Web開発スタートアップ企業の環境構築をする
はじめに
近年、スタートアップとして会社を興す志を持った人が身近に感じられるようになった中、起業に関わる様々な情報が活発に発信されるようになりました。
Bizサイドとしては資金調達やビジネスモデルに関する知見の共有。
Devサイドとしては初心者向けのプログラミング学習ツールやフレームワークを用いてゼロからアプリを作る技術記事。
これまで自身がWeb系スタートアップ企業やメガベンチャーに属さなくていても、容易にこの分野の情報や立ち上げのきっかけとなる知見を得られることができます。
悩み
「ある程度の運転資金も準備できた」
「自分たちで開発できる準備もできた」
「さあ会社を作ってサービスをつくりあげていこう!」
となったとして、とある悩みに直面することがあるかもしれません。
それはスタートアップとして組織や仕組みの環境構築をすることです。
スタートアップとして最初の「点」の準備はできた。そこを起点に運営という「線」をどのように引いていくか?
私の例では以下2点の悩みがありました。
組織やプロダクトのマネジメント経験がない
→20代で起業したこともあり、一般職として既に決められたプロジェクトと手法に沿って仕事を進める経験のみ。ただ未経験でもある程度学習可能なので課題感としては低↓
Web開発企業およびスタートアップでの経験がない
→前職が所謂JTCと称されるような歴史ある規模の企業かつ非ソフトウェアエンジニア出身であり、スピード感やマネジメント手法など全く異なるであろうスタートアップのノウハウをゼロから知って構築する必要がある
特にWeb開発系企業での経験がないことが一番の悩みで、インターネット上にも創業初期にどんな取り組みや仕組み、ツールを導入したらいいのかという知見を探したものの、中々これといったものが見つかりませんでした。また創業初期はなるべくお金や工数といったコストを抑えつつ、いかにパフォーマンスを発揮できるかという視点も求めていました。
理想とする会社の運営の仕方や開発の進め方など手探りで構築していく必要があり、幸い周りのスタートアップ起業家や働いているエンジニアと相談する機会を通して自分なりに環境を整えていくことができました。
本記事では私がWeb開発スタートアップを創業して3期に至るまでに取り組んだこととして、導入したり活用している各種ツールやSaaSをまとめています。
リストについて
以下3点をもとに選択しています。
- 導入するものは手軽かつシンプルなものでいいので組織として使っていく文化から醸成していくことにフォーカス
- そのために必要なモノにはきちんとコストをかける
- スタートアップ向けのサポートプログラムを活用する
また私が共同創業者兼技術責任者の関係上、営業等のBizサイドに関して本記事では対象外としています。
組織
Google Workspace
グループウェアサービスとしてGoogle WorkspaceのBusiness Starterを使用しています。
主に以下の用途での利用です。
- 企業ドメインを使用した社用メール(Gmail)
- 社内ドキュメントのストレージと共有(ドライブ)
- 社内メンバー間の予定管理(カレンダー)
- 資料作成(スライド、スプレッドシート)
- ビデオ会議(Meet)
今まで使い慣れていたサービスをそのままビジネス用途で使えるということ、1ユーザーあたり6ドル[1]という会計の分かりやすさが導入理由です。
複数社のサービスを横断せずにこれ一つでメールからビデオ会議、カレンダー機能など一通り準備できるのもポイントでした。
Notion for Startups
メモやドキュメントの管理にNotionを利用しています。
主に以下の用途での利用です。
- 記事録作成
- 社内イントラ
- 個人的タスク管理
ミーティング形式のテンプレートがあるので、それを活用して議事録を取っています。
普通のメモ帳と違ってブロックを使って分かりやすくまとめられたり、リンクの埋め込み時にリンクカードが出たりと議事録として見返しやすさがあります。
また社内イントラとして自社に関わるメンバーや担当領域など各種情報の共有や、オフィスの住所やゴミの出し方といった情報まで載せています。
忙しさのあまり内部向けの情報整理はおざなりになってしまいがちですが、更新のしやすさもあってNotionを用いたイントラ運用は易しいです。
Notionが用意している社内イントラのテンプレート例
個人的コメント
Notionは活用次第で何でもできる万能アプリですが、組織として利用するならNotionが持つ責務はある程度に絞ると良いです。(この例だと議事録と社内イントラ)
かつて組織としてプロジェクトとタスク管理にもNotionを使おうとした経験がありますが、万能アプリのNotionをプロジェクト・タスク管理アプリのNotionとして使うにはそれなりのセンスと使い方への理解が求められます。
たとえ一人が使えるようになったとしても、他のメンバーにも合わせて同等の理解を求めるのはかなりハードです。結局は中途半端に使われたりメンテされなくなってしまったりと、管理ツールとして存在が形骸化してしまいます。
上記を踏まえて重要な機能であるプロジェクト・タスク管理は「餅は餅屋」ということでBacklogを使用しています。
スタートアップ向けプログラム
Notionはスタートアップ向けのサポートプログラムとしてNotion for Startupsを提供しています。
組織としてブロック数に制限があるフリープランのままでの利用は難しいので、プラスプランを利用するのが現実的です。
このプログラムに申し込むことでNotionプラスプランを3か月または6か月間無料で利用できるようになります。[2]
Slack
コミュニケーションツールはSlackを利用しています。
初期の頃はフリープランを利用していましたが、割と早いうちに有料のプロへとプランを変更しました。
これはSlackを利用している別の企業とコミュニケーションを取る際に、Slackコネクトを使う場面が幾度かあったためです。
またメッセージの全履歴が残ってみられること、ハドルミーティングを利用してちょっとしたメンバー間とのコミュニケーションができることも有料プランに切り替えたことによるメリットでした。
個人的コメント
Slackの料金はアクティブなユーザーの人数に対して請求されます。関係者が増えていくとその分だけ費用も膨れ上がっていきます。
