心理的安全性のアンチパターン②
1.概要
現場で心理的安全性の確保に失敗していると思う人は、自分本位で進めている人が多いように思います。その中でも、自分本位の人がやりがちな、以下2つの事例について記載したいと思います。
- 一方通行の善意を行う
- 忖度(空気を読む)
2.一方通行の善意では心理安全性を確保できない
心理的安全性を確保できない人のほとんどは、一方通行の善意で物事を進めているように思え、悪意を持って実施している人は少ない感じです。
つまり、現状の大きな問題を解決してほしい、育ってほしい、強くなってほしいために不安や恐怖を与え育てようとしてしまいます(難しい案件や炎上案件に入れれば人は育つ!と考える)。
本人は善意で行っている=いいことをしていると思い込んでいるので、現状とのギャップが大きくなりやすい傾向があります。
例えば、本来上司が行ってはいけないことを、以下のように判断することがあります。
■ 難しく残業だらけの案件をやらせる
(上司視点)強く成長してほしい
(部下視点)こちらの気持ちを考えてくれない、精神的につぶすつもりか!
■ 細かく指示を出す
(上司視点)丁寧に教えてくれるいい上司
(部下視点)自分のことを信じてくれない
■ 指示を出さない
(上司視点)相手に考えさせる癖をつけさせる
(部下視点)仕事を与えてくれない、見てくれない、評価してくれいない、頼ってくれない
■ 相手の話を聞かない、一方的にしゃべる
(上司視点)重要なことを常に伝えてくれるいい上司
(部下視点)自分の意見ばかり言う、こちらの気持ちを分かってくれない
2.1 一方通行の善意の問題点
- 絶対にやめない
相手は善意でやっているので、そのことを問題として指摘すると非常に怒ります。
(上司視点)いいことをやっているのになぜ否定されないといけないのか!
そのため、相手は絶対にやめようとせずに同じことを何度も繰り返すことになります。部下のモチベーションが下がっても、相手が悪いと思うようになります。
そしてさらにかたくなになる、の悪循環に入ってしまいます。特に我の強いタイプや共感性の低いタイプが行ってしまうことが多い印象です。
※振り返りを行っても必ずいいこと(Keep)に含め、次も行いたいこと(Try)としてしまう。
- 上司の上司はいいと判断する
相手はいいことをしているので、いい結果しか見ない、もしくは報告しないことが多いです。例えば、何人も退職者が出るような会社であれば、退職率を出さず、売り上げなどの数値に直して報告します。そのため上司の上司はいい結果しか見ないので、問題ないんだな、と判断されます。
- 人が辞めやすい
一方通行であるため、部下側の意見をくみ取ってくれることはありません。また、指摘しても怒られるので、部下としてできる対処方法は**「環境を変える」**以外になくなります。
つまり、退職することが一番の近道になります。
結果として退職者が大幅に増加します。しかし行っている側はそのことがわからないので退職者の増加を防ぐことはできません(いいことをしているのになぜ辞めるのか!)。
- 問題を解決するのは部下の仕事になる
本人はいいことをしているので、失敗を部下の責任にしやすくなります。部下はこれ以上失敗しないように、何も発言しなくなります。
以上から一方通行の善意は直そうと思っても直せないので、非常に厄介な存在でもあります。部下から見れば、何を言っても意味がない、ととらえられ最終的に何も発言しなくなります。
結果的に、恐怖や不安を与え育てるような場ができあ上がり、心理的安全性が全く確保できない強固な土台が出来上がります。
2.2 一方通行の善意で失敗しない方法
一方通行で失敗しないための方法としては以下が挙げられます。
- 必ず振り返りを行う
⇒この時、一方通行の人がいる場合といない場合の2回行います。
そうすると振り返り結果がガラリと変わるので、問題点をあぶりだしやすくなります。
- 振り返った結果は第三者が評価する
⇒振り返った結果は必ず第三者が評価してください。
上司の上司も同じ考えであるなら、別の部署の人かさらに上にいる人が良いです。
- 多方面の結果から評価する
⇒売り上げだけでなく、退職率、部下の声、作成した成果物などから評価してください
いい悪いを判断するのは自分ではなく、マネジメントを実施している対象相手であることを意識してください。そのため、相手に合わせたマネジメントというのが非常に重要な要素となります。
3.忖度(そんたく)すると部下を疲弊させる
忖度をさせると部下が疲弊することが多いです。なぜなら、読まなくてもいいところまで読んでしまうからです。
相手から「これをやっといて」といわれ、間違いなくできる人はどのくらいいるのでしょうか?大抵これも必要かな、あれも必要なかな、と考えないでしょうか?
