AIエージェントに任せる技術ブログ執筆。Cline×GitHubで実現するエンジニアの創造性解放
テラーノベルで機械学習を中心に担当している川尻です。技術ブログの執筆をAIエージェントに任せることで、エンジニアの創造性を解放する方法を紹介します。Clineを活用したZenn記事作成と、GitHub連携による公開フローにより、執筆作業から解放され、より価値の高い思考や技術探求に時間を使えるようになります。AIの力を借りて、単なる効率化を超えた、創造的な技術発信を実現しましょう。
技術ブログ執筆の課題と創造性の解放
技術ブログ執筆の一般的な課題
テラーノベルのエンジニアは、月に一本Zennで記事を公開することを目標としています。しかし、技術ブログを定期的に更新することは、多くのエンジニアにとって重要でありながらも難しい課題です。
- 時間の確保が難しい: 日々の業務に追われ、記事執筆のための時間を確保するのが困難
- 構成を考えるのに時間がかかる: 何をどのような順序で説明するか、構成を練るだけでも相当な時間が必要
- 書き始めるハードルが高い: 白紙の状態から書き始めることへの心理的抵抗感
- 技術的な正確さの担保: 説明が正確かどうか何度も確認する必要がある
こうした課題を解決するために、AIアシスタントを活用することで記事作成のハードルを下げ、執筆プロセスを効率化できます。VSCode拡張のClineをはじめ、様々なAIアシスタントが技術記事執筆をサポートしてくれます。
AIによる創造性の解放とは
重要なのは、AIに執筆作業を任せることで得られる「創造性の解放」です。エンジニアは以下のような創造的な活動に時間を使えるようになります:
- より深い技術探求: 記事執筆の基本作業から解放され、新しい技術の学習や実験に時間を使える
- 革新的なアイデア創出: 執筆の負担が減ることで、より革新的なプロジェクトや解決策を考案する余裕が生まれる
- 質の高いコード開発: ドキュメント作成をAIに任せることで、実際のコード品質向上に集中できる
- 知識の体系化: AIが下書きを担当することで、自分の知識を整理し、より高次の視点から技術を捉え直す機会になる
必要なツールと基本概念
Clineとは
Clineは、VSCode上で動作するAIアシスタントツールです。様々なAIモデルを活用して、開発作業をサポートします。
主な特徴
- エディタ統合: VSCode内で直接動作し、ファイルの作成・編集が可能
- コマンド実行: ターミナルコマンドを実行し、その結果を監視できる
- ブラウザ操作: ヘッドレスブラウザを起動し、Webサイトの操作やスクリーンショット取得が可能
- コンテキスト理解: プロジェクトのファイル構造やコードを解析し、文脈を理解した上でサポート
- 複数のAIモデル対応: OpenRouter、Anthropic、OpenAI、Google Gemini、AWS Bedrock、Azureなど様々なAPIプロバイダに対応
Clineの最大の強みは、単なるチャットではなく、実際にファイルを編集したり、コマンドを実行したりできる点です。これにより、Zennの記事作成からプレビュー、GitHub連携による公開までの一連の流れをサポートできます。
GitHub連携の意義
技術ブログとGitHubの連携を活用することで、記事の執筆から公開までのワークフローが効率化されます。コードと同様にバージョン管理ができるため、記事の変更履歴を追跡したり、複数人での共同編集も容易になります。また、後述するGitHub Copilotによるレビュー機能も活用できるようになります。
環境構築と初期設定
Clineのインストールと設定
- VSCodeを開き、拡張機能マーケットプレイスから「Cline」を検索してインストール
- インストール後、VSCodeの設定からClineの設定を開く
- APIキーの設定(OpenAI、Anthropic、OpenRouterなど)を行う
Zenn CLIのセットアップ
- Zenn用のGitHubリポジトリを作成(または既存のリポジトリを使用)
- リポジトリをローカルにクローン
- Zenn CLIをインストール
# リポジトリのルートディレクトリで実行
npm init --yes
npm install zenn-cli
- Zenn CLIの初期化
npx zenn init
これにより、articles
やbooks
ディレクトリが作成されます。
詳細な手順はZennの公式ドキュメントを参照してください。
GitHubリポジトリとZennの連携
- Zennにログイン
- 「GitHubからのデプロイ」を選択
- 作成したリポジトリを連携
詳細な手順はZennの公式ドキュメントを参照してください。
.clinerules ファイルの作成と役割
Clineの強力な機能の一つに、.clinerules
