非機能要求グレードの歩き方 Vol.21 Fシステム環境・エコロジー
はじめに - Vol.21
本記事では、IPA[1] が公開する 非機能要求グレード[2] の「F システム環境・エコロジー」を対象に、金融 IT 基盤に 30 年以上携わって得た知見をもとに “やらかしがちな” 技術課題と対策を解説します。
筆者は非機能要求グレード初版の執筆に関わった経験があり、行間を含めて解説します。

シリーズ全体の構成は 👉 非機能要求グレードの歩き方 Index をご覧ください。
F システム環境・エコロジー
他の大項目(A~E)は、情報処理要件を分類したものですが、
大項目「F システム環境・エコロジー」は、情報処理要件に収まらない観点が集めてあり、大きく以下の3つの観点に分類できます。
| 分類観点 | 中項目 | 概要 |
|---|---|---|
| a. 基礎情報 | F.2 システム特性 | 利用者、地理的条件など |
| b. 適用レギュレーション |
F.1 システム制約/前提条件 F.3 適合規格 |
準拠法、ガイドラインなど 使用製品に対する規格 |
| c. 物理的条件 |
F.4 機材設置環境条件 F.5 環境マネージメント |
ファシリティ エコロジー |
下表は、非機能要求グレード 大項目「F システム環境・エコロジー」を抜粋したものです。
表: 「F システム環境・エコロジー」の小項目とメトリクス(折りたたんでいます)
| 大項目 | 中項目 | 小項目 | メトリクス(〇: 重要項目) |
|---|---|---|---|
| F システム環境 ・エコロジー |
F.1 システム制約 /前提条件 |
F.1.1 構築時の制約条件 | F.1.1.1 ○ 構築時の制約条件 |
| 〃 | 〃 | F.1.2 運用時の制約条件 | F.1.2.1 ○ 運用時の制約条件 |
| 〃 | F.2 システム特性 | F.2.1 ユーザ数 | F.2.1.1 ○ ユーザ数 |
| 〃 | 〃 | F.2.2 クライアント数 | F.2.2.1 ○ クライアント数 |
| 〃 | 〃 | F.2.3 拠点数 | F.2.3.1 ○ 拠点数 |
| 〃 | 〃 | F.2.4 地域的広がり | F.2.4.1 ○ 地域的広がり |
| 〃 | 〃 | F.2.5 特定製品指定 | F.2.5.1 ○ 特定製品の採用有無 |
| 〃 | 〃 | F.2.6 システム利用範囲 | F.2.6.1 システム利用範囲 |
| 〃 | 〃 | F.2.7 複数言語対応 | F.2.7.1 言語数 |
| 〃 | F.3 適合規格 | F.3.1 製品安全規格 | F.3.1.1 ○ 規格取得の有無 |
| 〃 | 〃 | F.3.2 環境保護 | F.3.2.1 ○ 規格取得の有無 |
| 〃 | 〃 | F.3.3 電磁干渉 | F.3.3.1 規格取得の有無 |
| 〃 | F.4 機材設置 環境条件 |
F.4.1 耐震/免震 | F.4.1.1 ○ 耐震震度 |
| 〃 | 〃 | F.4.2 スペース | F.4.2.1 ○ 設置スペース制限(マシンルーム) F.4.2.2 ○ 設置スペース制限(事務所設置) F.4.2.3 並行稼働スペース(移行時) F.4.2.4 設置スペースの拡張余地 |
| 〃 | 〃 | F.4.3 重量 | F.4.3.1 床荷重 F.4.3.2 設置対策 |
| 〃 | 〃 | F.4.4 電気設備適合性 | F.4.4.1 供給電力適合性 F.4.4.2 電源容量の制約 F.4.4.3 並行稼働電力(移行時) F.4.4.4 停電対策 F.4.4.5 想定設置場所の電圧変動 F.4.4.6 想定設置場所の周波数変動 F.4.4.7 接地 |
| 〃 | 〃 | F.4.5 温度(帯域) | F.4.5.1 温度(帯域) |
| 〃 | 〃 | F.4.6 湿度(帯域) | F.4.6.1 湿度(帯域) |
| 〃 | 〃 | F.4.7 空調性能 | F.4.7.1 空調性能 F.4.7.2 空調設備の制約 |
| 〃 (エコロジー) |
F.5 環境 マネージメント |
F.5.1 環境負荷を抑える工夫 | F.5.1.1 グリーン購入法対応度 F.5.1.2 同一機材拡張余力 F.5.1.3 機材のライフサイクル期間 |
