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心理的安全性のアンチパターン③

2022/05/01に公開

1. 概要

心理的安全性のアンチパターン第三弾として、心理的安全性を阻害する要因となりやすい「空気を読む」文化について、もう少し深堀したいと思います。

「空気を読む」とは

その場の雰囲気から状況を推察する。特に、その場で自分が何をすべきか、すべきでないかや、相手のしてほしいこと、してほしくないことを憶測して判断する、

というのが一般的な定義となります。ここで最も問題となる要因は、最後の「憶測して判断する」になります。「憶測して判断する」ゆえに事実とのずれが起きやすく、結果として目的から外れることがあります。

2. 「空気を読む」が悪い理由

「空気を読む」場合、どういった行動をとるのでしょうか?

例えば、相手が「なんでも聞いていいよ」と言ったとします。心理的安全性が高い場合は、その言葉通りなんでも質問することになるでしょう。

ただ、「空気を読む」文化が蔓延している場合、まず疑いから入ります。

  • 本当に何でも聞いていいのか?
  • 聞いてはいけない質問があるのでは?
  • 聞いてはいけない質問とは何か?

「ここを聞いても大丈夫か?」「怒られるのではないか?」と憶測を重ね、最終的には以下の行動を起こします。

  • 怒らない部分がわからない場合 ⇒何かあったら連絡します、と質問を避ける。
  • 大丈夫だった場合 ⇒本当に大丈夫か確信がないので、質問を小出しにして確認する。

つまり、

  1. 疑うことから始まる ⇒信用がない
  2. 小出しにする ⇒地雷を避ける=本質的な質問を行わない

ということになります。心理的安全性は信頼関係と置き換えることができると思っていますので、1.が行われる以上、信頼関係を築くことが非常に難しいと言えます。また、2.があるため、本質的な質問をせずに、表面的な話ばかりになります。

「空気を読む」が悪い理由その2

「空気を読む」文化が蔓延している場合空気を読まない人を排除することが度々あります。空気を読まない人を「やる気のない人」、「評論家」、「和を乱す人」と考え、悪人のように対応します。

心理的安全性が高い場合、それぞれが活発に意見を言い合いますので、いい意味でけんかが起きます。

しかし、「空気を読む」文化の場合は、意見を言い合うのではなく文字通り排除に動くので、議論より「相手を倒すこと」が主軸となります。

「相手を倒す」方法は、いい議論をするよりも非常に簡単です。単に相手の意見を論破すればいいだけだからです。この論破する方法として、私はゼロイチ戦法と名付けた方法を使っているのをよく見かけます。

ゼロイチ戦法とは、

  • ちょっとでも悪いこと(ゼロとなる)があれば、あなたの意見は間違っています。
  • ちょっとでも良いこと(イチとなる)があれば、私の意見は正しいです。

と言って、話を極端に持っていくことで、常に相手に対して優位な位置から論破する方法です。

利用方法は、まず相手の方から意見や提案を「言わせます」。その後、その提案に対して何度もダメ出しを重ねればOKです。

例えば、「勉強会を開いて開発メンバーの技術を向上したい」とあれば、

  • なぜ勉強会を開催したいのか?
  • それはどんな効果があるのか?
  • ターゲットは誰なのか?
  • それでいくらの価値になるのか?

と、意見を言ってきた人に言い、上記に対して次の意見を言った来たら、

  • それは勉強会でする必要があるのか?
  • 効果はそれしかないのか?
  • ○○をターゲットに入れていない理由は何か?
  • その価値が正しいという根拠は何か?

と、とにかく相手の意見をダメ出ししていきます。特に目的や目標に対してダメ出しを重ねていくと、どんどん軸がぶれていきます。そして、軸がぶれたところで「そもそも根本的に、なぜこんなことをしてるのか?」と言えば、これまでの議論をはじめからやり直しにさせることができます。

上記を何度も重ねると、勉強かについての議論が何一つ進まず、相手がどんどん疲弊していきます。そすれば、最後に相手は何を言えなくなり、「相手を倒す」ことができます。

また、ダメ出しを続けていると相手から「では、どうやったらいいと思いますか?」と聞かれることがあります。その時は、「ちょっとでも自分の言っていることが正しいければ、こちらの勝ちです」、と言った風に持っていきます。

やり方は、一般論で回答する、です。

例えば、前述の「勉強会を開いて開発メンバーの技術を向上したい」であれば、

  • 仮説検証を用いればいい
  • PDCAサイクルを回せばいい
  • できる人の意見を聞けばいい
  • みんなで頑張ればいい

と回答します。もし詳しく聞かれた場合は、仮説検証の細かい手法を説明する、などして対応します。その際、「そんな方法でうまくいくのですか?」と聞かれれば、相手をダメ出しするように返事をします。

つまり、「あなたは試したことがあるのですか?」、「なぜ説明したのに動かないのですか?」、という風に話を持っていきます。話を一般論に置き換えることで、さもあっているかのように説明し「相手を倒します」。

ゼロイチ戦法を使用することで、相手は意見を言うことも聞くこともできなくなります。相手を論破し倒すだけなので、何も物事が進みませんし、問題も解決できません。結果として「相手を倒すこと」ができ、健全な議論を行うことができません。

