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宇宙からの地球観測11章後方錯乱係数の分布と特徴

2024/10/19に公開

宇宙からの地球観測 
第11章は、 「後方錯乱係数の分布と特徴」ということで、 6章ででてきた後方錯乱 の詳細を解説しています。 レイリー分布や 波の数式表現が分かっていないと読んでも内容が全く入ってきませんん。。

今回は、積分の証明まではあきらめて、問題の意味を理解するところまでを目標としました。

問題 11.1

下記の式(11.5) を用いて,確率密度関数の積分値が1になることを示しなさい。

p(a, \phi) = \frac{a}{2 \pi \sigma^2} e^{-\frac{a^2}{2 \sigma^2}}
p(a) = \begin{cases} \frac{a}{\sigma^2} e^{-\frac{a^2}{2 \sigma^2}} & a \geq 0 \\ 0 & a < 0 \end{cases}
p(\phi) = \frac{1}{2\pi}

問題 11.2

式(11.6) の積分値が1になることと,1次モーメントが平均電力
\bar{p} になることを示しなさい。

基本数式の理解

残念ながら理解するための近道はなく、式11.5 の意味が分かるようになるには最初から読み進めないといけないです。
SARは、地表面上の物体の位置や形状を高解像度で検出するために用いられるレーダーシステムです。基本的には、レーダー信号を送信し、その反射波を解析して画像を生成します。
11章に出てくる式は下記6章で出てきた式6.17 相関処理後のSAR信号の数式 をベースにしています。

数式の概要を先にまとめておくと、それぞれの数式は下記を表しています。

  • 式 (11.1) ではSAR 信号がどのようにして受信され、処理されるかを示しています。
  • 式 (11.2) では、その信号に複素共役を掛けることで電力の分布を求め、SAR 画像内のピクセルごとの電力強度が計算されています。
  • 式 (11.3, 11.4) では、SAR における散乱体が非常に多い場合、中央極限定理により、得られる信号はガウス分布に従います。
  • 式 (11.5) では、振幅はレイリー分布に従い、位相は一様分布に従います。
  • 式 (116, 11.7) では、電力は指数分布に従い、その期待値は散乱体の振幅に依存します。

この電力の分布は、散乱体の数やそれらの位置関係に強く依存し、SAR 画像の解像度やコントラストを決定します。SAR画像のピクセル内に含まれる散乱体の数が多い場合、その画像の特徴(コントラストやノイズ)がどのように形成されるかが説明されます。

式 6.17:SAR受信信号の相関処理

式 6.17 は、相関処理後のSAR 信号に関する表現です。SAR は動いているため、複数の位置から受信した信号を加算する必要があります。この加算の際に、異なる位置からの信号が干渉しないように、適切な位相補正を行いながら加算されます。

h(r_0, x) = \sum_{i=0}^{N-1} a_i \cdot \text{sinc} \left( \frac{\pi (r_i - r_0)}{B_c} \right) T_A \cdot \text{sinc} \left( \frac{\pi (x_i - x_0)}{L_A} \right) \exp \left( \frac{-4\pi r_i j}{\lambda} \right)

ここで、

  • h(r_0, x): SAR がレンジ r_0 で受信した信号
  • a_i: 散乱体の振幅
  • B_c: 信号の帯域幅
  • L_A: アンテナの長さ
  • \lambda: 波長
  • T_A: SAR が移動する間に照射する時間

この式は、受信した信号をそれぞれの位置に基づいて位相補正( \exp \left( \frac{-4\pi r_i j}{\lambda} \right) )しながら加算していくものであり、sinc関数は帯域幅およびアンテナの指向性に関連しています。

式 11.1:ピクセルに含まれる値の合計

式 11.1 は、SARを画像化したときにその1ピクセルにふくまれる値は周辺の錯乱体からの合計であることを表しています。

S(r) \approx e^{\frac{4\pi r j}{\lambda}} \sum_{i=0}^{N} a_i e^{\phi_i j}
= e^{\frac{4\pi r j}{\lambda}} \sum_{i=0}^{N} a_i \cos \phi_i + j \cdot a_i \sin \phi_i
\phi_i = -\frac{4\pi (r_i - r)}{\lambda}

式11.2: 散乱体電力の分布

式 (11.2) は、SAR 信号の電力を計算するために用いられ、式 (11.1) の信号にその複素共役を掛けて、散乱体の電力の分布を求めています。

p = S(r) S(r)^* \approx \left\langle e^{-\frac{4\pi r }{\lambda} j} \sum_{i=0}^{N} a_i e^{\phi_i j} \cdot e^{\frac{4\pi r }{\lambda} j} \sum_{k=0}^{N} a_k e^{-\phi_k j} \right\rangle / N^2

このプロセスを理解するためには、以下のポイントに注目する必要があります。

1. 複素共役の計算

SAR 信号 S(r) を計算した後、その複素共役 S(r)^* を掛けることで、信号の電力(振幅の二乗)が得られます。SAR が1つの位置から受信した信号の振幅の2乗を計算していることを示しています。複素共役を掛けることで、虚数成分が打ち消され、実数の電力値が得られます。

2. 平均化と散乱体の影響

p = \left\langle \sum_{i=0}^{N} a_i e^{\phi_i j} \sum_{k=0}^{N} a_k e^{-\phi_k j} \right\rangle / N^2

次に、SAR 信号に含まれるすべての散乱体について平均を取る操作が行われています。この平均化のプロセスでは、SAR システムが受信する各散乱体の振幅と位相の相関関係が考慮されます。

