運用能力を測るIR、ICとは
Information RatioとInformation Coefficientの数学的定式化と特徴付け
はじめに
資産運用において、運用者の能力を評価する尺度としてInformation Ratio (IR) やInformation Coefficient (IC) が用いられる。この記事では、これらの尺度の数学的定義を整理し、ファイナンスの理論的背景を踏まえて厳密な証明を交え特徴付けを与える。
モデル設定
以下の設定を置く。
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資産数を $n \in \mathbb{N}$ とする。
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ポートフォリオのリターンを $r : \Omega \to \mathbb{R}^n$ とする。
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各資産のリターン $r_i\ (i=1,2,\dots, n)$ は確率変数で独立かつ同分布。
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運用者の予想リターンを $\hat{r}_i\ (i=1,2,\dots, n)$ とする。
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その予想に基づく各銘柄の重みを $w \in \mathbb{R}^n$ とし、特に以下が成立する:
\mathbb{P}(\text{sign}(w_i) = \text{sign}(\hat{r}_i)) = 1
Information Ratioの定義
Information Ratioは次のように定義される。
方向性の精度
運用者の方向性の予想精度を次の確率で定義する:
各銘柄の期待値を分解すると、
となる。
リターンのロバストネス
マーケットインパクトがない仮定では、予測の正否によらずリターンの絶対値条件付き期待値が等しく、
と書ける。ここで $k = \mathbb{E}(|r_i|)$ とする。これにより、
が得られる。
独立性を用いると、分散は
となる。
IRの特徴付け
これまでの結果をまとめると、
を得る。
ここで注意すべき点として、IRは運用者の実力(予測精度 $p$)だけでなく、マーケット環境のリターン分布(期待値やボラティリティ)やポートフォリオのウェイトの選択にも影響されるため、マーケット環境が良好な時には実力以上に評価されることがある。
ICとIRの関係
Information coefficient (IC) はリターンと予想の相関係数であり、
となる。したがって、
が導かれる。
結論
運用者の技量を評価するIRは、以下の3つに分解可能である。
- 運用者の方向性の予想精度 $p$
- リターンの絶対値期待値 $\mathbb{E}(|r|)$ とボラティリティ
- ポートフォリオの重みの $l^1$ と $l^2$ ノルム
また、ICとも明確な関係が存在し、運用者の純粋な予測能力を測る指標としてICが、実績評価としてIRがそれぞれ有効である。
参考
一部の定義や計算は以下を参考にしている。
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