テックリードとして2025年を過ごしてみて
テックリードになって1年経った
私はマネーフォワードのクラウド経費というプロダクトのテックリードをしています。去年の末ごろに就任し、1年経ちました。
せっかく福岡拠点のアドベントカレンダーを書く機会が巡ってきたので、これを機に振り返りをしてみようと思います。
テックリードって何さ?
所属部署においてテックリードという職種は、役職ではなく役割として存在しています。そして私が就任した時は明確に役割として規定されておらず、何となく全体的な技術判断をする人、のような期待値でした。
そのため、前任から引き継いでから最初に悩んだのは「何をすればいいんだ?」ということでした(笑)。
とりあえず以下のように所信表明をしてみたりしてスタート!
テックリードの役割を明確化する
ということでまずは「テックリードの役割」の明確化を行いました。EM中心にステークホルダーと会話しつつ、まずはミッションを明確化しました。
結果として「高いインパクトのある技術課題を発見・解決する」ということをミッションとしました。何が高いインパクトのある技術課題か、は状況に応じて変わりうるものであり、それを発見するところも担うこととしました。
また「採用における技術的評価・既存メンバーの技術的な評価・メンターシップ」「重大なシステム障害の対応」「技術的な意思決定と推進」などを役割として明確にしました。曖昧になりがちなマネジメントの役割について、一定程度担うことを明確化できたのはよかったと思っています。
ビジョンと技術戦略の明確化
次に後述する技術負債を解消しつつ、ビジョンならびに技術的戦略を明確化しました。
ビジョンの策定
まずビジョンを定義しました。なぜビジョンを定義したかというと、理由は2つあります。
- テックリードは、自分たちの課題を技術の力で解決して楽しく働くためにやっているんだ!、ということを示し、周りを巻き込みたいため
- 何かを判断するときの判断基準にするため
結果として「認知負荷を減らし、機会を増やす」というビジョンを策定しました。
現在のわれわれにとって、認知負荷が「開発者体験」向上のための大きな課題であり、これを解決することで自分たちが楽しく働くことを大事にしたい、そういう想いを込めました。また開発者体験の向上はただの開発者の自己満足ではなく、開発生産性向上のために必要な要素でもあります。
開発者体験と開発生産性の関係性は以下のブログも参考にしてみてください。
そして開発生産性の向上は、試行回数の増加につながり、我々のビジネスが加速します。
そのためこのビジョンを追求することで開発生産性が向上し、ひいてはビジネスが成長し、自分たちに還ってくる、そういうポジティブなフィードバックサイクルにビジョンを位置付けました。
このビジョンに至るまでの想いやロジックは(グローバルメンバーもいるので)英語で記載し、誰でも見ることができるところに置いています。
なお、ビジョンは定期的に自分の言葉で語り、部内のメンバーに周知しています。これは部の仲間を一致団結させるだけでなく、自分を奮い立たせることにもつながりました。
技術戦略の明確化
次にビジョンを基に技術戦略を明確にしました。
どういう技術課題があって、どのような順番で解消していく予定かを英語で記載しました。
ビジョンをベースにしているので、自分のこれまでの課題感と結び付けて、ある程度スムーズに書けたように思います。
ドキュメントポータルの作成・運用や、複雑なコードベースのリアーキテクチャなど幅広く盛り込んでいます。
またこれらの戦略はタスク管理ツールなどを使って優先度付きでロードマップ形式で可視化し、今どういう課題があるかをステークホルダーにも一目で分かるようにしています。
大きな技術負債の解消
この1年で、採用・評価やシステム障害対応と並行しつつ、いくつかの大きな技術課題を自らイニシアチブを取って解消しました。
まず Ruby のバージョンアップを行い、YJIT を有効にして全体のパフォーマンスを向上させました。
(ちなみに Rails アップデートは、チームのシニアエンジニアが進めてくれました)
また、アクセスログ基盤の無停止刷新が必要になったので、SRE 領域のケイパビリティを拡張して課題解決を行いました。これは来年の SRE Kaigi 2026 で発表できるほどの成果となりました。
加えて、 GitHub リポジトリの分離作業を行いました。数十人のエンジニアが日々作業する、数十万コミット以上あるリポジトリを分割するという、あまり前例のないことをゼロベースで考えて実施しました。
個人的には一番大変で苦労させられた技術負債で、これまでのキャリアでも一番難易度の高い課題だったように思います。
詳細については、またどこかで発表できればなと思っています。
今後やりたいこと
この1年でステークホルダーに期待値をヒアリングして役割を明らかにし、技術的戦略を打ち立て、いくつかの大きな技術負債の解消を実現することができました。
主観的には、手探りで始めた割にはいい感じになってきたのではないかな、とちょっと自分を褒めてあげたいと思います。
一方で、残っている技術課題の解決など、まだまだやりたいことはあります。特に「技術戦略と事業戦略と組織戦略をより密に連携させる」ということは今後やっていきたいと思っています。
これらを統合するために定期的にPdMやEMと会話する機会は増やせていますが、改善ポイントはたくさんあります。次の1年で実現していければ。
こう感じるようになったのは ogugu さんのスライドを拝見したことがきっかけでした。どうあるべきか迷っていた時期、色々なテックリードの事例を探していた中で出会いました。こうありたい。
ちなみに自分のこだわりとしては、以前インタビューいただいた時から変わらず「技術とビジネスをつなぎたい」という気持ちが強いです。現在担っているテックリードの役割は、偶然か必然か、自分の目指しているものにもなっていますね。
テックリードとAIと技術的成長
テックリードになった時は「これできるのか...?」とあまり自信がなかったですが、がむしゃらに1年やってみると色々できたなぁと思います。
特に「手を動かす時間が減って技術的な成長が止まってしまわないか」という不安がありました。しかし結果として、SRE Kaigi 2026 規模の技術カンファレンスに通せるほどの技術的成果を出すことができ、リポジトリ分離のような以前の自分では達成できなかったであろう技術的課題も主導して解決でき、杞憂に終わりました。
自分が手を動かすことの意味付けをしっかり行うことができたことが、結果的に手を動かした結果の価値を高めることとなり、そこからの気づきも多く得られたことで、技術的に成長できたように思います。
生成AIが台頭したことも個人的には良かったと思います。個人的にAIを一番使っているのは「未知の技術の学習」をするときです。意外と良いのでおススメです。
ちなみに福岡拠点のいいねさんも同様の記事を書いているのでぜひ見てみてください。
また、ある程度自分が分かっているが面倒なこと(テストコードとかw)についてはAIに先にざっと書いてもらうことで時間を大幅に短縮できました。どうしてもプレイヤーをやる時間が少なくなっていたので、これは非常に助かりました。
あとは文章を書くのにも良いですね。校正をしてもらいつつ、自分とは異なる視点を入れることでバイアスを排除をすることに役立っています。とりわけ英語で文章を書くときも、英語の正しさをレビューしてくれるので助かっています。
いつもありがとう
テックリードとして無事に役目を果たしつつ、これらの成果を出せたのはマネーフォワード福岡拠点のみなさんのおかげです。この場を借りて感謝を述べたいと思います。2026年も共に頑張っていければ。
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