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Japan Stablecoin Summit 2025参加レポ:400人が集った“お金のインターネット”最前線

に公開

Komlock labの小原です。2025年9月10日に開催されたJapan Stablecoin Summit 2025に参加してきました。

ステーブルコインに特化した国内最大級のビジネスイベントで、金融機関・Web3企業・金融庁まで幅広いプレイヤーが集まり、最新動向やユースケースについて議論が行われました。

https://japanstablecoinsummit2025.peatix.com/

本記事では、各セッションの内容をまとめています。気になった方はぜひご覧ください!

JPYC Keynote

要約

  • JPYCは日本で初めて改正資金決済法に基づき認可を受けたステーブルコイン発行業者。金融機関を巻き込まず、約4年半かけて認可に至った。
  • 最大のハードルはゼロ金利環境で、ビジネスモデルが成り立ちにくかったが、金利復活が認可取得を後押しした。
  • 手数料を取らず、国債の収益だけで運営する設計。顧客資産を預からない仕組みで、低コスト・即時送金を目指す。
  • JPYC自身は日銀のように発行と償還に徹する立ち位置を掲げ、SDKを無償公開して他社のイノベーションを促進する方針。
  • AIエージェント経済、DeFi、越境取引の即時化など、幅広いユースケースを想定。
  • 1日100万円制限など規制の課題は残るが、まずは現行制度でユースケースを広げつつ、規制緩和や上位ライセンス取得に期待している。

感想

ゼロ金利から金利復活というマクロ環境の変化が認可取得に影響していた点は印象的でした。個人利用には十分でも、企業間取引で1日100万円制限は大きな制約となるため、今後の規制緩和の動きに注目したいです。
また発行・償還手数料は無料と説明されていましたが、EVMチェーンを利用する以上ガス代は完全に無視できないはずで、この点が実際にどの程度ユーザーに影響するのかは引き続き気になるところです。

Sui Keynote

要約

  • Meta出身の開発者が立ち上げたレイヤー1ブロックチェーン。
  • オブジェクトベースモデルにより取引を並列処理でき、約30万TPSと低コストのガス代を実現。
  • Google/Facebookログインによるウォレット作成や、スポンサー付き取引手数料でユーザーのガス代負担を解消。
  • アドレス入力不要で送金できるサービスSlushなど、Web2並みのユーザビリティを重視。
  • オブジェクトのメタデータに本人確認情報を記録し、規制対応を組み込むことで金融機関や政府が導入しやすい設計。

感想

名前は聞いていたものの詳しく知らなかったSuiについて、その技術的な優位性とUXへのこだわりを学べて新鮮でした。特にSlushのようにアドレス入力なしで送金できる仕組みは、ユーザー体験として非常に魅力的で、実際に試してみたいと思いました。

Cosmos Keynote

要約

  • 9年以上の開発を経た高性能・カスタマイズ可能なEVM互換スタックを提供し、5万〜10万TPSでVisaを超える処理能力を実現。
  • Cosmos SDKにより、本人確認制限など企業ニーズに応じた柔軟なコンプライアンス設定が可能。
  • IBC(Inter-Blockchain Communication)は7年以上ハッキングされておらず、安全なブリッジとして国際送金やCBDC(中央銀行デジタル通貨)に貢献。
  • JP Morgan、Swift、BlackRockなど大手企業が採用し、銀行業務やRWAトークン化など実用的ユースケースを展開。
  • プライベート/コンソーシアム/パブリックの3形態から選べるブロックチェーン構築オプションを提供。

感想

Visaの処理能力を超えるという点は非常に印象的で、Cosmosが大手企業や金融機関を強く意識していることが伝わってきました。今後はEVMとの比較も意識しながら学んでいきたいです。

新韓銀行 Keynote

要約

  • 韓国銀行のCBDCテストに参加し、デポジットトークンを導入した経験を共有。規制適合性は高いが、革新性や柔軟性に欠け、既存のクレカ決済との競合で大衆には受け入れられにくかった。
  • この経験から、金融機関がデジタル資産を扱うには 分散型台帳システムの導入が不可欠であり、スマートコントラクト開発能力が競争力の源泉になると強調。
  • 日本は法制化とJPYCのライセンス取得により、韓国のデポジットトークンよりも早くステーブルコインが普及すると見ている。
  • 新韓銀行はSBJ銀行を通じ、日本との協業機会を積極的に模索。プロジェクトパックス(ステーブルコインを使ったクロスボーダー送金基盤を構築する国際協力プロジェクト)など具体的な連携事例も紹介。
  • 結びでは「日韓は異なる背景から始まったが、協力を通じて共に金融の未来を築く」というビジョンを提示。

