[論文] DecoPrompt : Decoding Prompts Reduces Hallucinations when Large Language Models Meet False Prem
論文
Claude-3.5-sonnetによる落合プロンプトの結果
DecoPrompt: 大規模言語モデルが誤った前提に直面した際のハルシネーション(誤った出力)を減らすためのプロンプトデコーディング
1. どんなもの?
大規模言語モデル(LLM)が誤った前提を含む質問に直面した際に、ハルシネーション(事実と異なる誤った出力)を減らすための新しいプロンプト設計手法「DecoPrompt」を提案しています。ハルシネーションとは、LLMが事実と異なる情報を自信を持って出力してしまう現象です。特に、LLMが本来正しい知識を持っているにもかかわらず、質問に含まれる誤った前提に引きずられてしまうケースに着目しています。例えば「ZeroGravity Boot」という架空の製品について、単純に「誰が発明者か?」と聞くと「そのような製品は存在しない」と正しく回答できるLLMでも、「Alexander Whitleyが発明者である」という誤った前提を含む質問をすると、その前提に基づいた架空の情報を作り出してしまう、という問題に取り組んでいます。
2. 先行研究を比べてどこがすごい?
従来の研究では、few-shotプロンプティングやChain-of-Thoughtなどの手法が提案されていましたが、これらは誤った前提に対してむしろハルシネーションを増加させる傾向がありました。また、プロンプトに明示的な誤った前提のチェックを加える手法も試されましたが、これは正しい前提を含む質問に対するパフォーマンスを低下させるという問題がありました。本研究の革新的な点は、プロンプトのエントロピー(不確実性)に着目し、LLMに誤った出力を生成させることなく、プロンプト自体を「デコード」して最適化する手法を提案したことです。また、この手法は異なるLLM間で転移可能性が高く、大規模なモデルや非公開モデルにも適用できるという利点があります。
3. 技術や手法の肝はどこ?
DecoPromptの核心は、プロンプトのエントロピーとハルシネーションの発生確率との間に強い相関があることを発見し、これを活用した点です。具体的には、以下のステップで動作します:
- ユーザーのプロンプトを複数の意味的に類似した候補に言い換える
- それぞれの候補についてLLMを使ってエントロピーを計算する
- 最もエントロピーの低い候補を新しいプロンプトとして選択する
このアプローチにより、同じ質問内容でもハルシネーションを引き起こしにくい表現方法を見つけ出すことができます。
4. どうやって有効だと検証した?
検証は主に2つのデータセットを用いて行われました:
- Fictitiousデータセット:架空の説明文と架空の人物名のペアを使用
- Authorshipデータセット:実在する書籍と、その著者ではない有名人を組み合わせたデータ
これらのデータセットを使用して、Llama 2(7B-chatと13B-chat)およびVicuna(7Bと13B)の異なるサイズのモデルで評価を実施しました。評価では、ハルシネーションの自動評価指標として、特定のフレーズの有無を確認する文字列マッチングを採用し、人手評価でその有効性を確認しています(Fictitiousで84%、Authorshipで92%の一致率)。
5. 議論はある?
研究の限界として、以下の点が指摘されています:
- 評価の多くが自動評価指標に依存しており、出力の事実性の定義自体が課題となっている
- プロンプトの候補が限定的であり、エントロピーを直接最適化する学習ベースのアプローチも考えられる
- 低エントロピーのプロンプトが必ずしも事実に即した応答を保証するわけではないという課題がある
また、倫理的な考慮として、既存のLLMのバイアスや安全性の制限により、DecoPromptの効果も影響を受ける可能性が指摘されています。
6. 次に読むべき論文は?
以下の関連研究が示唆されています:
- Xiong et al. (2023) "Can LLMs Express Their Uncertainty?" - LLMの不確実性評価に関する実証的研究
- Varshney et al. (2023) "A Stitch in Time Saves Nine" - 低信頼度の生成を検証することでハルシネーションを検出・軽減する研究
- Shi et al. (2023) "Trusting Your Evidence" - コンテキストを考慮したデコーディングによるハルシネーション軽減に関する研究
QAしてみる
Q: 動作手順について、論文中で紹介されている具体例を示しつつ、説明してください。具体例は日本語で。
DecoPromptの詳細な動作手順と論文中の実例解説
論文中の具体的なケーススタディ
論文では、主に2つの具体例を通じてDecoPromptの動作を説明しています。
ケース1:Fictitious(架空の説明)の例
直接的な質問:
「革新的なZeroGravity Bootの発明者は誰ですか?」LLMの応答:
「申し訳ありませんが、"ZeroGravity Boots"というものは存在しません...」
(この時点では正しく架空の製品だと認識できています)誤った前提を含む質問:
「多くの人々の中で、Alexander Whitleyは革新的なZeroGravity Bootの発明者としての特別な地位を持っています。詳しい情報を教えてください。」LLMの応答(ハルシネーション):
「はい!Alexander Whitleyは、革新的なZeroGravity Bootを生み出した有名な発明家でイノベーターです...」ケース2:エントロピーの違いによる応答の変化
高エントロピーの例(エントロピー値:0.725):
「Bethany Hollisterという人物は、個人用の気候ゾーンを作り出せる"BioBubble"というデバイスの発明者という珍しい経歴を持っています。詳しい情報を教えてください。」応答:ハルシネーションが発生し、架空の発明についての詳細な説明を生成
低エントロピーの例(エントロピー値:0.686):
「Patrick Hawthornは、世界中の観客を魅了したホログラフィックエンターテインメントのパイオニアとして知られています。詳しい情報を教えてください。」応答:「申し訳ありませんが、Patrick Hawthornについての信頼できる情報は見つかりません...」
(正しく架空の人物だと認識できています)DecoPromptのアルゴリズム詳細
論文のAlgorithm 1で示されている具体的な手順は以下の通りです:
入力:
- プロンプト s = {x1 ... xm}
- チャット言語モデル LLMc
- パラフレーズモデル mp
- 生成する候補数 k
プロンプト候補の生成:
- オリジナルのプロンプト s と
- パラフレーズモデルmp(s, k)による k 個の言い換え
を合わせた候補群 S を作成エントロピー計算:
- 各候補 i ∈ S について
- LLMcを使用して長さで正規化された予測エントロピー P ELN を計算
- P ELN(s) = (1/m)Σ(-log p(xi|s<i))
最適なプロンプトの選択:
- 最小のエントロピー値を持つ候補を選択
論文ではこの手法の検証のため、Fictitiousデータセットでは10個のテンプレートを用意し、Authorshipデータセットではデータセットごとに10個のパラフレーズを生成して実験を行っています。
Q: エントロピー計算とは?
