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AI自動開発は、YouTuber型とNetflixオリジナル型に分かれそう

2025/03/01に公開

背景

AI自動開発ツールが次々と登場し、開発の形が大きく変わろうとしています。
つい先日多くの方の注目を集めた「CLINEに全部賭けろ」も、著者のスタンスが非常に未来志向で特徴的だと感じました。
私は特に、その変化の方向性に興味があります。
組織にどう関わるべきか、個人として手がけるなら何をするか。
この件は、とくに時間で考えることが重要だと思います。自分ひとりの時間は24時間ですが、出力がAIで最大化すると、実現できる規模・範囲が変わります。

変化の方向性を考える際に、人と話すなかで、YouTuberとNetflixオリジナルのメタファーは、伝わりやすい例だと思いました。そこで、自動化によって、そういう方向性に分かれるんじゃないかなあ?の話をします。
なお、AI自体の適用範囲や、AIが組み込まれていく事象については、論点ではありません。あくまでも自動開発が進む点についてです。

あらすじ

  • ソフトウェア完結サービスは、主体が個人へ置き換わっていく(個人のパワーを拡張するAI自動開発により)
  • ソフトウェア以外が必要な領域は、組織のパワーを増幅するAI自動開発が活躍する

前者はYouTuberが動画を作る手段と収入を得た世界に近いと感じます。収益化が可能なプラットフォームを利用することで、販売や課金、集客をアウトソースし、自分の時間を必要とする業務を削減します。
後者は、配信と制作が一体化したNetflixオリジナルのような世界です。人を増やすことで時間を増やせるため、製造から販売まで一貫して自ら実施します。古くはアパレルのSPAにみられた事業モデルで、手がける範囲を広げることによって、フィードバックへの反応速度を上げることと利益率の確保を同時に行います。

高レベルのチューニングが求められたり、規模が大きすぎて一人で見切れない領域が生じると、組織が必要です。
専門領域の異なる、非常に強い個人が何人か集まって、実際に取り組むことによって実現していく必要があります。
Netflixオリジナル級のクリエイティブを量産しようとすると、専門集団が必要になるイメージです。

どう考えたのか

YouTuber か、Netflixオリジナルか、というメタファーになる前に、考えたテーマがあります。
エンジニアは不要になるのかだったり、どういう人材が活躍するのかだったり、言葉は様々ですが、「おのれの行く末」が気になるわけです。

そこで、今見えている技術面の自動化状況から考えます。

すでに意見の振れ幅が小さい(異論が少ない)未来

CursorやClineの登場で、CopilotもClaudeも追随している様子から見ると、以下は確定路線と見て良いでしょう。

  • プログラミングの形が変わる
  • コードの物量はAIが担う
  • 「実現したいこと」をAIへ伝える人が残る

要は、「ソフトウェア資産というものは、『1レイヤー』増えて、構築は『AIコーディング基盤』みたいに隠れた存在となります。きっとそうなるでしょう。」という意見ですね。
AWSの登場によって「インフラがコードで構築できるようになった」のと似ている・・・。そのように捉える人も多いのではないでしょうか。

まだまだ多様な考えがある未来

一方で、各サービス現場(リアル業界)への適用については、様々な考えがあるように思います。

  • ロボティクスや社会へのインプリメント
  • 物理空間と接続するサービスへのAI適用

AIを用いた自動運転、医療現場でのAI診断、音声コントロールなどが代表的です。(VR空間はソフトウェア完結ですかね。。)
それ以外にも、予約システムやアドバイザリーサービスといった身近な存在でも同じかな、と思います。
使う側が人の場合は、「揺れ」への対応が必要な分だけ、今の自動化レベルではエッジケースをカバーしきれなかったり、エラー対応への厳密性が求められたりするため、どうしても個々の対応が残ります。

会社でも、これだけAPIが増えて統合環境が進展しているのに、「入力を求められるシーン」は増えていますからね。
球体をイメージしたとき、体積が増えると同時に表面、つまりインターフェイスは増える・・ということかもしれません。
様々なケースがある分だけ、多様な考えがあるように思います。