| 〃 | 〃 | F.5.2 エネルギー消費効率 | F.5.2.1 エネルギー消費の目標値 |
| 〃 | 〃 | F.5.3 CO2排出量 | F.5.3.1 CO2排出量の目標値 |
| 〃 | 〃 | F.5.4 低騒音 | F.5.4.1 騒音値 |
以降、中項目ごとに解説します。
F.1 システム制約/前提条件
準拠法・ガイドラインなど
中項目「F.1 システム制約/前提条件」には、以下2つの小項目があります。
- F.1.1 構築時の制約条件
- F.1.2 運用時の制約条件
構築時および運用時に制約条件となる社内規定、業界ガイドライン、法令、条例などを、具体的に示します。
組織内の規定など公表されていないものは、実物を示す必要があります。
非機能要求グレード2018 利用ガイド[解説編] - 留意事項
「システム制約/前提条件」には、小項目「構築時の制約条件」、「運用時の制約条件」の2つを定義している。
構築時および運用時に制約条件となるような組織内の規定や法令・条例などが存在していれば、それに準拠させる検討が必要である。
これらを意識せずにシステムを構築した場合には、改めて規定に準拠するような構成へ変更したり、条件を満たすような再設計が必要になったりするケースもある。
例えば、入退室管理に関する規定などがあり、これに従ってデータセンターに設置されたシステムで、運用時にはリモートからの操作が必要にもかかわらず、要件定義段階でこうした条件が漏れていた場合などがこのケースにあたる。
| 小項目 | メトリクス(〇: 重要項目) |
|---|---|
|
F.1.1 構築時の制約条件 構築時の制約となる社内基準や法令、各地方自治体の条例などの制約が存在しているかの項目。 例) ・J-SOX法 ・ISO/IEC27000系 ・政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準 ・FISC ・プライバシーマーク ・構築実装場所の制限 など |
F.1.1.1 ○ 構築時の制約条件 |
|
F.1.2 運用時の制約条件 運用時の制約となる社内基準や法令、各地方自治体の条例などの制約が存在しているかの項目。 例) ・J-SOX法 ・ISO/IEC27000系 ・政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準 ・FISC ・プライバシーマーク ・リモートからの運用の可否 など |
F.1.2.1 ○ 運用時の制約条件 |
メトリクス内容(折りたたんでいます)
| 項番 メトリクス |
レベル0/1/2/3/4/5 備考 |
|---|---|
| F.1.1.1 ○ 構築時の制約条件 |
0: 制約無し 1: 制約有り(重要な制約のみ適用) 2: 制約有り(全ての制約を適用) 【メトリクス】 システムを開発する際に、機密情報や個人情報等を取り扱う場合がある。これらの情報が漏洩するリスクを軽減するために、プロジェクトでは、情報利用者の制限、入退室管理の実施、取り扱い情報の暗号化等の対策が施された開発環境を整備する必要が生じる。 また運用予定地での構築が出来ず、別地にステージング環境を設けて構築作業を行った上で運用予定地に搬入しなければならない場合や、逆に運用予定地でなければ構築作業が出来ない場合なども制約条件となる。 |
| F.1.2.1 ○ 運用時の制約条件 |
0: 制約無し 1: 制約有り(重要な制約のみ適用) 2: 制約有り(全ての制約を適用) |
F.2 システム特性
最初に提示する基礎情報
中項目「F.2 システム特性」には、システムの規模や特性を決定づける以下7つの小項目があります。
- F.2.1 ユーザ数
- F.2.2 クライアント数
- F.2.3 拠点数
- F.2.4 地域的広がり
- F.2.5 特定製品指定
- F.2.6 システム利用範囲
- F.2.7 複数言語対応
これらは、システムを理解するための基礎情報であり、最初に提示する必要があります。
非機能要求グレード2018 利用ガイド[解説編] - 留意事項
「システム特性」には、小項目「ユーザ数」、「クライアント数」、「拠点数」、「地域的広がり」、「特定製品指定」、「システム利用範囲」、「複数言語対応」を定義している。
ユーザ/ベンダ間で早期に共通認識を持っておくことが、システムを構築していく上で非常に重要である。
