ビジネスゴールを見失わないための技術選定
技術選定は、システム設計においてビジネスニーズを実現するための重要なプロセスです。しかし、POCやプロダクト開発の初期段階では、以下のような課題に直面することがよくあります。これらの課題が原因で、技術選定がビジネスゴールと乖離し、後のプロジェクト全体に深刻な影響を及ぼすことがあります。
- 要件やビジネスモデルが曖昧で、優先順位の判断が難しい
- プロトタイプを短期間で提供する必要がある一方、長期的なスケーラビリティも考慮が必要
- 技術的制約や運用上の課題に気づくタイミングが遅れるリスクがある
私自身、Azureを活用したプロジェクトで同様の問題に直面しました。このプロジェクトでは、ファイル共有サービスをPOCとして迅速に開発することを目標としていました。当初、スピードを重視してAzure Functions + SPA + Blob Storageを選択しました。しかし、「3GBのファイルアップロード対応」という新たな要件が発生した際、Azure Functionsが持つHTTPリクエストサイズの100MB制限では対応できないことが判明しました。この課題に対処するため、Azure App Service + ASP.NET Core + Blob Storageに移行し、バックエンドでファイルアップロードを処理できるようにしました。
この経験を通じて、スピードと柔軟性のバランスを取りつつ、プロジェクトの進展に応じて技術選定を適応させる重要性を学びました。本記事では、これらの課題を克服するためのポイントについて記述します。
1. ビジネスニーズとの乖離がもたらす影響
ビジネスゴールと技術選定のズレ
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プロジェクトの方向性が不明確になる
技術選定がビジネスゴールと合致していない場合、プロジェクトの方向性が曖昧になります。例えば、最新技術を採用することで効率的な開発が可能になると考えたものの、それがビジネス側の期待する機能や価値を満たさない場合、後で再設計が必要になることがあります。 -
コストとリソースの無駄が発生する
技術選定の結果、不要な機能や過剰なスペックを追求することになると、ビジネスのニーズを満たさないまま、リソースを浪費してしまう可能性があります。 -
ユーザー体験が損なわれる
技術が優れていても、それがユーザーが求める体験を実現できない場合、プロダクトの価値は低下します。最終的な成果物がユーザーの期待や市場のニーズに応えられず、ビジネス価値が十分に提供されないことがあります。
短期的成果と長期的視点のバランス不足
特に初期段階では、スピードを優先して技術を選定することが求められることが多いですが、それが長期的な拡張性や移行の障害となる場合もあります。技術選定時には、短期的な成果と長期的なビジョンのバランスをどのように取るかが重要です。
技術選定がビジネスニーズと乖離した際のリスクを理解することで、なぜ選定基準を明確にし、チーム全体で共有することが重要なのかが見えてきます。次章では、この乖離を防ぐためのポイントを記述します。
2. ビジネスゴールとのアライメント
前章で示した技術選定とビジネスニーズの乖離がもたらすリスクに対処するためには、明確なプロセスを通じて技術選定をビジネスゴールに結びつけることが重要です。例えば、プロジェクトのロードマップを共有し、各フェーズの目標を視覚化することで、チームの方向性を揃えることができます。
しかし、このプロセスにおいてメンバー間での解釈がずれることで、プロジェクトが意図しない方向に進む可能性があります。そのため「認識の空白」をなくすことが極めて重要です。空白が放置されると、各それぞれが空白を自分なりの解釈で埋めてしまい、ビジネス目標から外れた優先順位や意思決定がなされてしまいます。
以下の3つの重要なポイントに注力する必要があります。
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事実と意見・仮説の区別
技術選定では、ステークホルダーからの要求やフィードバックが重要な指針となります。しかし、その要求には「明確なデータや検証済みの要求」と「ステークホルダーの期待や推測に基づく要求」が混在していることが少なくありません。「事実と仮説」これらを慎重に見極めることで、合理的な意思決定が可能になります。 -
ビジネスゴールの共有
選択した技術が全体のビジネス目標にどのように貢献するのかを明確に伝えます。この目標は単なるリリースの達成に留まらず、ユーザーに価値を提供し、課題を解決し、組織の成長に貢献するものでなければなりません。 -
技術的優先順位の明確化
技術選定をスムーズに進めるためには、プロジェクトにおいて何を最優先するのかを明確にし、意思決定の基準を統一することが必要です。優先順位の例:
- スピード:短期間で市場に投入する必要がある場合、迅速な開発が可能な技術を選定。
- スケーラビリティ:将来的な成長を見越して、拡張性の高い技術を採用。
- コスト効率:予算制約がある場合、初期コストが低く運用負担が少ない技術を採用。
3. プロジェクトの成長段階に応じた技術選定
技術選定を行う段階のプロダクト開発においては、コンセプト自体の検証は完了していますが、ビジネスモデルはまだ不確定な要素が多い状況です。この段階では、初期プロダクトを構築した後も、継続的に顧客ニーズやユーザーのフィードバックを収集し、プロダクトの方向性は柔軟に変わる可能性があります。
短期成果を考慮
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捨てる前提のアーキテクチャ
初期段階で構築したシステムが最終的に捨てられる可能性を考慮し、サンクコストを最小限に抑えることが重要です。そのため、学習コストが低く、迅速に開発が可能な技術を採用することで、仮にシステムを捨てることになってもダメージを最小限に抑えられます。 -
短期的な開発スピードの優先
顧客ニーズの調査と検証を繰り返しながら、迅速にプロダクトの改善を進める必要があるため、短期的なスピード感が求められます。開発サイクルを早く回し、ユーザーからのフィードバックを反映できるようにするためには、複雑なアーキテクチャよりも、シンプルで迅速に実装可能な技術を選定することが適切です。
コストと柔軟性のバランスを考慮
初期段階ではスピードが重要ですが、中期的にはスケーラブルなアーキテクチャへの移行を検討し、移行コストを最小化することが求められます。開発が進む中で、プロダクトの方向性が明確にになるにつれ、より堅牢なバックエンドへの移行が必要になるかもしれません。
4. まとめ
本記事では、技術選定をビジネスゴールに整合させる重要性と、そのためのポイントついて記述しました。技術選定がプロジェクトの成功に与える影響は非常に大きく、その選定がビジネス戦略全体に貢献するためには、以下のポイントを意識することが重要です。
- 技術とビジネスニーズの不一致がもたらすリスクを認識する。
- 明確な選定基準を設け、事実と仮説を区別する。
- プロジェクトの成長に応じて優先順位を定期的に見直す。
技術的な最適化だけでなく、ビジネスニーズと整合させ、チーム内の共通理解を促進します。これによりプロジェクトの成功可能性が大きく向上すれば幸いです。
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