採用難度が高い企業でエンジニア採用を成功させるには
はじめに
私はVPoEとしてエンジニア採用に7年以上従事してきました。その間、採用難易度が高いとされる業界や企業で採用の現場を経験してきました。どの企業も、採用目標が大幅に未達となっており、求めるレベルのエンジニアの確保に苦戦していました。しかし、私はそのような環境下で、採用規模を大幅に拡大し、CTOやテックリードといったハイレベルな人材の採用を成功させることができ、私のキャリアの明確な強みとなっています。
「どのように採用活動を成功させているのか?」というご質問やご相談をいただく機会も増えました。そこで、同じようにエンジニア採用でお悩みの経営層、CTO、VPoE、EM、採用担当の方々に、私の知見や経験を参考にしていただければと思い、この記事を執筆しました。
記事の内容には基本的な部分も含まれます。採用活動が非常に順調に進んでいる企業の方は、あまり参考にならないかもしれませんので、その点はご承知おきください。
採用難度が上がる理由
採用難易度が上がる理由として、以下のような要素が考えられます。
この記事では、そのような環境下にある企業が成果を上げるために必要なポイントについて書きました。
サービスの知名度が低い
知名度のあるtoC企業ではなく、知名度が低いtoB企業やVertical SaaSを提供する企業を想定しています。以前執筆した下記の記事でも述べた通り、toB企業の場合、サービスが成長しても候補者への認知度が向上しないという特徴があります。
さらに、toBサービスは、業界構造が複雑で一般に馴染みが薄いため、誰がどのような目的で利用するのかが直感的に理解しにくいという問題もあります。
SNSでの発信に強い人がいない
採用広報では、ブログ記事やイベント告知の主要媒体としてSNSが活用されます。SNS上での発信が得意な社員が社内にいない場合は、エンジニア採用における認知獲得のハードルが上がります。
注目の新技術を採用していない
AIやBlockchainなど、注目度の高い新技術をサービスのコアとして活用していない企業です。特にレガシーな業界は、そもそもシステム化がされていない状態からスタートするため、ビジネス上はまず基本的な機能開発が優先され、新技術の採用に踏み切りにくいという現実があります。
業界の魅力が伝わりにくい
企業が属する業界自体がエンジニアにとって馴染みがなく、魅力が伝わりにくいケースがあります。例えば、2022年のFindyの調査[1]によると、人気業種のランキングで、私が所属している運輸業界(厳密には運輸と物流は異なりますが)は28位という順位でした。
エンジニア採用が上手くいかない原因
エンジニア採用が上手くいかない原因は何でしょうか?
例えば、以下のような要因が考えられます。
- テックブログやイベントでの認知度向上が期待通りに進まない
- スカウトの返信率が低い
- カジュアル面談を実施しても、応募につながらない
- オファーしても競合企業に負けてしまう
しかし、これらは氷山の一角に過ぎません。実は、その背後には以下のような根本的な課題が存在していることが多いと考えています。
エンジニア組織をつくる経営の覚悟が弱い
エンジニア組織を自社で構築しようという覚悟が会社・経営層に不足しているケースがあります。
エンジニア組織を内製化するには、多大な費用と時間が必要です。採用媒体の利用料金は年々上昇しています。さらに、激化する競争の中で採用広報に十分なリソースを投入することも必要になってきています。しかし、その重要性が十分に理解されず、限られた予算とリソースで採用を行っていることがあります。
さらに、提示するオファー金額が市場価格と比べて極端に低いケースもあります。候補者の立場に立って考えれば、他社と比べて年収が大幅に低い条件で入社を決断するのが難しいことは明確です。
このような状況を打破するためには、経営層がエンジニア組織の構築に十分な予算とリソースを投入し、真剣に取り組む意思決定を行う必要があります。CTO、VPoE、EMなどのマネジメント層は、まずこの認識を変えることから始めなければならないでしょう。
自己正当化に陥る
エンジニア採用は競争が激しく難しいため、「採用ができないのは仕方がない」と自己正当化してしまうケースがあります。しかし、本当に競争が激しいから成果が出せないのでしょうか?確かにエンジニア採用は難しいですが、同じ状況でも成果を上げている企業はたくさんあります。
実態を見れば、結果に真摯に向き合っていないケースが多いです。具体的な数字や現実を直視せず、主観的な推測に基づいた的外れな議論に終始していることがあります。