なぜならば、これらの項目はシステムの規模や特性を決定づける要件となるからである。
例えばユーザ数やクライアント数などが正しく定義されていなかったり、システムのライフサイクルの中で将来の増大の考慮がもれていたりすれば、リソースの問題を引き起こす可能性もある。
これらの項目は、早期に合意を図っておくことにより、システムの特性をおさえやすくなる。
| 小項目 | メトリクス(〇: 重要項目) |
|---|---|
|
F.2.1 ユーザ数 システムを使用する利用者(エンドユーザ)の人数。 |
F.2.1.1 ○ ユーザ数 |
|
F.2.2 クライアント数 システムで使用され、管理しなければいけないクライアントの数。 |
F.2.2.1 ○ クライアント数 |
|
F.2.3 拠点数 システムが稼働する拠点の数。 |
F.2.3.1 ○ 拠点数 |
|
F.2.4 地域的広がり システムが稼働する地域的な広がり。 |
F.2.4.1 ○ 地域的広がり |
|
F.2.5 特定製品指定 ユーザの指定によるオープンソース製品や第三者製品(ISV/IHV)などの採用の有無を確認する項目。採用によりサポート難易度への影響があるかの視点で確認を行う。 |
F.2.5.1 ○ 特定製品の採用有無 |
|
F.2.6 システム利用範囲 システム利用者が属する属性の広がり。 |
F.2.6.1 システム利用範囲 |
|
F.2.7 複数言語対応 システム構築の上で使用が必要、またはサービスとして提供しなければならない言語。扱わなければならない言語の数や各言語スキル保持者へのアクセシビリティを考慮。 |
F.2.7.1 言語数 |
メトリクス内容(折りたたんでいます)
| 項番 メトリクス |
レベル0/1/2/3/4/5 備考 |
|---|---|
| F.2.1.1 ○ ユーザ数 |
0: 特定ユーザのみ 1: 上限が決まっている 2: 不特定多数のユーザが利用 【重複項目】 B.1.1.1。ユーザ数は性能・拡張性を決めるための前提となる項目であると共にシステム環境を規定する項目でもあるため、性能・拡張性とシステム環境・エコロジーの両方に含まれている。 【レベル】 前提となる数値が決められない場合は、類似システムなどを参考に仮の値でも良いので決めておくことが必要。 |
| F.2.2.1 ○ クライアント数 |
0: 特定クライアントのみ 1: 上限が決まっている 2: 不特定多数のクライアントが利用 |
| F.2.3.1 ○ 拠点数 |
0: 単一拠点 1: 複数拠点 【レベル1】 拠点数を合意した場合は具体的な値を設定すること。 |
| F.2.4.1 ○ 地域的広がり |
0: 拠点内 1: 同一都市内 2: 同一都道府県内 3: 同一地方 4: 国内 5: 海外 【レベル】 レベル5になると、多言語対応などの考慮も必要となる。 また、国内であっても範囲が広がるにつれて、ネットワークや物流、サポートなどの面で対応が必要となる。 |
| F.2.5.1 ○ 特定製品の採用有無 |
0: 特定製品の指定がない 1: 一部に特定製品の指定がある 2: サポートが困難な製品の指定がある |
| F.2.6.1 システム利用範囲 |
0: 部門内のみ 1: 社内のみ 2: 社外(BtoB) 3: 社外(BtoC) |
| F.2.7.1 言語数 |
0: 数値などのみ扱う 1: 1 2: 2 3: 5 4: 10 5: 100 【レベル】 言語数だけでなく、別途、言語の難易度も併せて検討することが必要である。 また、通貨単位なども考慮しておく必要がある。 【レベル0】 数値データなどのみを扱うとは、人に対するプレゼンテーション機能を想定せず、マシン間でのインターフェースを扱うようなシステムを想定している。例えば、GWシステムなどである。 |
F.3 適合規格
中項目「F.3 適合規格」には、以下3つの小項目があります。
- F.3.1 製品安全規格
- F.3.2 環境保護
- F.3.3 電磁干渉
システムに使用する製品に対して考慮が必要な規格を示します。
3つの小項目に該当しない規格がある場合は、「F.1 準拠法・ガイドラインなど」に記載してください。
非機能要求グレード2018 利用ガイド[解説編] - 留意事項
「適合規格」には、小項目「製品安全規格」、「環境保護」、「電磁干渉」の3つを定義している。
