AIナレッジを社内共有する新しい取り組みの紹介
はじめに
この記事は KNOWLEDGE WORK Blog Sprint の 26 日目の記事になります。
こんにちは、ナレッジワークで AIリサーチャーとして活動をしている Shisho です。
ナレッジマネジメントは、組織のパフォーマンスと長期的な競争力にとって不可欠であると、長年にわたり認識されてきました。
社内に散らばる知識をいかに収集し、共有し、活用するか。これは企業にとって普遍的な課題であり続けています。
しかし、AIの進化スピードはこれまでの知識共有の仕組みに新たな挑戦を突きつけています。
プロダクトに組み込まれている技術や工夫は日々アップデートされていく一方で、「最新の知見を誰もが理解し、自分の言葉で語れる状態」 を保つことは容易ではありません。
本記事では、社内でナレッジ共有の一環として新しく始めた取り組みである「AI Knowledge TV」 について紹介します。
これは、プロダクト内で実際に使われている AI技術について、短時間で学べる社内向けコンテンツです。
「ナレッジの共有ってそもそもどんなモチベーションでやろうか」・「どのようなコンテンツにすると職種に関わらずメンバーがAIの知識や理解がついていくんだろう」など、モヤモヤしている部分があれば、参考にしていただけたら嬉しいです。
背景と目的
これまでもナレッジワークには、AI活用を促進し生産性を高めるカルチャーが根付いており、AIの技術自体を利用することは身近になってきています。
しかし、より良いものを作りお客様に届け、わかりやすく説明していくためには、単に知識を得るだけでなく、それを自分の言葉で語れる力が求められる時代になっています。
老子の格言に「授人以魚 不如授人以漁(人に魚を与えるのではなく、漁の方法を教える方がよい)」というものがあります。
これは「一時的に知識を与えるだけでは不十分で、知識を活用し自ら学び続ける力を育てる方が持続的な価値を生む」という意味です。
AI技術もまさに同じで、ただ“知っている”だけではなく、自分の言葉で説明し、現場の課題に結びつけて活用できることがますます重要になっています。
そこで「AI Knowledge TV」を通じて、次のような狙いを掲げています。
- 社内プロダクトに使われている AI 技術への理解を底上げする
- ビジネスサイドが営業トークで使える“引き出し”を増やす
- エンジニアが技術的な工夫や知見を組織全体に還元できるようにする
つまり、「AI を一部の人だけが理解している状態」から、「全員が共通言語として語れる状態」へ成長させることを目的としています。
開催方法
「AI Knowledge TV」を企画するにあたり、まず直面した課題は開催方法と開催時間でした。
リモートで働いている人も多いため、オフラインでの実施は当初から候補になく、オンライン配信を前提に検討を進めました。
ただしオンラインにも形式の幅があり、リアルタイム配信にするのか、それとも オンデマンド配信のように、参加者がいつでも視聴できる形 にするのかが論点となりました。さらにリアルタイム配信の場合は、参加者の生活リズムや業務時間との兼ね合いを考えると、平日昼間・夕方・週末といった時間帯それぞれにメリットとデメリットが存在しました。誰もが参加しやすい時間を探るヒアリングも重要でした。
リアルタイムでの開催は臨場感や双方向のコミュニケーションを生みやすい一方で、参加できる時間帯が限られるというデメリットがあります。参加できないメンバーを考慮すると、アーカイブやオンデマンドで柔軟に視聴できる仕組みを整えることも重要でした。
そのため 最終的には、リアルタイム配信で双方向性を確保しつつ、その後アーカイブを公開して誰でも好きな時間に何度でも視聴出来るようにする、ハイブリッド型の形式を採用することになりました。
さらに、アーカイブで視聴した参加者も質問できるように「質問箱」を用意し、リアルタイムとオンデマンドでコミュニケーションの濃さに差が出ないようにしました。
次に課題となったのは、コンテンツの形です。
短時間で要点をコンパクトに伝えるのか、あるいはテーマを深掘りしてじっくり解説するのか。形式によって学びの深さや伝わり方が大きく変わるため、検討を重ねました。
最終的には、1回あたり15-20分程度で気軽に参加できるコンパクトな学習コンテンツをベースにしつつ、テーマによってはやや長めに深掘りする回も設ける構成に落ち着きました。
この形にすることで、日常のスキマ時間に参加しやすい手軽さと、専門知見を共有するための柔軟性を両立できると考えてました。
運営方法
「AI Knowledge TV」は、AIのリサーチと開発の両方を担う組織である AI Unitが中心となって企画・運営しています。企画から配信までのプロセスはチーム内で役割を分担しながら進めており、発表はメンバーが持ち回りで担当します。それぞれが自身の専門知識や関わっているプロジェクトを活かして発表を行うため、毎回異なる視点や学びが得られるのも特徴です。
発表以外にも、運営には以下のような役割があります。
主な運営の役割
役割 | 内容 |
---|---|
テーマ決め | 直近のプロジェクトや社内の関心事をもとに候補を提案し、次回以降のテーマを決定する。 |
社内PR | 開催前に告知文やサンプルスライドを共有して関心を高めたり、アーカイブ配信の案内を出したりと、参加しやすい雰囲気を作る。 |