最初のうちから適宜外部メンバーの招待を無料で抑えられるシングルチャンネルゲストとすることで、費用を抑えて運用していくことを考えると良いでしょう。
プロジェクト・タスク管理
Backlog
プロジェクトとタスク管理ツールは上記で述べたNotionの他にTrello、Asana、Jiraなどを検討しましたが、Backlogを選択しました。
理由としては以下の2点です。
とっつき易さ
Backlogを開発している企業は福岡に本社を置く株式会社ヌーラボということもあり、Backlogの導入事例やマニュアル、操作方法の他にコミュニティイベントをオフラインで開催していたりと、日本語で様々な情報を取得しやすいです。次の項目で述べますが組織としてエンジニア以外にもBacklogを使うような場面があるので、自然な言葉遣いのマニュアルで使い方を学びやすい点は最初のとっかかりの心理的ハードルを下げて効果的に使ってもらえるようになります。
また操作感も個人的にBacklog一番使いやすく、シンプルで活用しやすいと感じています。
プロジェクト・タスク管理ツールを導入して最も重要なのは、当たり前ですがプロジェクトとタスクを管理することです。
初期フェーズの組織はメンバーも少なく、一人が担当する職務の数というのは多いことでしょう。ただでさえ手が回らない中では、その一つ一つにしっかり向き合って対応していくことが難しくなっていきます。そのような環境下でしっかりと進捗や状況を組織内で共有するには、とにかく「扱いやすく」「気疲れしない」プロジェクト・タスク管理ツールを選んで、継続的に使っていくことが大事です。
その点でBacklogは一番ベストな選択肢だと思っています。
招待できるメンバー数が無制限
他のプロジェクトとタスク管理ツールは基本的にユーザー数の増加に応じて費用は増加していきますが、Backlogの有料プランはユーザー数の上限が無制限です。
そのためエンジニア以外のバックオフィスの担当者にもBacklogに招待し、定形外のタスクを共有しています。Backlogに「お願いしたこと」「言ったこと」を集約することで、コミュニケーションや認識のズレ・見落としを防ぐ目的です。
またVCや親会社メンバーといった直接組織運営に関わる人以外のステークホルダーにもBacklogのメンバーとして追加しています。これは「きちんと組織運営されていて開発が進行しています」という情報開示が主な意図であり、スタートアップ内部向けの信用構築の一つとしての取り組みです。
開発
GitHub for Startups
2022年から提供が始まったGitHub for Startupsに申し込んで利用しています。
これはGitHub Enterpriseを最大20ライセンス分、1年間無料で利用することができるものです。
内容はそのままGitHub Enterpriseなので、例えばGitHub Actionsをプライベート設定でも一定時間費用をかけずに使えたり、Organizationで各ユーザーアカウントを管理できるようになります。
開発メンバーにはGitHub Copilotのライセンスを会社負担で付与していますが、これもOrganizationから簡単に設定可能です。
GitHub for StartupsはGitHubの正規パートナーである株式会社オルターブースさんにお願いをして導入しています。本来であれば本国GitHubのスタッフと直接やりとりが必要なものをサポートをしていただき、迅速にEnterpriseアカウントを適用することができました。
AWS Activate
スタートアップ向けに提供されているAWS Activateに申し込むことで一定額のAWSクレジットを提供してもらえます。
基本であるActivate Foundersのプランでは、1,000USD相当のAWS Activateクレジットがアカウントに付与されます。
請求されるAWSの費用をAWSクレジットで支払えるので大規模なアプリケーションでない限り、付与されたクレジットである程度の期間対応できることでしょう。
JetBrains
バックエンドはLaravelを採用しているので、エディタはPhpStormを利用しています。
PhpStormを提供しているJetBrainsもスタートアッププログラムを提供していて、5年間にわたって50%の割引価格で購入可能です。
組織に対してスタートアッププログラムが適用されるので、エディタを使いたいメンバーが増えたら管理コンソールから都度割引額適用済のライセンスを発行できます。
STUDIO
自社サイトの制作・運用はSTUDIOを利用しています。
ノーコードでWebサイトを制作できることで、コーディングの手間無しにすぐにコンテンツの追加や更新が行えて、別途ホスティングのためにサーバーを用意する必要がない手軽さがポイントです。
STUDIOにログインしたら「サイト作成・更新」「CMS」「フォーム」を一括して扱えることが楽で助かっています。
CMSやフォーム入りのWebサイトを迅速に立ち上げたい、サーバーやCMS・プラグインのアップデート管理を気にすることなく運用したい、という点で選択しました。
個人的コメント
ノーコードツールとは言っても、HTMLとCSSをある程度理解していることでSTUDIOのデザインエディタの真価を発揮させられると思います。自社内でサイトのデザイン制作・実装をする場合は、Webデザインやマークアップの知見のある担当者がいることが理想的です。
会計
freee会計
クラウド会計ソフトにはfreee会計を利用しています。
他にもクラウド会計ソフトとしてマネーフォワードクラウドもあり、どちらを選択するか悩むかもしれません。
私は創業時から対応してもらっている会計士がおり、その会計士が扱い慣れているという理由でfreee会計を選択しました。
会計ソフトを選ぶポイントは、会社としてお願いをする会計士さんを早めに見つけることです。
今後一緒にやっていく会計士さんの意見を聞いた上で会計ソフトを選択するのがベストだと思います。
まとめ
スタートアップ立ち上げ時に既に起業した人に対して聞きたかった「起業した時にどんなものを社内で導入してどのように使っていきました?」の質問に対して、今の自分自身がその質問に答えるならこの内容になるでしょう。
何かしらの参考になれば幸いです。
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