システムの用途や設置環境・運用環境によっては、製品が一定の基準を満たしていることを求められる。
製品の安全性や機器が発生する電磁波への規制、また特定有害物質の使用制限規制などが要求に含まれる場合もあるので、構成する機器への要求を確認しておく。
| 小項目 | メトリクス(〇: 重要項目) |
|---|---|
|
F.3.1 製品安全規格 提供するシステムに使用する製品について、UL60950などの製品安全規格を取得していることを要求されているかを確認する項目。 |
F.3.1.1 ○ 規格取得の有無 |
|
F.3.2 環境保護 提供するシステムに使用する製品について、RoHS指令などの特定有害物質の使用制限についての規格の取得を要求されているかを確認する項目。 |
F.3.2.1 ○ 規格取得の有無 |
|
F.3.3 電磁干渉 提供するシステムに使用する製品について、VCCIなどの機器自身が放射する電磁波をある一定以下のレベルに抑える規格を取得していることを要求されているかを確認する項目。 |
F.3.3.1 規格取得の有無 |
メトリクス内容(折りたたんでいます)
| 項番 メトリクス |
レベル0/1/2/3/4/5 備考 |
|---|---|
| F.3.1.1 ○ 規格取得の有無 |
0: 規格取得の必要無し 1: UL60950相当取得 |
| F.3.2.1 ○ 規格取得の有無 |
0: 規格取得の必要無し 1: RoHS指令相当取得 |
| F.3.3.1 規格取得の有無 |
0: 規格取得の必要無し 1: VCCI Class A取得 2: VCCI Class B取得 |
F.4 機材設置環境条件
ファシリティの充足確認
中項目「F.4 機材設置環境条件」には、機材を設置するファシリティに関する以下7つの小項目があります。
- F.4.1 耐震/免震
- F.4.2 スペース
- F.4.3 重量
- F.4.4 電気設備適合性
- F.4.5 温度(帯域)
- F.4.6 湿度(帯域)
- F.4.7 空調性能
これらは、要件定義の段階で漏れやすい項目です。
床荷重やスペースなどのファシリティ要件が不足すると、大規模な追加工事や、建物(例:データセンター)の見直しにまで影響する可能性があります。
そのため、要件定義段階から必要な収容能力を確保できることの確認が不可欠です。
非機能要求グレード2018 利用ガイド[解説編] - 留意事項
「機材設置環境条件」には、小項目「耐震/免震」、「スペース」、「重量」、「電気設備適合性」、「温度(帯域)」、「湿度(帯域)」、「空調性能」の7つを定義している。
これらの項目は、要件定義段階で定義から漏れやすい項目である。
例えば、要件定義段階から設置環境についても十分に検討しておかないと、いざ設置しようとしたときに、フロアの荷重条件を満たさなかったり、スペースの関係上設置できなかったりといったケースも考えられる。
| 小項目 | メトリクス(〇: 重要項目) |
|---|---|
|
F.4.1 耐震/免震 地震発生時にシステム設置環境で耐える必要のある 実効的な最大震度を規定。 建屋が揺れを減衰するなどの工夫により、 外部は震度7超でも設置環境では実効的に 最大震度4程度になる場合には震度4よりレベルを設定する。 なお、想定以上の揺れではサービスを継続しないでも 良い場合には、その想定震度でレベルを設定する。 |
F.4.1.1 ○ 耐震震度 |
|
F.4.2 スペース どの程度の床面積(WxD)/高さが必要かの項目。 保守作業用スペースについても考慮する。 また、移行時には新旧システムが並行稼働可能な スペースの確保が可能か否かについても確認が必要である。 可能であれば事前確認を実施する。 |
F.4.2.1 ○ 設置スペース制限(マシンルーム) F.4.2.2 ○ 設置スペース制限(事務所設置) F.4.2.3 並行稼働スペース(移行時) F.4.2.4 設置スペースの拡張余地 |
|
F.4.3 重量 建物の床荷重を考慮した設置設計が 必要となることを確認する項目。 低い床荷重の場合ほど、設置のための 対策が必要となる可能性が高い。 |
F.4.3.1 床荷重 F.4.3.2 設置対策 |
|
F.4.4 電気設備適合性 ユーザが提供する設置場所の電源条件 (電源電圧/電流/周波数/相数/系統数 /無停止性/必要工事規模など) と導入システムの適合性に関する項目。 同時に空調についても評価対象とする。 また、移行時の並行稼動が可能か否かについても 確認が必要である。 可能であれば事前確認を実施する。 |
