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[論文紹介] VMware Horizon 6におけるRDP 8.0とPCoIPの比較

2020/09/19に公開

前回のエントリー「RDP 7.0とPCoIPの通信帯域影響比較」では2010年の論文を紹介してみたのですが、このエントリーではその論文を参照している、Louis Casanov、Marcel Yap、Edy Kristiantoによる2017年の論文「Comparing RDP and PcoIP protocols for desktop virtualization in VMware enviroment」を取り上げてみます。論文というのは参照文献を通じて、過去もしくは未来に向かって相互に辿れるのが面白い点だと思います。

この論文では、VMware Horizon 6の検証機で、RDP 8.0とPCoIPを、PCMark 8.0を使ったベンチマーク負荷をかけた状況で比較検証をしています。仮想デスクトップのOSにはWindows 7 SP2を使っていますが、当時一番使われていたのがWindows 7だったためで、あえてWindows 10は使わなかったとのことです。

最初の検証結果はPCMark 8によるベンチマークテストです。Adobe Creative Suite 6、Microsoft Office 2016、「Home」(ブラウザによるWWW閲覧や画像編集など)のそれぞれのベンチマークテストをしたところ、

the difference in time processing is very small between PCoIP and RDP protocol, it’s interesting to see that from 15 tests (Represent 15 applications) conducted on each protocol, we found RDP was outperform PCoIP by 8 tests on TC and 7 test on PC.(PCoIPとRDPでは実行速度の違いはわずかだった。15個のテストのうち、Thin Clientでは8テストでRDPがPCoIPを上回り、PCでは7テストで上回った)

ということです。つまりおおむね互角であったと言えるようです。

次にPCMarkのベンチマークスコアを比較したところ、

in application specific test (Category: Ms. Office 2016 and Adobe CS6), RDP has better score than PCoIP.(MS Office 2016とAdobe Creative Suite 6のアプリケーション固有のテストではRDPの方がPCoIPよりも良いスコアだった)

と書いています。ただし、スコア外の筆者の所見が記載されており、

RDP has lack graphics quality, it has a lot of pixels’ artifact when the desktop plays a video. (RDPは映像品質の劣化が見られた。デスクトップでビデオを再生している際に数多くのピクセル表示のほつれが生じた)

ということから、ビデオ再生など高頻度に画面が切り替わる処理にはRDPの画面表示には課題がありそうです。

最後に、RDP 8.0とPCoIPについてクライアントとサーバ間の通信帯域使用量を比較したところ、

RDP has lower bandwidth consumption compared with PCoIP for both of average score and highest (During peak load) average score.(RDPはPCoIPと比較して、平均およびピーク負荷の双方で少ない通信帯域使用量を示した)

と記載しています。

以上が論文の内容です。私なりにまとめると、

  1. PCMark 8でのベンチマークテストでは、応答速度の観点ではPCoIPとRDPはほぼ互角で、ベンチマークスコアではRDPが優位な値を示した。ただし、ビデオ再生の際にRDPでは画面の劣化が見られた(マルチメディア処理用途ではPCoIPがより優れている)
  2. クライアント・サーバ間の通信帯域使用量を測定したところ、平均および最大ピーク時の双方で、RDPの方がより少ない通信帯域使用量だった(PCoIPはより大きな通信帯域を使用する)

ということです。

私はこの論文を読んでみて正直不可解だと感じました。

まず結論の1点目についてです。PCMarkというのは仮想デスクトップ上で動かす実行中は操作不要で負荷をかけられるベンチマークツールですので、サーバ上の仮想デスクトップ内で処理が完結し、RDPとPCoIPの通信はベンチマークで計測している結果にはあまり関係がないのではないかと感じました。仮想デスクトップのサイジング妥当性チェックの負荷テストであればPCMarkの利用は理解できるのですが、PCoIPとRDPの比較という観点では、クライアント(VMware Horizon View Client)側からキーボードとカーソル操作を画面変化に応じて自動処理できるようなツールで実行速度を見る方が適当に感じました。従って、この論文の表1と表2の結果はただの誤差なのではないかと疑問に思えます。

結論の2点目についてです。前回エントリーで取り上げた論文がPCoIPが通信回線状況に応じて通信帯域を変える特性があると述べているので、この論文でも検証環境における通信帯域の特性について言及が欲しかったところです。おそらくこの用途だけに作った検証環境なので回線は空いていたと想定され、この論文が「先行研究の実験の拡張」を志向するのであれば、前半の記述をコンパクトにして、実験結果の記述をもう少し充実化させた方が良かったとも感じます。

以上の点で、私はこの論文の評価が総合的にはあまり高くないのですが、ツールで負荷をかけつつ、画面表示を目視して所見レベルでも画面表示の差について言及しているのは良い点だと思います。

VMware HorizonやAmazon WorkSpacesで使われているPCoIPやCitrix XenDesktopで使われているICAは、RDPと比較して比較的劣悪なネットワークでもユーザ体験を損なわない点をセールスポイントにしていると思うのですが、その画面表示(テキスト表示、画像表示、高頻度に画面が切り替わるマルチメディア表示部分など)の差異について、学術的に計測して研究した論文などがあれば是非読んでみたいと感じました。

ビデオ表示について、2011年と少し古いですが、RDPとPCoIPを比較した動画がYouTubeを検索したら見つかったのでリンクを張っておきます。最初がRDPで後がPCoIPだそうです。

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