🐕

【三体問題#2】円制限三体問題の定式化

に公開

本投稿の目的

本投稿では、大学で研究していた「深宇宙の力学」について整理して共有することを目的とする。筆者は以前に、「宇宙軌道力学に関する備忘録」という記事を出した。過去記事では、宇宙軌道力学分野における円制限三体問題という力学モデルについて、背景とその前提について書いた。本投稿はその続きとして、円制限三体問題は自励系の運動方程式(≒ 外力なしに運動する)として常微分方程式の形で記述できることを示す。
https://zenn.dev/soyster/articles/99f52614ca37f3

円制限三体問題の定式化

改めて円制限三体問題とは何かを説明する。まず三体問題は、N個の天体が相互作用するN体問題の、特にN=3の場合に相当する。
特に、三体問題に限れば、幾つかの近似を仮定した「円制限三体問題」として常微分方程式を定式化し、数値積分をする手法が有名である。
円制限三体問題では質量m_1,m_2の二つの天体P_1,P_2と第三天体である質量mの宇宙機P_3の運動を考えて、下記の二つの仮定をおく。

  • 質量mm_1, m_2に比べて十分小さく (m_1>m_2 \gg m)、他の二つの天体に影響を及ぼさない
  • 二つの天体はそれらの共通の重心の周りを一定の角速度\dot{\theta}で円運動する

以前からの続きとして、式がこの後煩雑になるので、パラメータの無次元化を行う。
具体的には、代表長さl^*/代表質量m^*/代表時間t^*をそれぞれ、

l^* = r_1+r_2, m^* = m_1 + m_2
t^* = 1/N = ((l^*)^3/\tilde{G}m^*)^{1/2}

としたうえで、各種パラメータを各種代表長さで除算する。ここでNは平均運動 (2\piするまでの角速度)である。

R_1=r_1/𝑙^∗, R_2=r_2/𝑙^∗, M_1=m_1/m^*, M_2=m_2/m^*, t=T/t^*

ここで\mu=m_2/(m_1+m_2)おくと、上記パラメータは、以下のように書き直せる。
なお、Gは無次元化後の万有引力定数である。

\begin{align*} R_1&=\mu, R_2=1-\mu, M_1=1-\mu, M_2=\mu\\ \dot{\theta} &= N*t^* = 1, G =1 \end{align*}

上記の無次元化したパラメータを用いて、座標系は以下の図のように表せる。

また、第一天体から第三天体、第二天体から第三天体への位置ベクトルは以下のように書ける。

\begin{align*} \bm{r}_{13} &= [X+\mu\cos{t},Y+\mu\sin{t},Z]^T\\ \bm{r}_{23} &= [X-(1-\mu)\cos{t},Y-(1-\mu)\sin{t},Z]^T \end{align*}

無次元化後のパラメータを用いて第三天体の運動方程式を書くと以下のように書ける。ここで\bm{X}=[X,Y,Z]^Tは第三天体 (宇宙機、衛星) である。

\begin{align*} \ddot{X} &= -\frac{(1-\mu)(X+\mu\cos{t})}{r_{13}^3}-\frac{\mu(X-(1-\mu)\cos{t})}{r_{23}^3}\\ \ddot{Y} &= -\frac{(1-\mu)(Y+\mu\sin{t})}{r_{13}^3}-\frac{\mu(Y-(1-\mu)\sin{t})}{r_{23}^3}\\ \ddot{Z} &= -\frac{(1-\mu)Z}{r_{13}^3}-\frac{\mu Z}{r_{23}^3} \end{align*}

これによって、慣性系で表現された円制限三体問題の運動方程式が導出できた。しかし、この後はこの慣性系で書かれた運動方程式を回転座標系にすると、以下のようなより簡潔な運動方程式が導出できる。なお、これは最初に申し上げたとおり自励系の常微分方程式であり、解析的には解けない。今後紹介できたらと思うが、数値積分によって軌道運動を明らかにすることができる。

Discussion