F.4.4.1 供給電力適合性 F.4.4.2 電源容量の制約 F.4.4.3 並行稼働電力(移行時) F.4.4.4 停電対策 F.4.4.5 想定設置場所の電圧変動 F.4.4.6 想定設置場所の周波数変動 F.4.4.7 接地 |
|
F.4.5 温度(帯域) システムが稼働すべき環境温度の帯域条件。 周囲環境によってはシステムを正常稼動させるには 特別な対策が必要となることがある。 |
F.4.5.1 温度(帯域) |
|
F.4.6 湿度(帯域) システムが稼働すべき環境湿度の帯域条件。 周囲環境によってはシステムを正常稼動させるには 特別な対策が必要となることがある。 |
F.4.6.1 湿度(帯域) |
|
F.4.7 空調性能 システムを稼働させるのに十分な冷却能力を保持し、 特定のホットスポットが存在する場合にはそれを 考慮した冷気供給を行える能力。 |
F.4.7.1 空調性能 F.4.7.2 空調設備の制約 |
メトリクス内容(折りたたんでいます)
| 項番 メトリクス |
レベル0/1/2/3/4/5 備考 |
|---|---|
| F.4.1.1 ○ 耐震震度 |
0: 対策不要 1: 震度4相当(50ガル) 2: 震度5弱相当(100ガル) 3: 震度6弱相当(250ガル) 4: 震度6強相当(500ガル) 5: 震度7相当(1000ガル) 【メトリクス】 設置環境での実効的な震度は、屋外の振動がそのまま伝わる建屋の場合は外部の震度と設置環境の震度はほぼ一致すると考えられるので、外部震度からレベルを設定すればよい。ただし、建屋の免震設備などにより、設置環境での最大震度を低く保証できる場合にはその震度を実効的な震度としてレベル設定が可能と考えられる(ユーザからの特段の要請を受けて、より高いレベルで設定する場合も有り)。なお、一定の震度以上では周辺のシステム利用者がシステムを利用できる環境に無いなどで、サービスの継続が不要となる場合は、その震度からレベル設定することも考えられる。いずれに於いても建屋の耐震震度を超える水準での設定には無理がある。 【レベル0】 地震発生によるサービス停止などのリスクを受け入れる心積もりが別途必要となる。 |
| F.4.2.1 ○ 設置スペース制限(マシンルーム) |
0: スペースに関する制限無し 1: フロア設置用機材を用いて構成 2: ラックマウント用機材を用いて構成 【メトリクス】 具体的な面積と高さも併せて確認する。また、スペース形状や場所による耐荷重の差異にも留意すること。 |
| F.4.2.2 ○ 設置スペース制限(事務所設置) |
0: スペースに関する制限無し 1: 専用のスペースを割当て可能 2: 人と混在するスペースに設置必要 【メトリクス】 具体的な面積と高さも併せて確認する。また、スペース形状や場所による耐荷重の差異にも留意すること。 【レベル】 設置スペース制限は前提条件として既に規定されていると捉え、その要求に対してシステムを設置する場合の難易度をレベルとしている。スペース確保の視点での難易度ではないことに注意。 |
| F.4.2.3 並行稼働スペース(移行時) |
0: 専用スペースの確保が可能 1: 共用スペースの確保が可能 2: 確保不可 【メトリクス】 構築時に、まだ本番運用で用いるスペースが使用できない場合は、構築時のスペースおよび移設に関しても考慮すること。更に、具体的な面積と高さも併せて確認する。また、スペース形状や場所による耐荷重の差異にも留意すること。 【レベル2】 並行稼働有りの場合には、別途対策を検討すること。関係項目に D.1.1.3、F.4.4.3がある。 |
| F.4.2.4 設置スペースの拡張余地 |
0: 十分な拡張余地有り 1: 一部制約有り(既製品で対応できるレベル) 2: 制約有り(特注対応や工事が必要) 【メトリクス】 設置スペースの拡張余地には、フロアに直接置くだけでなくラックの制約や床荷重なども含まれる。 |
| F.4.3.1 床荷重 |
0: 2,000Kg/㎡以上 1: 1,200Kg/㎡ 2: 800Kg/㎡ 3: 500Kg/㎡ 4: 300Kg/㎡ 5: 200Kg/㎡ 【レベル】 床が耐えられる荷重でレベル化。耐荷重が大きいほど設置に関する制約が少ない。 【運用コストへの影響】 床荷重が高い場合、副次的に高密度な実装となり、高ラック位置での保守作業などが必要になる場合がある。 |
