【React 18】Concurrent features概要
Concurrent featuresとは
Concurrent featuresとは「画面上にUIを表示させつつ、裏でレンダリングの準備をする」といった並行処理を実現できるようにしたReactの新しいメカニズムです。
Reactの公式ドキュメントではConcurrent featuresを搭載したReactのことをConcurrent Reactと呼んでいます。[1]
Concurrent featuresの最大の特性はレンダリングを中断できるということです。
従来のReactではレンダリングが行われた場合はレンダリングが完了するまで新しい画面や次の操作を行えず、待ち時間が発生していました。
一方、Concurrent featuresではレンダリングを中断できるため、従来発生していた待ち時間を削減でき、ユーザーエクスペリエンスの向上が期待できます。
Concurrent featuresは従来のReactのコンセプトを変えるしくみとなっているため、Concurrent featuresがReact 18における最大のアップデートいっても過言ではありません。
React 18とConcurrent featuresについて
React 18で導入された機能の一覧は以下の通りです。[2]
- Automatic Batching
- SuspenseのSSR対応
- Transitions
- React DOM ClientのAPI追加
- createRoot
- hydrateRoot
- React DOM ServerのAPIの追加
- renderToPipeableStream
- renderToReadableStream
- Strictモードの挙動の変更
- 新しいHooksの追加
- useId
- useTransition
- useDeferredValue
- useSyncExternalStore
- useInsertionEffect
上記のうち、Concurrent featuresと密接に関わりのある機能は「SuspenseのSSR対応」「Transitions」「useTransition」「useDeferredValue」です。
以下では、それぞれの機能の概要について紹介します。
SuspenseのSSR対応
Suspense自体はReact 16.6で導入されていましたが[3]、React.lazyと組み合わせたコード分割が主な利用方法でした。
React 18からはSuspenseがサーバ上で利用できるようになりました。
SuspenseのSSR対応について話をする前に、まずはSuspenseとSSRについてそれぞれおさらいをします。
復習: Suspenseとは
Suspenseとはコンポーネントのレンダリングが完了するまでの間、フォールバックと呼ばれる代替画面を表示する機能を提供するものです。
Suspenseの利用手順は以下の通りです。
- 対象のコンポーネントをSuspenseで囲う
- fallbackを指定する
たとえば、フォールバックでSpinner
というコンポーネントを表示するSuspenseを、Comments
というコンポーネントに適用する場合は以下のようなコードになります。
<Suspense fallback={<Spinner />}>
<Comments />
</Suspense>
なお、SuspenseはConcurrent featureにおいて重要な役割を果たしますが、Suspense自体はReact 16.6からすでに存在しているため、SuspenseがReact 18の新機能というわけではありません。
Suspenseの活用パターンとしては主に、コード分割と呼ばれる遅延ローディングを実装する場合や、API経由でのデータ取得をはじめとした非同期処理中のローディングを表示する場合などがあります。
Suspenseによるコード分割
コード分割とは、画面の初期表示に不要なファイルを遅延読み込みすることで、初期ロードの時間を減らし画面の表示速度を向上させるものです。
コード分割はReact.lazy
とSuspenseを組み合わせることで実現できます。
React.lazy
を利用してimportされたコンポーネントは遅延読み込みされ、コンポーネントの読み込み中はSuspenseで定義したフォールバックが表示されます。
具体的なコードはたとえば以下のようになります。
import { Suspense, lazy } from "react";
const HeavyMessage = lazy(() => import("./HeavyMessage"));
export const App = () => {
return (
<Suspense fallback={<div>Loading...</div>}>
<HeavyMessage />
</Suspense>
);
};
React 18以前では、Suspenseは主にこのケース、つまりコード分割をするために利用されていました。
Suspenseと非同期処理の組み合わせ
Suspenseは非同期処理と組み合わせることで、「非同期処理中はSuspenseのフォールバックを表示し、非同期処理が完了したらコンポーネントを表示する」といったことが実現できます。
