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【In silico】毒性予測の結果を文献のデータと比較する (2)

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I. はじめに

https://zenn.dev/tk501st/articles/2f80a38531d931
前回の記事では、化合物の安全性を網羅的に比較できるin silicoツールとして、VenomPred 2.0およびSwissADMEを紹介しました。今回も、この2ツールを使用して、計算結果と文献の実験データを比較してみました。

II. 方法

II. 1. 比較に用いた文献

In silicoスクリーニングと比較するために、以下の論文を選びました。前回の記事に続き、ソホロリピッドを扱った論文になります。ソホロリピッドと他のバイオサーファクタントの安全性を比較した内容です。

Araki, M.; Kunimi, E.; Hirata, Y.; Muraoka, M.; Tsujino, H.; Arai, M.; Hirata, K.; Nagano, K. The Lower Toxicity and Wider Safety Range of Acidic Sophorolipid Compared to Surfactin and Rhamnolipid as Biosurfactants toward the HaCAT, THP-1, and RAW 264.7. BPB Reports 2024, 7 (2), 56–60. https://doi.org/10.1248/bpbreports.7.2_56

酸型ソホロリピッド(SL)、天然型ソホロリピッド、サーファクチン(SF)、ラムノリピッド(RL)のバイオサーファクタント3種と、ポリソルベート20(TW20)について、ヒト皮膚細胞HaCaT、ヒト単球系白血病細胞THP-1、マウスマクロファージ様細胞RAW264.7に対する細胞毒性・安全使用域を評価したところ、SLの安全性が最も高いことが示唆されたそうです。HaCaTで皮膚細胞への直接的な影響を確認し、THP-1とRAW264.7でアレルギー反応や炎症反応を確認したという流れでしょうか。

II. 2. In silicoスクリーニング

毒性予測は前記事と同様の方法でSMILESを取得し、VenomPred 2.0SwissADMEを用いて行いました。詳細はこちらを参照してください。

III. 結果と考察

SL SF RL TW20
CMC (mg/L) 1000 16 38 74 [a]
LC50 (mg/L)
HaCaT
(ヒト皮膚細胞)
20930 ± 747 80.4 ± 7.4 165.2 ± 7.8 187.3 ± 38.0
THP-1
(ヒト単血球白血病細胞)
17467 ± 2402 76.7 ± 9.3 126.7 ± 14.8 132.1 ± 20.3
RAW264.7
(マウスマクロファージ様細胞)
14707 ± 2480 57.6 ± 8.8 166.2 ± 24.3 98.0 ± 15.9
Probability (%)
Skin irritation
(皮膚刺激性)
14 12 13 14
LogKp (cm/s)
Skin permeation
(皮膚透過性)
-8.4 -6.5 -7.7 -7.7
[a] タンパク質実験に使用する界面活性剤の特性と種類(Thermo Fisher Scientific)

文献で報告された各界面活性剤の臨界ミセル濃度CMCおよび半数致死濃度LC50、計算によって得られた皮膚刺激性と皮膚透過性の予測値をまとめました。興味深いのは、実験値はいずれの細胞株でもSLが桁違いに高いLC50値を示しているにも関わらず、計算による予測値ではそれぞれの界面活性剤で皮膚刺激性・皮膚透過性に大きな差が見られないことです。CMCは界面活性剤の性能を表す代表的な指標ですが、こちらはSLとそれ以外の界面活性剤とでは大きく値が異なることから、今回用いたVenomPred 2.0およびSwissADMEは、評価の際に分子の集合を考慮せずに化合物単体の構造のみからADMETの予測を行っているものと思われます。創薬におけるヒットtoリードの探索で界面活性剤を用いる場面は非常に限定的であるので、これら2ツールのデメリットにはならないでしょう。
しかし論文の値だけ見ても、SLは界面活性能が低いゆえに細胞毒性を生じにくいというのは、なかなか扱いが難しそうだという印象を受けました...。

IV. まとめ

前回に続き、ソホロリピッドについて扱った文献をベースに、VenomPred 2.0とSwissADMEを用いた毒性予測を行いました。前回はこれら2ツールが界面活性剤の自己集合を考慮しているかわからないと述べましたが、臨界ミセル濃度CMCなどとの比較から、おそらく考慮していないことが示唆されました。とはいえ有用なツールであることに変わりはないので、生理活性物質の探索に使ってみてはいかがでしょうか。
界面活性剤の性能を予測できるツールがあるか興味が湧いてきたので、そちらもこれから調べていきたいと思います。有用なツールがあれば、また紹介します。

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