| F.4.3.2 設置対策 |
0: 不要 1: 荷重を分散するための資材(鉄板など)を配備する 2: ラック当りの重量を制限して、分散構成を採る 3: 設置環境固有の条件(梁の場所など)を考慮して、設置設計を行う |
| F.4.4.1 供給電力適合性 |
0: 現状の設備で特に制限無し 1: 電源工事は必要だが、分電盤改造など二次側の工事のみで対応可能 2: 電源工事は必要だが、一次、二次とも工事可能 3: 工事などができず、規模に対して容量が少し足りない 4: まったく対応できず、設置場所を再考する必要がある |
| F.4.4.2 電源容量の制約 |
0: 制約無し(必要な電源容量の確保が可能) 1: 制約有り(既製品で対応できるレベル) 2: 制約有り(カスタマイズや工事が必要) |
| F.4.4.3 並行稼働電力(移行時) |
0: 全面的に確保が可能 1: 部分的に確保が可能 2: 確保が困難 【レベル2】 移行時に並行稼働が必要な場合には、別途対策を検討すること。関係項目に D.1.1.3、F.4.2.3がある。 |
| F.4.4.4 停電対策 |
0: 無し 1: 瞬断(10ms程度) 2: 10分 3: 1時間 4: 1日間 5: 1週間 【レベル1】 UPS, CVCFなど電源安定化の対策を検討する。 |
| F.4.4.5 想定設置場所の電圧変動 |
0: ±10%以下 1: ±10%を超える 【レベル1】 機材の動作条件を逸脱する場合には、UPS, CVCFなど電源安定化の対策が必要となる。 |
| F.4.4.6 想定設置場所の周波数変動 |
0: ±2%以下 1: ±2%を超える 【レベル1】 機材の動作条件を逸脱する場合には、UPS, CVCFなど電源安定化の対策が必要となる。 |
| F.4.4.7 接地 |
0: 接地不要 1: 接地が必要 2: 専用接地が必要 |
| F.4.5.1 温度(帯域) |
0: 対策不要 1: 16度から32度(多くのテープ装置の稼働可能条件) 2: 5度から35度(多くの機器の稼働可能条件) 3: 0度~40度 4: 0度~60度 5: -30度~80度 【メトリクス】 温度勾配は10℃/h程度以下に抑えることも併せて考慮する。また、レベル2以上の環境では非稼働時の確認も別途必要である。 【レベル】 機器が稼働している状態での周囲環境の変動範囲でレベルを選択する。例えば、周囲環境温度が0~20度で変動している環境であれば、それを満たすレベルの中で一番低いレベル3となる。 |
| F.4.6.1 湿度(帯域) |
0: 対策不要 1: 45%~55% 2: 20%~80% 3: 0%~85% 4: 結露無し条件のみ 【レベル】 機器が稼働している状態での周囲環境の変動範囲でレベルを選択する。例えば、周囲環境湿度が20~50%で変動している環境であれば、それを満たすレベルの中で一番低いレベル2となる。 |
| F.4.7.1 空調性能 |
0: 十分な余力有り 1: ホットスポットなどへの部分的な対策が必要 2: 能力が不足しており、対策が必要 【メトリクス】 必要に応じて塵芥や有害ガスへの対応なども考慮する。 |
| F.4.7.2 空調設備の制約 |
0: 制約無し(必要な空調の確保が可能) 1: 制約有り(既製品で対応できるレベル) 2: 制約有り(カスタマイズや工事が必要) |
F.5 環境マネージメント
中項目「F.5 環境マネージメント」には、エコロジーに関する以下4つの小項目があります。
- F.5.1 環境負荷を押さえる工夫
- F.5.2 エネルギー消費効率
- F.5.3 CO2排出量
- F.5.4 低騒音
エコロジー
小項目「F.5.2 エネルギー消費効率」「F.5.3 CO2排出量」「F.5.4 低騒音」には、
各々該当する環境要素に関する要件を記述します。
廃棄物の最小化など、上記以外のエコロジーに関する要件は、
対象を限定していない「F.5.1 環境負荷を抑える工夫」に記述してください。
注) F.5.1.3 機材のライフサイクル期間
メトリスク F.5.1.3 は、名称からハードウェアの保守期限を連想しがちですが、本項は環境負荷(エコロジー)観点の要件を記述する項目です。
