はじめに
記事の目的は下記リンクへ移植しました.
https://zenn.dev/leaf/articles/191acef64823fa
線形空間
公理
\begin{aligned}
&集合V\not ={\phi}が\forall \bm{x}_{},\forall{\bm{y}_{}}\in V,\forall k\in\mathbb{K}に対して\bm{x}_{}+\bm{y}_{}\in V,k\bm{x}_{}\in Vが定義されて\\
&いる.このとき,\\
&(1)\quad \forall{x},\forall{y},\forall{z}\in{V},(\bm{x}_{}+\bm{y}_{})+\bm{z}_{}=\bm{x}_{}+(\bm{y}_{}+\bm{z}_{})\\
&(2)\quad \forall{x},\forall{y}\in{V},\bm{x}_{}+\bm{y}_{}=\bm{y}_{}+\bm{x}_{}\\
&(3)\quad \forall{\bm{v}_{}}\in{V},\exist{\bm{0}_{}}\in{V},\bm{v}_{}+\bm{0}_{}=\bm{0}_{}+\bm{v}_{}=\bm{0}_{}\\
&(4)\quad \forall\bm{v}_{},\exist({\bm{-v}_{}}),\bm{v}_{}+(\bm{-v}_{})=(\bm{-v}_{})+\bm{v}_{}=\bm{0}_{}\\
&(5)\quad \forall{k}\in{\mathbb{K}},\forall{x},\forall{y}\in{V},k(\bm{x}_{}+\bm{y}_{})=k\bm{x}_{}+k\bm{y}_{}\\
&(6)\quad \forall{k},\forall{l}\in{\mathbb{K}},\forall{\bm{v}_{}}\in{V},(k+l)\bm{v}_{}=k\bm{v}_{}+l\bm{v}_{}\\
&(7)\quad \forall{k},\forall{l}\in{\mathbb{K}},\forall{\bm{v}_{}}\in{V},(kl)\bm{v}_{}=k(l\bm{v}_{})\\
&(8)\quad 1\in{\mathbb{K}},\forall\bm{v}_{}\in{V},1\bm{v}_{}=\bm{v}_{}\\
&を満たすとき,Vを線形空間,その要素をベクトルと呼ぶ.
\end{aligned}
結合法則や分配法則など見慣れた法則が多いと思いますが,実数とごっちゃにしないでください.
線形代数というのは基本的にこの線形空間の公理を満たしている数学的対象をターゲットにしています.
また,線形空間の諸定理はこれが前提にあります.
述語論理
\forallや\existの使い方については数学を学んでいく上で最低限は読み書きできたほうがいいです.
線形空間の公理はこの量化子の順序で混乱しやすいです.
下記pdfで必要な知識は身につくでしょう.
(http://student.sguc.ac.jp/i/st/learning/logic/述語論理.pdf)
線形代数で扱うベクトルは高校で学んだあのベクトルを含みますが,もっと抽象化された概念です.
高校までのベクトルは常に幾何学的な性質と並行してベクトルの実態を把握してきましたが,線形代数では上記の線形空間の公理を満たす数学的対象は全てベクトルとして扱います.幾何学的な性質はひとまず忘れたふりをしてください.
線形空間の公理というのは,幾何学的なイメージを脱したベクトルとは何かという問いのアンサー,つまり,これこそがベクトルの実態だという代数学の主張です.
ともなれば,これから扱うベクトルにもはや幾何学的”矢印”は不要です.\vec{v}という書き方はせず太字で\bm{v}_{}と表記します.
\mathbb{K}というのは体(たい)のことです。体というのは簡単に言えば演算が実数的な集合のことです。
したがって、\mathbb{K}はしばらくは実数のことだと思ってもらって問題ないです。その場合Vは実線形空間という呼び方になりますが、特に断らない限りこの記事ではこれを線形空間と呼ぶことにします。
定理
\begin{aligned}
&\forall{\bm{v}_{}}\in{V},\exist{\bm{0}_{}}\in{V},\bm{v}_{}+\bm{0}_{}=\bm{0}_{}+\bm{v}_{}=\bm{0}_{}を満たす \bm{0}_{}はただ1つ存在する.
\end{aligned}
公理では存在するとしか言っていませんが,\bm{0}はただ1つしか存在しません.
頑なに論理記号を使うと
\forall{\bm{v}_{}}\in{V},\exist!{\bm{0}_{}}\in{V},\bm{v}_{}+\bm{0}_{}=\bm{0}_{}+\bm{v}_{}=\bm{0}_{}
と表記できます.\exist!はただ1つ存在するという意味です.
定理
\begin{aligned}
&\forall\bm{v}_{},\exist({\bm{-v}_{}}),\bm{v}_{}+(\bm{-v}_{})=(\bm{-v}_{})+\bm{v}_{}=\bm{0}_{}を満たす \bm{-v}_{}はただ1つ存在する.\\
\end{aligned}
これも同じです.
