はじめに
IR(インフォメーション・レシオ)は、運用者の実力を示す確率p、制御できない市場の分布\mathbb{E}(|r|)、およびウェイトwによって決定されます。
https://zenn.dev/shizumaru/articles/bcc8c688bb2192
ここでは、ウェイトwについて詳しく見ていきましょう。wはl^1ノルムとl^2ノルムで特徴付けられますが、これらを最大化するwは存在するのでしょうか?
IRの式を再度確認します:
IR = (2p - 1)\mathbb{E}(|r|) \frac{|w|_{l^1}}{|w|_{l^2}}
ここで、wについての最適化問題を考えます。
最適化問題
最大化したい量は \frac{|w|_{l^1}}{|w|_{l^2}} です。これは以下のように書き換えられます:
\frac{|w|_{l^1}}{|w|_{l^2}} = \frac{\sum_{i=1}^n |w_i|}{\sqrt{\sum_{i=1}^n w_i^2}}
制約条件として、通常はポートフォリオの総ウェイトが1になることを要求します:
解析
この最適化問題は、Cauchy-Schwarzの不等式と密接に関連しています。Cauchy-Schwarzの不等式は以下のように表されます:
(\sum_{i=1}^n |x_i y_i|)^2 \leq (\sum_{i=1}^n x_i^2)(\sum_{i=1}^n y_i^2), \quad x, y \in \mathbb{R}^{n}
等号成立は、ベクトルxとyが平行な場合、つまり定数c \in \mathbb{R}が存在してx = cyとなる場合です。
さて、この問題に適用すると、x_i = |w_i|、y_i = 1とおくことができます。したがって、
(\sum_{i=1}^n |w_i|)^2 \leq n(\sum_{i=1}^n w_i^2)
等号成立は、すべての|w_i|が等しい場合です。これは、\frac{|w|_{l^1}}{|w|_{l^2}} の最大値が \sqrt{n} であることを意味し、この最大値は全ての|w_i|が等しい場合に達成されます。
結論
\frac{|w|_{l^1}}{|w|_{l^2}} を最大化するwは確かに存在し、最適解は、全ての|w_i|が等しい場合です。つまり、空売りも許すならば
\text{Long-Short: } w_i = \pm \frac{1}{n}, \quad i = 1, 2, ..., n
通常のポートフォリオ最適化では負のウェイトを許容しないことが多いため、買いだけのポートフォリオになります。そうであれば最適解は:
\text{Long-only: } w_i = \frac{1}{n}, \quad i = 1, 2, ..., n
つまり、均等ウェイトのポートフォリオとなります。
この結果、IRを最大化するウェイト配分は、他の条件が同じであれば、均等ウェイトのポートフォリオとなります。
おまけ
以上から、各資産の投資比率であるウェイトの割り当ては、運用者の予想率pとは別のものであり、均等ウェイトが最適となることが示されます。ポートフォリオ理論との関連性に気づく人もいるかもしれませんが、用いられるIRの式を導出するには「資産は全て独立」という仮定をおいているので、ポートフォリオ理論の均衡点とも一致しています。
ちなみに資産は独立でなく、さらに刻一刻とランダムに変化するという広い枠組みにおいても、似たようなことが言えます。ざっくり言えば、期待収益率が不明であれば独立な資産の数で均等なウェイトを組むのが最適なポートフォリオであることも示すことができます。
Discussion