以下のように、同じ「ライフサイクル」でも、期間を定める目的に即した適切な項目に記述してください。
-
廃棄材の最小化など、エコロジーが目的の場合:
→ メトリクス F.5.1.3 を含む小項目「F.5.1 環境負荷を抑える工夫」に記述 -
それ以外の、保守期限、運用期間、コスト削減などが目的の場合:
→ 「C 運用保守性」-「C.5 サポート体制」-「C.5.3 ライフサイクル期間」 に記述
非機能要求グレード2018 利用ガイド[解説編] - 留意事項
「環境マネージメント」には、エコロジーに関する小項目「環境負荷を押さえる工夫」、「エネルギー消費効率」、「CO2排出量」、「低騒音」の4つを定義している。
エコロジーに関して、最近では官公庁を筆頭にグリーン調達を行う企業が増えてきている。
また、今後は炭素税など法的な対応によって大きくクローズアップされてくる可能性も出てきている。
更にエコロジーには、企業の社会的責任(CSR)や公正で透明かつ健全なビジネスを体現するとの視点もあり、企業が社会の信頼を得る上で今後益々重要性が高まると考えられる。
| 小項目 | メトリクス(〇: 重要項目) |
|---|---|
|
F.5.1 環境負荷を抑える工夫 環境負荷を最小化する工夫の度合いの項目。 例えば、グリーン購入法適合製品の購入など、 環境負荷の少ない機材・消耗品を採用する。 また、ライフサイクルを通じた廃棄材の最小化の検討を行う。 例えば、拡張の際に既設機材の廃棄が不要で、 必要な部材の増設、入れ替えのみで対応可能な機材を 採用するなどである。 また、ライフサイクルが長い機材ほど廃棄材は少ないと 解釈できる。 |
F.5.1.1 グリーン購入法対応度 F.5.1.2 同一機材拡張余力 F.5.1.3 機材のライフサイクル期間 |
|
F.5.2 エネルギー消費効率 本来はシステムの仕事量をそのエネルギー消費量で除した 単位エネルギー当りの仕事量のこと。 ただし、汎用的な仕事量の定義が存在しないため、 効率を直接求めることは困難である。 また、同じ仕事を行う別のシステムも存在しないこと が多いため、比較自体も困難である。 このため、エネルギー消費効率に関しては、 少し視点を変えて、ユーザからの目標値の提示の有無などで レベル化を行っている。 なお、電力エネルギーを前提とするシステムでは、 消費電力≒発熱量である。 また、システムの仕事量の視点ではなく、 データセンターのエネルギー効率を示す指標に PUE(Power Usage Effectiveness)や、 DPPE(Datacenter Performance Per Energy)などがある。 |
F.5.2.1 エネルギー消費の目標値 |
|
F.5.3 CO2排出量 システムのライフサイクルを通じて排出されるCO2の量 ただし、単純なCO2排出量でレベル化するのは 困難であるため、 少し視点を変えて、ユーザからの目標値の提示の有無などで レベル化を行っている。 |
F.5.3.1 CO2排出量の目標値 |
|
F.5.4 低騒音 機器から発生する騒音の低さの項目。 特にオフィス設置の場合などには要求度が高くなる 傾向がある。 また、データセンターなどに設置する場合でも一定以上の 騒音の発生は労働環境として問題となることがある。 |
F.5.4.1 騒音値 |
メトリクス内容(折りたたんでいます)
| 項番 メトリクス |
レベル0/1/2/3/4/5 備考 |
|---|---|
| F.5.1.1 グリーン購入法対応度 |
0: 対処不要 1: グリーン購入法の基準を満たす製品を一部使用 2: グリーン購入法の基準を満たす製品のみを使用 |
| F.5.1.2 同一機材拡張余力 |
0: 無し 1: 2倍 2: 4倍 3: 10倍 4: 30倍 5: 100倍以上 【メトリクス】 既設機材を廃棄することなく、単純に追加で拡張可能であることを意味する(契約上は追加であっても実際には機材全体を置き換えてしまい全廃棄が発生するようなものは対象外となる)。製造エネルギー、廃棄物量までを考慮する。 【レベル】 数倍程度まではスケールアップ主体、それ以上はスケールアウト主体での対応となると考えられる。 |
| F.5.1.3 機材のライフサイクル期間 |
