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チームを壊す「ブリリアントジャーク」とどう向き合うか―スクラムマスターとしての実践と学び―

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はじめに

アジャイル開発では「チームワーク」が成果の鍵を握ります。
しかし、チームの中に高い技術スキルを持っていても、協調性に欠けるメンバーがいると、プロジェクトは一気に難航します。
そうした存在は「ブリリアントジャーク(Brilliant Jerk)」と呼ばれます。
私自身、スクラムマスターとして、まさにそのような状況に直面したことがあります。
本記事では、そのときの経験と、そこから得た教訓を紹介します。
※ご紹介する内容はわかりやすく一般化したもので、実在のプロジェクトや人物とは一切関係ありません。

ブリリアントジャークとは何か

ブリリアントジャークとは、優秀だが厄介な人を意味します。
彼らは知識も技術も豊富ですが、他者への配慮や共感が欠け、結果としてチーム全体の心理的安全性を壊してしまうことがあります。
アジャイルでは、透明性・協働・自己組織化が重要です。
しかし、コミュニケーションを軽視する態度が続くと、チームの信頼関係が崩れ、生産性だけでなくメンタル面にも悪影響を及ぼします。

発生した状況

私が関わった開発チームの中には、経験が豊富で技術力の高いメンバーがいました。
そのメンバーはレビューの精度も高く、幅広い知識を持っていました。
一方で、他のメンバーに対して厳しい言葉をかけることが多く、議論の場では自分の意見を強く主張する傾向がありました。
次第に、こんな変化が見られるようになりました。

  • チーム内で発言する人が減る
  • 意見が対立すると議論が止まる
  • ミスを恐れて挑戦を避けるようになる
  • タスクの透明性が下がる
    気づけば、チーム全体の空気が重くなり、スクラムイベントも形骸化していました。
    「ブリリアント」であるはずの存在が、チームを静かに壊していったのです。

初動の失敗:歩み寄りすぎた対応

当初、私は「相手を理解しよう」と考え、ブリリアントジャーク本人との1on1やヒアリングを重ねました。
しかし、結果的にそれは問題の先送りに過ぎませんでした。
「本人も悪気はない」「相手に合わせればうまくいくかもしれない」――そう考えて直接的な指摘を避けたのです。
この判断は、スクラムマスターとしての誤りでした。
人間関係の摩擦として捉え、チーム全体の心理的安全性という観点を見落としていたのです。

方針転換:チームを守る決断

チームのモチベーションが下がっていく中で、私は方針を切り替えました。
個人への歩み寄りではなく、チーム全体を守るための行動を取ることにしました。
具体的には次のようなステップを踏みました。

  1. 現状を客観的に整理
    問題の発言や行動を具体的に記録し、事実ベースで状況を把握。
  2. 関係者と情報共有
    チーム外のマネジメント層や関係者に相談し、客観的な視点で見てもらう。
  3. チームへのサポート
    疲弊しているメンバーにフォローの時間を設け、安心して意見を言える環境を再構築。

上記プロセスを通じて、チーム全体の合意を得ながら、担当業務や役割を調整する形で体制を見直すことができました。

結果:再びチームが動き出す

体制変更後、チームの雰囲気は驚くほど改善しました。

  • ミーティングでの発言が増え、議論が活発に
  • 新しいアイデアや改善提案が出るようになる
  • チームの生産性が向上し、遅れていたスケジュールを挽回
    「チームが協力して成果を出す」――アジャイルの本質に立ち返ることができました。

学びと教訓

今回の経験から、私はスクラムマスターとして3つの重要な教訓を得ました。
1. 個の能力より、チーム全体の健全性を守ることが最優先
どれほど有能でも、チームを壊す言動を放置してはいけません。
成果を上げるのは「個人」ではなく「チーム」です。
2. 問題は早期に、毅然とした態度で対応する
違和感を感じた段階で、客観的に相談・共有することが大切です。
「言いづらいから放置」は、最終的に全員の負担を増やします。
3. 心理的安全性をチーム文化として根付かせる
誰もが意見を出せる環境を維持すること。
その文化があれば、ブリリアントジャークの影響は最小化できます。

おわりに

ブリリアントジャークは、どの現場にも潜むリスクです。
ただし、それを防ぐ方法は特別なものではありません。
透明性・信頼・早期対応――この3つを意識し続けるだけで、チームは崩壊を防げます。
スクラムマスターの役割は、課題を抱え込むことではなく、チームの安全と健全性を守ること
ブリリアントな個人よりも、協働するチームこそが最大の力を発揮します。

あとがき

繰り返しとなりますが、本記事は、私が経験した実際のアジャイル開発プロジェクトをもとに内容を一般化したものです。
同じようにチームの葛藤に向き合うスクラムマスターやリーダーの一助となれば幸いです。

参考リンク

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