📚

【情報数学】解析学.ε-N論法

2022/02/21に公開
2

はじめに

【情報数学】にてこの記事の目的について読んで頂けると幸いです。

解析学のスクラップ

「極限」を数式で扱えるようにする

微分についても積分についても極限や実数という概念が前提にあります.
なのでまずこの極限や実数について正確な議論を行うための論理を導入します.
なにか如何にも数学っぽくて嫌な感じがするかもしれませんが微積に突入するまで我慢です.

基本事項

基本事項と言いつつ今後ほとんど触れないかもしれませんが...

述語論理

述語論理をしっかり理解していないと正確に記述できないので解析学を学ぶにあたっては下記記事などを参照してください.
趣味の大学数学

上に有界

定義

\begin{aligned} &S\subset{\mathbb{R}}(S\not ={\phi})について,\\ &Sが上に有界\stackrel{def}{\Leftrightarrow}\exist{a}\in{\mathbb{R}},\forall{x}\in{S},x\leqq a\\ &このとき,aをSの上界という. \end{aligned}

下に有界

定義

\begin{aligned} &S\subset{\mathbb{R}}(S\not ={\phi})について,\\ &Sが下に有界\stackrel{def}{\Leftrightarrow}\exist{a}\in{\mathbb{R}},\forall{x}\in{S},x\geqq a\\ &このとき,aをSの下界という. \end{aligned}

上限/下限

定義

\begin{aligned} &(1)\quad Sの上限とは\sup{S}\stackrel{def}{=}上界全体の集合U(S)の最小値\\ &(2)\quad Sの下限とは\inf{S}\stackrel{def}{=}下界全体の集合L(S)の最大値\\ \end{aligned}

はさみうちの原理

原理

\begin{aligned} &\forall{n},(p_n\leqq a_n\leqq q_n)\land(\lim_{n\rightarrow\infin}{p_n}=\lim_{n\rightarrow\infin}{q_n}=\alpha)\Rightarrow\lim_{n\rightarrow\infin}{a_n}=\alpha \end{aligned}

今まで通りです.

アルキメデスの原理

原理

\begin{aligned} &\forall{a}>0,\forall{b}>0,\exist{n}\in{\mathbb{N}},an>b \end{aligned}

これは\mathbb{N}が上に上界ではないことと同値です.つまりどんな正の実数よりも大きい自然数がとれる.と考えて良いです.
アルキメデスの原理には他にもいくつか同値表現があります.

有理数の稠密性

定理

\begin{aligned} &空でない開区間の中には有理数が存在する. \end{aligned}

某予備校のノリで表現すると,「有理数はギッシリと詰まっている?」ってところでしょうか.
これは無理数についても同じことが言えます.

実数の公理

性質

\begin{aligned} &(1)\quad 実数は可換体である(四則演算ができる)\\ &(2)\quad 実数は順序関係(大小関係)がある\\ &(3)\quad 実数の連続性(実数は連続である) \end{aligned}

実数の性質を詳しく説明しようとすると微分積分から遠のいてしまうと思うので割愛します.(というかよくしらない)
当分無視してもいいと思いますが(3)だけは少し掘り下げます.

実数の連続性公理

公理

\begin{aligned} &空でない上に有界なS\subset{\mathbb{R}}は\sup{S}が存在する.\\ \Leftrightarrow&上(下)に有界な単調増加(減少)数列は収束する.\\ \Leftrightarrow&etc... \end{aligned}

実数の連続性公理はwiki/実数の連続性によれば12もの同値表現があります.

ε-N論法

論理

\begin{aligned} &数列\{a_n\}について\\ &\lim_{n\rightarrow \infin}{a_n}=\alpha \Leftrightarrow\forall{\epsilon}>0,\exist{N}\in{\mathbb{N}},\forall{n}\in{\mathbb{N}},n\geqq{N} \Rightarrow\left|a_n-\alpha\right|<\epsilon\\ \end{aligned}

日本語訳を書くと
どんな正の実数\epsilonについても,ある自然数Nが存在する.Nとは第n項がこの第N項以降であれば\left|a_n-\alpha\right|<\epsilonが成立するようなものである.
もう少し噛み砕くと,
ある第N項を境にa_n\alphaとの差をいくらでも小さくできる.そういうNが存在しますか?[1]
という感じです.

これは数列の極限についてのものです.
後に出てくるε-δ論法より理解しやすいと思うのでまずここから使いこなしていけばいいと思います.

例題

最も有名と言っても過言ではない数列の極限です.
高校では得に断りもなく用いていましたがε-N論法やアルキメデスの原理を駆使することで証明ができます.