0: 3年 1: 5年 2: 7年 3: 10年以上 【メトリクス】 ここでのライフサイクルとは実質的なハードウェア入れ替え期間と規定している。基本的に長期に渡って使用することが望ましいが、あまりにも長期過ぎると性能向上や省電力技術の進歩などの恩恵が受けられなくなることにも注意が必要である。 【運用コストへの影響】 ライフサイクルの短い機材を使用すると、頻繁な更新が必要となるため、運用コストが増大する懸念がある。 |
| F.5.2.1 エネルギー消費の目標値 |
0: 目標値無し 1: 目標値の提示有り 2: 目標値の提示が有り、更なる追加削減の要求も有る 【レベル0】 電源設備などとの整合性の再確認が必要である。 【レベル2】 レベル1の目標値達成に止まらず、更に厳しい基準へのオプション要望があることを示す。 【運用コストへの影響】 低いレベルで合意した場合、新法令の制定などで運用後に対応が必要となる場合がある。 |
| F.5.3.1 CO2排出量の目標値 |
0: 目標値の設定不要 1: 目標値の提示有り 2: 目標値の提示が有り、更なる追加削減の要求も有る 【メトリクス】 運転時のCO2排出量は基本的に電力消費量とリンクする形になる。これに生産・廃棄におけるCO2排出量を加えたものがライフサイクル全体での排出量となる。 【レベル0】 目標値の設定不要とした場合、CSRなどとの整合性の再確認が必要である。 【レベル2】 レベル1の目標値達成に止まらず、更に厳しい基準へのオプション要望があることを示す。 【運用コストへの影響】 低いレベルで合意した場合、新法令の制定などで運用後に対応が必要となる場合がある。 |
| F.5.4.1 騒音値 |
0: 対策不要 1: 87dB(英国RoSPAの騒音基準による防音保護具の使用も考慮に入れた許容限界値)以下 2: 85dB(英国RoSPAの騒音基準による第2アクションレベル)以下 3: 80dB(英国RoSPAの騒音基準による第1アクションレベル)以下 4: 40dB(図書館レベル)以下 5: 35dB(寝室レベル)以下 【運用コストへの影響】 低いレベルで合意した場合、労働環境との整合性の再確認が必要である。 |
あったら怖い本当の話
※ 実際に起きたことを、脱色デフォルメしたフィクションにして紹介します。
😱運用監視センターの非常用電源
東をプライマリとする、東西バックアップ構成

| 東 | 西 | |
|---|---|---|
| データセンター (非常用電源) |
プライマリセンター (3日分) |
バックアップセンター (2日分) |
| 運用監視 |
運用監視センター 首都圏近郊 (1日分) 単独で東西データセンター の運用可能 |
運用監視ルーム バックアップセンター内 (2日分) 単独では西の縮退運用のみ 東を単独運用できない |
敗因
- システム統制機能を持ち、オペレータも常駐している運用監視センターが、プライマリセンター運用の前提となっていることの考慮が不足していました。
プライマリセンタと同等の耐震と非常用電源が必要でした。
再発防止
- 1年後、暫定対応として、東の運用監視センターの非常用電源を3日分に拡充しました。
- 次回システム更改の際に、運用監視センターを東西に再構築し、片センターだけでも運用できる設備と体制を整えました。
まとめ
本記事では、「Fシステム環境・エコロジー」の項目は、基礎情報、適用レギュレーション、物理的条件の大きく3つに分類できることを説明しました。
最後に、NTTデータの金融高度技術本部では、ともに金融ITの未来を切り拓く仲間を募集しています。
[募集要領] [NTTデータ 金融分野の取り組み]
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IPA(独立行政法人 情報処理推進機構, Information-technology Promotion Agency, Japan) ↩︎
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非機能要求グレード:
参照用pdf: 非機能要求グレード2018 改訂情報(PDF:897 KB)
活用用xls: 非機能要求グレード本体(日本語版)、利用ガイド[活用編]一括ダウンロード(ZIP:9.7 MB)の 06‗活用シート.xls ↩︎
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