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Agentic AIについて非エンジニア向けにわかりやすくまとめてみた(前編)

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前置き

はじめまして!株式会社NTTデータグループの技術革新統括本部AI技術部でSmart AI Agent®︎のエンジニアをしている岸川です。

今回は「Agentic AI(エージェント型AI)」について非エンジニア向けにわかりやすくまとめてみました。読者の皆様が、最新のAI技術トレンドや、AI技術部が取り組んでいるテーマについて少しでも理解を深めることができれば幸いです!

はじめに

最近、テクノロジー業界で「Agentic AI」あるいは「エージェント型AI」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。ChatGPTが登場した2022年11月以降、AI技術は日々進歩を続けていますが、その中でも特に注目を集めているのがこのエージェント型AIです。

実際、調査会社ガートナーでは、エージェント型AI(Agentic AI)を2025年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドの1つに位置づけています[2]。また、Google Trendsのデータを見ても、2022年11月のChatGPT登場以降、「AI Agents」と「Agentic AI」への関心が急上昇していることが確認できます。

2022年11月から2025年7月までの日本国内における「AI Agents」と「Agentic AI」のGoogle検索興味度の推移を示す折れ線グラフ
2022年11月から2025年7月までの日本国内における「AI Agents」と「Agentic AI」のGoogle検索興味度の推移を示す折れ線グラフ

  • 期間:2022年11月第1週~2025年7月第4週
  • X軸:週次の日付
  • Y軸:検索興味度(0~100)
  • 青線は「AI Agents」、オレンジ線は「Agentic AI」

本記事では、この「Agentic AI」という概念について、具体的にどのようなものなのか、従来の生成AI(ChatGPTなど)やAI Agentsとは何が違うのかを、最新の学術研究[1:1]を参考にしながらできるだけ分かりやすく解説していきます。

Agentic AIとは

本記事では、混同しやすい3つのAI概念について順番に解説していきます:

  1. 生成AI - ChatGPTに代表される、入力に応じてコンテンツを生成するAI
  2. AI Agents - 特定のタスクを自律的に実行するAI
  3. Agentic AI - 複数のAI Agentが協調して複雑な目標を達成するシステム

これらは段階的に発展してきた技術であり、それぞれ異なる特徴と用途を持っています。まず、最も高度な概念であるAgentic AIから解説します。

Agentic AIとは

Agentic AIとは、一言で表現すると「複数のAI Agentが特定の役割を担当しながら、目標に向かって協調的に動くよう設計されたシステム」です。

AIが単体で動作するシステムに対して、Agentic AIでは複数の専門化されたエージェントがチームとして機能します。このシステムの中で、個々のエージェントは要約や検索、計画立案、データ分析など、特定のタスクに特化し、全員が連携してタスク全体をカバーする仕組みになっています。

Agentic AIの特徴

Agentic AIの最大の特徴は、目標の分解と協調的実行にあります。ユーザーから与えられた複雑な目標を、システムが自動的に小さなタスクに分割し、それぞれを適切なエージェントに割り当てます。各エージェントは自分の専門領域で自律的に判断・処理しながら、他のエージェントと情報を共有し、目標達成を目指します。

Agentic AIの概念図
Agentic AIの概念図

  • 複数のエージェントが協調して動作する様子を示す概念図
  • 中央のオーケストレーターと各専門エージェント(検索、要約、計画立案等)の関係性

具体的な応用例

Webサービスの障害対応

ある大規模なWebサービスで、システム障害が発生した場合を考えてみましょう。Agentic AIは以下のように機能します:

ステップ エージェント アクション 結果
1. 検知 Manager 障害を検知し、タスクリストを作成 診断エージェントを呼び出し
2. 診断 診断 ログを分析 「DB接続エラー大量発生」を報告
3. 調査 Manager(インフラエージェントへ指示) DB状態の確認を依頼 「接続数上限到達。引き上げで解決可能」
4. 計画変更 Manager 調査結果を評価 * 「ロールバック」タスクを削除
* 「接続数上限引き上げ」タスクを追加
5. 実行 インフラ 接続数上限を変更 100 → 300 に設定変更完了
6. 検証 Manager(診断エージェントへ指示) 復旧確認を依頼 「エラー停止、正常復旧」を確認
7. 報告 コミュニケーション 関係者へ通知 「原因:DB接続数上限、対応:上限引き上げ完了」

