はじめに
【情報数学】にてこの記事の目的について読んで頂けると幸いです。
線形代数のスクラップ
逆行列を求めよう
逆行列というのは線形写像の逆写像にあたるわけで、一旦変換したらもう戻せないとなるとなにかと不便そうです。
逆行列を求めるのは行列計算の大きなテーマです。
よく見るあれ
A\in M(n \times n)を用いた行列(A \mid I_n)を行基本変形して\\
得られる行列(B \mid C)について、B=I_nであればC=A^{-1}
つまり、行基本変形を繰り返して
\left(
\begin{array}{cccc|cccc}
1 & 0 & \cdots & 0 & b_{11} & b_{12} & \cdots & b_{1n} \\
0 & 1 & \cdots & 0 & b_{21} & b_{22} & \cdots & b_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & 0 & \cdots & 1 & b_{n1} & b_{n2} & \cdots & b_{nn}
\end{array}
\right)\\
という状況になったとき右側がAの逆行列だと言っているわけです。
ひとまず訳がわかりませんが、とにかく逆行列が求められるなら行基本変形を学んだ甲斐があるってもんです。
正則であるとはどういう意味か今一度考える
逆行列について考えるには正則というものに対する理解を深めたいところです。
次の同値表現を探ってみます。
A\in M(n \times n)について\\
\begin{aligned}
&(1)\quad Aが正則\\
&(2)\quad \operatorname{rank}A=n\\
&(3)\quad Aを行基本変形するとI_nになる\\
&(4)\quad n元連立一次方程式A\mathbf{x}=\mathbf{b}が唯一の解をもつ\\
&(5)\quad n元斉次連立一次方程式A\mathbf{x}=\mathbf{0}が自明な解をも\\
&(6)\quad \operatorname{det}A\not ={0}
\end{aligned}\\
は全て同値である。
(1)と(3)
(1)と(3)が同値だと示せば残りが楽なので先にやります。
Aが正則のとき、基本行列らの積Xを用いて簡約階段行列XAとなるが、\\
A,Xはいずれも正則なのでXAも正則である。ここで\operatorname{rank}A<nとすると、\\
XAの対角成分に0が含まれるのでXAの逆行列を定めることができない。\\
これはXAが正則であることに反するので\operatorname{rank}A=nであり、XAは\\
簡約階段行列であったからXA=I_n である。\\
逆に、XA=I_nとなるならXの逆行列をもってしてA=X^{-1}I_n=X^{-1}\\
となりAが正則だとわかる。
変わりません。その証明はしませんが...
(2)
(1)と(3)の証明をよくみると
(1)\Rightarrow(2)と(2)\Rightarrow(3)がこの証明に既に含まれているので(1),(2),(3)が巡回して全部同値です。
(4)と(5)について
\begin{aligned}
A\mathbf{x}&=\mathbf{b}\\
\mathbf{x}&=A^{-1}\mathbf{b}
\end{aligned}\\
という計算を考えると、逆行列が存在していれば、\mathbf{x}が一意に定まりそうです。
加えて、連立一次方程式を解く過程を考えると、唯一の解を持つなら\operatorname{rank}A=nでないと不定か不能になってしまいます。
「よく見るあれ」の正体
上記の同値関係や、連立一次方程式の解法を考えると次のように解釈できます。
1.行基本変形そのもの
さっきの証明の
XA=I_nとなるならXの逆行列をもってしてA=X^{-1}I_n=X^{-1}となり、Aが正則だとわかる。
についてもう少し考えると、このXはA^{-1}そのものなので、逆行列というのは単位行列を作るという過程=行基本変形
だということになります。
したがって、「よく見るあれ」というのはこのXを抽出する作業なのです。
(A \mid I_n)を行基本変形し正則行列Aを簡約する。基本行列らの積Xを\\
用いて正則行列Aが簡約されたとすると、次のような計算になる。\\
\begin{aligned}
X(A \mid I_n)
&=(XA \mid X)\\
&=(I_n \mid X)\\
\end{aligned}\\
ここでXA=I_nよりX=A^{-1}である。
となるわけです。
2.連立一次方程式を解くということ
行基本変形といえば、一意な解を持つ連立一次方程式を解く時も単位行列を行基本変形で作っていました。
(4)に関する同値な言い換えかからも想像できるように、逆行列と連立一次方程式の関係は深いです。さっきの式は
\begin{aligned}
X(A \mid I_n)
&=X(A \mid (\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\dots,\mathbf{e}_n))\\
&=(XA \mid (X\mathbf{e}_1,X\mathbf{e}_2,\dots,X\mathbf{e}_n))\\
&=(I_n \mid (\mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2,\dots,\mathbf{x}_n))
\end{aligned}\\
とも表現できるわけですが、これは
連立一次方程式A\mathbf{x}_i=\mathbf{e}_iについて(A \mid \mathbf{e}_i)を簡約することで\\解\mathbf{x}_iが得られ、それらを並べて(\mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2,\dots,\mathbf{x}_n)を得る。
という作業を同時にやっているだけです。
つまり連立一次方程式を解くということでもあったわけです。
逆行列が存在しないとは
上記の同値表現全ての否定です。
Discussion