スラムダンク型のチームを目指そう
はじめに
私は、普段は現場で働くエンジニアで、マネジメントの立場にいるわけではありません。
それでも日々チームで働く中で、次第にこんな感覚を持つようになりました。
- チームとしての成果は出しているはずなのに、なんだかうまくいっていない気がする
そんな漠然とした違和感を感じるようになりました。
そのモヤモヤの正体や、チームがもっとよくなるヒントを探したくて、少しずつチームビルディングについて学び始めました。
組織効力感というキーワード
そんな中で出会ったのが、元DeNA人材育成責任者の坂井風太さんの動画です。
そこで初めて「組織効力感」という言葉を知りました。
坂井さんは、組織効力感の低いチームを「ドラゴンボール」、高いチームを「スラムダンク」に例えて説明していて、それがとても印象的でした。
このとき、「もしかしてこのモヤモヤの正体は、組織効力感の低さなのでは」と感じ、自分なりに深掘りしてみることにしました。
本記事の内容と読んでほしい方
この記事では、「組織効力感」というキーワードを軸に、ドラゴンボール型とスラムダンク型のチーム構造の違いを整理しながら、組織効力感をどう高めていけるかについて、自分なりの言葉で綴っています。
- なんとなく、うまくいってない気がする
- 仲が悪いわけじゃないけど、チームの空気がちょっと重たい
- 自分ってこのチームでちゃんとやれてるのかな
そんなモヤモヤを抱えながら現場で働く方や、チームづくりに関わるマネジメント層の方にとって、少しでもヒントになれば嬉しいです。
※ 参考にした動画はこちらです。
組織効力感とはなにか
簡単に言えば、「このチームならやれる」と思える感覚のことです。
心理学では collective efficacy(コレクティブ・エフィカシー)
と呼ばれ、チーム全体が自分たちの力を信じて、困難にも立ち向かえる状態を指します。
個人における 「自己効力感(self-efficacy)」 が 「自分ならできる」 だとすれば、組織効力感は 「自分たちならできる」 という感覚です。
そしてこれは、単なる成果だけでなく、チームの空気感や信頼関係の中に存在する見えない力とも言えるのだと思います。
なぜ組織効力感が重要なのか
組織効力感は、「誰かがなんとかする」ではなく、「自分たちでなんとかする」 という意識の土台になります。
困難に直面したときも、
- この仲間と一緒なら乗り越えられる
- あのときも一緒に乗り越えたから、今回も大丈夫
と感じられることが、挑戦を支える力になります。
この感覚があることで、
- メンバーの離脱リスクの低下
- 主体性の向上
- 新しい挑戦への後押し
といった、チームにとってポジティブな変化が生まれやすくなります。
もし仮に、「自分ならばやれる」という自己効力感が高い人ばかり集めても、組織効力感がない場合は、
- 「自分ならばやれるけども、この仲間とやる必要がない」
となり、離脱リスクがあると坂井さんはいいます。
また、Googleが行った「プロジェクト・アリストテレス」でも、高いパフォーマンスを発揮するチームの共通点として、組織効力感や心理的安全性の存在が明らかにされています。
組織効力感の違いをアニメで例えてみる
冒頭でも触れたように、元DeNA人材育成責任者の坂井風太さんは、組織効力感の低いチームを「ドラゴンボール」、高いチームを「スラムダンク」に例えて説明しています。
この比喩は、私自身の中にあったなんとなくの違和感を言語化するヒントにもなりました。
ちなみに、ドラゴンボールの例については、こちらの動画で紹介されています(4:00あたりから登場します)
Z世代育成・組織硬直化防止Q&A
ここからは、この2つの作品を例にしながら、チームの構造や空気感の違いをもう少し深掘りしてみたいと思います。
ドラゴンボール型チームの構成図
ではまず、組織効力感が生まれにくいとされる「ドラゴンボール型チーム」がどんな状態なのか、図で見てみましょう。
この構造では、特定の個人に役割や成果が集中しやすく、それがチーム全体の空気や働き方にどう影響しているのか。
おなじみのキャラクターたちを例に、チームの中にある力の偏りや構造を整理してみました。
ドラゴンボール型チームの構成図
図の解説
⭐️悟空(絶対的スーパースター)
ほぼすべての危機を最終的に解決し、周囲の期待も成果も集中する存在。
自己効力感は育ちやすい一方で、他のメンバーの成長機会や活躍の場が奪われがち。
🔥ベジータ(ハイスペックだが主役にはなれない)
実力はあるものの、常に2番手ポジション。
たまに主役感を出すこともありますが、最終的には悟空に譲る。
💪クリリン・天津飯・ヤムチャ(努力型・献身型メンバー)
サポート役としてチームを支える存在ですが、戦闘力では劣る。
危機にはまず最初に倒れてしまうため、自己効力感が育ちづらい。
ドラゴンボール型チームの組織効力感は?