感想

特に印象的だったのは「技術革新が通貨の形を変えてきた」という話でした。半導体の登場がクレジットカードの誕生につながり、そしてブロックチェーンの登場によってステーブルコインやデジタル通貨が生まれたという流れは、とてもわかりやすく腑に落ちる内容でした。

一方で、今回の講演はステーブルコインというより預金トークン(デポジットトークン)の話がメインな印象を受けました。
自分なりの理解では、ステーブルコインはJPYCやUSDCのように銀行以外の事業者も発行できるのに対し、預金トークンは銀行が直接発行する仕組みで、安全性や規制対応が重視されている点が特徴です。
ただ、実際にどのような場面で普及していくのかはまだイメージができておらず、個人利用よりも企業間決済や国際送金といった裏側のインフラで活用されそうだと感じました。

パネルディスカッション1「ステーブルコイン発行企業のこれまでとこれから」

要約

  • JPYCの岡部氏は、日本初の認可取得までの道のりを振り返り、ゼロ金利環境が最大の課題だったが、金利復活が追い風になったと説明。
  • 改正資金決済法による「1日100万円送金制限」は法人利用には大きな壁。セルフウォレットでの無制限保有や規制緩和・上位ライセンス取得を目指すと述べた。
  • 金融庁の今泉氏は、利用者保護を重視して議論を重ねてきたことを共有し、今後は発行自体よりも周辺でのイノベーションに期待するとコメント。
  • 三井住友銀行の下入佐氏は、企業間のリアルタイム決済ニーズを重視していることを明かし、今後は個人利用も視野に入れるが、基幹システム統合や秘密鍵管理の難しさを課題として挙げた。
  • Progmatの竹澤氏は、新規発行者の登場に期待しつつ、エコシステムや海外連携の重要性を強調。黎明期の不透明さやユーザー不安を解消し、協調して道筋を作る必要性を訴えた。
  • 岡部氏はJPYCをAIエージェント経済圏、越境取引、自動決済など多様なイノベーションの道具として自由に活用してほしいと呼びかけた。

感想

やはり1日100万円の制限がある以上、現時点で法人が本格的に使うのはまだ難しそうだという印象を受けました。また、JPYCを銀行振込で購入して利用する仕組みになっていることをこのディスカッションで知り、ここも今後改善されていくのか気になるところです。
そして改めて感じたのは、いろんな企業がJPYCのようにステーブルコインの発行体になろうとしていますが、大事なのは発行そのものではなく、
JPYCを道具としてどう活用し、どんなイノベーションを起こしていけるかだという点です。

パネルディスカッション2「ステーブルコインの利便性について」

要約

  • 商工中金の山口氏は、国際送金における複雑なプロセス・高コスト・時間的制約を指摘し、ステーブルコインが瞬時かつ低コストで資金移動できる点を強調。G20の送金改善目標達成にも寄与すると述べた。
  • Slash Vision Labsの佐藤氏は、ステーブルコインを「お金のインターネット」と表現。分断された金融サービスをシームレスにつなぐ世界を提唱し、PayPayのように人口の半分以上には大規模処理、効率性、低コスト、そしてユーザーが意識しないUI/UXが不可欠だと強調した。
  • コナミデジタルエンターテインメントの金友氏は、RMT禁止やNFT取引のリスクに触れ、ステーブルコイン導入で安全なゲーム内取引やNFT売買が可能になると期待を示した。ユーザーが暗号資産を意識せず裏側で使える仕組みが重要と指摘。
  • Suiの柏木氏は、リテールやエンタープライズの幅広いユースケースに対応できる基盤として、高速・低コスト・ユーザーフレンドリーな特性を説明。通信キャリアのローミング決済の改善例を挙げた。
  • ステーブルコインは社会課題を解決し、人々の生活や企業活動に直接的な利便性をもたらす実用的なツールだという共通認識が示された。

感想

ステーブルコインを「お金のインターネット」と表現していたのはとても共感できました。インターネットが情報のやり取りを滑らかにしたように、お金の動きもスムーズにしていくというイメージはしっくりきます。
また、ゲーム領域での活用にも可能性を感じました。

