元エンジニアが人事マネージャーに。最初にやった2つのこと。継続してやりたい1つのこと。
この記事は、FOLIO Advent Calendar 2022 18日目の記事です。これを読んでいる賢明なる読者諸君はこの記事の投稿日について気にしてはいけない。いいね?
はじめに
元エンジニアながら現在は人事のマネージャーを務めている私が、その就任当時の事を思い出しながら、『最初にやった2つのこと』 と 『継続してやりたい1つのこと』 というテーマで、主にマネージャー向けのプラクティスなどを紹介しています。
注意点を先にお伝えしておくと、別に驚くような内容ではなく、わりと当たり前のような内容 ですし、あらゆる状況下においてこれをやるのが正解と主張するものではありません。あくまで、その当時や今の状況において、私はこう考えているよ(いたよ)程度の内容ですので、そこはご了承頂ければと思います。
また、FOLIOでの経験談をもとにこの記事を書いていますが、内容については会社としての公式見解などではなく、あくまで私の個人的な見解です。
バックグラウンド
- FOLIOには2019年3月にバックエンドエンジニアとして入社。エンジニアとしてはそれなりの芸歴を積んでいるが、人事としての経験はゼロでした。
- 前任者が2022年3月末が退職となり、翌4月からその後任として人事部(People Experience部、通称PX部)の部長を務める事となります。
- それまではVPoE室という所で、エンジニアの採用・組織作り・運営といった部分を携わってました。
- なので、人事部に所属する以前から、採用などで既存メンバーとはそれなりに関わりを持っています。
- 最近やっているゲームは 『闇のゲーム』 と評判の『Overwatch 2』です。
最初にやった2つのこと
ある日「人事のマネージャーになって欲しい」と言われた。さぁ何をする?
いきなり答えを言ってしまっても良いのですが、それだと 尺が持たない つまらないので、せっかくですから良ければ皆さんも一度手を止めて頂き 『自分だったらまず何を最初にするか?』 をぜひ考えてみてください。
もちろん絶対的な正解とかは特にありません。
さて、考えましたか?私がその時、最初にやったことはこちらになります(下にスクロール)
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1.やらないことを握る
マネージャーの話を受けるよりも前に 『やらないこと握る』。これが自分の最初にやったことで、個人的にはこれがすごく大事かなと思い一つ目のプラクティスとして紹介させて頂きたいと思います。
いわゆる、期待値調整と呼ばれるものの一種ですね。
そもそも『マネージャー』の役割や業務内容って何?
会社によってその役割は様々ですが、特に単純にマネージャーとだけ言った場合は何かしらの管理職を指している場合が多いと思います。
そして、マネージャーの業務内容で言うと、チームのリード、外部とのコミュニケーション役、情報資産等の管理、チームビルディングやピープルマネジメントなど、多岐に渡る業務を請け負う事が多く、それにより世のマネージャーの皆さんは多忙な日々を送っている事が多いように感じます。
また、プレイングマネージャーとしてプレイヤーを兼任するケースも多く、そういった部分もマネージャーが多忙になる要因の一つのように感じます。
マネージャーは完璧超人ではない
上記のようにマネージャーの業務内容は多岐渡る一方で、マネージャーも一人の人間ですので、業務の種類や内容によって、得意・不得意、モチベーションの有り・無しといったものはわりと発生しがちかなと思います。
特に自分の場合は、開発領域から人事領域への異動だったため、通常よりも『できないこと』や『やりたくないこと』といった所へのギャップは通常よりも多くあるように感じました。
『やらないこと』を最初に握る重要性
やった方がいい理由を説明するために、逆にやらなかった場合、どういった事が発生する可能性があるのかを考えてみます。
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気になる
- やりたくないけど、やらなければと心配事として残り続けます。それは、実際に作業していない間もあなたの心配事としてパフォーマンスやモチベーションにマイナスの影響を与えてしまうでしょう。
- 一方で、『やらない』と事前に握っているのであれば、あなたは自信を持ってそれを無視すれば良いのです。
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無理をする
- あなたが『できないこと』『やりたくないこと』を無理して行なう事で、心身のいずれかあるいは両方に負荷がかかる事になります。
- 特に、マネージャーはセルフマネジメントの重要性が大きく増すので、健康やモチベーションのコントロールへの影響は馬鹿になりません。ここに苦心されているというマネージャーの方も結構多いのではないでしょうか。
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パフォーマンスが下がる
- 『苦手なこと』『やりたくないこと』なので、当然ながら他の業務と比較してパフォーマンスも低くなりがちです。
- また『苦手なこと』や『やりたくないこと』に時間をかけることになるので、その分『得意な事』や『やりたいこと』にかける時間も減ってしまう事となるので、結果としてあなたが出すバリューの総量が減ってしまう可能性があります。