そもそも自動化とは

実は製造業の方が自動化進んでいるんじゃないか・・と思っていたので、ソフトウェアがAI自動化されるとイメージしたときに、真っ先に思いついたのが全自動化された工場でした。(見たことのない方は「ビール工場 自動化」などで調べて動画を見るとイメージができます)

  • リアル工場の自動化はすでに進んでいる
  • FA機器を提供する企業は需要が拡大して伸びており、ロボットもそのひとつ
  • 自動化してもエンジニアは必要
  • 請負は水平展開されるので集約され、大規模化した受託企業が一手に引き受けていく

私自身は製造業に身を置いたこともあるので馴染みのある世界なのですが、
自動化しても人はゼロになりません。また、キャパが増えるので仕事が増えて、結果、人は減りません。大事なのは収益を伴うか否かです。同じ売上のままならば、コスト削減に向かうので人は減ります。

自動化によって「売上が伸びるのか」が重要なので、
・今まで売上よりコストの方が大きかったために出来なかったこと
・コストが下がると需要が増えること
を自動化しているか否かが重要になると思います。

「売上を上げるための自動化になっているか」は、例えば無人店舗の例で考えてみます。
店舗を増やすと人件費など固定費が増えるのですが、無人店舗のように自動化されると、一応店舗の人件費は下がります。
しかしお店が増えたからといって、みんながさらに買うわけではないので、無人店舗の数が爆増する結果にはなりませんでした。
無人化設備や運営にも一定のコストは投下するため、それ以上の効果が生み出されなければ、無人化の意味が強くなりません。細かく見ると在庫管理や物流などの間接部分を無人統合するハードルもあります。
現時点では「セルフレジ導入が増える」に、収まったのではないでしょうか。
さらに、採用難に対応する形で導入が進むと、無人店舗化(≒自動化)の低コスト化が、販売価格に反映されないことも一因だろうと思います。(Amazon,Costcoのように、他の手段で販売価格を下げる方法があります。価格面で優位にならず、売上を増やすに至らなかったのではないでしょうか。)
こうした裏側の結合コストを大きく感じられる業界・ケースでは、AI自動開発のメリットを直感的に感じにくいのではないでしょうか。特に部品点数の多いBOMを扱っていたり、間接資材の多い流通では、ソフトウェア開発におけるAI自動化以上に「商材そのものへのAI適用」のほうが重要に思えたりするでしょう。

一方で、ビール工場のように、「みんながビールを飲む」ことを実現しようとすると、人手では生産が追いつかない(めちゃくちゃコストがかかる)ので、自動化して1本あたりの製造コストを下げる意味があります。

つまり、自動化は1つ当たり(時間あたり)のコストを分け合う効果を見越したものであり、「みんなが欲しいんだけど、この金額払うのは無理だろ、、、」という場所で行われる行為といえます。逆に「無人店舗の在庫搬入のあとの陳列の部分で・・」のように特定されればされるほど、自動化メリットを享受するシーンが限られるため、意義が薄くなるといえます。
(「欲しい」を、「やらねばならぬ業務」に置き換えても同じかと思います。経費申請とか。)

生産やロットの概念がないソフトウェアの自動化の場合

製造業を最初に思いついたのですが、しかしソフトウェアには、決定的な違いがありました。
複製の容易さです。したがって「1つ当たり(時間あたり)コスト」だけで自動化が説明できるんだろうか?と、思いました。

結論、形態は異なるものの、サービスとして捉えられている以上、製造業や人的サービスと同等だと考えました。

  • ソフトウェアの再生産というのは、個々の使い捨てスクリプトや使い回しコード
  • 製造業は標準規格や型が同じ、ソフトウェアは用途にドンピシャ合うアレンジ付き(パラメータ付き)
    • ex. Google Apps Script(GAS)やマクロ、パッケージのインプリ
  • 販売数量で稼がないソフトウェアは提供回数(実行数)で稼ぐ
  • 実行数も、1アカウントが使う量は上限が決まるから定額サービスが出てくる、*aaS、*放題

Cursorが収益を伸ばし、Clineがエンタープライズへ向かっていくのも、「AI開発エージェント欲しいけど、自分のやりたいことのために、まずエージェントから自分で作るのは辛い・・・」と思っているからですよね、おそらく。