いわゆるAPI経由で非同期にデータを処理する場合がこの例にあたります。
非同期処理の状態に応じて表示を制御できるのはSuspenseの特性によるものです。
Suspenseの特性をまとめると以下のようになります。
- Suspense内でthrowされたPromiseをcatchする
- Promiseがpendingの時はフォールバックをレンダリングする
- Promiseがsettled(fulfilledあるいはrejected)の時はコンポーネントをレンダリングする
なお、Promiseとはpending(保留)、fulfilled(成功)、rejected(失敗)の3つの状態を持つ非同期処理を表すオブジェクトです。
Suspense内で非同期処理が開始されてから完了するまでの流れは以下の通りです。
- Suspense内のコンポーネントのレンダリングを試みる
- コンポーネントからPromiseがthrowされる
- SuspenseがthrowされたPromiseをcatchする
- Promiseを処理中の場合、フォールバックをレンダリングする
- Promiseの処理が完了したら再度コンポーネントのレンダリングを試みる
- レンダリングがうまくいったらフォールバックからコンポーネントに表示を切り替える
図で表現すると以下のようになります。
まずSuspense内のコンポーネントのレンダリングを試みます。
次に、非同期処理が組み込まれているコンポーネントからPromiseがthrowされます。
PromiseがthrowされるとSuspenseはそのPromiseをcatchします。
Promiseが処理中、つまりpendingの場合はSuspenseのフォールバックをレンダリングします。
Promiseの処理が終わり、Promiseの状態が完了、つまりfulfilledもしくはrejectedになったら再度コンポーネントのレンダリングを試みます。
レンダリングがうまくいったらフォールバックからコンポーネントへ表示を切り替えます。
復習: SSRとは
SSRとはサーバ側でHTMLを生成し、その結果をクライアントに送信するしくみのことをいいます。
SSRの大まかな流れは以下の通りです。
- データの取得
- HTMLを返す
- JavaScriptをロードする
- HTMLとJavaScriptをつなぎこむ
図で表現すると以下のようになります。
まず、サーバにリクエストが届くとSSRに必要なデータの取得をします。
必要なデータがそろったら、サーバ側でHTMLを生成し、クライアント側へレスポンスとして返します。
HTMLを受け取ったクライアントは、JavaScriptのロードを実行します。
HTMLとJavaScriptの準備が整ったら、次にHTMLとJavaScriptのつなぎこみを行います。
具体的にはHTMLに対してイベントリスナや状態管理などのJavaScriptの機能を付与します。
なお、この過程のことをハイドレーションと呼びます。
ハイドレーションが完了すると、画面はインタラクティブ、つまり操作可能な状態になります。
SSRではクライアント側でHTMLの生成をする必要がなくなるため、初期表示の高速化が期待できます。
また、クローラに対してレンダリングしたページを見せられるため、SEO対策として有効です。
一方で、SSRにはすべての準備が整わないと初期表示ができないという問題点があります。
具体的には、データ取得や、JavaScriptのロードやハイドレーションに時間を要するコンポーネントが一部でも存在していれば、それが画面全体の初期表示までにかかる時間に影響を与えてしまいます。
Streaming Server Rendering
SuspenseのSSR対応の話に戻ります。
SuspenseのSSR対応とは、非同期でSSRが実行できるようなったということを意味します。
非同期でSSRの処理が行えるようになった結果、一部で処理の重いコンポーネントがあったとしても、画面全体がその影響を受けなくなります。
なお、Suspenseを活用し、非同期でSSRするメカニズムのことをStreaming Server Renderingといいます。[4]
一般的なSSRとStreaming Server Renderingの違いを図で表現すると以下のようになります。
以下の図は、初期画面が表示されるまでの過程を表現したものです。ここでは画面右下に重い処理を要するコンポーネントが存在しているとします。
上記の図の意味について補足説明をします。
SSRの場合はすべてのコンポーネントに対して同期的に処理を実行します。
そのため、右下のコンポーネントの処理速度が画面全体に影響を与えてしまいます。
一方Streaming Server Renderingの場合は、非同期で処理を行うため、右下のコンポーネントの処理速度は画面全体に影響を与えません。
Streaming Server Renderingでは非同期で処理を行えるため、一部のコンポーネントだけ先んじて画面に表示できます。
なお、Streaming Server Renderingによって非同期でサーバから返されるHTMLはStreming HTMLなどと呼ばれています。[5]
Transitions
Transitionsは直訳すると「遷移」という意味があります。
