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ドキュメントは未来への投資:私がチーム知識の共有を重視する理由

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はじめに

エンジニアとして経験を積むなかで、私が最も価値があると感じてきたのは「知識の共有」です。しかし多くの開発現場では、同じ問題に何度も時間を費やし、同じ調査を繰り返し行うことが「当たり前」として受け入れられています。
私はこの「当たり前」に疑問を持ち、「次に同じことをする人のために知識を残す」という小さな実践を行うようにしています。この記事では、私が大切にしてきたドキュメント文化の構築と、それがチームにもたらしうる効果について共有したいと思います。

なぜドキュメント化を始めたのか

私がドキュメント化を積極的に始めた理由は、日々の業務の中で感じていた違和感がきっかけでした。
よくある光景として、新しい作業手順がSlackでざっくりと共有され、断片的な会話の流れから手順を推測しながら作業することがありました。また、調査が必要な案件では、過去の類似案件のSlackのやりとりを遡って情報を集め、未経験のツールや技術についても手探りで進めることも少なくありませんでした。
このような状況で、私は毎回「なぜ体系的な情報が残っていないのだろう」という疑問を抱いていました。エンジニアとして技術的な問題を解決するだけでなく、同じ道を通る次の人のために、少しでも歩きやすい道を整備したいという思いが強くなっていきました。
この「断片的な情報収集と推測による時間の浪費」に違和感を覚え、以下の点を強く意識するようになりました。

  1. 次の人の時間を尊重する:同じ問題に取り組む次のエンジニアが、Slackを遡って情報を断片的に集める時間的コストを減らす
  2. 知識の体系化:断片的に散らばった情報を整理し、一つの流れとして理解できるようにする
  3. 推測作業の削減:曖昧な理解ではなく、明確な手順に基づいて自信を持って作業できる環境を作る

私は、たとえ自分一人からでも、知識を共有し整理することが必ず誰かの役に立つと確信しています。それがチームの成長や組織の効率化につながり、最終的には自分自身の仕事環境も改善すると信じて、小さなところから始めました。

実践してきたドキュメント文化

データ検証のための手順書

最近取り組んだのが、顧客データの検証プロセスを標準化するための手順書です。これは特にCSからの問い合わせに答える際に役立つドキュメントとなりました。
この手順書を作成した背景には個人的な価値観があります。多くの開発現場では「一から調べる」ことが当たり前になっており、同じ調査を複数の人が繰り返し行う時間の浪費が「普通」として受け入れられています。しかし私は、次に同じ課題に取り組む人のために知識を残すことが重要だと考えています。
「なぜ自分だけが時間をかけてドキュメントを残すのか」と思われることもありますが、私は次のエンジニアが同じ問題解決に一から時間を費やさなくて済むようにしたいという思いで、小さなところから始めました。個人の知識を共有財産として残すことは、長期的に見れば組織全体の効率を高めることになると信じています。
手順書には以下の要素を含めました。

  • データ分析ツールの基本的な使い方
  • 必要な権限と前提条件
  • 検索・抽出に使用するクエリのテンプレート
  • 結果の解釈方法とレポート例

これにより、複数のエンジニアが同様の問い合わせに対応する際に、一から調査方法を考える必要がなくなり、対応時間の大幅な短縮を実現できます。

インフラ変更の標準手順書

もう一つの例として、システム基盤の変更手順を標準化するためのガイドを整備しました。これは多くのプロジェクトで定期的に発生する重要な作業ですが、正確に行わないとシステム障害やデータ不整合の原因になりかねません。
以前は口頭での説明や、断片的なSlackメッセージでノウハウが共有されていましたが、この状態では

  • 手順を忘れるリスク
  • 重要なステップの抜け漏れ
  • チームメンバーごとに異なるやり方による混乱と非効率

といった問題がありました。
そこで、詳細な手順書を作成し、以下の内容を盛り込みました。

  • 事前準備と環境設定のチェックリスト
  • 変更の具体的なステップと実行コマンド
  • 依存システムへの影響と更新手順
  • コードレビューとテストのプロセス

この手順書の導入後、変更作業の周知徹底が行われたと思います。さらに、新しいメンバーでも安全に作業を進められるようになり、チーム全体の生産性が向上しました。

ドキュメント文化がもたらした変化

これらのドキュメント作成と継続的な更新を行う文化を推進してきた結果、私自身とチームには以下のような変化が生まれました。

1. 無駄な時間の削減

一般的な開発現場では「同じことを何度も一から調べる」ことが当たり前になっていることが多いですが、ドキュメントを整備することでその無駄を排除できます。例えば、データ検証のような作業は、知らない人が対応すると1時間以上かかってしまうようなものが、手順書の整備により15分程度で完了できるようになります。

2. 知識の属人化防止

個人の頭の中だけにある知識は、その人がいない時にはチームから失われてしまいます。私はドキュメント化することで「誰でもアクセスできる知識」への変換を意識的に行っています。これはチームの持続可能性に直結します。

3. チームの自走力強化

良質なドキュメントがあることで、他のメンバーが私に質問せずとも自分で解決できる幅が広がりました。これは私自身の負荷を減らすだけでなく、チーム全体の対応力と自走力を高めることにつながっています。

4. 新メンバーの成長スピード向上

新しいチームメンバーが「分からないことは先輩に聞く」だけでなく、ドキュメントから学ぶことができるようになりました。これにより質問の質も向上し、より本質的な議論や成長の機会が増えています。

ドキュメント作成で心がけていること

効果的なドキュメントを作成するために、私が特に意識している点を共有します。

1. 具体例を豊富に含める

抽象的な説明だけでなく、実際のコマンド例やSQLクエリ、スクリーンショットなどを含めることで、理解しやすく実践的なドキュメントになります。

2. 「なぜ」の説明を忘れない

単に「どうやるか」だけでなく、「なぜそうするのか」の背景や理由を説明することで、応用力が身につくドキュメントになります。

3. 更新しやすさを重視する

完璧なドキュメントを一度に作るのではなく、更新しやすい構造を持たせることで、継続的に改善できるようにしています。

4. フィードバックを積極的に取り入れる

ドキュメントを使った人からのフィードバックを積極的に集め、改善に活かすサイクルを作っています。

今後の展望

ドキュメント文化はチームの成長とともに進化させていきたいと考えています。特に以下の点に注力していきます。

  • ドキュメント管理の体系化:増えてきたドキュメントをカテゴリ分けし、検索性を高める
  • 自動化との連携:手順書の一部を自動化スクリプトに置き換え、さらに効率化を図る
  • ドキュメント作成の分散化:チーム全体でドキュメント作成のスキルと文化を共有する

まとめ:ドキュメントは未来への投資

ドキュメント文化の構築は一朝一夕にはいきませんが、私はこれを「未来への投資」だと考えています。ドキュメントを残す行為は、単に自分の知識を共有するだけでなく、チーム全体の成長と効率化に直結する重要な取り組みです。
私の経験から言えることは、「今日の10分の投資が、将来の何時間もの節約になる」ということです。特に複雑なシステムや頻繁に人が入れ替わる環境では、この投資効果は計り知れません。
個人のスキルや知識だけでなく、チームとしての知の蓄積と共有を大切にする—これが私のエンジニアとしての信念です。この考え方が共感を呼び、より多くの方がドキュメントを「面倒な作業」ではなく「未来への投資」と捉えていただければ幸いです。

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