ドラゴンボール型の組織では、どれだけ他のメンバーが頑張っても、最終的には悟空が片付けるという構造が定着していきます。
このとき、サポート役のクリリンやヤムチャの自己効力感はどうなっているでしょうか?
- 「どうせ最後は悟空がなんとかしてくれる」
- 「自分がいても、いなくても変わらないんじゃないか」
そんな空気がチームに漂ってしまうと、挑戦する意欲や成長へのモチベーションも削がれていきます。
このような状態が続けば、チームとしての自信や一体感は次第に薄れていき、「自分たちならやれる」という組織効力感も、なかなか育っていきません。
もし悟空がいなくなったら
悟空のようなスーパースターに頼る構造が続いていたチームに、ある日突然、悟空がいなくなったとしたら。
そこで直面するのは、空いたポジションをどう埋めるかという問題です。
よくある構造の流れ
そんなとき、現場では次のような流れが生まれがちです。
- 空いたポジションに「新しい悟空」を期待する
- 後任がベジータだった場合、実力はあるが、スタイルやリーダーシップは悟空とは異なる
- しかし周囲の期待値は、無意識のうちに「悟空仕様」になってしまっている
悟空が抜けたときの影響を図解
なぜ問題なのか?
このように、「役割に人を当てはめる構造」が続いてしまうと、後任の強みやスタイルが活かされず、期待とのギャップに苦しむことになります。
たとえば、こんな思いが周囲に生まれてしまうかもしれません。
- 「あの人の代わりとして、同じように引っ張ってくれるはず」
- 「前任と同じレベルの成果を出してくれるだろう」
こうした無言の期待がプレッシャーとなり、自己効力感は低下。
結果として、チーム全体のパフォーマンスにも悪影響が出てしまうと考えています。
なんとかなってしまう構造の危うさ
さらに、この構造の厄介なところは、表面的にはうまくいっているように見えることです。
実際、成果は出ている。だからこそ、違和感に気づきにくい。
坂井さんの言葉を借りれば、
- 料理は出てくるけど、 厨房が危ない
という状態です。
たとえば、実際には2人で回してたとか、現場は油まみれで滑りそうとか。
外から見れば問題なく回っているように見えても、現場はギリギリの状態で回っているのです。
つまり、後任のベジータや、クリリン・ヤムチャのような献身的なメンバーが、内心は無理をしていたり、自己効力感を失いかけていても、表面的なアウトプットでそれが覆い隠されてしまう。
そして、気づいたときには、みんなが疲弊していて、達成感 < 消耗感
となり、空気がどんより重たい・・・。
そんな状態になっていることもあるのです。
構造の歪みがもたらすもの
冷静に考えてみれば、悟空のようなスーパースターは、そう何人もいませんよね。
それに、悟空になるための修行や準備期間が、十分に与えられていないことも多いです。
それでも、周囲の期待は無意識のうちに「悟空であること」へと向かってしまう。
そこに、この構造の歪みがあるのだと思います。
この構造の歪みが、チームの中に無理な期待や依存を生み出し、結果として組織効力感を育てにくい状態を作ってしまうように感じます。
スラムダンク型チームの構成図
ドラゴンボール型のチームについて見てきましたが、実はチームにはもう一つの在り方もあります。
次に紹介するのは、「スラムダンク型のチーム」。
こちらは、役割を一人に集中させるのではなく、それぞれが自分の強みを活かしながら支え合う構造が特徴です。
では、そんなスラムダンク型のチームとは、どのような構成なのでしょうか?
