あなたが居ないと困るのは、その程度しか属人化していないから
はじめに
昔働いていた場所で「僕がいなくなったらこのチームはどうなってしまうんだ?」とふと思ったことがありました。それは、ある種の責任感と少しばかりの自負を感じていた時期でした。
その当時、その会社の偉い人に相談する機会があり、属人化に関する話題になったときに、意外な言葉をかけられました。
その仕事がその人以外誰もできないのは、その仕事がその程度しか属人化していないからだよ。
この言葉は、私の「属人化」に対する考え方に「属人化が必ずしも悪ではない」という新しい視点をくれました。今回は、この言葉をきっかけに考えた「属人化」についてお話ししたいと思います。
一般的な「属人化」とその課題
まず、私たちが一般的に「属人化」と聞いてイメージするのは、上記の文脈でいうところの「浅い属人化」です。これは「その人がいないと業務が回らない」状態を指します。
例えば、以下のような状況です。
- 特定の個人しか業務の進め方や知識(ノウハウ)を知らない
- 業務プロセスがブラックボックス化している
これは組織にとって大きなリスクであり、避けるべき状態であることは、皆さんもご存知の通りです。
「その程度しか属人化していない」の真意
では、あの偉い人の言った「その程度しか属人化していない」とは、どういう意味だったのでしょうか。
当時、私はこれを「『その人のアウトプット』にしか価値が依存していない」状態を指しているのだと想像し、解釈しました。つまり、その人の存在自体がボトルネックになっており、組織に対して永続的な価値を残しているわけではない、という少し厳しい見方です。
その人がいる間は仕事が回るかもしれませんが、それはあくまで個人の「作業」に依存しているに過ぎません。
目指すべき「真の属人化」とは?
本人に直接聞いたわけではないので推測になりますが、彼が伝えたかった「真の属人化」とは、次のような状態だったのではないかと思います。
その人の持つ独自のスキル、経験、思想に基づいて、その人にしか作れない「優れた仕組み(システム、フレームワーク、ツールなど)」を創造すること。
この「仕組み」は、必ずしも誰もが簡単に使えるものとは限りません。利用するために新たな技術の学習が必要になることもあるでしょう。
しかし、重要なのは、その人がいなくなっても「仕組み」は組織に残り続けるという点です。他のメンバーはその仕組みを利用して高いレベルの業務を遂行でき、さらに改善(アップデート)していくことも可能です。
つまり、「真の属人化」とは、「その人にしか生み出せない創造的な価値によって、組織全体が強化される仕事」を指すのです。
この場合、その人の価値は日々の「作業」ではなく、「仕組みを創造したこと」そのものにあります。そして、この仕組みが組織に浸透し、活用されていくことで、その人の影響力は退職後も拡大し続けるのです。
「標準化」との違い
「それって『標準化』と何が違うの?」という疑問が浮かぶかもしれません。私も最初はそう思いました。両者の違いを、私は次のように整理しています。
標準化 | 真の属人化(仕組みの創造) | |
---|---|---|
目的 | 誰がやっても同じ成果を出せるようにする(平均レベルの底上げ) | 誰がやってもより高い成果を出せるようにする(基準そのものを引き上げる) |
アプローチ | やり方(How) の統一。既存業務のベストプラクティスをマニュアル化する。 | 考え方・仕組み(Framework) の創造。個人の知見から全く新しいプロセスやツールを生み出す。 |
標準化が既存業務の中から最も良いやり方を見つけ、横展開する活動であるのに対し、「真の属人化」は、個人の深い知見や独創的な発想から、全く新しい業務プロセスやツール、判断基準などを生み出す、より創造的な活動だと言えます。
おわりに
振り返ってみると、あの役員の言葉は、私に対して「組織に永続的な価値を残せる『仕組みの設計者』になってほしい」という、大きな期待を込めたメッセージだったのかもしれません。もしくは、「調子乗んなよ!」とも聞こえます(笑)
彼は社内で「サラッと名言(迷言?)を残す人」として有名でしたが、その言葉を深く解釈しようとすると、ハッとさせられることがたまにありました。これは自分で勝手に解釈してハッとしたことの一つです。
「僕がいなくなったらどうしよう」という悩みは、「僕がいなくなっても価値が残り続ける仕組みをどう作るか」という、より建設的で面白いテーマへと変わりました。そして今の会社では今の会社から求められるQAエンジニアのミッションに合うような仕組みづくりや自社独自のテスト設計プロセスを作る仕事に活かされています。
もしあなたがかつての私と同じような悩みを抱えているなら、この「真の属人化」という考え方が、何か新しい視点をもたらすきっかけになれば幸いです。
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