1. 動的な計画変更
調査結果から「ロールバック不要」と判断し、タスクを削除・追加。
状況に応じて柔軟に対応方針を変更できる。

2. 専門性による深い判断
各エージェントが自分の領域(診断、インフラ、コミュニケーション)で的確に判断。
人間の専門家チームと同様の役割分担を実現。

3. 相互チェックによる信頼性
Managerが復旧を診断エージェントに再確認。
単一エージェントでは見落としがちなミスを防止。

まとめ

Agentic AIは単なる自動化ツールではなく、人間のチームワークを模倣した協調システムとして機能します。
各エージェントが持つ専門性と、全体としての協調能力が組み合わさることで、単一のAIでは処理できない複雑なタスクの自動化が可能になります。

AI Agentsとの違い

Agentic AIを理解するために、まず一つ下の階層にある「AI Agents」との違いを確認しましょう。この2つは密接に関連していますが、設計思想や能力において根本的な違いがあります。

AI Agentsとは

AI Agentsとは、「特定の目的達成に向けて動作する自律型AI」です。入力を認識し、状況を理解したうえで、最適な行動を選び、実行することができます。簡単にいうと、「人間の指示を理解して、必要なツールを使いながら、自分で考えて行動できるAI」です。

AI Agentsは、あらかじめ定められた処理をなぞるだけの従来の自動化ツールとは大きく異なります。構造化されたデータはもちろん、非構造なデータ、つまり自然言語での指示やモニター画面の情報などを入力データにしても柔軟にふるまえることが最大の特徴です。

AI Agentsの基本構造図
AI Agentsの基本構造図

  • 「知覚→推論→行動」のサイクル図
  • 外部ツール(API、データベース等)との連携を示す図

具体的な応用例

1. カスタマーサポートボット

企業のWebサイトでよく見かける問い合わせ対応システム。顧客の質問を理解し、社内のFAQデータベースや注文管理システムと連携して適切な回答を生成するシステム。

2. スケジュール調整アシスタント

「来週の木曜日、午後に1時間のミーティングを設定して」といった指示を理解し、参加者全員のカレンダーを確認して最適な時間を提案・予約するシステム。

3. メール自動分類システム

受信メールの内容を分析し、「緊急」「要対応」「情報共有」などのタグを自動で付与。さらに簡潔な要約文も生成して、メール処理の効率化をするシステム。

Agentic AIとの根本的な違い

特徴 AI Agents Agentic AI
基本構成 単一のエージェント 複数エージェントの協調システム
タスクの複雑さ 特定の単一タスクに特化 複雑・多段階のワークフロー全体
自律性のレベル 中程度(ツールを自律的に使用) 高(プロセス全体を管理)
意思決定 ツール使用の判断 目標分解と役割分担の決定
協調性 独立して動作 エージェント間で情報共有・連携

AI Agentsの限界

単体のAI Agentには、以下の限界があります:

  • 長期計画の困難さ: 複数ステップにわたるタスクの管理が苦手
  • 文脈の保持: 長時間にわたる作業での一貫性の維持が苦手
  • スケーラビリティ: タスクが複雑になると処理能力が限界に達する
  • エラー回復: 途中で失敗した場合の立て直しが苦手

これらの限界を克服するために生まれたのが、複数のAI Agentが協調して動作するAgentic AIです。

つまり、AI Agentsは「優秀な個人」であり、Agentic AIは「優秀なチーム」と考えると分かりやすいかもしれません。個人では限界があるタスクも、適切に役割分担されたチームなら効率的に処理できる。これがAgentic AIの基本的な発想です。

生成AIとのちがい

ここまで読んでも「それって生成AIと何が違うの?」と思う方もいるかもしれません。確かに、AI AgentsもAgentic AIも、その基盤にはChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)が使われているため、その疑問も当然です。