当日の司会進行と質疑応答のモデレーション | リアルタイム配信中の質問を拾い、講師に橋渡しする役割。チャットや質問箱に寄せられたコメントも整理して場を円滑に進める。 |
フィードバック収集 | 終了後に参加者から感想や改善点を集め、次回の運営に活かします。効果を測定し、継続改善に繋げる。 |
テーマ決めをする際には、開発の進捗の有無だけではなく、営業・開発・CSなど部門ごとの課題感を反映することも意識しています。
これまでに取り上げたテーマの一例としては、以下のようなものがあります。
• 「音声認識の仕組みと精度向上のための工夫」
• 「AI商談記録の要約精度向上の工夫」
• 「Speaker Diarization の仕組みとプロダクト導入の際の工夫」
また、発表の際には社内で共通して使われている スライドテンプレート を活用しています。以下はその一部をキャプチャしたものです
テンプレートを利用することにより統一感のあるデザインで理解を助けると同時に、後から資料を再利用しやすいという利点も生まれています。
効果と課題
「AI Knowledge TV」を始めてみて、参加者からはさまざまなフィードバックをいただき以下の効果と課題が見えてきました。
効果として確認できたこと
- 理解度向上の効果
-
サービスや技術への理解の促進
具体的な仕組みや工夫を知ることで、これまで曖昧だった部分が整理されました。
-
共通言語の形成
コンテンツを通じて知識や認識を言語化でき、議論を行いやすい環境を整えれました。
- 実務活用の効果
-
営業トークの強化
お客様に“ふわっと”伝えていた内容を、具体的かつ自信を持って説明できるようになったという声がありました。
-
技術的背景の理解
ソリューションセールスや非エンジニア職種のメンバーにとって、プロダクトに使われている技術的背景を知ることが実務上の説得力につながる可能性を感じました。
- 組織的な効果
-
双方向のコミュニケーション
リアルタイムで質問や意見交換ができる場として機能し、部門を越えた交流が生まれ、日常的なコミュニケーションが増える一つのきっかけになりました。
課題として見えてきたこと
- 運営面の課題
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継続性の確保
コンテンツを定期的に発信し続けるためには、企画・準備・登壇者のリソースをどう確保するか工夫
-
テーマ選定の幅
どのテーマを扱うかで参加者層の関心が大きく変わるため、選定の仕組みの工夫
- 参加者体験の課題
-
発表内容の調整
より必要な情報を必要な人に届けれるようにするための工夫
- ナレッジ活用の課題
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アーカイブ活用の促進
仕組みは用意していても、実際にアーカイブを活用する人はまだ限られるため、「後からでもみたい」と思える工夫
-
効果の可視化
「理解が深まった」という感覚的な声は多いものの、知識定着度や実際の業務活用への影響をどう測定方法
今回取り組んでみて特によかったのは、非エンジニアの方にも内容を理解していただけたことです。AI 技術はどうしても専門用語や数式が多くなりがちですが、工夫次第で誰にでも伝わる形にできることを実感しました。実際に「普段あまり技術に触れていない自分でも理解できた」という声をいただけたのは、大きな励みになっています。
今後一番大切だと思っていることは、 まずは続けていくこと です。企画・準備・配信といった運営にはそれなりの負荷がかかるため、継続していく仕組みをどう作るかが大きなチャレンジになります。内容を工夫するのと同じくらい、無理なく続けられる形を整えることが今後の成否を分けるポイントだと思っています。
今後の展望
「AI Knowledge TV」はまだ始まったばかりの取り組みですが、社内での反響や得られた学びを踏まえると、いくつかの方向性が見えてきました。
まずは何よりも 継続すること。内容の完成度を追い求めすぎて止まってしまうより、小さくても続けることのほうが長期的な価値を生むと考えています。継続の中で改善を重ね、自然と社内のナレッジ文化に根付いていく形を目指します。
次に、コンテンツの幅を広げること。AI 技術の解説にとどまらず、エンジニア・非エンジニアといった職種の違いだけでなく、フィールドセールスやカスタマーサクセスといった営業フェーズごとに必要な知識や課題感 にもフォーカスしていきたいと考えています。これにより、職種や役割ごとに異なる現場のリアリティに寄り添い、より実務に直結する知識共有の場へと成長させたいと思っています。
さらに、参加者主体の場づくり も展望のひとつです。配信を「見る」だけでなく、質問やディスカッションを通じて「参加する」スタイルをもっと促進し、知識を一方通行ではなく双方向に育てていく場にしていきたいと考えています。
おわりに
「AI Knowledge TV」は、AI技術を “みんなの共通言語” にするための小さな一歩です。
まだ試行錯誤の段階ですが、参加者のフィードバックを取り入れながら改善し、より良い形に育てていきます。
KNOWLEDGE WORK Blog Sprint の 27日目の執筆者は ソフトウェアエンジニアの石川宗寿 (munetoshi)さんです。ぜひ続けてお楽しみください。
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