はじめに
【情報数学】にてこの記事の目的について読んで頂けると幸いです。
線形代数のスクラップ
色々な行列
個別に登場させていくと一体何種類の行列があるんだ!もう忘れた!ってなりそうなので一気に導入してしまいます。
それぞれの詳しい性質などは今後それが重要な場面で言及します。
その前に
よく使われる記号やルールを導入します。
数学の記事をスムーズに読んだり思考を整理するのに必須です。
アインシュタインの縮約則
クロネッカーデルタ
\delta_{ij}\stackrel{\mathrm{def}}{=}
\begin{cases}
1\quad(i=j)\\
0\quad(i\not ={j})
\end{cases}
こんなもん何に使うねんという感じですが、例えば(\delta_{ij})は単位行列を表します。
何食わぬ顔で随所で登場するので注意です。
レヴィ=チヴィタ記号
\epsilon _{i_1,i_2,\dots,i_n}\stackrel{\mathrm{def}}{=}
\begin{cases}
+1\quad(添字の偶置換)\\
-1\quad(添字の奇置換)\\
0\quad\quad(少なくとも1つ同じ値の添字がある)
\end{cases}
これは行列式を定義する際に必要になります。
正方行列
A\in M(n,n)のとき、Aをn次正方行列という。
n次零行列
全ての成分が0である正方行列をn次零行列という。\\
O_nと表す。
対角行列
A=(a_{ij})\in M(n,n)について、a_{ii}をAの対角成分といい、\\
対角成分以外のすべての成分が0であるとき、Aを対角行列という。\\
(a_{i}\delta_{ij})やdiag(a_1,a_2,\dots,a_n)と表す。
単位行列
対角行列の内、対角成分がすべて1である行列を単位行列という。\\
E_nやI_nで表す。
実数でいうところの1と同じ性質があります。つまり、積の演算について何も影響を与えないということです。
上三角行列
A=(a_{ij})\in M(n,n)について、対角成分より下側の成分がすべて0であるとき、\\
Aを上三角行列という。
わざわざ名前がついているくらいなので意味はあります。
下三角行列
上が重要なら下もまた然り。
転置行列
A=(a_{ij})\in M(n,m)に対し、^t\!A\stackrel{\mathrm{def}}{=} (a_{ji})\in M(m,n)\\
とし、^t\!Aを転置行列という。
つまり対角成分を軸に各成分を折り返したもの、あるいは行と列を逆にしたものと考えるといいです。
また、A^tとも表記しますが、この記事では上記の記号で統一します。
しかし仕様上記述するのがすごく面倒なので最悪の場合\operatorname{t}(A)という表記もあり...?
演算
A,B\in M(n,m),\quad C\in M(m,l),\quad k\in\mathbb{R}に対し、\\
\quad\\
\begin{aligned}
&(1)\quad ^t(^t\!A)=A\\
&(2)\quad ^t(kA)=k^t\!A\\
&(3)\quad ^t(A+B)=\!^t\!A+\!^t\!B\\
&(4)\quad ^t(AC)=\!^t\!C^t\!A
\end{aligned}
証明
A=(a_{ij})\in M(n,m),C=(c_{jk})\in M(m,l)について、\\
\begin{aligned}
(^t(AC))_{ik}=(AC)_{ki}
&=\sum_{j}(A)_{kj}(C)_{ji}\\
&=\sum_{j}(^t\!A)_{jk}(^t\!C)_{ij}\\
&=\sum_{j}(^t\!C)_{ij}(^t\!A)_{jk}\\
&=(^t\!C^t\!A)_{ik}\\
他の成分でも同様。
\end{aligned}
(4)以外はほとんど自明なので証明は(4)だけに留めます。
ところで、直感的に^t(AC)=\!^t\!A^t\!Cだと思った方もいると思いますが、これではそもそも積の定義から外れています。
対称行列
交代行列
逆行列
n次正方行列Aに対し、\\
XA=AX=I_nを満たすXを逆行列といい、このXをA^{-1}と表記する。
行列は写像だといいました。逆行列は逆写像に対応します。変換した基底を元に戻すことができるわけです。
正則行列
n次正方行列Aに逆行列が存在することを、Aが正則であるといい、\\
Aを正則行列という。
逆行列が無いやつがあるのか?と思った方、そんなものいくらでもあります。
いずれ詳しく触れます。
トレース
A=(a_{ij})\in M(n,n)の対角成分の和について、\\
\operatorname{tr}(A)\stackrel{\mathrm{def}}{=}\sum_{i}a_{ii}=a_{ii}
アインシュタインの縮約則で表記するとこうなります。つまり
a_{ii}=a_{11}+a_{22}+ \dots +a_{nn}です
- その前に\sum_{i=1}^{n}ってちゃんと書け!
筆者もそう思うんですが、簡略表記が文脈的によく使われます。後々もっともっと簡略化されます。(というか簡略化しないと表記が大変な計算が多い)アインシュタインの縮約則よりは親切だと思って慣れておきましょう。
演算
A,B\in M(n,n),k\in\mathbb{R}に対し、\\
\begin{aligned}
&(1)\quad \operatorname{tr}(A+B)=\operatorname{tr}(A)+\operatorname{tr}(B)\\
&(2)\quad \operatorname{tr}(kA)=k\operatorname{tr}(A)\\
&(3)\quad \operatorname{tr}(AB)=\operatorname{tr}(BA)
\end{aligned}
ほぼ自明ですが、どっかでみましたね。これは線形性です。
定理1
証明
正方行列AについてA=\frac{A+^t\!A}{2}+\frac{A-^t\!A}{2}であり、\\
^t\!\left(\frac{A+^t\!A}{2}\right)=\frac{A+^t\!A}{2}と\\
^t\!\left(\frac{A-^t\!A}{2}\right)=-\frac{A-^t\!A}{2}より題意は示された。
定理2
\begin{aligned}
&(1)\quad Aが正則\Rightarrow A^{-1}が正則で(A^{-1})^{-1}=A\\
&(2)\quad A,Bがn次正則行列\Rightarrow ABが正則で(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}
\end{aligned}
証明
(2)\quad A,Bが正則より\\
\begin{aligned}
AA^{-1}
&=A(BB^{-1})A^{-1}\\
&=(AB)(B^{-1}A^{-1})\\
&=I_n\\
B^{-1}B
&=B^{-1}(A^{-1}A)B\\
&=(B^{-1}A^{-1})(AB)\\
&=I_n
\end{aligned}\\
よって(AB)(B^{-1}A^{-1})=(B^{-1}A^{-1})(AB)=I_nより\\
(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}
定理3
証明
正則行列Aに対してB,Cが逆行列であるとすると\\
AB=BA=I_n,\quad AC=CA=I_nより\\
B=B(AC)=(BA)C=CよりB=C\\
よって唯一。
定理4
\operatorname{tr}(B^{-1}AB)=\operatorname{tr}(A)
実はこれはなかなか面白い性質の一つです。
証明
\begin{aligned}
\operatorname{tr}(B^{-1}(AB))
&=\operatorname{tr}((AB)B^{-1})\\
&=\operatorname{tr}(A(BB^{-1}))\\
&=\operatorname{tr}(A)
\end{aligned}
Discussion