文系出身者がジョージア工科大学のコンピュータサイエンス修士に合格するまで
先日magurotunaさんが公開された記事「ジョージア工科大学のコンピュータサイエンス修士課程に進学します」とほぼ同じような内容ですが、アメリカのジョージア工科大学が提供しているオンラインのコンピュータサイエンス修士コースに合格したため、合格に至るまでの過程や準備をまとめました。
私は出身学部が文系ということもあり、準備に時間を要した部分もありますが、そのような部分も含めてネットに公開することで文系出身でコンピュータサイエンスの修士課程の進学を考えている方や、海外の大学院への挑戦を考えている人への参考となればと思っています。
なぜ大学院でコンピュータサイエンスを学びたいか
学びたいという欲求
新卒でSIerに入社し、SEとして働く中で、また転職してWeb系企業でエンジニアとして働く中でコンピュータサイエンスの知識が自分には足りていないとずっと感じていました。
コンピュータサイエンスを学ぶ方法は様々ありますが、MOOCや本など独学で学んでいくには時間がかかりますし、仕事に直結するわけではない内容も多く、最新技術や仕事で使う技術に目移りし学習を継続できていないという課題がありました。やはり何かしらの締め切りや継続させるための仕組みが必要だと考え、その方法として大学院という選択肢が上がりました。
学位・海外
学びを継続させる方法以外にも大学院で学びたいという理由があります。それは学位です。
将来的に海外で働きたいと新卒の頃から漠然と考えていましたが、海外で働くには国内企業から海外に駐在するという方法を除いた場合、コンピュータサイエンスや理系の学位が必要になることがあります。
私は最終学歴がBachelor of Arts(教養学士)で、海外でソフトウェアエンジニアとして働く上で一般的に必要となる学位を持っておらず、将来的なキャリアの妨げになってしまう可能性がありました。
当然企業によっては応募資格に学位を必須としておらず、相応の実務経験があれば良いというところもありますが、修士号があったほうが有利なのは確かなので大学院が第一候補となりました。
キャリア
大学院に行くことで今後のソフトウェアエンジニアとしてのキャリアの可能性を広げたいというのも1つの理由です。海外で働きたいというのもありますが、コンピュータサイエンスの基礎や理解に時間がかかる知識を習得していることは今後、ソフトウェアエンジニアとして技術の移り変わりにうまく、素早くキャッチアップし、長く働く上で必要だと考えています。
なぜジョージア工科大学を選んだのか
情報系の大学院は国内にもありますが、なぜ海外で大学院を選びその中でもジョージア工科大学に出願を決めたのかをここでは書いていきます。
志望校選び
国内大学院
大学院進学を考えた頃は必ずしも海外の大学院にこだわっていたわけではなく、国内、国外どちらも調べた上でまず海外の大学院に行くことを決め、そこからジョージア工科大学へ志望校を絞っていきました。
国内では北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST)と東京都立産業技術大学院大学 (AIIT)の社会人コースを検討しましたが、JAISTはカリキュラムが社会人コースだと限られていることと研究の比重が多く、どちらかと言うとより多くのコースを受講したい私の希望と一致しない部分があったので志望校には入れませんでした。AIITは最終的に取得できる学位がコンピュータサイエンス修士ではなく情報システム学修士(専門職)であることと、カリキュラム内容が仕事で経験した内容と被っているものがいくつかあったためこちらも志望校には入れませんでした。
海外大学院
国内の大学院は志望校がなかったため海外の大学院の情報収集を行いました。
この段階では現地に留学することも考えていたため、オンライン・オフライン問わず大学院を調べ、取得できる学位、費用、必須学位、事前要件、必要な英語力などをまとめた以下の画像のようなスプレッドシートを作成しました。
シート作成当時はコロナ対策によるロックダウンが欧米などで実施されており、現地に行っても実質オンラインと変わらない可能性がありました。また学費・滞在費合わせて数百万単位でお金がかかることや仕事をやめて行くため収入源を絶たれてしまうこともあり、現地留学はコストに対して得られるものが少ないと判断し、オンラインの大学院に絞って出願することを決めました。
私が候補としたのは以下の大学院です。
大学院名 | 国 | 特徴 |
---|---|---|
Georgia Institute of Technology | アメリカ | カリキュラムが豊富・コースワークのみ・学費が安い(トータルで100万を切る)・歴史が長くコースのレビューサイトもあり情報が豊富 |