例えば、最終的にオファーを提示して断られてしまった場合、「あの人はうちに合わなかった」と片付けてしまうことがあります。しかし、本当にそうでしょうか?オファーを出したのであれば、合格基準は満たしていたはずです。真剣にオファーすればするほど断られた際のショックは大きいですが、なぜ断られたのか、真剣に原因を考える必要があります。
現場のエンジニアまでに結果を追求させる必要はありませんが、CTO、VPoE、EM、採用担当といったエンジニア採用に責任を持つ人たちは、結果を直視し原因を分析した上で改善策を講じる覚悟が求められます。
採用目標達成のために妥協する
エンジニア採用が難しいので、無理に採用目標を達成しようとするあまり、採用する人材の質を犠牲にするケースがあります。具体的には、カルチャーマッチやスキル要件のレベルを下げて選考を進めてしまう場合が挙げられます。
このような手法は、短期的には採用責任者であるVPoE、EMのプレッシャーを軽減するかもしれません。しかし、中長期的には大きな失敗を招く恐れがあります。採用した人材が社内で期待通りに活躍できず、オンボーディング担当者やチームメンバーに過度な負担がかかるのです。また、入社したエンジニア自身も、思ったように活躍できないことからストレスを感じるようになります。
その結果、現場からマネジメントへの信頼が失われ、現場メンバーが採用プロセスに協力しなくなります。最終的には誰もが不満を抱く「入社したくない職場」になってしまうという悪循環に陥ってしまいます。
候補者と対等な関係を築かない
候補者とのコミュニケーションにおいて、企業側が上位に立ち、候補者を下位に扱うスタンスで接してしまうケースがあります。たとえば、面接時に上から目線で対応してしまうなどです。近年、採用活動に関与していなかった方は、過去に新卒一括採用方式での面接しか経験していないため、このような態度が根強く残っているケースがあります。
かつては企業が候補者を選び、候補者は選ばれるという構図が主流でした。私が新卒で就職活動をしていた10年程前は、圧迫面接が行われ、志望理由が明確に言えなければ採用されないことが当たり前でした。面接は候補者をふるい落とす場でした。その過去のイメージが、今なお一部に残っているのが現状です。
しかし、現在は採用難により状況が大きく変わっています。特にエンジニアにとっては複数内定をもらうのは珍しくなく、選択肢は無数に存在します。
候補者を大切に扱わない企業には入社しないのが現実です。面接は企業側が一方的に候補者をふるい落とす場ではなく、双方がお互いにマッチするかどうかを見極める機会であるべきです。現在の採用難の状況では、むしろ候補者が企業を選ぶ機会であるとも言えます。企業にとっては候補者に自社の魅力を伝える貴重なチャンスなのです。
必要なマインド
採用難度が高い企業でエンジニア採用を成功させるためには、どのようなことを意識しながら採用活動に取り組むべきでしょうか?
私の経験から、特に重要だと考えるポイントについてご紹介します。一見、相反するように思える項目もありますが、すべてを意識することが重要です。
凡事徹底
これは最も大事なことです。エンジニア採用で成果を出すために実施すべき施策は、全てどこかの会社で実践している「当たり前」のことですが、一つ一つの基本的な取り組みを徹底し、最後までやり切ることが大きな成果を生み出します。
なぜ徹底してやり切ることが重要なのか?
やり切らずに途中でやめてしまったり中途半端な取り組みで終わってしまうと、成果が出なかった原因が「やり切らなかったから」なのか、他の要因なのかが判断できなくなります。真の原因が何かが見えてこないのです。だからこそ、最後までやり切った上で評価をする必要があります。結果がすぐに出ないからといって諦めないよう、絶対に最後までやり切ってください。
実際に当たり前のことを徹底して実行できている会社は非常に少ないと感じています。一見些細なことでも、徹底的にやり切ることは決して容易なことではありません。人間はどうしても手を抜きたくなるものですし、油断をしがちです。毎日の勉強や運動のように、継続的かつ徹底的な取り組みがやがて大きな成果をもたらすのです。
VPoEやEMといったマネージャーの重要な役割の一つは、この「凡事徹底」を実践する組織を作り上げることだと思っています。
100%を目指す
皆さんは、候補者が応募し、面接官から非常に高い評価を得た場合、その方が実際に入社してくれる確率として、どの程度を目標にしていますか?30%でしょうか?50%でしょうか?
