地点から需要地点へ製品を運ぶ際の輸送コストを最小化するためのルート計画。
配送計画
- 商品の配送スケジュールを最適化し、配送コストや時間を削減する。
ソフウェア開発における実例
せっかくなので、ソフトウェア開発プロジェクトにおいて線形計画法はどのように活かせるのかを見ていきます。
リソース割り当て
- 複数のプロジェクトに対して、開発者のスキルと時間を最適に配分する。
以下項目を最大、最小化する。- 最大化する目標
- 全プロジェクトの総収益
- 顧客満足度
- 開発者の生産性
- 完了するプロジェクト数
- 最小化する目標
- 全プロジェクトの総コスト
- プロジェクト完了までの総時間
- リソース
- 最大化する目標
コスト最小化
- 外部リソースの利用や残業を含めた開発コストを最小化しつつ、プロジェクトの納期を守る。
機能優先順位付け
- 限られた開発時間内で、収益を最大化するための機能実装順序を決定する。
サーバーリソース配分
- クラウドインフラにおいて、各アプリケーションの需要予測に基づいてサーバーリソースを最適に配分する。
テスト計画最適化
- 限られたテスト時間内で、重要度や複雑さを考慮しつつ、バグ発見の期待値を最大化するテストケースの選択。
技術的負債の管理
- 新機能開発とコードリファクタリングのバランスを取り、長期的な開発効率と短期的な製品価値を最適化する。
以下項目を最大、最小化する。- 最大化する目標
- 長期的な開発効率
- 将来の機能追加や変更のしやすさ
- コードの保守性
- 新機能による顧客満足度や市場競争力
- 最小化する目標
- 技術的負債の蓄積
- 将来的なメンテナンスコスト
- バグの発生率
- 最大化する目標
クラウドコスト最適化
- 様々なクラウドサービスの利用量と料金プランを考慮し、必要なパフォーマンスを維持しつつコストを最小化する。
最後に
線形計画法は、その数学的な厳密さと実用的な応用範囲の広さから、現代の最適化問題解決に欠かせないツールとなっています。製造業から物流、そしてソフトウェア開発に至るまで、様々な分野で活用されているこの手法は、限られたリソースを最大限に活用し、効率的な意思決定を支援します。
しかし、現実世界の問題は常に線形モデルで表現できるわけではありません。非線形性や不確実性を含む複雑な問題に対しては、線形計画法の拡張や他の最適化手法との組み合わせが必要となることもあります。
それでも、線形計画法の基本的な考え方を理解することは、より複雑な最適化問題に取り組む上での重要な第一歩となります。今後のビジネスや技術の発展において、この手法の重要性はますます高まっていくでしょう。線形計画法を学ぶことで、効率的な資源配分や意思決定のための強力なツールを手に入れることができるのです。
Discussion