5Gの通信速度はどうやって決まる?
この記事はBBSakuraNetworksアドベントカレンダー2024の20日目の記事です。
皆さんこんにちは。rkumakuraです。
今年も会社のアドベントカレンダー2024に参加しております。
今回の記事では5Gの通信速度はどう決まるんだろう?というお話です。
こちらの記事で5G NSAについて書きましたが、NSAでもgNBを利用することで5Gの超高速・大容量通信が利用でき、それがNSAの特徴にもなっていました。本記事ではこの通信速度に注目して少し深ぼっていければと思います。
はっ、はやいっ!!!
5Gの通信速度について
モバイル標準仕様の策定団体である3GPPの要求シナリオでは、4GのDownLink(DL)速度(Peak date rate)で1Gbpsを求められており、5Gはというと20倍の20Gbpsが要求されています。
それほど速くなったよということですが、では通信速度はどのように決まるのでしょうか?ここからは無線側の技術仕様が関わってくるため、ややこしいかもしれませんが予めご了承ください🙇
docomoテクニカルジャーナルVol.25 No.3より
3GPP TS38.306 User Equipment (UE) radio access capabilitiesを覗いてみると...
3GPPの標準技術仕様を規定しているTS(Technical Specification)の38.306にはNR(5Gの無線側の名前:New Radio)の仕様が記載されており、そこに以下の式が定義されています。
3GPP TS38.360 V18.3.0より
この式の説明には以下のような内容が記載されており、NRの概算データレートが計算で求められるとあります。式を詳しく見ていてけば5Gの通信速度がどうやって決められているか謎が解けそうです。
For NR, the approximate data rate for a given number of aggregated carriers in a band or band combination is computed as follows.
data rateの式を詳細に見ていこう
ここから式の各項目を1つずつピックアップしてみていきましょう。
Jとは?
Jは周波数Bandまたは各Bandの組み合わせにおける集約(Aggreigation)されたコンポーネントキャリア(CC)の数を表します。
5G NRでは、最大16のコンポーネントキャリアを集約することが可能です。そのためJは1〜16の値を設定できます。
5.5 Carrier aggregation / Dual connectivity
Carrier aggregation including different carriers having same or different numerologies is supported. From RAN1 specification perspective, the maximum number of NR carriers for CA and DC is 16.
3GPP TR38.802 V14.2.0より
ではそもそもコンポーネントキャリアとは何かいうと、無線通信システムにおいてデータを送信するための基本的な周波数ブロックのことを指します。周波数(電磁波)は特定の帯域幅を持つ波であり、データを運ぶことができる波を搬送波(キャリア)と言います。
- 帯域幅
- LTE:最大20MHz
- 5G NR:FR1(Sub-6GHz)最大100MHz、FR2(ミリ波)最大400MHz
なのでNRでは理論上最大6400MHz(16 × 400MHz)の帯域幅を持つことが可能です。
何が嬉しいかというと利用できる帯域が広がれば広がるほど通信速度は向上していきます。ざっくりですが帯域が2倍になると通信速度も2倍になります。
vとは?
vは、最大レイヤー数(Maximum number of layers)を表し、MIMOにおける空間多重ストリームの数を示します。DownLinkでは最大8、UpLinkでは最大4でレイヤー数が増えるほど、理論上の最大スループットが向上します。
Qとは?
Qは、最大変調次数(Maximum modulation order)を表します。変調方式による以下の値をとります。
- QPSK: Q = 2
- 16QAM: Q = 4
- 64QAM: Q = 6
- 256QAM: Q = 8
- 1024QAM: Q = 10
1シンボルあたりのビット数を示します。高次の変調方式ほど、1シンボルで伝送できるビット数が増加するため理論上の最大スループットが向上します。
fとは?
fとはScaling factorを表し、5G NRシステムが様々な周波数帯やMIMO構成に対応しつつ、理論的な最大スループットを現実的な値に調整するための係数です。
値は以下の4つをとることができますが、ほとんどの場合1になるようです。
- 0.4、0.75、0.8、1
1以外をとる要因として考えられるのは以下
- バンドの組み合わせ: 異なる周波数帯を組み合わせて使用する場合
- キャリアコンポーネント(CC)の数: 複数のCCを使用する場合
- MIMOレイヤー数: 最大MIMOレイヤー数に応じて値が変わる
- 変調次数: 最大変調次数に応じて値が変わる
Rとは?
Rは最大可能コードレート(Maximum Possible Code Rate)を表します。使用される符号化方式の効率を示し、5G NRではLDPCコード(Low-Density Parity-Check Code)を使用し、以下の値が適用されます。
- 948/1024 ≈ 0.92578125(約0.926)
以下の表で、最大のTarget code Rate R x [1024]の値が948となっています。表は、MCS Index、変調次数(Qm)、目標コードレート(R)、スペクトル効率などの列で構成されています。
目標コードレートは1024で割った値として表現されており、最大値が948/1024となっています。
3GPP TS38.214 V18.4.0より
μ:numerologyとは?