スラムダンク型チームの構成図
図の解説
🦍赤木(精神的支柱、守備の要)
プレーでも言動でもチームを支える存在。
すべてを一人で背負うのではなく、仲間を信じて託すことができるキャプテン。
通称ゴリ。
🌪️流川(エース、個の突破力)
個としての圧倒的な得点力を持つ存在。
徐々にチームプレイを意識した連携にも目を向けるようになる。
🎯三井(得点力、3Pシュート)
元MVP。怪我での挫折や不良時代を経て復帰。
クラッチシューターとして、要所でチームを何度も救う。
⚡️宮城(司令塔、スピード)
ゲームの流れを読み、展開をつくるスピード型の司令塔。
リーダーシップもあり、全体のバランスを調整する存在。
💪桜木(フィジカル、リバウンド王)
最初は素人ながら、仲間との関係性の中で急成長。
リバウンドという武器を磨き、信頼を支えにチームに貢献していく。
スラムダンク型チームの組織効力感は?
スラムダンク型のチームは、それぞれが自分の持ち場と役割を担い、自律的に動ける構造が特徴です。
キャプテンである赤木も、すべてをコントロールしようとするのではなく、仲間を信じて任せています。
図では、赤木からメンバーに矢印はありませんが、メンバーからは赤木に矢印が向いています。
これは、赤木が「支えている」だけでなく、「支えられている」ことを示しており、相互依存の関係性を表しています。
このように、一人に頼る構造ではなく、チーム全体で補い合う構造があるからこそ、「自分たちならやれる」という組織効力感が自然と育まれ、再現性と継続性のある強いチームができていくのだと思います。
もし赤木がいなくなったら
赤木不在のチーム構成図
スラムダンク型のチームは、赤木のような精神的支柱が抜けたとしても、すぐには崩れません。
なぜなら、メンバー同士が 「相互に支え合い、役割を補い合う関係性」 にあるからです。
図では例として、桜木が赤木の守備面を補い、三井が精神的支柱の一部を担う形が描かれています。
このように、特定の個に頼るのではなく、チーム全体でバランスを取り合う構造が自然とできているのです。
もちろん、宮城や流川も、桜木や三井の役割が増えた分をカバーするような動きを取るはずです。
そうして、一人の負担が偏らないように補完し合う柔軟さが、このチームには備わっています。
また、もし新しいメンバーが加わったとしても、その人の強みや個性を理解し、最適なポジションを一緒に模索していく土壌があります。
赤木のような役割に「人を当てはめる」のではなく、「この人らしさをどう活かすか」という視点でチームが動いているのです。
こうした柔軟さと信頼関係があるからこそ、「自分たちならやれる」という組織効力感が自然と育まれ、チームの再現性や継続性を支えているのだと思います。
組織効力感を高めるには
こうして見てくると、スラムダンク型のチームには、メンバー同士の信頼や補完関係、そして「このチームならやれる」という感覚が自然と根づいていることがわかります。
では、このような組織効力感は、どうすれば実際のチームでも育てていけるのでしょうか?