3.空気を読まなくても同じ結果が返ってくる

「空気を読む」文化は、空気を読まない人を排除することを記載しました。ただ、「空気を読む」文化がなくても、上記のスパイラルにはまることがあります。

それは、目的・目標を高く、もしくは曖昧に設定した場合です。目的・目標をできるだけ高く、もしくは曖昧に設定すると、それに対応する手段を思いつかなくなります。(目標が高すぎるゆえに、達成している姿を想像できない。イメージできないものをイメージしろ、という話になっている)

そのため、行うべき手段がありきたりなものになってしまい、目標からトップダウンで考えると手段と一致しないことになります。結果、目標そのものが手段を排除するための根拠となってしまい、すべての手段がなくなることになります。

例えば、目標が「自社の活動を周知させ顧客を増やす(目標が曖昧なパターン。誰に周知させるのか、どのくらい増やすのか、がない)」場合、手段として以下を思いついたとします。

  • 技術ブログを立ち上げ、自社の技術力を広げる
  • 社外勉強会など開き、発表や動画配信をする
  • 会社のメンバーから技術に対する意見を集め、wikiを作成する

この場合、目標が曖昧なため以下のような否定を受けることになります。

  • ほかの会社もやっているのに、なぜ技術ブログで顧客が増えるのか?
  • 人が本当に集まるのか?集まるなら何人集まるのか?
  • これでいくらの価値になるのか?

その結果、「相手を否定して倒す」と同じ流れに乗ることになり、意見が言えなくなっていきます。最悪手段そのものがなくなり、何も行動に移せなくなります
(その後、上記の目標を言った人の手段が採用されます。誰も文句が言えないので、そのまま採用されます)

4.空気を読む文化が蔓延するとどうなるのか

「空気を読む」文化が蔓延すると以下のようになっていきます。

  • チャレンジする人と空気を読まない人との区別がつかなくなる

チャレンジする人を空気を読まない人として排除する。それを部下が見て、チャレンジするとどんな目に合うかを学ぶ。その結果として、チャレンジする人が減少する。

  • 言語化しなくなる

言葉にしなくても伝わると考え、ドキュメント等に残さなくなる。そのため、後から参加した人は経緯がわからず、なぜ失敗したのか、どうして行動しなかったのか、迷うことになる。また、いざドキュメント化しようとしても、さぼっていたため言語化できない。

  • 問題提起しなくなる

空気を読んで問題を言わなくなる。そのため、常に同じ問題が繰り返されることになり、問題そのものを解決できなくなる。(人が辞めやすい、自主性がない、言わないと動けない人が多い。。。など)

  • 危機管理ができなくなる

無茶な案が提案されても、否定することができなくなる。そのため、事前に管理をしようと思っても誰も危機的状況を説明しないので、問題が起きてから対処するようになる。

5.「空気を読む」が蔓延する理由

「空気を読む」が蔓延する理由は、管理側からすると「空気を読む」が非常に楽な管理方法となっているのが理由の1つと考えています。

  • 詳しく説明しなくてもいい ⇒説明が少なくて済む
  • 詳しく指示しなくてもいい ⇒指揮命令が少なくて済む
  • 詳しく資料を作成しなくてもいい ⇒ドキュメントが少なくて済む

つまりマネジメントのタスクを減らすことができるので、空気を読む会社=マネジメントを行わない会社、と言い換えることもできます。

しかしながら、結果としてマネジメントに関する問題が続出することになるので、改善が必要になってきます。

6.空気を読む文化をなくす

「空気を読む」文化を持つところは、空気を読まない人を排除します。そのため、心理的安全性の定義である、

「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるか

が満たせなくなります。

では、「空気を読む」文化をどのようにして直せばいのでしょうか?

1つは提案・打ち合わせを行う際にルールを決めることです。例えば、

  • 相手を否定することを言うのはやめて、もっと良くなる方法を言うようにしましょう
  • 相手が話している際は、話し終わってから意見を言いましょう
  • 全員が意見を言いましょう(1回意見を言うと、一巡するまで待つ)
  • 会議の初めに目的を定義しましょう(ブレストしてたくさんの意見がほしい、問題点を洗い出してほしい…など)

ただ、こちらを採用してもルールを無視して話し出す人がいることもあります。そのため、まずは少数の会議から適用し、効果が出てから広めるべきだと思います。(ルールを守らせるという「空気を読む」会議を作る)

また、絶対にやってはいけないことは、管理側に改善を依頼したり、全体に説明することです。管理側からすれば「空気を読む」文化はとても仕事がやりやすい環境となっているので、動きにくい環境作りを提案されている、と感じます。(空気を読まない人を排除するパターンとなる)

全体に改善を説明した場合は、「と言いながらも、何か言うと怒るのでしょう」と、とらえられ、改善活動に協力してくれない場合が多くあります。

7.まとめ

空気を読む文化が蔓延している場合、本当の問題を解決できなかったり、問題提起できなくなっている場合が多いように感じます。そのため、何度も同じ問題を繰り返すことになってしまいます。

何年も同じ問題を抱えている、というチームがありましたら、心理的安全性が確保できているかどうかを考えてみるのもいいかもしれません。

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