ファイルがあります。これはプロジェクトのルートディレクトリに配置することで、Clineにプロジェクトの構造や規約を理解させるためのファイルです。
.clinerules ファイルの役割
- プロジェクトの構造や目的をClineに伝える
- 特定のファイル形式やディレクトリ構造に関する情報を提供
- 一般的なコマンドや操作方法を記述
Zenn向けの.clinerules設定例
以下は、Zenn記事作成用の.clinerules
ファイルの例です:
# Zenn Blog Repository
このリポジトリはZenn.devで公開する技術ブログ記事を管理するためのものです。
## リポジトリ構造
- `articles/`: ブログ記事のMarkdownファイルを格納
- `books/`: 本(複数の章からなるコンテンツ)を格納
- `images/`: 記事や本で使用する画像ファイルを格納
## Zenn CLI
このリポジトリでは[Zenn CLI](https://zenn.dev/zenn/articles/zenn-cli-guide)を使用してコンテンツを管理しています。
### 主なコマンド
```bash
# 新しい記事を作成
npx zenn new:article
# 新しい記事を特定のオプションで作成
npx zenn new:article --slug 記事のスラッグ --title "記事のタイトル" --type tech --emoji 🔥
# コンテンツをプレビュー
npx zenn preview
```
## 記事のフロントマター
各記事は以下のようなフロントマターを含む必要があります:
```yaml
---
title: "記事のタイトル"
emoji: "絵文字"
type: "tech" # tech または idea
topics: ["トピック1", "トピック2"]
published: false # true で公開
---
```
このファイルをプロジェクトのルートディレクトリに.clinerules
という名前で保存することで、Clineは自動的にZenn記事の作成方法を理解し、適切なサポートを提供できるようになります。
記事作成をサポートするための設定ポイント
- Zennの記事構造(フロントマターの形式など)を詳細に記述する
- 一般的なMarkdown記法やZenn特有の記法を含める
- 画像の配置場所や参照方法を明記する
AIを活用した記事作成の実践フロー
Clineを例に、AIアシスタントを活用したZenn記事作成の基本的なフローを紹介します。同様のアプローチは他のAIアシスタントでも応用可能です。
記事の構想と構成設計
VSCodeでClineを起動し、新しい記事の構想を伝えます:
Zennに投稿する技術記事を書きたいです。テーマは「ReactのカスタムフックでAPI通信を効率化する方法」です。記事の構成を考えてください。
Clineは記事の構成案を提案してくれます。この段階で方向性を調整しましょう。
AIによる記事ファイルの作成
構成が決まったら、Clineに記事ファイルの作成を依頼します:
Zenn CLIを使って新しい記事ファイルを作成してください。タイトルは「ReactのカスタムフックでAPI通信を効率化する方法」、絵文字は🪝、トピックはreact, typescript, apiです。
Clineは以下のようなコマンドを実行します:
npx zenn new:article --title "ReactのカスタムフックでAPI通信を効率化する方法" --emoji "🪝" --type "tech" --topics "react,typescript,api"
AIを使った記事の執筆と編集
作成されたファイルに対して、Clineに記事の執筆を依頼します:
articles/(作成されたファイル名).mdに、先ほど決めた構成に沿って記事を書いてください。コードサンプルも含めてください。
Clineはファイルを編集し、記事の内容を作成します。コードブロックや説明文を適切に配置してくれます。
プレビューと修正
記事が書けたら、プレビューして確認します:
Zenn CLIでプレビューを実行してください。
Clineは以下のコマンドを実行します:
npx zenn preview
プレビューを確認しながら、必要に応じて修正を依頼できます:
「カスタムフックの実装例」セクションのコードに説明コメントを追加してください。
GitHubへのプッシュとPRレビュー
記事が完成したら、ブランチを作成してGitHubにプッシュし、PRを作成します:
この記事用に新しいブランチを作成し、GitHubにプッシュしてください。コミットメッセージは「Add article about React custom hooks for API」としてください。
Clineは以下のようなコマンドを実行します:
git checkout -b feature/react-custom-hooks
git add .
