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SAR Python 入門本の上梓記念記事 (書籍の難易度・分野・著者のおすすめや想い)

に公開

はじめに

この度は講談社さんより「SAR衛星データ解析入門」を上梓します。お手に取っていただけると嬉しいです。
本記事は、書籍出版の決定を記念して執筆しました。書籍を学ぶ上でおすすめの点や意識した箇所をご紹介します。

合成開口レーダー

合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar; SAR) はレーダーを応用した高度な技術です。航空機や人工衛星に搭載することで地球観測を行う方法の1つになっています。レーダーは、雲を透過して、夜間でも観測できます。このメリットを活かして、災害時や定期観測が可能になります。近年での技術革新は凄まじく、小型衛星の登場、高分解能化、精密な干渉技術、偵察用衛星にも用いられている技術などで隆盛を極めています。さらに、民間のSAR衛星運用企業が続々と上場しています。ビジネス・投資的にも注目を集める宇宙活用の分野です。

SARの魅力

偵察から災害対応、民間利用までビジネスに発展してきている昨今の最新技術の利用方法や背景理論などごちゃごちゃ述べましたが、もっと強く伝えたい部分があります。
それは合成開口レーダーの画像はとても綺麗なんです!
複雑な所は飛ばし読みでもいいです。ぜひ、最新の衛星画像の綺麗さに魅了されて欲しいです。

この美しさ故に、どうやら人間は光の世界に囚われてしまうようです

書籍のご紹介

どのような本で、どうして執筆しようと思ったのかをまとめています。

どのような内容なのか

内容は合成開口レーダーの原理から応用までをできるだけ直感的に説明する書籍になっています。また、Pythonでの実装例があるので反復練習をすることでマイペースに理解してもらえるようになっています。著者自身が合成開口レーダーを勉強しようとした時に欲しかった本になっています。

内容

内容 難易度 (1 ~ 5)
合成開口処理
強度画像
SARの性能
レーダー特性
干渉
合成開口の応用

1章では理論的な内容がメインです。扱う用語の定義や衛星データサンプルから理解しやすいようになっています。基礎から網羅的に解説していますので 「なんで?」を解消できるはずです。

内容 難易度 (1 ~ 5)
SARデータの取得と可視化
SARデータの地理座標投影

2章では衛星データを取得する方法やその衛星データの見方が記載されています。地理空間的なデータ処理などもご紹介しています。

内容 難易度 (1 ~ 5)
水域
森林資源
農業管理
災害・地震
海洋監視・船舶

3章では分野ごとの実利用例を用意しています。様々な分野で合成開口レーダーが活躍できることが述べられています。また、実際の現象に合わせた処理などが学べます。

内容 難易度 (1 ~ 5)
SARプロバイダー
将来の展開

4章は現在の合成開口レーダーの各社を紹介しています。また、未来の合成開口レーダーの展開や面白い取り組みをまとめています。

内容 難易度 (1 ~ 5)
付録 フーリエ変換と相関処理

付録と思っていたら侮るなかれです。疑問に思うあの点を実装から検証してくれています。

本書籍はどっちかというと衛星基準での合成開口レーダーを執筆しています。
しかし、原理や手法は航空機でも同様に使えるようになっています。

おすすめ順序

ほんとは最初から順番に読んだら良いのですが、そんなに時間がない方も多いと思います。
初心者 であれば、難易度が低いところだけも十分です。特に1章2節は全員読んでもらいたいです。 即効性 があるのは3章から読んで基本が必要であれば、1章や2章に戻るのが良いです。ビジネスサイド の方は4章がおすすめです。さらに具体例が知りたければ、3章に戻るのがいいかもしれません。

でも1歩目からいきなり合成開口を理解する1章1節は見どころです!
イメージとパターンから合成開口処理の説明を 初っ端からやってしまうめちゃくちゃな本 です。様々な書籍や論文で合成開口の定義まで辿り着けず諦めていた方にはぜひ読んでもらいたいです。

扱うデータ

特色としては、種類が豊富なことです。著者が沢山の衛星データに触れかったのもあります。

  • 登場衛星
    • SAOCOM-1A/B, HJ-1C, RADARSAT-1, RADARSAT-2, TanDEM-X, TerraSAR-X, ENVISAT, ERS-1, ERS-2, Sentinel-1A/B, SEASAT, Sentinel-1B, Sentinel-1C, PAZ, NISAR, RISAT-1, RISAT-1B, RISAT-2, RISAT-2B, ALOS, ALOS-2, ALOS-4, JERS-1, Kompsat-5, Sentinel-2, ASNARO-2, NovaSAR-1, LuTan 1-01A/B, HRWS
  • 解析するデータ
    • ALOS, ALOS-2, Capella, ICEYE, PAZ, Sentinel-1, Sentinel-2, Synspective, TerraSAR-X, RADARSAT-1, RADARSAT-2, Umbra