線形結合
定義
\begin{aligned}
&k_1,k_2,\dotsm,k_i\in\mathbb{K},\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i\in{V}とする.\\
&\sum_{j=1}^{i}k_j \bm{v}_{j}= k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_i\bm{v}_i\\
&を\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iの線形結合という
\end{aligned}
線形独立
定義
\begin{aligned}
&k_1,k_2,\dotsm,k_i\in\mathbb{K},\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i\in{V}とする.\\
&k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_i\bm{v}_i=\bm{0}_{}\Rightarrow k_j=0\quad(j=1,2,\dotsm,i)\\
&となるとき, \bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iは線形独立という.\\
\end{aligned}
高校のころ決まり文句で書いていたあれです.
線形従属
線形従属はただの線形独立の否定です.線形独立に関する議論が多いので名前がついているんでしょう.
定義
\begin{aligned}
&線形独立ではない.すなわち,\\
&k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_i\bm{v}_i=\bm{0}_{}のとき,k_jの中に少なくとも1つは0ではない\\&ものが存在する\\
\end{aligned}
定理
\begin{aligned}
&\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i\in{V}が線形従属\\
&\Leftrightarrow 少なくとも1つのベクトルを残りのベクトルの線形結合で表示できる.
\end{aligned}
証明
\begin{aligned}
&k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_i\bm{v}_i=\bm{0}_{}を満たすk_r(r=1,2,\dotsm,i)の内少なくとも1\\
&つは0ではない.そこでk_i\not ={0}とすると\bm{v}_{i}=-\sum_{j=1}^{i-1}\frac{k_j}{k_i}\bm{v}_{j}が得られる.一方\\
&\bm{v}_{i}=-\sum_{j=1}^{i-1}\frac{k_j}{k_i}\bm{v}_{j}\Rightarrow \sum_{j=1}^{i-1}\frac{k_j}{k_i}\bm{v}_{j}+\bm{v}_{i}=\bm{0}_{}\\
&これは \bm{v}_{i}の係数が1なので線形従属である.\\
&以上が全てのk_jについて成立する.
\end{aligned}
定理
\begin{aligned}
&\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i\in{V}が線形独立であるとする.このとき\\
&\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i,\bm{u}_{}\in{V}が線形従属\\
&\Rightarrow \bm{u}_{}は \bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iの線形結合で唯一に表示できる.
\end{aligned}
証明
\begin{aligned}
&まず, \bm{u}_{}が常に \bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iの線形結合で表示できることを示す.\\
&\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i,\bm{u}_{}は線形従属であるから少なくとも1つのベクトルを残り\\
&のベクトルの線形結合で表せる. そこで\\
&\bm{v}_{r}=k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_{r-1}\bm{v}_{r-1}+k_{r+1}\bm{v}_{r+1}+\dotsm+k_i\bm{v}_i+k_u\bm{u}_{}とする.\\
&この式でk_u=0とすると \bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iが線形独立であることに反するの\\
&でk_u\not ={0}である.よって, \bm{u}_{}を \bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iの線形結合で表示できる.\\
&以上より,常に\bm{u}_{}を\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iの線形結合で表示できる.\\
&\bm{u}_{}を2通りの線形結合で表示したとすると次のような計算が成立する.\\
&\begin{aligned}
l_1\bm{v}_{1}+\dotsm+l_i\bm{v}_{i}&=m_1\bm{v}_{1}+\dotsm+m_i\bm{v}_{i}\\
(l_1-m_1)\bm{v}_{1}+\dotsm+(l_i-m_i)\bm{v}_{i}&=\bm{0}_{}\\
l_1-m_1=\dotsm=l_i-m_i&=0\\
l_1=m_1,\dotsm,l_i=m_i&\\
\end{aligned}\\
&よって唯一である.
\end{aligned}
早速定理を活用して証明しています.
基底ベクトル
定義
\begin{aligned}
&\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i\in{V}について,\\
&(1)\quad 線形独立\\
&(2)\quad \forall{\bm{v}_{}}\in{V},\exist{k_j}\in{\mathbb{K}},k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_i\bm{v}_i=\bm{v}_{}\\
&の2つを満たすとき, \bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_iをVの基底ベクトルという.
\end{aligned}
練習のためあえて量化子を用いました.
\forall{\bm{v}_{}}\in{V},\exist{k_j}\in{\mathbb{K}},k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_i\bm{v}_i=\bm{v}_{}
を翻訳すると
どんな\bm{v}\in{V}に対しても,k_1\bm{v}_1+k_2\bm{v}_2+\dotsm+k_i\bm{v}_i=\bm{v}_{}を満たすk_jが存在する.
という意味です.より分かりやすい表現を使うと,
すべての\bm{v}\in{V}が\bm{v}_1,\bm{v}_2,\dotsm,\bm{v}_i\in{V}の線形結合で表示できる.
ということです.
基底ベクトルというのは線形空間の全てのベクトルを表示できるえらいやつです.
今後詳しく掘り下げていきます.
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