「PayPayのように普及するには大規模処理、効率性、低コスト、そしてユーザーが意識しないUI/UXが不可欠」

という話は確かにその通りですが、それは大前提な気がします。むしろ、PayPayよりも明確にお得だと実感できるメリットを提示しないと、本当に人口の半分以上にまで普及するのは難しいのではないかと思いました。

パネルディスカッション3「チェーンを選択する際の基準は何か?」

要約

  • どのブロックチェーンを使うかは、国際送金や貿易、銀行間決済など、使い道によって変わると説明された。
  • 基準としては「取引の速さと安さ」「他のチェーンとつながる仕組み」「セキュリティの強さ」「開発者コミュニティの充実度」が特に重要とされた。
  • 規制への対応(本人確認やマネーロンダリング対策など)は、金融機関が導入する上で欠かせない要素だと強調された。
  • 企業の視点では「運用からどれだけ収益が出せるか」や「ニーズに合わせて機能を変えられる柔軟さ」も大事とされた。日本の金利環境を活かした新しい収益機会も指摘された。
  • 最後に、今後3〜5年で最も大事になるのは「信頼とコンプライアンス」であり、一般ユーザーが安心して使うには金融機関の後押しや、ブロックチェーンを意識せずに使える体験が不可欠だとまとめられた。

感想

結局のところ「どのチェーンが正解か」という答えはなく、各プロジェクトや企業もまだ模索中なんだなと感じました。
ステーブルコイン専用のチェーンも出てきているので、そういった選択肢も交えて議論を聞けたら面白かったと思います。

TOKI クロージングトーク

要約

  • Tokiは、IBC(ブロックチェーン間通信)とマルチプルーバーセキュリティを組み合わせたクロスチェーン技術を紹介。複数チェーン間でJPYC資産やステーブルコインを安全かつ効率的にやり取りできる基盤になると説明した。
  • SuiやCosmosなど多様なチェーンが登場する中で、相互運用性を確保する重要性を強調。異なるアプリやチェーンをつなぎ、安全な決済を可能にすると述べた。
  • Progmatなどのパートナーと連携し、サプライヤー決済やSWIFT APIを用いたチェーン間トークンスワップといった具体的なユースケースに取り組んでいることを紹介した。
  • 400名以上が参加したことから関心の高さを強調し、「Web3からリアルなユースケースへと市場が移り、本格的な変革がすでに始まっている」とコメント。ステーブルコインがその中心にあると断言した。
  • 最後に、発行者・利用者を問わず各プレイヤーが強みを持ち寄り、エコシステム全体で協力して変革を加速させていくことの重要性を訴えた。

感想

TOKIは今後チェーンが乱立していく世界で、とても大きな意味を持つサービスだと感じました。単なる構想ではなく、すでに具体的なユースケースに取り組んでいるのも印象的でした。

また、

「Web3からリアルなユースケースへと市場が移り、本格的な変革がすでに始まっている」

という言葉には強く共感しました。ステーブルコインの未来は確実に明るいと感じられるクロージングでした。

ちなみに、このTOKIの開発の一部はKomlock Labも担当しています!
https://x.com/nuno_yamaneko/status/1944984104258420811

まとめ

今回初めてWeb3系の大規模イベントに参加して、会場の熱気やJPYCへの関心の高さを肌で感じることができました。400名以上が集まり、これほど多くの人がステーブルコインに注目していることに驚きました。

個人的には、SuiやCosmosといったEVM以外のチェーンの話や、デポジットトークンのような新しい概念に触れられたことが大きな収穫でした。また「お金のインターネット」や「Web3からリアルなユースケースへ」という言葉も印象的で、ステーブルコインがこれからの金融を大きく変えていく可能性を強く感じました。

今回はネットワーキングではあまり動けませんでしたが、次回はもう少し積極的に交流してみたいです。そして、まずはJPYC EXが実際にリリースされたら、1か月JPYC生活を試して体験レポ書きます!

あわせて、同じくイベントに参加したメンバーの記事もぜひご覧ください!ステーブルコインやJPYCについてとてもわかりやすくまとめてくださっています。

https://zenn.dev/komlock_lab/articles/aa0e43e0d1c2b2

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ここからは告知です!

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弊社Komlock labはJPYCに可能性・将来性を感じています。

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https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000166095.html

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Komlock lab

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