忖度をすると相手が指定した以上の範囲を考え実施することが多く、結果として無駄な作業が発生します。無駄な作業を指摘してくれる上司ならいいのですが、忖度を求める上司は大抵何が必要な作業か名言しないことが多くあります。
結果として聞きたいことが聞けないので、何も言わず作業をすることになり、間違う⇒怒られるを繰り返すことになります。
そして、最終的に疲れて何も発言しなくなり、心理的安全性が確保できなくなります。
3.1 忖度の問題点
- 不要な作業を多くする
⇒部下は間違わないように不要な作業を大量に行い、状況に合わせて提出するという策を取ることが多くなります。
- 権限を持つ人が不明確
⇒誰に聞いて作業を進めればいいのかわからなくなります。そのため、本来承認が必要な人を通さずに作業を進めてしまい、提案や契約時などで問題が発生します。
- 忖度をさせる人の限界が組織の限界になる
⇒忖度させる人の考える範囲でしか仕事ができなくなるので、その人が考えられること=できることになります。そのため、忖度させる人が考え付かないようなことができなくなり、新技術の開発等がなくなります
どうして忖度ができないのか、考える人もいると思いますが、私が上記を聞かれた場合は**「予想はできても予知はできない」と答えます。
・予想 ⇒こういったことが必要かと考え準備する
・予知 ⇒こういったことが「100%」起こるので準備する**
3.2 「忖度+自由にやらせる」はやってはいけない
特にやってはいけないことは、忖度を求める上司が「自由にやっていいよ」と言うことです。自由にといいますが、予算の都合等で本当に自由にできることは、ほとんどありません。
そのため、部下側はどこに制約条件があるのか考えるようになり、その制約条件を超えるための方法を第一に動きます。
結果として、制約条件をどうするか、といった話に始終しがちとなり、まったく前に進めなくなります。
「忖度+自由にやらせる」と見えない制限をかけることになります。そのため、大抵は**「みんなを尊重している」「自由にやるいい会社」という対外アピールやパフォーマンスとなることが多い**です。
3.3 忖度で失敗しない方法
- 自分から動く
⇒問題があるなと思ったら、相手からではなく自分から動くことを意識してください。
相手を先回りしてサポートすることで、信頼が向上します。
- 成果物は早めに提出させる
⇒できていてもできていなくても、成果物に期限を区切り、早めに提出させるようにしてください。相手の誤っていることを早めにキャッチアップできます。
4.「一方通行の善意+忖度+自由にやらせる」と弱い組織となる
そして最もやってはいけないことは、**「一方通行の善意+忖度+自由にやらせる」**を行うことです。上記を行うと前述で記載したように、まず上司の考えていることしかできなくなります。
そして、否定的な意見を言う人を「いいことを言っているのになぜそういったこと言うのか!?」と排除するようになります。
そうすると自分にとっていいことだけ言ってくれる人 = イエスマンだらけになります。
この状況を変えようとしても、
Noといえる人が欲しい ⇒Noという ⇒いいことをやっているのに何でで否定する!!⇒Noといった人が退職 ⇒イエスマンだけ残る ⇒Noといえる人がほしい… 以下同上
となり、脱出できない無限ループにはまることになります。
また、Noと言えないがYesとも言いたくない人が多くなる場合もあります。この場合、上司の下につくイエスマンがいなくなるので、上司-平社員といった中間管理職が全くいない組織が出来上がります。
結果として、何も挑戦できない・挑戦しない弱い組織が完成します。
5.まとめ
心理的安全を確保し強い組織を作りたいのであれば、一方通行の善意や忖度を行ってはいけません。
最終的には自分にとって都合の良い人だけ残り、本来組織を大きくしてくれる人がいなくなってしまいます。
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