ここからは、坂井風太さんの動画で紹介されていた「組織効力感を高めるための3つの要素」をもとに、私なりに解釈・整理してみたいと思います。
1. 集団的達成経験の自覚
集団的達成経験とは、
- 「このチームで成果を出した」
- 「自分たちだから、なんだかんだ乗り越えられたよね」
といった、チームとしての成功体験を実感できた経験のことです。
たとえば、チームで掲げた目標を達成した瞬間や、困難な局面をチームで乗り越えたときの一体感は、組織効力感を強く育ててくれます。
一方で、現場ではどうしても悲観的な側面に目が向きがちです。
だからこそ、坂井さんは成長に目を向けることの大切さを強調しています。
- 「1ヶ月前にはできなかったことが、今はできている」
- 「あの頃は不安だったけど、振り返ればみんなでちゃんと乗り越えてきたよね」
そんな小さな成長や成功の積み重ねが、「自分たちならやれる」という感覚、つまり組織効力感を少しずつ育てていくのだと思います。
2. 貢献可能性の自覚
貢献可能性とは、「自分がここを頑張れば、チームに貢献できる」と実感できている状態のこと。
これは、持っているスキルの大小に関係なく、このチームにおける自分の役割を明確に感じられているかどうかがカギになります。
坂井風太さんはこの感覚を、
- 小さな能力、大きな主役
と表現していました。
その例として、ここでもスラムダンクのエピソードが挙げられ、赤木キャプテンが初心者の桜木に
- 「お前のリバウンドは全国区だ」
と伝えるシーンが紹介されています。
この言葉を受けた桜木は、自分の強みを理解し、
- 「自分でもリバウンドでチームに貢献できる」
と自覚するようになります。
このように、自分が必要とされているという感覚は、自己効力感を育てる大きなきっかけになります。
そして、その感覚が積み重なることで、「自分たちならやれる」という組織効力感へとつながっていくのだと思います。
3. チームの強みの情報流通量の多さ
お互いの強みを知っているか?語り合えているか?
これは、組織効力感を支える重要な要素のひとつです。
たとえば、
- 「隣のチームの誰々さん、あの件よかったよね」
といった前向きな会話が自然と交わされるチームでは、空気感や連携が良く、信頼関係が育ちやすい傾向があります。
さらに言えば、「隣の隣のチームのあの人が、自分たちのチームの取り組みについて話していた」というような場面があると、
- 見てもらえている
- 認知されている
という実感につながり、メンバーの貢献可能性や自己効力感を高めることにもつながります。
また、坂井さんは「他己紹介がうまいチームは、組織効力感が高い傾向にある」と語っていました。
たしかに、次のような会話が日常的に行われているチームは、互いをよく見ていて、尊重し合っていると感じます。
- 「あの人の〇〇なところ、ほんとすごいよね」
- 「●●チームの××さん、あの対応めちゃくちゃ良かったらしいよ」
こうした強みの共有が当たり前になっているチームには、
- 「この会社(チーム)には、自分の良いところをちゃんと見てくれている人がいる」
という安心感や帰属意識が生まれやすくなります。
そして、その感覚が自然と組織効力感を高めていくのだと思います。
まとめ
ここまで、「組織効力感」というキーワードを軸に、チームの在り方について自分なりに考えてきました。
もちろん、現実のチームづくりは理想通りにはいかないし、関係性の形も人の数だけあります。
それに、事業フェーズや環境によっては、悟空のようなスーパースターが必要な場面も、きっとあると思います。
それでもやっぱり、坂井さんが話していた、
- 人は一人で燃え続けられるほど、強くない
という言葉が、今の自分には強く響きました。
たとえ、凸凹があるチームだとしても、
- 自分も活躍できて、周りも活躍できる(貢献可能性)
- お互いの長所を活かし、補完し合える(相互依存性)
そんなチームであれば、ひとりでは成し得なかった成果も実現できるんじゃないかと思っています。
そして、自分もいつか、そんなスラムダンク型のチームを目指していけたらいいなと思っている一人です。
これから、組織効力感を高めるための3つの要素を軸に、具体的なアクションを検討・実践していくことになると思いますが、取り組んでみての気づきや効果など、またどこかでお話できたら嬉しいです!
最後に
マネジメントや組織という複雑なテーマを、わかりやすく言語化してくださる方々がいたからこそ、こうして自分の中でも理解を深めることができました。
この場を借りて、感謝の気持ちを伝えたいと思います。
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