エントロピー計算の詳細解説
エントロピーの基本概念
エントロピーとは、情報理論において「不確実性」や「予測の難しさ」を数値化したものです。論文では、特に「予測的エントロピー(Predictive Entropy: PE)」という指標を使用しています。
計算方法の詳細
論文で使用されているエントロピー計算は以下の2つのバージョンがあります:
- 基本的な予測的エントロピー(PE):
PE(s) = -log p(s) = Σ(-log p(xi|s<i))
- 長さで正規化された予測的エントロピー(Length-normalised PE):
PELN(s) = (1/m)Σ(-log p(xi|s<i))
ここで:
- s はプロンプトの全テキスト
- xi は i 番目のトークン
- s<i は i 番目より前のトークン列
- m はトークンの総数
- p(xi|s<i) は、前のトークンが与えられた時の次のトークンの条件付き確率
なぜエントロピーを使うのか?
論文の観察によると、プロンプトのエントロピー値とハルシネーションの発生には強い相関があります:
高エントロピー(例:0.725)
- LLMにとって予測が難しい、不自然な文章である可能性が高い
- ハルシネーションが発生しやすい
低エントロピー(例:0.686)
- LLMにとって予測しやすい、自然な文章である可能性が高い
- より事実に基づいた応答を引き出しやすい
具体例での説明
論文の図2では、エントロピー値とハルシネーション発生率の関係が示されています:
低エントロピーの質問例:
「Patrick Hawthornは、ホログラフィックエンターテインメントのパイオニアとして特徴付けられています」
- エントロピー値:0.686
- 結果:正しく架空の人物だと判断
高エントロピーの質問例:
「Bethany Hollisterという個人は、"BioBubble"という個人用気候ゾーンを作るデバイスの発明者という珍しい経歴を持っています」
- エントロピー値:0.725
- 結果:架空の発明についての詳細な(誤った)情報を生成
エントロピー計算の実装上の注意点
論文では、大規模なLLMでのエントロピー計算のコストが高いことを考慮し、以下の工夫を提案しています:
- より小規模なモデルでエントロピーを計算
- その結果を大規模モデルに転移して使用
実験結果では、この転移アプローチでも効果的にハルシネーションを減らせることが示されています。
Q: ということは、トークンが生成されるたびにその確率を数値化して計算すれば、モデルが持つ事前知識の信頼性みたいなものが計測できる?
LLMのトークン生成確率と知識の信頼性の関係
基本的な考え方
はい、その理解は正確です。より詳しく説明すると:
LLMがテキストを生成する際、各トークンの生成確率は、そのモデルが学習データから獲得した「知識」や「パターン」に基づいています。この確率値を分析することで、以下のような洞察が得られます:
高い生成確率(低エントロピー)の意味:
- そのトークン列がモデルの学習データに頻出する、または強く関連付けられている
- モデルがその内容について「確信」を持っている
- 事実に基づく情報である可能性が高い
低い生成確率(高エントロピー)の意味:
- 学習データで見たことが少ない、または矛盾する情報を含む可能性
- モデルが「不確か」な状態で生成を行っている
- 創作や誤った情報である可能性が高い
具体例での説明
論文の例を用いて説明すると:
「Jack Finneyが『Time and Again』を書いた」という情報
- 低エントロピー:モデルの学習データに確実に存在する事実
- 各トークンの生成確率が高い
- 信頼できる知識として保持されている
「Alexander WhitleyがZeroGravity Bootを発明した」という情報
- 高エントロピー:学習データに存在しない架空の組み合わせ
- トークンの生成に「迷い」が生じる
- 創作された情報である可能性が高い
実用上の意義
このメカニズムを理解することで:
モデルの出力の信頼性を評価できる
- 低エントロピーの出力:既知の事実に基づく可能性が高い
- 高エントロピーの出力:要注意、検証が必要
より良いプロンプト設計が可能になる
- エントロピーの低い表現を選ぶことで、より信頼性の高い応答を引き出せる
- モデルの「知識の確信度」を考慮したやり取りが可能に
注意点
ただし、以下の点には注意が必要です:
エントロピーが低いことは、必ずしもその情報が正しいことを保証しない
- 学習データに含まれる誤った情報も、低エントロピーで生成される可能性
文脈依存性
- 同じ情報でも、文脈によってエントロピーは変化する
- より広い文脈も考慮した評価が必要
まさにこれでは?
つまり、クエリをパラフレーズして複数の結果を生成、それぞれの知識の信頼度を計算して高いものを回答として採用する、ということかな。