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【情報数学】線形代数/固有ベクトル、固有値、固有空間

2022/01/21に公開

はじめに

【情報数学】にてこの記事の目的について読んで頂けると幸いです。

線形代数のスクラップ

固有ベクトルと固有値

固有ベクトルや固有値というのは対角化するのに必要な概念です。
対角行列を用いるとあらゆる計算が簡略化できて都合がいいのですが、行列を勝手に対角行列にするといろんな性質が変わってしまうのではないかと
心配になります。そこで、
どう対角行列にすれば都合がいいのか、そしてその背景はなんなのかが重要になります。
対角化については次回詳しく解説します。まずは固有ベクトルと固有値の定義と性質を確認していきます。

定義

A\in{M_n(\mathbb{C})}と\lambda\in{\mathbb{C}}に対して、A \bm{v}_{}=\lambda \bm{v}_{}を満たす \bm{0}_{}でない \bm{v}_{}\in{\mathbb{C}^{n}}が存在\\ する時\lambdaをAを固有値、 \bm{v}_{}をAの固有値\lambdaに対する固有ベクトルという。\\

例えばA=\begin{pmatrix} 5 & -1\\2 & 2\\\end{pmatrix}は次のような計算が成立します

A \begin{pmatrix} 1\\ 2 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 5 & -1\\ 2 & 2\\ \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1\\ 2\\ \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 3\\ 6 \end{pmatrix} = 3 \begin{pmatrix} 1\\ 2 \end{pmatrix}

この場合\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}が固有ベクトルで3が固有値です。

固有ベクトルと固有値の計算法

A \bm{v}_{}=\lambda \bm{v}_{} \Leftrightarrow (A-\lambda E_n)\bm{v}_{}=\bm{0}_{}\\ より、 \bm{v}_{}は斉次連立一次方程式(A-\lambda E_n) \bm{x}_{}=\bm{0}_{}の自明ではない解である.\\したがって,\\ \lambdaが固有値 \Leftrightarrow \det(\lambda E_n-A)=0\\

まとめると

Aの固有方程式\\ F_A(x)=\det{(xE_n-A)}=0

を解けば固有値が,

(A-\lambda E_n) \bm{x}_{}=\bm{0}_{}

を解けば固有ベクトルが求まります.

固有方程式の諸性質

定理

A\in{M_n(\mathbb{C})}の固有多項式F_A(x)はn次多項式であり、\\ F_A(x)=a_n{x^n}+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0とすると、\\ a_n=1,a_{n-1}=-\operatorname{tr}{A},a_0=(-1)^{n}\det{A}
証明
F_A(x)=det(xE_n-A)=\det \begin{pmatrix} x-a_{11} & -a_{12} & \dots & -a_{1n} \cr -a_{21} & x-a_{22} & \dots & -a_{2n} \cr \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \cr -a_{n1} & -a_{n2} & \dots & x-a_{nn} \end{pmatrix}\\ であり、行列式の定義式\sum_{i_{1}i_{2}\dots i_{n}}\epsilon_{i_{1}i_{2}\dots i_{n}}a_{i_{1}1}a_{i_{2}2}\dots a_{i_{n}n}より\\ (x-a_{11})(x-a_{22})\dots(x-a_{nn})の項がx^nとx^{n-1}を含む項であるから\\ a_n=1,a_{n-1}=-a_{11}-a_{22}-\dots-a_{11}=-\operatorname{tr}{A}である。また、\\ a_0=F_A(0)=\det{-A}=(-1)^n\det{A}

重複度

固有方程式はn次方程式です。n次元方程式の解は重解が存在するわけですが、この重解について議論がしやすいように線形代数上の名前を与えます。

F_A(x)=(x-\mu_1)^{l_1}(x-\mu_2)^{l_2}\dots(x-\mu_m)^{l_m}\\ と表したとき、l_jを\mu_jの重複度という。

要するに固有方程式を因数分解した時の重解の重なっている個数を重複度と定義しようということです。

定理

Aの、重複を含むn個の固有値\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_nについて、\\ \begin{aligned} &\operatorname{tr}{A}=\lambda_1+\lambda_2+\dots+\lambda_n\\ &\det{A}=\lambda_1\lambda_2\dots\lambda_n\\ \end{aligned}

トレースと行列式は固有値と結びつきます。
固有値が極めて重要な存在だとわかります。

定理

A,Bが共役\Rightarrow F_A(x)=F_B(x)

これは共役な行列の固有値が一致することを示しています。
物理学的な言い方をすれば座標の取り方を変えても固有値は変化しないといったところです。

定理

A\in{M_n(\mathbb{C})}の相異なる固有値\mu_1,\mu_2,\dots,\mu_m\in{\mathbb{C}}についての固有ベクトル\\ は一次独立

固有空間

定義

A\in{M_n(\mathbb{C})}の固有値\lambdaの固有空間とは\\ V(\lambda)=\{\bm{v}_{}\in{\mathbb{C}}\mid A \bm{v}_{}=\lambda \bm{v}_{}\}

これはすなわち(A-\lambda E)\bm{v}=\bm{0}の解空間です.

定理

A\in{M_n{\mathbb{C}}}の相異なる固有値\mu_1,\mu_2,\dots,\mu_m\in{\mathbb{C}}の固有空間について\\ V(\mu_1)+V(\mu_2)+\dots+V(\mu_m)=V(\mu_1)\oplus V(\mu_2)\oplus \dots \oplus V(\mu_m)

これは一見して納得してもらいたいです。
固有ベクトルらは諸定理から分かるように文字通り固有な存在です。固有空間がお互いに重なっているほうが不自然です。

定理

lを\muの重複度とすると\\ 1\leq\dim V(\mu)\leq l

これも素直な性質です。
代数的な性質である重解と、固有空間の次元の関係を示すものでもあります。

Discussion