μ(Numerology)はサブキャリア間隔(SCS: SubCarrier Spacing)とCyclic Prefix(CP) overheadの組合せを決定するパラメータで、以下のような特徴があります。
- μは0から6までの整数値をとる
- サブキャリア間隔は2^μ * 15 kHzとして定義される
- μの値が大きくなるほど、サブキャリア間隔が広くなる
例 μ=0:△f = 2^0 × 15 = 15KHz、μ=1:△f = 2^1 × 15 = 30KHz
3GPP TS38.211 V18.4.0より
SCSを理解するために5G NRの無線フレーム構造を簡単にご説明します。詳細はこちらの記事が素晴らしいのでご紹介させていただきます。
以下の図はNRの無線フレーム構造を示しています。フレーム長10ms、サブフレーム長1msは固定、スロットは14シンボルで、複数のサブキャリア間隔(SCS)をサポートします。
新世代モバイル通信システム委員会における5G技術的条件に関する検討状況 資料8-5より
μ(Numerology)はSCSを柔軟に変更することを示しており、高いNumerology(大きなサブキャリア間隔)は、より多くのシンボルを短時間で送信できるため、スループットが向上することになります。
N(BW,PRB)とは?
Nは最大リソースブロック割り当て(Maximum Resource Block Allocation)を表します。
帯域幅(BW)とNumerology(μ)、各キャリアコンポーネント(CC)に対して定義され、物理リソースブロック(PRB)の数を示します。
PRBの数が多いほど、理論上の最大スループットが向上します。
以下はFR1(410 MHz – 7125 MHz)、FR2(24250 MHz – 52600 MHz/52600 MHz – 71000 MHz)の周波数範囲で、SCSの値によりどのくらいPRBが変化するかを示した表となります。
3GPP TS38.104 V18.7.0より
3GPP TS38.104 V18.7.0より
Tとは?
Tは、平均OFDMシンボル持続時間(Average OFDM symbol duration)を表します。
μ(Numerology)により値が変化し、以下の式で計算されます:
- Tμs(j) = 10^-3 / (14 * 2^μ)
シンボル持続時間が短いほど、理論上の最大スループットが向上します。
また高いNumerology(大きなμ値)ではTが小さくなり、結果としてデータレートが向上します。
例 μ = 1(30kHzのサブキャリア間隔)の場合:
- Tμs(j) = 10^-3 / (14 * 2^1) = 35.7 μs
OHとは?
OHは、システムオーバーヘッドを表す係数で、実際のデータ伝送に使用できないリソースの割合を示します。
OHはデータ以外のREが全REに対してどれくらいの割合存在するかを示す数値になっています。
docomoテクニカルジャーナルVol.26 No.3 下りリンク参照信号構成の例より
OHの値は、周波数範囲(FR)とリンクの方向(ダウンリンクまたはアップリンク)に応じて以下のように定義されています。OHの値が大きいほど、実効的なデータレートは低下します。
- FR1のダウンリンク:0.14
- FR2のダウンリンク:0.18
- FR1のアップリンク:0.08
- FR2のアップリンク:0.10
data rateの式を利用して通信速度を求めてみよう
では実際に計算式を使い、各項目に具体的な設定値を入力し通信速度を計算してみます。
具体的な値を使用した計算例:
- 単一のキャリアコンポーネント (J = 1) を想定
- 周波数範囲: FR1 (6GHz以下)
- 帯域幅: 100MHz
- Numerology (μ): 1 (30kHzのサブキャリア間隔)
- MIMO層数 (v): 4
- 変調方式: 256QAM (Q = 8)
- Scaling factor (f): 1
- 符号化率 (R): 948/1024
- オーバーヘッド (OH): 0.14 (FR1ダウンリンク)
- リソースブロック数 (N PRB): 273 (100MHz帯域幅、μ = 1の場合)
- シンボル持続時間 (Tμs): 10^-3 / (14 * 2^1) = 35.7 μs
計算:
Peak data rate = 4 · 8 · 1 · (948/1024) · (1 - 0.14) · 273 · 12 / (35.7 * 10^-6)
= 4 · 8 · 0.9258 · 0.86 · 273 · 12 / (35.7 * 10^-6)
= 2,337,982,644 bps
≈ 2.34 Gbps
100MHz帯域幅の単一キャリアコンポーネントを使用した場合のpeak data rateは約2.34 Gbpsとなります。冒頭にお話した通り、これはあくまで概算データレートを求める式になっているため、必ずしも計算した結果の速度が実際に出るわけではないと思います。
最後に
今回の記事では5G NRの通信速度はどうやって決まるのか?に注目して標準仕様を追っかけて整理しました。見慣れない単語やわかりにくい部分もあったかもしれませんが、通信速度1つとっても色々なことが絡んでくるんだなあと雰囲気を味わっていただければ幸いです。
自分も勉強がてらの部分も多くあるため、細かい箇所は正確な情報ではないかもしれませんがそこはご了承ください。個人的には無線側のネタをようやく1つ提供できたのは良かったです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。今後も引き続きモバイルに関わる記事が書ければいいなと思っております。良かったら2024年アドベントカレンダーの他の記事も読んでみてください🙂
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