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点識別可能性と可換図式

2023/08/12に公開

この記事では,点識別可能性について,可換図式を使って分かりやすく定義します.

点識別可能とは

点識別可能性の説明

計量経済学には点識別という概念があります.ざっくりいうと,観測可能な変数の分布が分かったとしても,知りたいtarget parameterを一意に特定できない場合,そのtarget parameterは点識別不可能といいます.

詳しくは以下を参照ください.
計量経済学における識別問題について
The Identification zoo

点識別可能性の定義

上記の2つのページの定義は(表面上)若干違うのですが,このページではIdentification zooの定義に従います.

  • モデルの集合M
    • DGPとして想定している分布の集合.
  • 観測可能な分布について
    • モデルから観測可能な分布への写像\Pi: M \to \Pi(M)
      • モデルが定まれば一意に定まる分布.
    • 観測可能な分布の集合 \Phi = \Pi(M)
  • target parameterについて
    • モデルからtarget parameterへの写像\Delta: M \to \Delta(M)
      • モデルが定まれば一意に定まる値.この値を求めることが目標.
    • target parameterの集合 \Theta = \Delta(M)
  • structure s(\phi, \theta)について
    • s(\phi, \theta) = \{m \in M: \Pi(m) = \phi, \Delta(m) = \theta \}
    • つまり,実験者からは\phiとして観測され,なおかつ,target parameterが\thetaとなる母集団の分布の集合.
  • \theta\theta 'が観測同値 \Leftrightarrow s(\phi, \theta)s(\phi, \theta ')がともに空ではないような\phiが存在する.
  • target parameter \thetaが識別可能 \Leftrightarrow \theta\theta 'が観測同値であれば,\theta = \theta 'である
    • 要は,実験者からは\phiとして観測されるような母集団分布に対しては,同じtarget parameterの値になりますよ,ということ

点識別と可換図式について

点識別の図示

\thetaは識別可能ということは,上のような可換図式が書けるということです.このページで言いたいことはこれだけです.

図示の証明

上記の図を言葉で表現すると以下のようになります.

\thetaは識別可能 \Leftrightarrow 今,\exist Tが存在して,\Delta(m) = T(\Pi(m))が存在する

\Rightarrowについて

背理法を用いる.つまり,ある\theta \neq \theta'について,s(\phi, \theta) \neq \emptyset \land s(\phi, \theta ') \neq \emptysetとなる\phiが存在すると仮定する。

この仮定のもとで,m \in s(\phi, \theta), m' \in s(\phi, \theta ')をとることができる.定義より,

  • \Delta(m) = \theta \neq \theta ' = \Delta(m')だが,
  • \theta = \Delta(m) = T(\Pi(m)) = T(\phi) = T(\Pi(m')) = \Delta(m') \theta 'なので矛盾.

\Leftarrowについて

\forall \phi \in \Pi(M)について,M_{\phi} = \{m | \Pi(m) = \phi \}と定義する.なお,M_(\phi)は空ではない.このとき,\forall m \in M_{\phi}について,\Delta(m) = \theta_{\phi}mによらない定数)であれば,Tをそのように構築すればよい.

今,ある\phiについて,m \neq m'が存在して,\Delta(m) \neq \Delta(m')とする.この時, s(\phi, \delta(m)) \neq \emptyset \land s(\phi, \delta(m')) \neq \emptysetなので識別可能に矛盾.

Discussion