WebLLM(Wasm上で動くLLM)は何が凄い?3種のLLM実行環境を徹底比較〜ローカルブラウザ型、ローカルネイティブ型、クラウド型〜
近年、プライバシー確保の重要性が高まり、ローカル環境で動作するLLMへの需要が増加しています。その選択肢の一つとしてWebLLMが台頭してきました。
でも、プライバシー確保が目的ならOllamaでいいんじゃないの?
この記事では、そんな疑問を深掘りしていきます!
WebLLMとは
WebLLMは、Webブラウザ上で直接LLMを実行できるJavaScriptライブラリです。利用可能なLLMモデルが複数用意されており、ユーザーが実行時に必要なモデルをダウンロードして利用する仕組みになっています。[1]
技術要素
WebLLMは以下の技術で支えられています。[1:1]:
- WebAssembly (Wasm): C/C++などで書かれたコードをブラウザ上で高速に実行するための技術を採用
- WebGPU: ブラウザからGPUに直接アクセスすることで、高速な計算処理を実現
- キャッシュストレージ: 一度ダウンロードしたモデルはブラウザのキャッシュストレージに保存され、再利用時のダウンロード時間を短縮
WebAssemblyについて詳しく知りたい、実際に動かしてみたい方は、以下の記事も参考になります。
動作フロー

- (初回のみ)WebLLMライブラリがクラウド上のLLMをブラウザのキャッシュストレージにダウンロード
- ユーザーがWebブラウザのUIにプロンプトを入力
- プロンプトがWebLLMライブラリに送信される
- WebLLMライブラリがキャッシュストレージからモデルを読み込む
- Wasmエンジンが推論処理を開始
- WebGPUが、OS上のGPUに演算命令を送信
- GPUが行列演算を実行し、結果をWebLLMに返す
- WebLLMライブラリが生成されたレスポンスをまとめる
- レスポンスがUIに表示される
WebLLMの利点
- 完全なプライバシー保護: すべての処理がブラウザ内で完結するため、プロンプトや生成結果が外部サーバーに送信されることがありません。機密情報や個人情報を扱う場合でも安心して利用できます。
- 導入の手軽さ: インストール不要でURLにアクセスするだけで利用開始できます。ユーザーは特別なセットアップや環境構築を行う必要がありません。
- オフラインで利用可能: 一度モデルをダウンロードすれば、インターネット接続がなくても利用できます。
WebLLMの制約
- モデルサイズの制限: ブラウザのメモリ制限により、大規模なモデルの実行は困難です。現実的には数GB程度の軽量化されたモデルが中心となります。
- デバイス性能への依存: ユーザーの端末に十分なGPUやメモリが必要です。低スペック端末では動作が遅い、または動作しない可能性があり、すべてのユーザーが快適に利用できるとは限りません。
3種のLLM実行環境の比較
LLM実行環境の分類
近年、LLMの利用方法も多様化してきました。この記事では、「LLMがどこで動くか」 という観点で、3つに分類しました。
-
クラウド型:クラウドサーバーでLLMが動作する
- 例:ChatGPT、Claude、Gemini等のAPIサービス
-
ローカルネイティブ型:ユーザーのPC上(OS上)でLLMが動作する
- 例:Ollama、LM Studio等のネイティブアプリ
-
ローカルブラウザ型:ユーザーのブラウザ内でLLMが動作する
- 例:WebLLM
注: 「ローカルネイティブ型」「ローカルブラウザ型」は、この記事での造語です。3つの違いを明確にするため、このように分類しています。
クラウド型との比較
クラウド型の概要
クラウド型は、OpenAIのChatGPT、AnthropicのClaude、GoogleのGeminiなど、多くの主要なLLMサービスで採用されているアーキテクチャです。ユーザーはWebインターフェースやAPIを通じてプロンプトを送信し、クラウド上の強力なサーバーで推論処理が実行され、結果が返されます。
クラウド型の動作フロー

