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【情報数学】線形代数/対角化とその応用

2022/01/31に公開

はじめに

【情報数学】にてこの記事の目的について読んで頂けると幸いです。

線形代数のスクラップ

対角化

定義

ある正則行列Pに対し,P^{-1}APが対角行列となるとき,このPとP^{-1}A\\ Pを求めること.

この対角化に対する疑問は次の2点でしょうか.

  1. どうすればPを求められるのか
  2. こうして得られた対角行列の使い道はなんなのか

ちなみに,対角化する方法は1通りではないということに注意してください.

具体例

A= \begin{pmatrix} 3 & 1 & 1 \cr 2 & 4 & 2 \cr 1 & 1 & 3 \end{pmatrix}

の対角化の手法を確認していきます

第一ステップ

Aの固有方程式F_A(x)=(x-2)^{2}(x-6)=0よりAの固有値\lambda=2,6を求め\\ る.

第二ステップ

固有値それぞれの固有空間の基底を求める.固有空間とは(A-\lambda E_3)\bm{x}_{}=\\\bm{0}_{}の解空間である.\\ まず\lambda=2の固有空間の基底を求める.\\ A-2E_3 \stackrel{簡約}{\longmapsto} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 1\\ 0 & 0 & 0\\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}\\ より,解は \\ \bm{x}_{}= s \begin{pmatrix} -1\\ 1\\ 0 \end{pmatrix} + t \begin{pmatrix} -1\\ 0\\ 1 \end{pmatrix} \quad (s,t\in{\mathbb{R}})\\ となるので,固有空間V(2)の基底として \left\{ \begin{pmatrix} -1\\ 1\\ 0 \end{pmatrix} , \begin{pmatrix} -1\\ 0\\ 1 \end{pmatrix} \right\} がとれる.\\ 同様に固有空間V(-1)の基底を求めると \left\{ \begin{pmatrix} 1\\ 2\\ 1 \end{pmatrix} \right\} がとれる.

第三ステップ

唐突ですがこれでもう対角化は完了します.

得られた基底を並べて P= \begin{pmatrix} -1 & -1 & 1\\ 1 & 0 & 2\\ 0 & 1 & 1 \end{pmatrix} とすると,P^{-1}AP=\\ \operatorname{diag}{(2,2,6)}が得られる.

実はこれ

P^{-1}AP
を計算していません.こうして求めた対角行列の体格成分は(重複を許した)固有値らになります.
結局のところ固有空間の基底を調べるだけで対角化ができてしまうのです.

対角化の手順の裏付け

下記の定理と証明から

  1. 対角化可能かの判別
  2. Pが固有ベクトルから得られる
  3. 対角行列の成分

がわかります.

定理

A\in{M_n(\mathbb{C})}は対角化可能.\Leftrightarrow\\ Aの固有ベクトルらによる\mathbb{C}^nの基底が存在する.
証明
対角化の定義からP^{-1}AP=\operatorname{diag}{(\lambda_1,\lambda_2,\dotsm,\lambda_n)}と表示できる.よって\\ PをP=(\bm{p}_1\quad\bm{p}_2\quad\dotsm\quad\bm{p}_n)と列ベクトルで表示して\\ \begin{aligned} P^{-1}AP&=\operatorname{diag}{(\lambda_1,\lambda_2,\dotsm,\lambda_n)}\\ AP &=P\operatorname{diag}{(\lambda_1,\lambda_2,\dotsm,\lambda_n)}\\ (A\bm{p}_1\quad A\bm{p}_2\quad\dotsm\quad A\bm{p}_n)&=(\lambda_1\bm{p}_{1}\quad \lambda_2 \bm{p}_{2}\quad \dotsm \quad \lambda_n \bm{p}_{n})\\ \Leftrightarrow A \bm{p}_{i}&=\lambda_i \bm{p}_{i}\quad (i=1,2,\dotsm,n)\quad\dots\quad(\star) \end{aligned}\\ 一方,Aの固有ベクトルによる\mathbb{C}^nの基底が存在するならば,その固有ベク\\トルを用 いてP=(\bm{p}_1\quad\bm{p}_2\quad\dotsm\quad\bm{p}_n)を得られ,(\star)が成立するので対角化\\ 可能である.

この定理により必然的に固有空間の次元は重複度に一致しなければなりません.
そうでないと固有ベクトルによってn組の線形独立なベクトルを構成できないからです.

対角化の条件

定理

\begin{aligned} &(1)\quad A\in{M_n(\mathbb{C})}は対角化可能.\\ &\Leftrightarrow(2)\quad Aの固有ベクトルらによる\mathbb{C}^nの基底が存在する.\\ &\Leftrightarrow(3)\quad \mathbb{C}^n=V(\lambda_1)\oplus V(\lambda_2)\oplus\dotsm\oplus V(\lambda_m)\\ &\Leftrightarrow(4)\quad \dim{V(\lambda_i)}=l_i\quad(i=1,2,\dotsm,m)\\ &\Leftrightarrow(5)\quad n-\operatorname{rank}{(A-\lambda_i E_n)}=l_i\quad (i=1,2,\dotsm,m)\\ &\Leftarrow(6)\quad Aの固有値が全て異なる.\\ \end{aligned}

先の定理を認めればほんとど自明です.
5だけ一見意味不明ですが,解空間の次元と次元定理から証明されます.

なぜ対角化するのか

次の二つの定理を確認してください.

定理

(P^{-1}AP)^n=P^{-1}A^nP

定理

A=\operatorname{diag}{(\lambda_1,\lambda_2,\dotsm,\lambda_m)}^n=\operatorname{diag}{(\lambda_1^n,\lambda_2^n,\dotsm,\lambda_m^n)}

つまり,対角化してしまえばAのn乗が容易に計算できてしまうということです.

具体例

A= \begin{pmatrix} 4 & 2\\ 3 & -1\\ \end{pmatrix} について,A^nを求めよ.
解答
F_A(x)=(x+2)(x-5)=0より,Aの固有値は\lambda=-2,5である.それぞ\\ れの固有空間V(-2),V(5)の基底ベクトルを求める.\\ A+2E\stackrel{簡約}{\longmapsto} \begin{pmatrix} 1 & 1/3\\ 0 & 0\\ \end{pmatrix}\\ からV(-1)の基底として \left\{ \begin{pmatrix} -1\\ 3 \end{pmatrix} \right\} がとれる.同様にV(5)の基底として\\ \left\{ \begin{pmatrix} 2\\ 1 \end{pmatrix} \right\} がとれる.P= \begin{pmatrix} -1 & 2\\ 3 & 1 \end{pmatrix} を用いてP^{-1}AP= \begin{pmatrix} -2 & 0\\ 0 & 5 \end{pmatrix} となる.\\ 以上より\\ \begin{aligned} A^n &=PP^{-1}A^nPP^{-1}\\ &=P(P^{-1}AP)^nP^{-1}\\ &= \begin{pmatrix} -1 & 2\\ 3 & 1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} (-2)^n & 0\\ 0 & 5^n \end{pmatrix} 1/7 \begin{pmatrix} -1 & 2\\ 3 & 1 \end{pmatrix}\\ &=1/7 \begin{pmatrix} 6*5^n+(-2)^n & 2*5^n+(-2)^n\\ 3*5^n-3*(-2)^n & 5^n+6*(-2)^n\\ \end{pmatrix} \end{aligned}

勿論,応用例はこれだけではなく線形写像全般で応用が効きます.
対角行列というのはとにかく扱いやすい形なのです.
キーワードは微分方程式,漸化式,確率行列(マルコフ連鎖)などです.

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