University of Bath | イギリス | カリキュラムはバランスが良い(AI・システム・ソフトウェアエンジニアリングなど)・論文は必須・学費は高め(トータル200万くらい) |
University of York | イギリス | コンピュータサイエンスの学位を持っていない人向け・カリキュラムはバランスが良い(AI・システム・ソフトウェアエンジニアリングなど)・論文は必須・学費は比較的安め(トータル120万くらい) |
University of Illinois Urbana-Champaign | アメリカ | システム系のカリキュラムが豊富・コースワークのみ・学費は高い(トータル280万前後)・他と比べて英語の必須スコアが高い(TOEFL iBT 103以上) |
University of Texas Austin | アメリカ | 機械学習や理論系のカリキュラムが多い・システム系カリキュラムは少ない・GREが必須・学費は比較的安め(トータル130万前後) |
University of Essex | イギリス | コンピュータサイエンスの学位を持っていない人向け・論文必須・基礎的なカリキュラム・学費は高め(トータル200万前後) |
University of Liverpool | イギリス | コンピュータサイエンスの学位を持っていない人向け・論文必須・基礎的なカリキュラム・学費は高い(トータル250万前後) |
最終的にはこれらの大学院の中から、カリキュラム内容・学費・学位取得にかかる年数・必要なテストスコアなどをチェックしていきました。私の場合は特に以下の点を比較しました。
- カリキュラムの内容でコンピュータサイエンスやソフトウェアエンジニアリングのコースが充実していること(アルゴリズム・システムアーキテクチャ・ソフトウェアアーキテクチャなど)
- できればコースワークのみで修了できること
- 学部のGPAが出願要件を満たしていること
- 事前要件がある場合満たしていること、もしくは満たせそうなこと
- できる限り学費が安いこと
- 英語やその他テストのスコアが出願期限までに現実的に取得可能であること
この中でも特に重視したのはカリキュラムの内容です。せっかく時間と労力とお金をかけて行くので自分が学びたいものを学べるかというところを重視しました。その点ジョージア工科大学のカリキュラムは他の大学院よりも圧倒的に豊富でさらに学費も他に比べて圧倒的に安かったためジョージア工科大学への出願を目指し準備を行いました。
出願までの道のり
ジョージア工科大学に出願する上で満たさなければならない項目はいくつかあります。項目ごとに私がどのような準備を行ったか書いていきます。
コンピュータサイエンス・数学の単位取得
ジョージア工科大学の出願に当たってコンピュータサイエンス・工学・数学など理系の学位があることが望ましいとされています。そういった学位がない人はケースバイケースで判断されますが、仕事の経験は学位の代替とはみなされないので、私のような文系学位を持つ人は何かしらの方法でコンピュータサイエンスの基礎的理解をしていることを証明する必要があります[1]。
私は2017年ごろから 北海道情報大学 (HIU)と放送大学 (OUJ)の科目履修生としてコンピュータサイエンス関連の科目をいくつか取得していたので、それらの科目を持ってコンピュータサイエンスの基礎的理解を証明しました。以下が取得していた科目です。
- コンピュータサイエンス入門(HIU)
- コンピュータアーキテクチャ(HIU)
- オペレーティングシステム基礎論(HIU)
- アルゴリズム(HIU)
- データベースシステム(HIU)
- ソフトウェアエンジニアリング(HIU)
- 線型代数学(OUJ)
- 統計学(OUJ)
- データ構造とプログラミング(OUJ)
TOEFLスコア取得
TOEFLスコア取得は一番時間がかかり大変でした。
このオンラインコンピュータサイエンス修士コースの公式ページではTOEFL iBTで各セクション19以上かつ100点が最低ラインとして記載してあります。
当初はこの100点を目指してTOEFLの勉強をしていましたが、Redditや他の方の受験時の情報に90点でも合格したという記載があったため、大学側に確認してみたところ各セクション19点以上で90点が最低ラインだと回答をもらったので、この90点を目指し勉強をしました。[2]
私は一人で英語の勉強を続けられないタイプだったので3ヶ月のTOEFL集中講座(詳細はこちら)にお金を払って参加し、4つ技能(特にライティングとスピーキング)を伸ばしました。
集中講座と言っても基本的には自分で学習していく必要があるので各技能ごとに以下のようなやり方で対策を行いました。
単語対策