電力の構成要素

最終的に式 (11.2) は、2つの項に分けられます。

1つ目の項は、各散乱体の振幅の2乗の平均を表しています。これが電力の平均的な大きさです。

\left\langle \sum_{i=0}^{N} a_i^2 \right\rangle / N^2

2つ目の項は、異なる散乱体間の相関に由来する余弦項です。

\left\langle \sum_{i,j;i \neq j} a_i a_k \cos (\phi_i - \phi_k) \right\rangle / N^2

この項は、異なる散乱体が干渉し合うことで電力の変動が生じる部分を表します。この干渉によって、SAR 画像における明るい点や暗い点が生じ、画像のコントラストが決定されます。

ピクセル内の散乱体の数と電力の関係

SAR の画像解像度を考える上で、1ピクセル内に含まれる散乱体の数は非常に重要です。1つのピクセルに多くの散乱体が含まれる場合、これらの散乱体からの信号が互いに干渉し、特定のパターンが形成されます。場合によっては10000個以上の散乱体が含まれ、それぞれの散乱体からの反射信号が複雑に干渉します。

一方で、1ピクセル内に散乱体が1つしか含まれない孤立点では、非常に強い反射信号が得られ、その結果としてSAR画像において明瞭な点として現れることになります。

式11.3: 散乱体の分布と中央極限定理

SAR信号における散乱体の分布を考え、ピクセル内に多くの散乱体が含まれる場合、信号がどのように振る舞うかを記述しています。SARにおける散乱体が非常に多い場合、中央極限定理の結果として、複素数形式での信号 S_0(x, y) はガウス分布に従うことが示されています。

S_0(x, y) \equiv \sum_{i=0}^{N} (x_i + j y_i)

ここで、散乱体の振幅 a_i と位相 \phi_i に基づいて次のように分解できます:

  • x_i = a_i \cos \phi_i(実部)
  • y_i = a_i \sin \phi_i(虚部)

散乱体がランダムに分布しているため、位相 \phi_i は一様分布すると仮定できます。一方で、振幅 a_i の分布はガウス分布やレイリー分布などに従う可能性があり、一般に非常に多くの散乱体が存在する場合は、振幅の合計がガウス分布に従います。これは、中央極限定理に基づく結果です。

式11.4: ガウス分布

非常に多くの散乱体を持つとき、得られる複素数信号の実部 x および虚部 y は、以下のようなガウス分布に従うとされています。

p(x, y) = \frac{1}{2 \pi \sigma^2} e^{-\frac{x^2 + y^2}{2\sigma^2}}

この分布は、平均が0で標準偏差 \sigma を持つ2次元の正規分布を表しています。このガウス分布の結果から、振幅 a と位相 \phi の分布を導くことができます。

振幅、レイリー分布

複数の独立した散乱体からの反射が合成されるため、振幅はレイリー分布に従います。

  • 複数の散乱体:電波が地表に当たると、多数の小さな散乱体(例えば、地表の凹凸、植物の葉など)から反射が発生します。
  • 独立した散乱:各散乱体からの反射波は独立しており、位相と強度がランダムに変動します。
  • 合成信号:これらの反射波が受信アンテナに到達する際、合成された信号は多くのランダムなベクトルの合成として表されます。

このような状況では、合成された信号の実部と虚部は、それぞれが平均0、標準偏差 \sigma の正規分布に従います。合成された信号の振幅 A は、実部 x と虚部 y の平方和の平方根として表されます。

A = \sqrt{x^2 + y^2}

このとき、振幅 (A) はレイリー分布に従います。レイリー分布は、次の確率密度関数で表されます。

p(A) = \frac{A}{\sigma^2} e^{-\frac{A^2}{2\sigma^2}}

この分布は、特にランダムな振幅の合成に対してよく適合します。

レイリー分布についてさらに詳しく知りたい場合は下記のリンク先がとても丁寧に解説してくれます。

位相、一様分布

散乱体からの反射波の位相がランダムであるため、位相は一様分布に従います。

  • ランダムな散乱:個々の散乱体からの反射波の位相は、散乱体の位置や形状、電波の波長などの影響を受けてランダムに決まります。
  • 合成波の位相:多くのランダムな位相を持つ散乱波が合成されると、その結果として得られる信号の位相もランダムになります。

したがって、合成された信号の位相 \phi は、0から2$\pi$の範囲で均一に分布します。これを一様分布(ユニフォーム分布)と呼びます。位相の確率密度関数は次のように表されます。

p(\phi) = \frac{1}{2\pi}

これは、位相がどの角度でも同じ確率で現れることを示しています。

式11.6:電力の期待値

振幅 a に関して、その分布に基づいて電力の期待値 \bar{p} を求めると、次のようになります。

\bar{p} = \sigma^2 + \sigma^2 = 2 \sigma^2

この結果を使って、電力 p の分布は指数分布となります:

p(p) = \frac{1}{\bar{p}} e^{-\frac{p}{\bar{p}}}

感想

この他にも11章ではSARのノイズをへらすためのルック加算処理についての説明があります。
また、実際の森林地帯、被森林地帯の錯乱データの時系列グラフ等の提示もあります。

森林地帯のほうがランダムに反射するので散乱係数は平均的に非森林地帯よりも大きく、
分布は正規分布になりやすい。 なのでSAR衛星のキャリブレーションもアマゾンの森林地帯を使うようです。

衛星データの見た目だけでなく、データ数値でかたれるようになるために
この章の内容は何度も読み返していきたいとおもいます。

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