TransitionsとはReactのデータ更新に対して「優先度」の観点を追加した新しい概念です。
Transitionsが適用されたデータ更新は優先度が低いものとみなされます。
そのため、Transitionsを活用することで相対的に優先度の高いデータ更新と優先度の低いデータ更新の2種類を用意できます。
優先度の高いデータ更新には、たとえば、クリックや入力といった操作内容を即座に画面へ反映させたいユーザーエクスペリエンスに関係するものが分類されます。
一方、優先度が低いデータ更新、つまりTransitionsを適用するデータ更新には、更新結果を即時画面に表示する必要がなく遅延をしても問題ないものが分類されます。
優先度の低いデータ更新によって発生するレンダリングは、優先度の高いデータ更新が行われることで中断される、という特徴があります。
補足ですが、Reactの公式ドキュメントではTransitionsのデータ更新を説明する際に「Urgent updates」と「Non-urgent updates(Transition updates)」という言葉を使っています。[6]
Urgentは直訳すると「緊急」という意味ですので、「緊急度の高い更新」というような表現を使うほうが適切かもしれませんが、日本語のわかりやすさの観点から、ここでは「優先」という言葉を利用してTransitionsについて説明をしています。
React 18ではTransitionsを実現するためのHooksが新たに2つ用意されました。
それがuseTransitionとuseDeferredValueです。
useTransactionとは
useTransitionとはTransitionsを実現するためのHooksの1つで、ステートの更新に対してTransitionsを適用できます。
useTransitionの戻り値はisPending
というbooleanとstartTransition
という関数の2つです。
isPending
はTransitionsが保留中かどうかを判定するbooleanです。
startTransition
は処理に対してTransitionsを適用する関数です。
useTransitionの使い方は以下の通りです。
- useTransitionの戻り値(isPending, startTransition)を取得する
- startTransitionでTransitionsを適用する
具体例を紹介します。
たとえばボタンのクリックによってステートを更新する処理があったとします。
const [count, setCount] = useState(0);
const handleClick = () => {
setCount((prev) => prev + 1);
};
上記のステート更新に対してuseTransitinoを利用してTransitionsを適用する場合は以下のようになります。
const [count, setCount] = useState(0);
const [_, startTransition] = useTransition();
const handleClick = () => {
startTransition(() => {
setCount((prev) => prev + 1);
});
};
useDefferedValueとは
useDeferredValueとはTransitionsを実現するためのHooksの1つで、値に対してTransitionsを適用できます。
useDeferredValueは引数valueに対してTransitionsを適用させる関数です。
useDifferedValueの使い方は以下の通りです。
- Transitionsを適用したい値をuseDeferredValueの引数にする
- useDeferredValueの戻り値を利用する
具体例を紹介します。
たとえば、以下のようなquery
というローカルステートを持つコンポーネントについて考えてみます。
このquery
に対してTransitionsを適用したい場合は、useDeferredValueの引数にquery
をセットします。
そして、useDeferredValueの戻り値をたとえばdeferredQuery
とした場合、deferredQuery
を利用することによりコンポーネント内でTransitionsが実現できます。
import { useState, useDeferredValue } from 'react';
function SearchPage() {
const [query, setQuery] = useState('');
const deferredQuery = useDeferredValue(query);
// ...
}
さいごに
Concurrent featuresに関する本を執筆しました。
書籍では、今回紹介できなかったConcurrent featuresに関するサンプルアプリケーションも掲載しています。
具体的なコードを通じてConcurrent featuresをより理解できるようにしました。
興味のある方はぜひご覧になってみてください。
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