CTOのいない会社にEMとして入社するあなたに
私は今までのキャリアの中で、CTOのいない会社に3回入社してきました。うち2社はEMとして入社してVPoEになりました。そこでの反省はもちろんありますが、成果を出すことができました。そして1社は、なんと3週間で退職しました…。
OPENLOGI Advent Calendar 2023で今年は何を書くか考える中で、私のようにCTOがいない会社に何度も入社した経験があるEMはそうそういないのではないかと思いました。将来CTOのいない会社に入社するCTO・VPoE・EMといったマネジメント層の方に、私の経験から学んだことを参考にしていただければと思います。
※OPENLOGIには現在CTOは在籍しております。
CTOのいない会社とは
CTOのいない会社とは、エンジニア組織のトップであるCTO・VPoE・開発部長といった立場の人がいない、もしくは、トップはいるけれど何らかの理由(トップがエンジニア経験ないとか、マネジメントに苦手意識があるとか)でマネジメントがうまく機能していない会社になります。
CTOのいない会社の特徴
多くの課題を抱えている
エンジニア組織のマネジメントがうまく機能していないので、当然ですが多くの課題を抱えています。
例えば
- 多大な投資をしているにも関わらず、新規サービスがリリースできていない
- 技術負債が蓄積してしまっているが、解消することができていない
- エンジニアの退職が増えており、歯止めがきかない
上記のような課題を多く抱えており、それらの課題が会社の事業成長を大きく阻害しているので、エンジニアのマネジメント層を採用しているのです。
見える課題は氷山の一角
上記はどれも深刻な課題ですが、私の経験上表面的な課題であり、氷山の一角といえます。
これら課題を引き起こしている裏には、さらに多くの多種多様な課題があります。
私が過去の会社で遭遇した「多大な投資をしているにも関わらず、新規機能・サービスがリリースできていない」というケースでは、ざっとあげるだけでも下記の原因がありました。
- プロジェクト外の第3者の介入により、度重なる方針変更が行われ、ゴールの見えないプロジェクトになっている
- 新規サービスを企画している人とエンジニアのコミュニケーションが上手く行かず、要件通りに機能開発できない
- 社内で発言権のあるエンジニアによって、オーバースペックの難しい技術が導入され、その技術のキャッチアップと使用に多くの時間を費やしている
- 1stリリースでリリースすべき機能の優先順位がついておらず、開発すればするほど追加要件がでてくるため、いつまでたってもリリースがされない
- プロジェクトにアサインされたエンジニアが新規サービスを開発できるだけのスキル・経験を持っていない。
入社するあなたへの期待は大きい
さらにはCTOのいない会社は、多くの課題を抱えているので、エンジニアに魅力的な会社に見えず、採用も上手くいっていないことが多いです。
そんな中、長い時間と労力をかけてようやく採用できたエンジニアのマネジメント層があなたです。経営陣もエンジニアもあなたの入社を心待ちにしています。
「この停滞している状況をなんとか打破してほしい。」
あなたへの期待は、想像している以上に大きいです。まるで救世主が入社してくるように思っていると言っても過言ではないと思います。
CTOのいない会社に入社する前にやるべきこと
自分の実力を正しく把握すること
まずは自分の実力を正しく、厳しく把握する必要があります。
私がそうだったのですが、マネジメント経験を2-3年経験して成功体験をそれなりに積んでいたので、自分はEMとして大体何でもできると錯覚していました。それは単純に経験が浅いため、自分の実力を正しく把握できていないだけでした。
私はマネジメントを始めて7年が経過しました。今でもマネージャーとして仕事をすればするほど、自分の経験したことのない課題が出てきます。そして、10年以上業界の第一線を走ってきたCTO・VPoEの方と一緒に仕事をする機会があると、自分とのレベルの差を痛感しています。
4つのマネジメントとリクルーティングを軸に評価する
自分の実力の評価には、こちらの記事で広木さんが書かれているEM定義を軸に使うと良いと思います。
- ピープルマネジメント
- テクノロジーマネジメント
- プロジェクトマネジメント
- プロダクトマネジメント
私はこの4つのマネジメントに、
- リクルーティング
を追加して利用しています。
CTOのいない会社は、エンジニア採用が上手くいっておらずエンジニアリソースが課題になっていることが多いので、他のマネジメントと同じぐらい重要なスキルになります。
例えば、私の場合ですが…
マネジメント | 評価 |
---|---|
ピープルマネジメント | 7年間のマネジメント経験で中心となる経験のため強い。自分自身で成果を出せる領域 |
テクノロジーマネジメント | 元々フロントエンド中心にコードを書いていたのもあり、バックエンド・インフラが弱い。CTOやテックリードに基本は任せる領域 |
プロジェクトマネジメメント | 基礎と一定経験はあるが、アジャイル・スクラムの実践面はまだ弱い。強い人がいれば任せる。いなければ自分でやる領域 |
プロダクトマネジメント | エンジニアとしての要件定義レベルの経験しかないため、弱い。 PdMに基本は任せる領域 |
リクルーティング | 7年間のマネジメント経験で中心となる経験のため強い。自分自身で成果を出せる領域 |
という評価になります。
どのような環境でも自分の実力を発揮できるか
またそれぞれのスキルがどんな環境で発揮できるのかを評価する必要があります。
- 組織規模 10名、30名、50名、100名、300名以上