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評価が下がる
- 『できなかったこと』は、単純にあなたの評価を下げる要因となる可能性があります。
- 一方で、『やらない』と事前に握っているのであれば、それによりあなたの上司があなたの評価を大きく下げることはないでしょう。
極論ですが、『時間』 と 『モチベーション』 があればだいたいの事は最終的に解決する事
ができると思います。そして、『やらないこと』を握る事はその 両方 に寄与してくれます。
もちろん、社会人ですし相手も会社ですので、言ったことが全て通るとは限りませんが、通らないなら通らないなりにどうしていくかを上司の方と一緒に考える切っ掛けとなりますし、話あった結果あまりに自分へのデメリットが大きかったり、最悪のケースを向かえるリスクが見えてきた場合はこの話を断わることもできます。
また、これは当然の事ですが 契約内容は契約の判を押す前に作るもの です。
こういった観点から、私が最初にやったことの一つ目として 『やらないことを握る』 を紹介させて頂きました。
"「できないかもしれないけどやる」が若きベンチャースピリット、
「できることをやる」が伝統的なエスタブリッシュメントのスピリットだとすると、
「できるけどやらない」がアジャイルのスピリットなのかな、って改めて思いました。"
「できるけどやらない」のがアジャイル - https://kawaguti.hateblo.jp/entry/2019/12/03/035229
2.取り組むべきイシューを決める
二つ目のプラクティスとして紹介させて頂きたいのが、あなたがマネージャーとして真に 『取り組むべきイシューを決める』 です。
『取り組むべきイシュー』って何?
そのままですが『イシュー』とは日本語で 『課題』 のことですね。
そして課題の中でも、重要で、今やるのが効果的で、あなたが最も優先して解決すべき課題が 『取り組むべきイシュー』 です。
なぜ、取り組むべきイシューを決めると良いのか?
『1.やらないことを握る』からの繰り返しになりますが、マネージャーになるとメンバーの頃よりも多忙となるケースが多いです。その一方で、視座なども上がる分、あれもこれもといったようにいろんな所の課題が目についてしまい、陳腐な表現ですが 選択と集中 をしていかないと、あっという間に時間がたち、気がついたら何もしていないという状態に陥りがちです。
そこで『目標』をきちんと決めましょうという方もいらっしゃるかと思いますが、個人的には目標よりも先にまずは取り組むべき『課題』を決めるべきだと考えています。
何故なら、全ての目標の背景には解決すべき課題があるはずです。
ですので、
- 力を入れて解決すべき課題は、何なのか?
- なぜ、その課題なのか?
- なぜ、それが課題なのか?
といった部分をきちんと言語化した後に、その課題を具体的に解決していくための『目標』などを考えた方が良いというのが自分の主張になります。
繰り返しになりますが、あくまで課題が先で目標が後ろです。逆ではありません。
そういった所で、私が最初にやったことの二つ目として 『取り組むべきイシューを決める』 を紹介させて頂きました。
"世の中で問題かもしれないと言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で本当に白黒をはっきりさせるべき問題は、せいぜい2つか3つぐらいだ。"
「イシューからはじめよ」より引用 - ISBN-13:978-4862760852
(補足)実際にイシューを決めるためにやったこと
以下は、参考までに今回自分が『取り組むべきイシュー』を決めるために実際にやったことの一例です。
- 人に聴く
- 「何に困っている?」「自分や人事部に何をやって欲しい?」などを、社長や関係部署、チームメンバーなどに聴いてまわった
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(余談)事実は一つだが、真実は人の数だけ存在する
- 自分の中での真実を作る前に、まずは皆の真実を集めた
- 某名探偵のキメ台詞は間違っているよ
- 現状の分析
- 人から聴いた話だけではなく、並行して自分でも手を動かして分析を行なった
- また、定性だけではなく、定量データの分析も実施
- 「推測するな計測せよ」
- 今回は特に、採用に対する課題感が高かったので、まずは過去一年の採用実績をかき集め、Excelによる分析を実施した
- Excelは銀の弾丸によく似ている
- また、定性だけではなく、定量データの分析も実施
- 別に1から10まで、分析する必要はない
- 最初は幅を優先で分析を開始して、取り組むべきイシューの目星を付けながら、その周辺をより深掘りしていく
- 人から聴いた話だけではなく、並行して自分でも手を動かして分析を行なった
- イシューの選定
- インパクトが大きく、ROIが高いと思えるイシューをピックアップする形で最終選定
- インパクトは大きいかもしれないが、それは今やるべきではないというイシューというのも往々にして存在する
- 今回はやらなかったが、イシューの中でも、根本的な部分を解決するために、イシュー同士の依存関係ツリーなどを作ってみることもある
- 確か昔見学させて頂いた Jim Coplienの組織パターン研修 あたりを参考にしているんだったっけか
- インパクトが大きく、ROIが高いと思えるイシューをピックアップする形で最終選定
継続してやりたい1つのこと
マネージャーである私のやるべきことってなんだろう?