扱うモデル

合成開口レーダーでは基本となる物理モデルからデジタル処理を行う上で理解しておくと良いモデリングもご紹介しています。解析するに当たって、統計モデルや機械学習モデルを実装しています。また、アプリケーションを実装するために必要なセグメンテーション、物体検知などのディープラーニングを活用したモデルの実装例が登場します。ただのディープでポンだけではなく、より 原理に基づいた特徴量 を生かした実験比較が述べられています。

コード

書籍紹介したコードは Github で販売日から 無料公開 しています。また、書籍記念記事でのコード も追加しています。そのような役に立つコード例は定期的に追加していけたらと思います。

https://github.com/syu-tan/sar-python-book

どんな人に読んで欲しいのか

どんな方にも読んで頂きたいですが、大きく分けて以下の3種類の方々に読んで頂きたいです。

  1. SAR衛星データを解析したい方 (エンジニア、学生、研究者など)
  2. 衛星データを事業で扱う方 (プロジェクトマネージャー、セールスなど)
  3. SARを勉強しようとしたが難しかったり、情報が錯綜していたりして挫折した方

もちろん、宇宙領域ではない方 も想定しています。宇宙領域を取り巻く課題や基礎から意識しています。
特に、3は合成開口レーダーならではの読者だと思います。著者もこの分野に入った時に一番に感じました。私も苦学生にはだったので できるだけ価格は下げる ような線引きもして学生さんも購入できるように交渉しました。

入門とは名ばかりの干渉や応用は、もっと専門性を持ちたい方 にはおすすめです。

また、本書籍は早く購入してくださった方が損をするようにはしたくないので セールでの安売りは一切しない方針 を著者らで固めております。お買い求めの際はセールは配慮せずにご検討をよろしくお願いします。

どうして執筆したのか

宇宙業界に入った私は合成開口レーダーを勉強し始めました。しかしながら、想像以上にその壁が高かったです。
訳がわからないレーダー、その中でも最高峰に複雑な合成開口レーダー、勉強しようにもどこから勉強したら良いかわからない。私のように何日も論文と睨めっこして、公開されてる少ないサンプルで実装して理解した理論が正しいかの確認、とてつもない時間が溶けました。自分の頭が良くないことがとてもよくわかる日々でした。結像する合成開口処理を自分で実装できるようになるまで半年もかかりました。
このような思いを私以降の日本のSAR業界やリモセン業界の人にはして欲しくないです。私自身の才能を悟り、日本の衛星業界の発展のために、私を踏み台に多くの人が活躍してほしいです。この本の前後で技術者のレベルが高く変化すると嬉しい限りです。
探しても出てこない専門用語、検索しても理解が難しい言葉、散在している情報。これらを体系的に整理、シンプルな基礎だけの実装、図で見てわかるようにしたいと思い立ったのがきっかけです。
簡単には、宇宙業界に入ったばかりの2年前の私が本当に欲しかった内容を書きました。

20代の内に世の中の役に立つようなことがしたかったのですぐに行動に移せました。持ち込んだ企画書やも問い合わせた企業や団体の方にもほとんど勢いで通したようなものです。本気で訴えると納得してくださる方が多く、合成開口レーダーの魅力やニーズを理解してくださり助かりました。合成開口レーダーは素晴らしいので もっと多くの人に広まってくれると嬉しい です。

こめじゃらし

余談ではありますが、こめじゃらし も登場します。
著者らの本音が反映されたりしています。

著者

img
著者の記念写真・左から藤原、安井、佐藤

著者の一人である安井の思いに共感してくださった佐藤さんと企画を立ち上げたのが始まりです。それが 2023年11月ごろだったかなと思います。それから執筆や契約などの作業をして1年経ったタイミングで藤原さんも同じ志で賛同して3名で作り上げました。2025年から編集作業をして1年掛けてやっと2026年に出版です。

著者担当

執筆 サポート
安井
佐藤 安井
3~5 安井
安井 藤原
佐藤
佐藤 安井
佐藤
安井
安井 藤原
4〜5 安井
佐藤
安井 藤原
付録 ---- 佐藤

コミュニティとの連携

本書籍の著者らは日本衛星データコミュニティに所属しています。

https://zenn.dev/syu_tan/articles/593d27ec7f2de3

著者に相談や質問などがある時は、コミュニティが気軽で良いかもしれません。
他にも同様に学んでいく仲間にも会えるでしょう。X(Twitter)から絡んでもらっても構いません。

https://zenn.dev/syu_tan/articles/fed1603c43de60

勉強会での資料は公開しているものもあります。
一緒に勉強したり、情報交換したりするが増えると嬉しいです。

謝辞

プロバイダー

衛星データは、人工衛星を製造したり、運用したりする方々の恩恵で触れられるようになっています。
衛星データプロバイダーや地上データを提供者の皆様(ESA, ICEYE, JAXA, Capella Space, CSA, Hisdesat, NASA, Synspective, Umbra Lab, 国土地理院 [アルファベット順])のおかげで実現できました。契約を交わしたりやフリーで公開してくださった企業や団体にお礼を申し上げたいと思います。大変ありがとうございます。

