なぜ日本人はグローバル会議で黙っちゃうのか? (心理構造編)
明日海外と打ち合わせがあるからリードしてくれ - こんな指示が飛んできたらみなさんどう感じますか?
経験がない方は「無理無理無理」と思うでしょうし、英語がしゃべれても自信がなかったり、多かれ少なかったりハードルを感じる方は結構いるのではないでしょうか。
今回は「グローバル」という舞台で必要なことと、経験して感じた「日本人あるあるな壁」を考えてみます。
海外と仕事する日本人がすべき大事なこと1選
海外と仕事するコツはズバリ、海外メンバーと「友達」になること。集約するとこの一言に尽きます。
ただ「会ったこともない相手といきなり友達になれ」なんていきなり言われてもピンとこないですよね。
この記事では日本人が「どんな特性を持っていて」「何を難しいと感じるか」と、なぜ僕が「友達になること」を推すに至ったかを噛み砕いていきます。
日本人の特性ってなんだろう(総論)
グローバル会議というものに慣れるまでに、僕自身も非常に多くの心理的なハードルを感じてきました。
いざ壁を乗り越えてみて初めてわかったのですが、壁に感じたことの大半は日本人の文化的に根付いてきた深層心理からくるもので説明がつき、おそらく多くの日本人に共通することです。
グローバル会議において感じた代表的な特性を3つ紹介します。
その1: ホンネとタテマエ
ある日、出張に来ていたインド人エンジニアから、こんな愚痴を聞きました。
- 他のプロジェクトに参加したんだけどさー、日本チームがどう思っているか言ってくれなくてわからないんだよねー
- 会議の場で何も話してくれないから進展なかったと思ったのに、次会うときにあたかも決まったかのように資料持ってくるんだよう…
- 僕らは話しながら色々決めたいのに、避けられてしまって困ってる。Tomi,よかったら通訳に入ってくれない?笑
どうやら彼は「日本メンバーが考えていること」を掴みかねているようでした。
これに対して、僕は彼に「日本人は文化的にホンネとタテマエを使い分ける人が多い」ことを説明しました。
実際、組織内の会議では自分がぶっちゃけどう思っているか(ホンネ)を率直に話すことを避け、表面上当たり障りのないこと(タテマエ)をしゃべる人の方がメジャーです。
タテマエの光と闇
狭い島国で海外と交流する機会も少なかったため、同じ土地の中でぶつかり合わないようにうまく避けながら生きていくために自然と生まれた知恵の一つがタテマエだ…と僕は思っています。
飲みの誘いを内心「めんどくせー」と思いつつ、予定もないのに「すみません今回は都合が悪くて…またぜひ!」と体裁を整えて断るのが典型的な例です。
はっきり言うと角が立ち次に会う時に気まずくなるので、波風を立てない言い方に変換して相手を配慮をする。裏を返すと、自分が「その組織でうまくやっていくために自然と身につける生存戦略」です。
「他人への配慮」「気配り」は賞賛すべき美しいことで、日本の誇りとして伝えていく文化だとされています。この側面は僕も心底すばらしい文化だと誇りに思います。
しかしその反面、同時に「思っていることを言わないから、相手が本音に気付けない」「ぶつかることを過度に避ける」という性質があることはなかなか語られません。察しの悪い上司や知り合いが何度断ってもしつこくアプローチをしてきた経験、多くの人があるのではないでしょうか。
タテマエのマイナスの側面は、グローバルというフィールドでは誤解を生む火種になりがちで、時に致命的な足枷になります。
その2:周囲からの視線に対する機微
日本人にとってもう一つ大きな壁が「同調しようとする空気感」、悪意をもって言うと「無言の同調圧力」です。
「出る杭は打たれる」という言葉に象徴されるように日本では周りと違うことはよくないとする価値観が歴史的に刷り込まれており、日本人は周囲にどう思われるかをかなり気にする傾向があります。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という迷フレーズもまた、誤った方向に行こうが周りが一緒なら安心できるという心理を悪い側面として見事に表現してます。
これもまた「集団としての和を重んじる」が故の心理で、狭い島国で生きるための知恵であると思います。自分勝手に割り込まずに行列を作って並ぶことなどを例に、「日本人の公共のマナーが良さ」という形でみなさんもよく聞くところでしょう。
協調性というポジティブな側面は強力な武器ですが、反面チーム作り上げる過程では「みんなで意見を出し合ってるのに他の人と同じことしか言わない」など悪く作用することも少なくないです。
その3: ハレとケの切り替え
最後の壁は、無意識で自動的に行われる「身内」と「それ以外」の区別です。
日本古来からある世界観として、ハレ(非日常・フォーマルな場)とケ(日常・カジュアルな場)を区別する風習があります。
例えば初対面の人に社内サービスの仕様を説明しに行く場面やベンダーと顔合わせをする場面では、(本人は無意識かもしれませんが)ビシッとスーツを着こなしてきちんとしようとする「ハレ」の意識が働くと思います。
ただでさえ「普段」話さない人と、「いつもと違う」言語で会話をし、日本人が空気を読んで言わないような意見もバンバン飛び出してくるグローバルな会議は、どうしてもハレと捉えられがちです。きちんとしたことを言わなければという意識が働くと、なかなか発言もしにくくなってしまいます。
実際にその場で期待されているのは気負わず思っていることを率直に言うケの態度なのですが、多くの人がこのスイッチ自体を自覚していないこともありなかなかその区別の切り替えができない、おとなしくなってしまうということがよく起きます。
日本人の傾向まとめ
グローバルでみた時に日本人の(あくまでも一般的な)傾向は、フランクにまとめると大きく3点です。
1.ホンネを語るのが苦手
2.周りを気にし過ぎる
3.身内(ケ)と対外(ハレ)で線引きをしがち
海外メンバーと建設的な議論を進めるためには、心理的な壁を乗り越えて「率直な意見をバンバン言い合える」ようになっていく、つまり「(仕事中は)相手と友達になる」ことが不可欠です。
文化的な背景からくる「フレンドリーに接することへの抵抗感」は日本人である当人の心の問題なので、時間をかけてでも自力で解決していくしかありません。
何重にも壁が重なっているので最初の一歩を踏み出しにくいのも仕方がないのですが、なんとか乗り越えるべき課題です。
つづく
この記事では日本人の心理的な障壁について、概論してみました。いかがでしたか?
グローバル会議で日本人が黙ってしまう理由の多くは、文化的な背景から根付いた心理で説明できる「自然なこと」で、(英語自体の得手不得手に関わらず)うまく会話ができないこと自体に落ち込むことはありません。
原理さえ理解してしまえば、あとはこの殻をちょっとずつ破っていくだけです。
…と偉そうに「グローバルとは」「日本人の心理構造は」なんて執筆しましたが、僕もこの心理的ハードルに苦しめられた日本人の一人です。自分で乗り越えてしゃべれるようになったり、感覚を後輩たちに伝授したりするのにはだいぶ苦労をしてきました。
後編記事では、「実際どうやって乗り越えたか」「どうやって友達になるか」実践例を紹介予定です。
前後編シリーズを予定していましたが、内容が膨大になったため複数回にわけて公開しようと思います。
続編をお楽しみに!
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