- ユーザーがWebブラウザのUIにプロンプトを入力
- プロンプトがインターネット経由でクラウド上のLLMサービス(ChatGPT、Claudeなど)に送信される
- クラウド上のサーバーで推論処理が実行される
- 生成されたレスポンスがインターネット経由でWebブラウザのUIに返される
比較
ローカルブラウザ型(WebLLM)とクラウド型の最大の違いは、データの処理場所です。
クラウド型では、プロンプトもレスポンスもすべてインターネット経由でクラウドサーバーに送信され、サーバー側で処理されます。そのため、機密情報を扱う場合はデータ漏洩のリスクを考慮する必要があります。一方、ローカルブラウザ型はすべての処理がブラウザ内で完結するため、データが外部に送信されることはありません。
また、クラウド型は最新かつ大規模なモデルを利用でき、高品質な出力が期待できます。WebLLMは軽量化されたモデルに限定されるため、出力品質が劣ります。
ローカルネイティブ型との比較
ローカルネイティブ型の概要
ローカルネイティブ型は、OllamaやLM Studioなど、ユーザーのPC上で直接動作するネイティブアプリケーションです。これらはOSレベルでインストールされ、システムリソースに直接アクセスしてLLMを実行します。完全にオフラインで動作し、プライバシーも保護されます。
ローカルネイティブ型の動作フロー

- (初回のみ)PCにOllamaとLLMをダウンロードする
- ユーザーがWebブラウザのUIにプロンプトを入力する
- プロンプトがlocalhost API経由でOS上のOllamaアプリに送信される
- Ollamaアプリがストレージから必要なモデルを読み込む
- Ollamaアプリの推論エンジンが推論処理を開始
- OllamaアプリがOS経由でGPUに演算命令を送信
- GPUが行列演算を実行し、演算結果をOllamaアプリに返す
- Ollamaアプリが生成されたレスポンスをまとめる
- レスポンスがlocalhost API経由でWebブラウザのUIに返される
比較
ローカルブラウザ型(WebLLM)とローカルネイティブ型は、どちらもローカル環境でLLMを実行し、プライバシーを保護できる点で共通しています。
最大の違いは、導入の手軽さです。WebLLMはブラウザでURLにアクセスするだけで利用開始できますが、ローカルネイティブ型はアプリのインストールとモデルのダウンロードという事前セットアップが必要です。
実行環境の違いも重要です。ローカルネイティブ型はOSレベルでシステムリソースに直接アクセスできるため、ある程度大規模なモデルの実行や最適化が可能です。WebLLMはブラウザのサンドボックス内で動作するため、リソースアクセスに制限があり、実行できるモデルサイズや性能面で劣る傾向があります。
配布の観点では、WebアプリケーションにWebLLMを組み込めば、ユーザーは常に最新版を利用できます。ネイティブアプリは各ユーザーがアップデートする必要があり、バージョン管理が複雑になります。
比較表
| 項目 | クラウド型 | ローカルネイティブ型 | ローカルブラウザ型 (WebLLM) |
|---|---|---|---|
| データプライバシー | △ サーバーに送信 | ◎ 完全ローカル | ◎ 完全ローカル |
| 導入の手軽さ | ◎ アカウント登録のみ | △ インストール必要 | ◎ URLアクセスのみ |
| コスト | △ 従量課金 | ◎ 無料(端末負担) | ◎ 無料(端末負担) |
| モデルサイズ | ◎ 大規模モデル可 | ○ 中〜大規模 | △ 小〜中規模 |
| 出力品質 | ◎ 高品質 | ○ 中〜高品質 | △ 中品質 |
| オフライン動作 | × 不可 | ◎ 可能 | ◎ 可能 |
| 更新・メンテナンス | ◎ 自動 | △ 手動更新必要 | ○ 自動更新可 |
| 実行環境 | クラウド | ローカル(OS上) | ローカル(ブラウザ内) |
まとめ
この記事では、LLM実行環境を3種類に分類し、WebLLMにどんな強み、制約があるのか深掘りしました。
WebLLMは、プライバシー保護と導入の手軽さを両立した技術です。ブラウザ上で完結するため、データ送信の懸念がなく、インストール作業も不要です。一方で、ブラウザの制約により、モデルサイズや出力品質では他の実行環境に劣る面もあります。
WebLLMを支えるWebAssembly(Wasm)やWebGPUはまだまだ発展途上の分野であり、現時点でのユースケースは限られますが、他の実行環境にはないことも実現可能な技術で、今後の発展に大いに期待できます。ビジネスで利用可能になる日も近いかもしれません、、!
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