【今日から真似できる!】レトロスペクティブ(振り返り)の効果的な運用事例を紹介!
●本記事の読了目安時間:10分
●本記事の目的:
近年普及が進んでいるアジャイル開発(スクラム)は弊社でも導入が進んでいます。スクラム運営においてレトロスペクティブ(振り返り)は重要な位置づけとなりますが、その運用方法は多様です。
本記事では弊社でのレトロスペクティブの運用事例を提示することにより、弊社でのアジャイル開発の導入状況の周知および、他社でのアジャイル開発の導入や改良のヒントとなる情報提供を目的としています。
1.はじめに
お客様向けのモバイルアプリ開発のいくつかのチームではアジャイル開発(スクラム)を採用しております。筆者はそのチームに開発者として参画しておりました。本稿では当該案件での【レトロスペクティブ(振り返り)の運用事例】をご紹介いたします。
前提情報
- 参加人数:10名強(開発者、スクラムマスター、プロダクトオーナー)
- 開催形式:対面・リモートのハイブリッド(Teamsで画面共有をしながら実施)
プロダクトオーナ(PO)もレトロスペクティブに参加する狙い
- プロジェクトやプロダクトのビジョンを共有できる
- プロダクト目線と開発者目線の両軸での振り返りができ、偏りのないスクラム運営やプロダクト作製に臨める
- 相互フィードバックでよりスムーズで実のあるやり取りを実現できる
- 信頼関係が高まり本音で話し合える関係を構築できる
2.活用フレームワーク
我々のチームのレトロスペクティブ(振り返り)では【KPTフレームワーク】を採用しています。以下に沿って意見出しや議論を行います。
- K(Keep) :良かったこと・続けること (+メンバーへの感謝)
- P(Problem):どうにかしたいこと、不安なこと、困りごと
- T(Try) :新しくやってみること
3.レトロスペクティブのアジェンダ
● ポイント①:前回のレトロスペクティブで決定したNextActionを評価する時間を設ける
はじめ我々のチームではNextActionの評価ができておらず、
- NextActionを立てただけで実行されていない
- 効果は分からないけどなんとなくやっている
という状況に陥ってしまいNextActionが実施できていないというケースがありました。
そこで、レトロスペクティブの時間に前回のレトロスペクティブで決定したNextActionが、
- しっかり実行できたのか
- その効果はどうだったのか
- 継続/廃止/改良するのか
を議論する時間を設けるようにしました。
これにより、NextActionに取り組む意識やNextActionの内容が改善していきました。
● ポイント②:個人で意見を書いていく
意見のある人が口頭で順番に発言をして書記係がメモを取る手法もありますが、この手法は経験上以下の課題があると考えております。
- 公で発言しにくい人がおり、発言者に偏りが生じる
- 一人ずつ発言するため時間効率が悪い
- 書記係が書記に集中してしまい意見を上げにくい
個別で個人が自分の意見を自分で書く時間を設けることにより、これらの課題を解消することができます。
● ポイント③:NextActionは3つ程度に絞る
意識を持って取り組んでいかないといけないNextActionが多すぎると実行しきれません。我々のチームでは挙げられたTryに優先度や優先順位をつけ、3つ程度の項目に絞って特に意識していくNextActionとして立てています。(※ ただし、簡単に取り入れられるものは3つに限らずどんどん取り入れていきます)
Next Actionを決める時は以下をしっかりと決めるように留意しています。
- 問題・現状
- 改良アクション
- 誰が
- いつまでにやるのか
我々のチームではこれらを決定する際に以下のようなフォーマットを作成して記載して管理をしております。
※ NextActionは日々意識していくものなので、毎日メンバーが目を通す場所(タスクボードなど)に記載したり、毎回のクラムで共有するのがおすすめです。
NextAction(3つ)に入らなかったTryはどうする?