「QPS研究所さんは?」という質問をよく受けるのですが、3回ほどアプローチしてご説明差し上げたのですが私の力不足でお返事が無いことが続いたので連携できなかったです。もし、ご機会があれば嬉しいです。。。。

講談社

出版は、講談社グループの講談社サイエンティフィクさんから頒布致します。無名の私の企画を採用してくださったおかげで世に出せることができました。編集者として対応して下さった秋元さんをはじめ、各担当者さんありがとうございます。読みやすい編集や図版など、原稿段階からは想像を超えるクオリティの書籍を制作してくださいました。
また、講談社さんの 宇宙兄弟 というマンガに触発されたので同じ出版社グループの講談社さんから上梓したかったです。

佐藤さん

企画段階から上梓まで二人三脚で共に歩んできました。
最初に目指したところから最後までやり遂げてくれました。個人的にはこの点は一番重要でした。中途半端が嫌いなので全力で駆け抜けてくれたのは感謝しかありません。これもあってとても信頼しております。事業開発やセールスの観点をお持ちなので、エンジニアだけではない方にも呼んで頂けるような工夫ができました。私だけではこのようなわかりやすい本にならなかったと思います。本当にありがとうございます。

宇宙や途上国開発などについて発言しているのでフォローもおすすめです。
https://x.com/jp_consultant

藤原さん

合成開口レーダーの素晴らしさに共感をしてエンジニア同士で意気投合から始まって、書籍の後半では執筆作業以外の簡単な調査や確認などのお手伝いをして頂きました。合成開口レーダーを製造するハード側だからこその見解は大変参考になりました。ご協力の程、本当にありがとうございます。

宙畑

img

SAR解析者への道シリーズを始めとして、ライターとして関わらせていただき書籍のキッカケにもなっています。
また、書籍でもわかりやすい図のご提供や合成開口レーダーの企画を採用して頂きありがとうございます。

https://sorabatake.jp/36124/

感想コレクション

X(旧ツイッター)で書籍を投稿してくださった方のコメント集めております。
投稿してくださった方または、@emmyeil をメンションして頂けるとこちらへの掲載の許可の申し出をさせて頂けきます。

さいごに

最後までお付き合い頂きありがとうございます。
残りはおまけの内容になります。

また、もし引用頂ける場合は以下でお願い致します。

安井秀輔,佐藤功一,藤原寛朗. SAR衛星データ解析入門. 講談社サイエンティフィク出版, 2024.

自己紹介

私は、安井 秀輔(ヤスイ シュウスケ)と申します。しがないエンジニアです。
X(旧Twitter)アカウントでは、宇宙領域や機械学習などの科学やコンペなどについて発言することが多いです。

SAR解析をよくやっていますが、画像系AI、地理空間や衛星データ、点群データ、3Dデータに関心があります。
勉強している人は好きなので楽しく絡んでくれると嬉しいです。

衛星データ解析として、宙畑のライターもしています。
https://sorabatake.jp/?s=秀輔

執筆の裏側

「2年前の自分が欲しかった本」というのは執筆中に何度も何度もこれも読み直して自分の成したいことと合ってるかを再認識するためのものでした。書いているつもりでも伝えたいことから逸れているかもしれません。それは文書を書く力がまだまだということで申し訳ないです。
実は、最初からこのような臥薪嘗胆チックなことをしていた綺麗なお話ではないです。1節を書いた時に自分で書いているつもりでも書きたい内容が逸れてしまっていました。同じく著者の佐藤さんに指摘されて気付かされました。
毎日意識して続けることは凡人にも出来ることだと思い、書く前の軸を定めることにしました。そして、生まれた文言です。ほんとに小さなことを積み重ねるしか出来ない人が、かき集めたコレクションのような作品なのでお手に取って頂けると嬉しいです。

お金のお話

衛星データを初めとした宇宙領域って技術力や高く、各社が内製化したがる分野です。さらに、追い討ちをかけて参入者も少ない分野だったために、書籍がとても高価です。著者がざっくりとSARの勉強のために購入した論文や教本、データを足し合わせると 16 ~ 17 万円くらいでほとんどが書籍代金なのです。「コスパ」という言葉が台頭しているようにお金面で書籍を購入する考えも一理あります。この約5000円の書籍が読んだ全ての本程度の専門性の価値はないかもしれませんが、日本語かつ、わかりやすさでは効率的なのではないかと思っています。

「英語の分厚い本が 3万円とかするのがゴロゴロあるのよ〜」

著者の想い

夢を持つことが嫌いです。こんなことができたらいいなは絶対に嫌です。今やる、すぐやる、成功するまで突き通す。そんな想いから生まれた書籍です。その人が行動に移した時の学びの壁は時に高く聳え立つことがあります。周りの人に教えてもらうことがあっても、いつかは本人の力で這い上がらないといけないです。でもその壁に緩やかな道を作れるなら、その人はもっと高い場所にいけると思います。私はそんな学びの道をこの書籍で作れたらいいなと思ってます。

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