自動化された後に来るもの

AI自動開発がソフトウェアを完結すると
ソフトウェア完結で行われるシステムやアプリは、AI自動開発だけで手が届くようになりそうです。
つまり、ソフトウェア開発だけで完結する領域では、YouTuberがチャンネルを持つように、個人がアプリを持つことが増えるでしょう。(個人と言っても、数名のパートナーや登記上の組織は存在する)

同時に、1つのアプリやサービスに関与する人数が減る=他のことを行う人が増える=提供される種類や数が増えるため、業界全体ではたくさんのソフトウェアサービスが立ち上がることになりそうです。

また、これまでコーディングの物量が必要であったり、複数のクラウドサービス間の連携が必要なために高コスト化しそうなサービスも、個人レベルで提供されていくことが予想されます。

そうすると、組織で取り組む意味のあるものは、複雑で高度に専門家を要する領域へとシフトするでしょう。
例えば複数製品を組み合わせたサービスを、人員を増やさず実現するような世界は、想像できます。[1]
あるいはプロジェクトを組んで数多く実施し、成功したものを正式製品化していく組織も増えるでしょう。(社内スタートアップの増加)
グローバルで成功するのにも、複数の視点が必要となります。

あー、そうか、これってつまりNetflixオリジナルの制作ですよね。[2]

というメタファーに至った次第です。

まとめ

AI自動開発ツールが次々と登場し、開発の形が大きく変わろうとしています。
変化の方向性を考える際に、YouTuberとNetflixオリジナルのメタファーは、伝わりやすい例だと思いました。

個人開発は、YouTuberのように。
組織開発は、Netflixオリジナルの各チームのように。

AI自動開発が進んでも、個人開発で手が届く範囲には、限界があります。
それでも「何か作ってみよう」と思うくらいには、AI自動化の影響は大きく作用しています。
(私自身は職業としてのエンジニア職ではありません。組織では、プロダクトマネージャーや事業推進の役回りの方が多いため、コーディングは週末の自分用途のみです。それでも「何か作ろう」と思うくらい増幅されています。)

組織においては、
手がけるサービスを、どの水準に持ち上げる必要があるのか、どういったメンバーで取りくんでいくのかなど、変数がいくつも存在します。AI自動開発が進んでいくなかで、これら変数の影響を考えざるを得ません。

2つ確かなのは、時間軸の大きな変化と、設定する水準かな・・と思います。
冒頭で時間の話に触れたように、個人が24時間の時間を最大化する[3]ことと、組織は人数を増やすことで24時間以上に時間総量を増やすことができる点が、個人と組織の究極の違いだと考えています。
さらに、AIが物量をカバーしてくれると、増やす際にも能力の幅が重要になっていくでしょう。
組織的に見れば、時差を活用した24時間体制を前提にしていくことも視野に入ります。

24時間の時間内にできることがAI自動開発によって増幅されますから、遅れたり間違えたときに失った時間の感覚も、増幅されることになります。こうした観点から、時間のゲートをくぐるための閾値や、到達していたい水準の設定が、大きく見直されることになるでしょう。

この記事で触れたかったのは、ここまでです。

「来るだろうなあ」と思われる業界変化について、どんな感じで来るのかな?という想像を、少ししておくだけで感じ方が変わるだろうと思います。今回のメタファーが、その一助になれば幸いです。

余談

YouTuberとNetflixオリジナルのメタファーは、あくまでもメタファーです。
最近リリースされた「Pokémon Trading Card Game Pocket」は、AI自動開発きても個人開発じゃ無理だよねえ・・という例でも良かったのですが、対比になる個人の例が難しいと思いやめました。

脚注
  1. AI自動開発の前から、「決済は決済だけ」という領域だったものが、「決済もお金も一緒に」となり、決済起点で与信やポイント、あるいは投資までカバーし始めるような例が出てきていました。 ↩︎

  2. 例えばNetflixで日本発の世界ヒットを連発した立役者、坂本和隆が考えるコンテンツづくりの現在とこれからにあるようなイメージしてます。 ↩︎

  3. もちろん人間の場合は休息も必要です。あくまでも限界上限の話です。 ↩︎

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