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【三体問題#1】背景について

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はじめに

本記事では、筆者が学生の頃に研究で取り組んでいた宇宙軌道力学 (Astrodynamics)についてどんな分野であるのか、またその学問が取り組まれている背景について取り扱う(なお、私の備忘録としての役割も担っている)。今回は、本分野へのとっかかりとして、下記を扱う。

  • 宇宙軌道力学 (Astrodynamics) とは
  • 基礎となる力学モデル (二体問題、N体問題、円制限三体問題)

宇宙軌道力学 (Astrodynamics)とは

宇宙軌道力学と聞くと、聞き馴染みのない方も多いかもしれない。本学問分野では、宇宙空間での天体の軌道運動について考える。ここでは「天体」とは、太陽や地球などの惑星や、月などの衛星、探査機や観測衛星などの人工衛星などを総称した表現である。さらに、学問として何らかの目的 (何らかのミッション・要望を解決したなど)がある場合に、惑星や月等の衛星の軌道運動は人間が恣意的に変えられないため、特に人工衛星の軌道運動の解析・設計を指すことが多い。今回取り上げる問題設定も、その前提に立っている。

二体問題

一般的に任意の二天体が存在するとき、二天体の間には万有引力が働く。二天体をP_1, P_2とし、質量をそれぞれM_1, M_2、位置ベクトルを\bm{r}_1, \bm{r}_2とするとき、各天体(P_i,(i=1,2))に関する運動方程式はニュートンの第二法則により、式(1)のように表せる。

M_i\ddot{\bm{r}_i} = -G_d\frac{M_1M_2}{||\bm{r}_2-\bm{r}_1||^3}(\bm{r}_2-\bm{r}_1) ... (1)

二体問題においては、自由度に対して拘束条件 (エネルギー保存則、運動量保存則、角運動量保存則)が十分に存在するので、解析解が存在する。
なお、今回は衛星の軌道運動のみに着目し、姿勢などは考慮しない(今後扱いたい)とする。
二体問題は、二天体以外の影響が無視できるような環境で成立する。例えば、太陽-地球、地球-月のそれぞれの惑星がどのように運動するかは、様々な擾乱を無視すれば二体問題と考えられる。

N体問題

ところで、N個の質点が互いに相互作用する問題を,N体問題という。二体問題の場合と同様に定式化すると、質量M_iP_i, (i=1,...N) の運動方程式は,ニュートンの第二法則により、式(2)のように定式化される。

M_i\ddot{\bm{r}_i} = -G_d\Sigma_{j=1(j\neq i)}^{N}\frac{M_iM_j}{||\bm{r}_j-\bm{r}_i||^3}(\bm{r}_j-\bm{r}_i) ... (2)

N\geq 3の場合、自由度の数に対して拘束条件が不足しているため、それぞれの質点の運動を解析的に解くことができない。その上、ある質点に対して2つ以上の質点の影響を受けるため非線形な振る舞いをすることが考えられる。そこで、質点(ここでは天体のこと)の運動を明らかにするためには、数値積分などを用いる必要がある。

円制限三体問題 (CRTBP=Circular Restricted Three-body Problem)

特に、三体問題に限れば、幾つかの近似を仮定した上で数値積分をする手法が有名である。
改めて、質量m_1,m_2の二つの天体P_1,P_2と第三天体である質量mの宇宙機P_3の運動を考える。その上で、下記の二つの仮定をおく。これらの仮定のもと天体の運動を考える力学モデルを、「円制限三体問題」と呼ぶ。

  • 質量mm_1, m_2に比べて十分小さく (m_1>m_2 \gg m)、他の二つの天体に影響を及ぼさない
  • 二つの天体はそれらの共通の重心の周りを一定の角速度\dot{\theta}で円運動する

次回以降は、これらの過程を前提とした、具体的な定式化を扱っていきたい。

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