\begin{aligned} &数列a_n=\frac{1}{n}について,\lim_{n\rightarrow\infin}{a_n}=0を証明せよ. \end{aligned}
解答
\begin{aligned} &\lim_{n\rightarrow\infin}{\frac{1}{n}}=0であるとは,\forall{\epsilon}>0,\exist{N}\in{\mathbb{N}},\forall{n}\in{\mathbb{N}},n\geqq{N} \Rightarrow\left|\frac{1}{n}-0\right|<\epsilonが\\ &成立することであるから以下にこれを示す.\\ &アルキメデスの原理より,\forall{\epsilon}>0,\exist{N}\in{\mathbb{N}},N>\frac{1}{\epsilon}\\ &このNに対して次が成立している.\\ &\begin{aligned} &\forall{n}\in{\mathbb{N}},n\geqq N \Rightarrow n>\frac{1}{\epsilon}\Rightarrow \frac{1}{n}<\epsilon\Rightarrow\left|\frac{1}{n}-0\right|<\epsilon \end{aligned}\\ &以上より,\forall{\epsilon}>0,\exist{N}\in{\mathbb{N}},\forall{n}\in{\mathbb{N}},n\geqq{N} \Rightarrow\left|\frac{1}{n}-0\right|<\epsilon \\ &\Box \end{aligned}

少しくどくどと書きました.
天下り的な証明になるので,まず\left|\frac{1}{n}-0\right|<\epsilonを変形してからNに検討をつけましょう.
まず\epsilonを定めて,それに対して条件から下ってNを1つ探す.この意識です.

コーシー列

定義

\begin{aligned} &\forall{\epsilon}>0,\exist{N}\in{\mathbb{N}},\forall{n,m}\in{\mathbb{N}},n,m\geqq N\Rightarrow\left|a_n-a_m\right|<\epsilon \end{aligned}

これは\lim_{n,m\rightarrow\infin}{(a_n-a_m)}=0と同値です.

定理(コーシーの収束条件)

\begin{aligned} &数列\{a_n\}が収束する.\Leftrightarrow 数列\{a_n\}がコーシー列である. \end{aligned}

ちなみにコーシーの収束条件とアルキメデスの原理が成立することは実数の連続性公理の1つです.

これを用いれば数列が収束するかどうかを確かめられます.
また,コーシー列の否定は
\exist{\epsilon}>0,\forall{N}\in{\mathbb{N}},\exist{n,m}\in{\mathbb{N}},(n,m\geqq N)\land(\left|a_n-a_m\right|\geqq\epsilon)
です.
A\Rightarrow B\Leftrightarrow\lnot{A}\lor Bに注意してください.

例題

\begin{aligned} &数列a_n=1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\dotsm+\frac{1}{n}は正の無限大に発散することを示せ. \end{aligned}
解答
\begin{aligned} &数列a_nがコーシー列ではないことを示す.\\ &\begin{aligned} a_{2n}-a_n &=(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\dotsm+\frac{1}{n}+\dotsm+\frac{1}{2n})-(1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\dotsm+\frac{1}{n})\\ &=\frac{1}{n+1}+\frac{1}{n+2}+\dotsm+\frac{1}{2n}\\ &\geqq \frac{1}{2n}\cdot n\\ &=\frac{1}{2}\\ \end{aligned}\\ &より,a_{2n}-a_n\geqq\frac{1}{2}となる.nを十分に大きくとれば\\ &\forall{N}\in{\mathbb{N}},\exist{n}\in{\mathbb{N}},2n\geqq n\geqq Nが成立することから,\\ &\exist{\epsilon}>0,\forall{N}\in{\mathbb{N}},\exist{n,m}\in{\mathbb{N}},(n,m\geqq N)\land(\left|a_n-a_m\right|\geqq\epsilon)ゆえ,数列a_nはコ\\ &ーシー列ではない.したがって収束せず,また,数列a_nは単調増加なので\\ &正の無限大に発散する.\\ &\Box \end{aligned}
脚注
  1. \epsilonについての記述がありませんが,「いくらでも小さくできる」にその気持ちが含まれていると考えてください.\epsilonNより先に存在しています.
    ただし,そもそもこの「いくらでも小さくできる」を数学的に考えようという前提があるのにそこを隠蔽している形になってしまっているのであくまで参考程度でお願いします. ↩︎

Discussion

Toru3Toru3

もう少し噛み砕くと,
ある第N項を境にa_n​と\alphaとの差をいくらでも小さくできる.そういうNが存在しますか?
という感じです.

これだと\exist N \in \mathbb{N}, \forall \epsilon>0, \forall n \geq N, |a_n-\alpha|<\epsilonに聞こえますね。(そんなNa_n\alphaに収束するとしても一般には取れない)
Nをとる前に\epsilonが決まる(つまりN\epsilonに依存してよい)のが重要な点なので、噛み砕いていうなら
どんな(に小さい)\epsilon>0が与えられても、(その\epsilonに対して十分大きな)N番目以降では常にa_n\alphaの差は\epsilon未満になる。
とか
どんな(に狭い)(\alpha-\epsilon, \alpha+\epsilon)という区間(\epsilon>0)が与えられたとしても、あるN番より先ではすべてのa_nがその区間に入る。
とか
どんな(に小さい)\epsilon>0が与えられても、a_n\alphaの差が\epsilon以上になるnは有限個である。
(有限個のnのうち添え字が最大のものをMとすればN=M+1ととれば成り立つし、Nが取れるなら|a_n-\alpha|\geq \epsilonとなるnN個以下であるため。)
とかですかね。

LeafLeaf

返信ありがとうございます。
そこに関しては直前の和訳と例題の解答(まずεを定めて〜)で充分に補足できているかなあと考えています。
しかし誤解を生む表現になってしまっているので補足で対応させて頂きますm(_ _)m