TOEFLを受験する上で自身の単語力が全く足りていないことは分かっていたので、単語力を身につけるためにLingvistとiKnowというアプリのTOEFL単語コースを使い、毎日100~200単語に触れ、新規単語を覚えました。この2つのアプリは新しく覚えた単語がちょうど忘れる頃に再度綴りや意味を問うようなアプリになっているので、書籍で単語を覚えるのと比べて非常に楽に単語力を増やすことができました。
単語力は短期間で一気に習得することが難しいので、毎日100~200単語をコンスタントに触れ続けることで単語力を増やしていきました。
リスニング対策
リスニング対策ではYoutubeに上がっているアメリカの大学の講義やPodcastを聴くことで速度や発音に慣れていきました。例えばカリフォルニア大学アーバイン校が提供しているEarth System Scienceやイェール大学が提供しているIntroduction to Power and Politics in Today’s Worldなどの授業を字幕なしで聞き、聞き取れなかった部分や不明な単語が出てきた部分をYoutubeの字幕機能で確認するという学習を続けました。また移動中や軽く英語を聞きたいときはTEDやNHKのEnglish Newsを聞いて、発音や速さに慣れるようにしました。
リーディング対策
リーディングでは市販のリーディング対策本やTOEFLの公式問題集を使い、実際の問題に近いアカデミックな内容の文を読み、問題を解くことで読解力を上げていきました。単語が分からない以外でミスをした場合や文の意味を掴みきれなかった箇所は文章に出てくる品詞の確認をしたり、構文を確認してしっかりと理解することを心がけました。
ライティング・スピーキング対策
ライティングとスピーキングは個人で対策がしにくい部分なのでTOEFL集中講座を大いに活用しました。この講座では毎週ライティングとスピーキングの添削をしてくれるので、ライティングタスクとスピーキングタスクをやり、添削してもらう中で苦手な点を直したり、自分が今まで使えなかった表現を増やしていきました。[3]
またスピーキング対策として毎週の添削とは別にDMM英会話を始め、毎日英語を聞く、話すという習慣を作りました。当初は自分の言いたいことがなかなか英語で出てこなかったり、そもそも英語で話すことに抵抗感があったのですが、やって行くうちに慣れていき、慣れることでスピーキングタスクもやりやすくなっていきました。DMM英会話は有料会員になると単語対策のところで紹介したiKnowというアプリがタダで使えるようになるのでオススメです。
TOEFLを受ける
点数が出るまでTOEFLは何回も受けるつもりだったのですが、結果的に9月に受けた1回目の受験で91点(Reading: 24, Listening:25, Speaking: 19, Writing: 23)を取ることができました。
初めてのTOEFL受験だったので正直思っていたほど点数が伸びませんでしたが、TOEFLは一回の受験で$245もかかるので1回で目標点を取れたのはラッキーでした。
推薦状の手配
出願するにあたり、3名からの英語の推薦状が必要でした。推薦状を書く人は私のコンピュータサイエンスに関する知識を知っている人が望ましいということと、3通あるうちの1つ以上は教授などアカデミックな方からが望ましいとされていました。
私の場合は文系卒でコンピュータサイエンスについて書いてもらえる教授がいなかったため、会社の過去と現職の上司3名に推薦状を書いていただきました。
推薦状の依頼をする際は、推薦状にどう言った内容を書いていただきたいか、私が過去にやってきた仕事内容やその仕事内容がどういったコンピュータサイエンスの知識を必要としたかなどをまとめ推薦状のサンプルとともに依頼をしました。
推薦状に書くべき内容はジョージア工科大学がガイドラインを出しています。
志望理由を書く
志望動機は1000文字以内で私のアカデミックな経験とキャリアのゴール、このプログラムどのような内容を学びたいか・研究したいかを書く必要があります。
私は日本語で上記内容をまとめ、DeepLやGrammarlyを駆使しつつ、英語が得意な友人に言い回しや内容のレビューをもらいブラッシュアップしていきました。
また下記の記事に過去に合格した際の志望動機が公開されていたので、参考にさせていただきました。
最後に
最後にこれから受けようと考えている方へ私が参考になったリンク(公式サイト除く)を紹介させていただきます。
特に一番上の「文系学部卒でも無条件で不合格にならないアメリカのオンラインコンピューターサイエンス修士コースを調べ、出願校を決めた」で文系でも合格の可能性があると知れたことで出願まで漕ぎ着けることができました。これを見ていなかったらおそらく別の大学院へ出願していたと思います。
この記事がこれから受ける方の参考になれば幸いです。
Discussion