残ってしまったTryはNextActionとして管理はしませんが、レトロスペクティブ内で一つずつTryの確認を行い、簡素化して実行をしたり、次のスプリントで意識を持って実行していくようチーム内で認識合わせを行います。(実行すべきものが多いと対応しきれないので優先度が低いTryは次のスプリントでは一旦放置するのも一つの手です)
それでも次のスプリントでベロシティなどに影響が残り続けている場合は、レトロスペクティブ外で話し合いをして新たにNextActionとして採用をしたり、もう一度次のレトロスペクティブで優先順位の高いTryとして取り上げます。
● ポイント④:レトロスペクティブの内容を共有する時間を設ける
我々の案件では、3つのスクラムチームで開発を進めております。複数のチームがある場合、出した問題・解決策は他のチームと共有しなければもったいないです。
自チームで出てきた問題やNextActionは他のチームも将来的には起こりうる問題であったり、他のチームのアイデアやNextActionを取り入れることでより良いチームづくりに結びけられる場合も多々あります。そのため、他のチームとKPTを共有して自チームに適用できるか議論することにより、組織全体がより良い方向へ向います。
4.活用ツール・フォーマット
● ポイント①:共同編集できるExcelでKPTボードを作成し、付箋を貼っていく感覚で記入していく
付箋を貼るような感覚で各々が意見の書き込みを行うことで、自由に意見を書き込んだり、後々整理や議論をしやすくなります。
我々のチームでは以下のようなツールを使う上での工夫を行っています。
- すべての人が共同で編集できるツールを用いる:Excel、スプレッドシート、Miro、ホワイトボードなど
- 人によって色を分ける(誰が書いたか判別しやすくするため)
● ポイント②:「タスク」「ベロシティ」「コミュニケーション」「その他」で項目を分割して意見を出していく
項目を分割・明確にすることにより、意見を出しやすくしたり、意見が出てくる項目の偏りをなくして幅広い項目へのアプローチを実現することができます。また、項目ごとに分割されるので整理しやすく、見返しや議論も行いやすくする効果も期待できます。
※ チームや案件に応じて項目を絞ったり、「ファシリティ」「開発」など新たに増やしても良いと思います。
● ポイント③:関連するものは近くに寄せてグルーピング
関連する意見はグルーピングすることにより視覚的に議題が整理され、議論を進めやすくしたり、議論に深みを持たせることができます。また、関連する意見を視覚的に整理することによりアイデアとアイデアの組み合わせを行いやすくなり、思わぬ新しいアイデアが出てくるなどの効果も期待できます。
● ポイント④:共感したものには近くに各々がマーク!
共感したものにマークをつけていくことで、どのくらいのメンバーが記載事項に共感しているのかを可視化することができます。これにより、より優先して議論をすべき事項、NextActionとして取り入れていくべき事項が分かりやすくなります。
● ポイント⑤:議論したものについては形跡を残す
どういった背景や経緯でNextActionにつながったのかなど、証跡として後ほど確認できるようにしておきます。文書として残すことで、振り返りや対外への説明時に役立ちます。
● ポイント⑥:意識して取り組んでいくNextActionは明確にする
前述の通り、意識して取り組んでいくNextActionはTryに優先順位をつけた上で3つ程度に絞っています。ピックアップしたNextActionを明確にすることで、チームメンバー全員で共通認識を持てたり、より高い意識を持ってNextActionに取り組めるようになります。
● ポイント⑦:感謝も記していく
感謝を伝え合うことで、チームのエンゲージメントも上がり、関係構築にもつながります。感謝を受けた人にとっては今後も同じことをしていけばいいんだという行動の指針を得ることができますし、自己肯定感も上がります。
感謝は伝えてこそ意味あるものです。無理して絞り出す必要はありませんが、思い浮かんだ感謝は些細なことでもいいのでどんどん書きましょう!
5.他のフレームワーク(参考)
以下、我々のチームで検討したことのあるレトロスペクティブ(振り返り)のフレームワークをご紹介します。
① 『像、死んだ魚、嘔吐』
- 「像」:みんなが認識・把握しているが口には出していない問題
- 「死んだ魚」:何もせずにいると大変なことになる問題
- 「嘔吐」:胸の中で秘めている問題
こちらは我々のチームでも実践したことのあるフレームワークです。「問題」に焦点を当てたフレームワークなので、問題が山積しているような状態であれば本フレームワークの採用を検討してみてもよいと考えます。
他方で、「問題」に焦点を当てたフレームワークですので以下には留意が必要です。
- 「問題」を吐き出すだけで終わってしまい改善策を発案・実行しなければ意味がない
- 「良かった点」に焦点が当たりにくい
これらも議論できるようにアジェンダを組むことをおすすめします。
② 『スターフィッシュ』
- More of:増やすこと
- Start doing:始めること
- Keep doing:やり続けること
- Stop doing:諦めること
- Less of:減らすこと
こちらは「これからどうしていくのか」に焦点を当てたフレームワークです。我々のチームでも「やってみたい!」という声が多かったものです。
本フレームワークの特筆すべき特徴として、「諦めること」「減らすこと」が盛り込まれていることがあげられます。他のフレームワークを活用するとレトロを繰り返すたびに新しくやることが増えていき、チームの負荷が徐々に大きくなってしまいがちですが、それを防ぐことができます。
ただし、こちらのフレームワークは「これからどうしていくのか」に焦点を当てているため、「今どういった問題があるのか」の部分が議論されにくくなる懸念があります。本フレームワークを活用する際は、【KPT】や【像、死んだ魚、嘔吐】などの他のフレームワークとの組み合わせを検討してもいいかもしれません。
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