git commit -m "Add article about React custom hooks for API"
git push origin feature/react-custom-hooks
次に、GitHubでプルリクエストを作成します:
GitHubでプルリクエストを作成するためのURLを表示してください。
Clineはブラウザで開けるURLを表示します。このURLにアクセスしてプルリクエストを作成すると、GitHub Copilotによるレビューが自動的に実行されます。レビュー結果を確認し、必要に応じて修正を行います。
最終的にPRがマージされたら、公開設定を変更する場合はフロントマターのpublished
をtrue
に変更するよう依頼します。
AIによる記事レビューと品質向上
GitHub Copilotを活用したPRレビュー
GitHub連携の大きなメリットの一つに、GitHub Copilotによるプルリクエスト(PR)レビュー機能があります。この機能を活用することで、AIによる記事の品質向上が可能になります。
GitHub Copilot PRレビューの特徴
- コードの問題点の指摘: 記事内のコードサンプルに潜在的な問題がないか自動チェック
- 文章の改善提案: 説明の明確さや一貫性についてフィードバック
- ベストプラクティスの提案: より良い実装方法や説明方法の提案
使用方法
- 記事の変更をブランチにコミットしてプッシュ
- GitHubでプルリクエストを作成
- GitHub Copilotが自動的にレビューを実施
- レビューコメントを確認し、必要に応じて修正
この機能により、記事を書くのも、レビューして改善するのもAIエージェントで可能になります。Clineで記事を作成し、GitHub Copilotでレビューを受けることで、AIの支援を受けながら効率的に質の高い記事を公開できるワークフローが実現します。
AIフィードバックの効果的な活用法
AIによるレビューは、単に指摘された問題を修正するだけでなく、自分の執筆スタイルや思考パターンを客観的に理解する機会にもなります。AIからのフィードバックを効果的に活用するためのポイントを紹介します。
レビュー作業の委任による創造的時間の確保
レビュー作業をAIに委任することで、以下のような創造的活動のための時間が生まれます:
- 新たな記事構想への集中: レビュー待ちの間も、次の記事のアイデア出しや構想に時間を使える
- 技術的な深掘り: 形式的なレビュー(文法、一貫性、コードの正確さなど)をAIに任せることで、より本質的な技術的探求に集中できる
- フィードバックの客観的分析: 自分の書いた内容に対するAIの客観的なフィードバックから、新たな視点や発想を得られる
- メタ認知の強化: AIのレビュー結果を分析することで、自分の思考や表現のパターンを客観的に理解し、創造的な思考の幅を広げられる
人間同士のレビューでは遠慮や時間的制約から見過ごされがちな細かい点も、AIは徹底的にチェックします。これにより、記事の品質向上だけでなく、自分自身の創造的な表現力も高めることができるのです。
Cline×GitHubの相乗効果
タイトルで強調している「Cline×GitHub」の組み合わせは、単なる便利なツールの並列使用ではなく、技術記事作成における革新的なAIワークフローを実現します。この連携がもたらす相乗効果について詳しく見ていきましょう。
執筆からレビューまでのシームレスなAIチェーン
Clineと GitHub(GitHub Copilot)の連携は、以下のような完全なAIチェーンを構築します:
- アイデア生成と構成設計(各種AIアシスタント): 記事のアイデアや構成をAIと対話しながら練り上げる(Cline以外にも、NotebookLM、DeepResearch、ChatGPTなど好みのAIアシスタントを活用可能)
- コンテンツ作成と編集(Cline): AIが下書きを作成し、人間の指示で調整・編集する
- コード例の生成と検証(Cline): 記事に必要なコードサンプルをAIが生成し、実行して検証
- GitHubへのプッシュ(Cline経由): 完成した記事をGitHubリポジトリにプッシュ
- AIによるレビュー(GitHub Copilot): プルリクエスト時にAIが記事の品質をレビュー
- フィードバックの反映(Cline): レビュー結果を受けて、再びClineで修正
この一連の流れにより、人間は「何を伝えたいか」という本質的な部分に集中でき、「どう書くか」という技術的・作業的な部分はAIに委任できます。
両ツールの強みを活かした補完関係
ClineとGitHub Copilotは、それぞれ異なる強みを持っており、互いを補完します:
Cline | GitHub Copilot PR |
---|---|
インタラクティブな対話 | 非同期のレビュー |