しかし、生成AIとエージェント型システムには根本的な違いがあります。それは「受動性」と「能動性」の違いです。

生成AIの特徴:優秀だが受動的

生成AIの代表格であるChatGPTは、自然言語での質問に流暢に回答し、瞬時に創造的な文章を書き、複雑な問題について考えることもできます。

しかし、生成AIは基本的に「言われたことに対して応じる」という反応型の動作が基本です。

AI Agents・Agentic AI:自ら動く知的システム

一方、AI AgentsやAgentic AIは「自ら動く」ことを前提に設計されています:

AI Agentsの場合:

  • タスクの流れを把握: 「顧客対応→データベース検索→回答生成→フォローアップ」といった一連の流れを理解
  • 状態管理: 現在どの段階にいるか、次に何をすべきかを記憶
  • ツール連携: 必要に応じて外部API、データベース、計算ツールなどを自動で呼び出し
  • マルチステップ実行: 複数の段階を経てゴールに向かう

Agentic AIの場合:

  • 目標分解: 複雑な目標を実行可能な小タスクに自動分割
  • 役割分担: 各タスクを最適なエージェントに割り当て
  • 協調実行: 複数エージェントが並行して作業し、結果を統合
  • 動的調整: 状況変化に応じて計画を修正

3つの技術の動作比較図
3つの技術の動作比較図

具体例で見る違い

ケース:「来週の出張計画を立てて」という依頼

生成AIの場合:

  • ユーザー:「来週の出張計画を立てて」
  • ChatGPT:「出張計画を立てるためには以下の情報が必要です:
    • 目的地
    • 日程
    • 予算
    • 目的
      これらを教えていただけますか?」

→ 情報をすべて与えれば計画案を「文章で」提案してくれますが、実際の予約は取れません。

AI Agentsの場合:

  1. カレンダーAPIで来週のスケジュールを確認
  2. 過去の出張履歴から好みのホテル・航空会社を特定
  3. 航空券検索サイトで最適な便を検索
  4. ホテル予約サイトで宿泊先を検索
  5. 総合的なプランを提案(実際の予約は人間が確認後実行)

Agentic AIの場合:

  1. スケジュール管理Agent: カレンダーを分析し、最適な日程を提案
  2. 交通手配Agent: 航空券・電車の最適ルートを検索・比較
  3. 宿泊手配Agent: ホテルを検索・比較し、候補を提示
  4. 予算管理Agent: 全体コストを監視し、予算内での最適化を提案
  5. 統合管理Agent(オーケストレーター): 各Agentの結果を統合し、最終プランを作成

ポイント: 各Agentが並行して作業するため、単一のAI Agentより効率的。また、一つのAgentが失敗しても他のAgentが代替案を提示できる。

技術的な違いの本質

生成AIは「強力なエンジン」として機能しますが、それだけでは業務で必要とされる「行動の一貫性」や「連携処理」の多くをこなせません。

そこを補うかたちで登場したのが、エージェント型の設計思想です。生成AIの優れた言語理解・生成能力を「思考エンジン」として活用しながら、その上に「行動力」と「協調性」を追加したのがAI Agents・Agentic AIです。

つまり、生成AI→AI Agents→Agentic AIという技術進化は、「知識・生成」→「自律的な行動」→「協調による複雑課題の解決」という能力の段階的拡張として捉えることができます。

前編のまとめと後編予告

前編では、Agentic AIとは何か、AI Agentsや生成AIとの違いについて解説しました。

後編では、以下について詳しく解説します:

  • 現在直面している技術的課題(因果関係の理解、エージェント間協調の難しさなど)
  • 運用面での現実的な壁(レガシーシステム連携、セキュリティ課題)
  • 最新の技術的アプローチ(RAG、ReActループ、オーケストレーションなど)
  • NTTデータグループの具体的な取り組みとAI Workflowsの詳細

後編もぜひ読んでみてください!
https://zenn.dev/nttdata_tech/articles/29de2ddd53281a

脚注
  1. Ranjan Sapkota et al. (2025) "AI Agents vs. Agentic AI: A Conceptual Taxonomy, Applications and Challenges" Cornell University ↩︎ ↩︎

  2. AIエージェントとは?定義と特性、AIエージェント活用の利点やリスク、導入の課題(Gartner Japan) ↩︎

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