- BtoBサービス、BtoCサービス、業界
- システム規模、トラフィック
- 使用言語・技術
- 社内のエンジニアのスキルレベル
- 会社のカルチャー、ビジネスサイドとエンジニアの関係性
等々、様々な観点があります。
例えば、スタートアップで10名のエンジニア組織のEMとして活躍していた方が、エンジニア組織が30名、50名の規模になると、成果をうまく出せないというのはよくあるケースだと思います。
10名のエンジニア組織では、EMが一つ一つ問題を個別で解決すればなんとか組織は回りますが、30-50名規模になると、問題の数が多くなって個別に解決できる量を越えてしまいます。多くの人を動かす必要が出てくるので、エンジニア組織全体の方針決定や仕組み化が必要になってくるからです。
自分の実力が会社からの期待と課題にマッチしているか
以上で評価した自分の実力が、入社する会社から期待されていることと課題にマッチしているかが重要です。
入社前に、経営層、EM、エンジニア、できるかぎり多くの人と面談をして自身が期待されていることと課題の解像度を上げておきましょう。
その上で、自分の実力で期待されていることに応えることができるか、課題は解決できるか、判断が必要です。
例えば、エンジニア採用を期待されている会社に、採用の母集団形成をしたことのないEMが入社したとしても採用数をいきなり伸ばしていくのは難しいですし、技術負債がボトルネックの会社に、技術力に懸念のあるEMが入社したとしても、技術負債の解決を推進するのは難しいでしょう。
社内の人が課題を正しく把握しているとは限らない
面談で「御社のエンジニア組織にはどういう課題があるのか?」という質問をして、課題を把握しようとしても、それが合っているかどうかは分かりません。
なぜなら、CTOのいない会社ではエンジニア組織のマネジメントがうまく機能していないので、課題の特定も困難になっているからです。課題の特定を正確できる方がもし社内にいるのなら、そもそもその人にマネジメントを任せればいいでしょう。
ちなみに、私はある会社を入社3週間で退職しました。退職した理由は、入社前に聞いていた課題と、入社後に分かった課題が全く違ったからです。入社後に分かった課題が、私の実力にマッチしないものでした。時間をかければ解決できるかもしれないけれど、他の人のほうがずっと素晴らしく早く課題を解決できると思ったため、すぐに退職を決断しました。
できないことを正直に伝える
あなたへの期待は大きいため、できないことを正直に伝えることも重要です。伝えることで、会社からの期待と自分の実力とのギャップを小さくすることができます。
例えば、私は弊社の入社前に「ピープルマネジメントと採用は期待してください。ただし、テクノロジーマネジメントは私は苦手です。入社後必要があればCTOを採用させてほしい。」と伝えています。
そして、入社後すぐにCTOの必要性を感じて、CTO採用をスタートした結果、弊社CTOのbtoが入社をしています。私とbtoでお互いを補完しながらマネジメントを行っています。
入社後に意識すべきこと
入社後に関して書きたいことはたくさんあるので、どこかでまた機会があれば書きたいと思いますが、とりいそぎ意識したらいいと思う3つをお伝えします。
まずは課題を把握し優先順位をつける
入社後の最初の1ヶ月間は、経営陣や全エンジニアとの1on1を通して、課題の解像度を入社前よりもさらに上げると良いでしょう。
1ヶ月ですべてが分かるわけではありませんが、課題の中で優先順位のトップにくるものは何で、自分が素早く解決して価値が出せる課題は、何か分かるはずです。
時間をかけて100点よりも素早く70点を取る
半年の時間かけて100点を出すよりも、1週間で70点取ることのほうが重要です。
なぜなら、課題は多種多様かつ膨大な量あります。そして、優先順位を整理した結果、すぐに解決しなければならない緊急度の高い課題がたくさんあることが分かるでしょう。そして緊急度は低いが、中長期で取り組みたい重要度の高い課題もたくさんあるはずです。
時間をかけて1つ1つ丁寧に解決している時間の猶予はありません。まずはホームランではなく、ヒットを打ち続ける。残りの30点は緊急度の高い課題の解決が終わってから取りに行きましょう。
半年以内に必ず成果を上げる
これは完全に私の感覚値ですが、会社からの期待が大きいので、少なくとも半年以内には必ず成果をあげなければならないと思います。
入社してみたら解決に時間のかかる課題が多く、目に見える成果は半年では難しいというケースもあるかもしれません。しかし、解決まで至らなくても課題を明らかにして、周囲が理解できるようになって、解決がスタートすればそれだけで成果になります。
例えば、技術負債の解消には時間がかかりますが、機能のリリース速度の低下の原因が技術負債がであることが分かって、技術負債の解決の優先順位が大きく上がったとしたら、それだけで会社の未来は大きく変わります。
「〇〇さんが入社してから、エンジニア組織変わったよね」と言われるのが、半年以内のゴールです。
最後に
ここまで書いて改めて思ったのは、CTOいない会社って結構厳しい環境だないうことです(笑)
CTOがいない会社でCTO・VPoE・EMとして活躍するのは、間違いなくとても大変です。
ただし、課題が解決できると、組織も事業も大きく成長し、自分の入社前と入社後で目に見える変化があります。その変化を感じたときの喜びは大きいです。
CTOがいない会社にこれからあえて飛び込もうという方は、頑張ってください。
応援しています。
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