詳細な指示に基づく執筆 | 客観的な視点からの評価 |
ファイル操作とコマンド実行 | コードの品質チェック |
リアルタイムフィードバック | 包括的な改善提案 |
この補完関係により、一方のツールだけでは実現できない、より高度な執筆体験が可能になります。例えば、Clineで書いた記事をGitHub Copilotがレビューし、その指摘をClineで修正するという循環的なプロセスにより、記事の品質が継続的に向上します。
技術的一貫性の確保
両ツールを組み合わせることで、技術記事に求められる一貫性と正確性を高いレベルで確保できます:
- コードと説明の整合性: Clineがコードと説明文を同時に生成し、GitHub Copilotがその整合性をチェック
- 最新の技術トレンドの反映: 両AIが最新の技術情報にアクセスし、時代遅れの情報を排除
- 読者視点の考慮: 執筆者の意図(Cline)と読者の理解(GitHub Copilot)の両方を考慮した記事作成
このように、Cline×GitHubの連携は単なる作業効率化を超え、技術記事の質そのものを高める革新的なアプローチなのです。
実践的なTipsと応用テクニック
効果的なプロンプト例
AIアシスタントに記事作成を依頼する際の効果的なプロンプト例を紹介します(Clineでの例ですが、他のAIアシスタントでも応用可能です):
-
構成の提案を依頼する:
「Dockerを使った開発環境構築」というテーマでZenn記事を書きたいです。初心者向けに、以下のポイントを含めた記事構成を提案してください: - Dockerの基本概念 - docker-composeの使い方 - 実践的な開発環境の例
-
既存記事の改善を依頼する:
articles/docker-dev-env.mdの「docker-composeの使い方」セクションをより詳細に解説してください。特に環境変数の扱いについて具体例を追加してください。
-
コードサンプルの作成を依頼する:
TypeScriptとExpressを使ったREST APIの実装例を記事に追加してください。エラーハンドリングを含めた実践的なコードにしてください。
校正と推敲のポイント
AIアシスタントに記事の校正を依頼する際のポイント:
-
技術的な正確さの確認:
記事内のTypeScriptのコード例が最新の構文に準拠しているか確認し、必要に応じて修正してください。
-
文章の簡潔さ:
記事全体を見直して、冗長な表現や繰り返しを削除し、より簡潔な文章にしてください。
-
一貫性の確保:
記事内で使用している技術用語の表記ゆれがないか確認してください(例:「React.js」と「React」など)。
AIとの協働による執筆スキル向上
AIアシスタントを使いこなすことで、自身の執筆スキルも向上します。AIの提案や修正から学び、徐々に自分の文章力や構成力を高めていくことができます。また、AIとの対話を通じて、自分の考えをより明確に言語化する能力も養われます。
まとめ:AIと共に進化する技術発信
AIエージェントに技術ブログ執筆を任せることで、エンジニアの創造性を解放し、より価値の高い活動に時間を使えるようになります。特に以下のメリットがあります:
- 創造的思考のための時間確保: 執筆作業をAIに委任することで、より深い技術探求や革新的なアイデア創出に時間を使える
- 知的作業への集中: 記述や編集といった作業的な部分から解放され、コンテンツの本質や戦略的な側面に集中できる
- 技術的視野の拡大: AIが下書きやレビューを担当することで、自分の専門領域を超えた幅広いトピックに挑戦しやすくなる
- 継続的な学習と成長: 執筆の負担が軽減されることで、より多くの記事を発信でき、フィードバックを通じた学習サイクルが加速する
- 創造と検証の分離: AIがドラフト作成とレビューを担当することで、自分のアイデアを客観的に検証できる環境が整う
AIエージェントは単なる「効率化ツール」ではなく、エンジニアの創造性を増幅し、より高次の思考活動を可能にする「創造的パートナー」です。あなたの専門知識とAIの支援を組み合わせることで、技術的な深さと創造的な広がりを兼ね備えた価値ある発信が可能になります。
今後、AIアシスタントの能力はさらに向上し、より高度な支援が可能になると予想されます。技術ブログの執筆においても、AIとの協働は新たな可能性を開くことでしょう。
この記事自体も、Clineを使って執筆されています。AIの支援を受けながらも、最終的な内容や表現はすべて人間の判断で調整しています。
この記事を書くのに2,3日で合わせて4,5時間はかかりました。効率的な使い方を模索して、もっと短時間で作成していきたいです。
これからもClineを活用して、定期的に技術記事を発信していきたいと思います。
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