はじめに
【情報数学】にてこの記事の目的について読んで頂けると幸いです。
線形代数のスクラップ
連立一次連立方程式
行列は連立方程式と深い関わりがあります。
後述するように、行列は連立方程式を機械的に解く手段になるわけですが、それ以外にも逆行列を求める際にも顔を出します。
係数行列
n元連立一次方程式\\
\quad\\
\begin{cases}
a_{11}x_1+\dots +a_{1n}x_n=b_1\\
a_{21}x_1+\dots +a_{2n}x_n=b_2\\
\vdots\\
a_{m1}x_1+\dots +a_{mn}x_n=b_m\\
\end{cases}\\
\quad\\
の各係数を\\
\quad\\
A=(a_{ij})=
\begin{pmatrix}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n}\\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn}
\end{pmatrix}\\
\quad\\
というように行列でまとめる。このとき、Aを系数行列という。
拡大係数行列
n元連立一次方程式の右辺を\\
\quad\\
\mathbf{b}=
\begin{pmatrix}
b_1\\
b_2\\
\vdots\\
b_m
\end{pmatrix}\\
\quad\\
というふうにm次元数ベクトルでまとめる。これと系数行列Aを用いて、\\
\quad\\
\widehat{A} \stackrel{def}{=}(A \mid \mathbf{b})=
\left(
\begin{array}{cccc|c}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} & b_1\\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} & b_2\\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots\\
a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} &b_m
\end{array}
\right)\\
\quad\\
とし、\widehat{A}を拡大係数行列いう。
n次連立一次方程式を行列で表現する
n次連立一次方程式は前述のA,\mathbf{b},そして\mathbf{b}と同様に変数x_iをまとめた\mathbf{x}を用いて\\
A\mathbf{x}=\mathbf{b}\\
と表記できる。また、\\
A\mathbf{x}=\mathbf{0}のとき、これを斉次連立一次方程式という。
\mathbf{x}=A^{-1}\mathbf{b}という式変形を考えると、行列をうまくつかえば解をもとめられそうな気がしますね。
しかしこの変形をするにはそもそも逆行列が存在していなければならないので安直には考えられません。
拡大係数行列と連立方程式の解
拡大係数行列を行基本変形を行って得られた新たな\\
拡大係数行列は元の連立方程式の解と一致する。
証明
あるm次正則行列Pに対し、\\
P(A \mid \mathbf{b})=(A' \mid \mathbf{b'})\\
が成立しているとする。このとき\\
P(A \mid \mathbf{b})=(PA \mid Pb)よりA'=PA,b'=Pbである。よって\\
A\mathbf{x}=\mathbf{b}\\
PA\mathbf{x}=P\mathbf{b}\\
B\mathbf{x}=\mathbf{b'}\\
となり、逆にPは正則なので\\
B\mathbf{x}=\mathbf{b'}\\
P^{-1}PA\mathbf{x}=P^{-1}P\mathbf{b}\\
A\mathbf{x}=\mathbf{b}\\
また、行基本変形は基本行列を掛けることに対応していて\\
基本行列は正則なので題意は示された。
つまり、行基本変形を繰り返すことで簡単になった拡大係数行列によって連立方程式の解が求めやすくなるというわけです。
それどろか、線形代数3-1を思い返してみると行列は行基本変形を繰り返すことで簡約階段行列になるのでした。
これはすなわち連立方程式が解けたというのを意味します。ただし、解けたといってもいつも解が一意に定まるわけではありません。
解が一意に定まるとき
\quad\\
\left(
\begin{array}{cccc|c}
1 & 0 & \cdots & 0 & b_1\\
0 & 1 & \cdots & 0 & b_2\\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots\\
0 & 0 & \cdots & 1 & b_m
\end{array}
\right)\\
\quad\\
ようするに係数行列が単位行列になるってことです。
解が無いとき
b_m \not ={0}のとき\\
\quad\\
\left(
\begin{array}{cccc|c}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} & b_1\\
0 & a_{22} & \cdots & a_{2n} & b_2\\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots\\
0 & 0 & \cdots & 0 & b_m
\end{array}
\right)\\
m行目のような行が一個でも出てくれば解は定まりません。なぜなら、この行は0=b_mという矛盾が生じているからです。
このような連立方程式を不能といいます。
解が一意に定まらないとき
\left(
\begin{array}{ccccc|c}
a_{11} & \cdots & a_{1j} & \cdots & a_{1n} & b_1 \\
\vdots & \ddots & & & \vdots & \vdots \\
a_{n1} =0 & & 0 & & 0 & 0 \\
\vdots & & & \ddots & \vdots & \vdots \\
0 & \cdots & 0 & \cdots & 0 & 0
\end{array}
\right)\\
成分が全部0の行は元々存在していなかったのと同じです。
このように、変数がn個の連立方程式で有効な方程式がn個未満になると解が一意に定まりせん。
これを不定といいます。
定理1
n元斉次連立一次方程式の数がn個未満のとき\\
n元斉次連立一次方程式は自明ではない解をもつ。
証明
n元斉次連立一次方程式A\mathbf{x}=\mathbf{0}の式がm個であり、m<nとする。\\
まず、拡大係数行列(A \mid \mathbf{0})は明らかに不能ではない。\\
また、\operatorname{rank}A \leqq m < nであるから不定の状態になり、無数の解がある。
A\mathbf{x}=\mathbf{0}の解が\mathbf{x}=\mathbf{0}のとき、これを自明な解といいます。
定理2
連立一次方程式A\mathbf{x}=\mathbf{b}について、\\
A\mathbf{x}=\mathbf{b}が解を持つ \Leftrightarrow \operatorname{rank}A=\operatorname{rank}(A \mid \mathbf{b})
証明
\operatorname{rank}A=\operatorname{rank}(A \mid \mathbf{b})であれば拡大係数行列を行基本変形しても\\
\quad\\
\left(
\begin{array}{cccc|c}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} & b_1\\
0 & a_{22} & \cdots & a_{2n} & b_2\\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots\\
0 & 0 & \cdots & 0 & b_m
\end{array}
\right)\\
\quad\\
の第m行のようにはならない。つまり不能にならないので解を持つ。
最後の一列で階段になると、矛盾した行が現れてしまいます。
つまり
行列に基本行列を掛けることを繰り返せば連立一次方程式の解が求められることがわかりました。
これは単に連立方程式が機械的に解けるという点でも重要ですが、前述の\mathbf{x}=A^{-1}\mathbf{b}という変形からも想像できるように、連立方程式を解くことと逆行列を求めることは同等です。
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