決して最初から50%を目指してはいけません。必ず100%を目指してください。たとえ50%を目標に設定しても、結果としてはそれを大きく下回ってしまうからです。
例えば、野球の一流バッターの打率は3割と言われていますが、彼らが各打席で狙っているのは、3割ではなく10割、すなわち全ての打席で必ず塁に出ることを目指しているはずです。
エンジニア採用活動も同様です。入社してほしい候補者全員が内定を承諾し、実際に入社することを目指して取り組むことです。その意識が大きな成果を生み出します。実際に、私のオファー面談の承諾率は約90%に達しています。
バーレイザーであれ
バーレイザー(Bar Raiser)とは、Amazonが採用基準を高めるために設けた社内資格で、「バーを上げる人」という意味です。詳細は下記の記事をご覧ください。
採用においては、「自分より優秀な人を採用できるか」という点がよく問われますが、これはVPoE、EM、採用担当者にとって当たり前のことです。
それ以上に重要なのは、他の選考官から高い評価を受けた候補者が上がってきた場合に、選考基準に照らして適切に不合格を判断できるかどうかです。
例えば、CTOが「この人は絶対に採用したい!」と熱意を込めて面接結果を伝えてきたとき、現場が頑張ってリファラルで友人を選考に進めてくれたとき、選考基準に基づき厳正に評価を下し、関係者に納得のいく説明ができますか?
結果を出すために、周囲に合わせて採用基準のバーを下げるのは容易です。しかし、前述のとおり、長期的には大きな失敗を招くリスクがあります。
VPoE、EM、採用担当者は、意識的に採用基準のバーを上げ、それを厳守することが非常に重要です。
皆で一緒に作り上げる
採用活動に関わるのは、VPoE・EM・採用担当者だけではありません。実際に一緒に働く現場のエンジニアが重要な役割を担っています。
選考の合否判断においては、現場のエンジニアが納得できるレベルの人材を採用することが必要です。また、現場のエンジニアは生の情報を持っているため、採用担当者以上に魅力的なスカウトを送ることができますし、面談や会食などで効果的にアトラクトすることが可能です。
採用広報、スカウト、面接、アトラクトのための会食など、あらゆる場面で現場との協力が不可欠です。そのため、現場が快く協力できる体制を整えることが非常に重要です。
採用はVPoE・EM・採用担当者が一方的に進めるものではなく、皆で一緒に作り上げるものです。最終的な責任はCTOやVPoEにあるとしても、採用活動は組織全体で取り組むべき課題であることを忘れてはなりません。
採用は情熱
人を最後に動かすのは、感情と熱意です。
現職のCTOである尾藤は、下記の記事で「人に対して何か説得をするときは論理的な腹落ちと感情的な腹落ちの二つを満たす必要があります。」と述べています。エンジニア採用においても、論理と感情の両面がそろっていることが重要です。
例えば、最終的に複数社と比較検討した結果、最も「一緒に働きたい」と真剣に語ってくれた企業を選んだという方が、実際に多いのではないでしょうか。
候補者のニーズを論理的に満たすだけでなく、情熱を込めて「あなたと一緒に働きたい」とストレートに伝えましょう。それを言えるかどうかが、採用成功の鍵になります。
候補者は入社したら幸せになるか
これは一番重要なポイントかもしれません。
選考中の候補者に対して、入社後に本当にその人が幸せになれるのか、やりたいことが実現できるのか、キャリアにプラスになるのか、現職での不満が解消されるか、採用する側もしっかり考える必要があります。
採用は単に採用したら終わりではありません。その人が入社後も長期にわたって活躍し続けることが目的です。そのため、会社が提供する機会や環境が、候補者にとって実際にプラスとなるか、入社して幸せになるかを真剣に吟味しなければなりません。
よく見せるための嘘や誇張は禁物です。候補者に現実を嘘偽りなく伝えることも必要ですし、採用する側は、自社に入社することが候補者にとって本当に幸せな選択となるのか、真剣に考える必要があります。
終わりに
エンジニア採用で成果を出すのって大変ですよね。日々頑張っている方の少しでも役に立てればと思い、この記事を執筆しました。
本記事では、具体的な取り組みよりも、そもそも論やマインドに焦点を当てています。なぜなら、どんなに具体的な施策を変えても、根本となるマインドが変わらなければ成果は得られないからです。
正直なところ、実際にどのような取り組みを行っているかまで掘り下げて執筆したかったですが、ここまでで、力尽きてしまいました。
具体的な取り組みの詳細にご興味がある方は、ぜひ「いいね」やシェアをしていただけると嬉しいです。次の執筆への大きなモチベーションになります。ニーズがあれば早めに執筆ができるように頑張ろうと思います。
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2022年の人気業種に関する調査結果は現在非公開ですが、エンジニアの最新の転職動向はFindyのマーケットレポートからご確認いただけます。また、本記事で使用しているデータの開示についてはFindy様の許可をいただいております。 ↩︎
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