さてさて、そんなこんなで今は人事のマネージャーをさせて頂いているわけですが、結局私がマネージャーとして究極的に『やるべき仕事』は何だっけ?と考える事があります。
実際に聴いたわけではありませんが、他のマネージャーに聴いても人によって答えはきっとバラバラでしょうし、世にあるマネージャー向けの本にはいろいろな事が書かれています。
そんな中で、最近の私が考えているのがチームや会社を 『勝つべくして勝たせる』 ということです。
そもそも何をしたら『勝ち』なんだろう?
『勝ち』を『成功』に置き換えて貰ってもかまいません。
それは達成すべきミッションや目標を達成した時でしょうか?でも仮に
- ミッションの実現を優先した結果、他のメンバーがほとんど辞めてしまったら?
- リリースという目標を優先した結果、その結果負債だらけのシステムになってしまった時は?
もちろんその場合でも『勝ち』と考えられなくもありませんが、個人的には 局所的に勝っていても大局的には負けている ような気がしており、目標の達成がそのまま『勝ち』とはならないようです。
ではどのようになったら 『勝ち』 なのか?をもう少し考えてみると
- 一回勝って終わりではなく、継続的に勝つ
- 会社だけ・チームだけ・個人だけではなく、皆で勝つ
- 結果だけではなく、手段にも一定のこだわりを持って勝つ
あたりが自分にとっての 『勝ちの定義』 なってきそうですし、まだまだ深い掘りしていくことに価値がありそうです。
※ 余談ですが、スクラムにおける 『Definition of Done(完成の定義)』 みたいだなとか思いました
『勝つべくして勝たせる』。そのために何をする?
さて話を戻しまして、私がマネージャーとしてやるべきことはチームや会社を 『勝つべくして勝たせる』 ことかもしれないという話をしました。では、そこからブレイクダウンして、その状況を作るために私が優先してやるべきことはなんでしょうか?
自問自答して考えてみると、優先するべきは以下の5つのモノを『作ること』なのかなって思いました。
1. 『勝ちの定義』 を作る
これについては前述しているので割愛します。ゴールがないと始まりませんもんね。
2. 『方針』 を作る
- 『トップダウンに何かを決める』ということ
- 目標・戦略・戦術・etc、結局の所はいずれも『方針を決める』ということの粒度の違いに感じます
- 当然ながらマネージャーが全部の方針を決めていたらチームはスケールしないので、メンバーに移譲するための方針を優先して作っていく必要がありそうです
3. 『環境』 を作る
- 『メンバーやチームをとりまく環境を作る』こと
- 人やチームのパフォーマンスというものは、それらを取り巻く環境が大きな影響を与えます。そのため、メンバーやチームのパフォーマンスを上げたいのであれば、その環境を変える事が重要です
- そして、メンバーの環境のうち、もっともウェイトの大きいものの一つは マネージャー、つまり私自身です(自戒)
- その上で、最初に何の環境を作るべきかと言われれば、チームの内外での信頼関係の構築から。
- Jim Coplien著の『組織パターン』においても、全てのパターンは 『信頼で結ばれた共同体』 から始まっている
4. 『体制』 を作る
- 『チームを作る』こと
- 本来の言葉の使い道からは外れてしまうのですが、なんとなく環境が『外側』で体制は『内側』というイメージでいます
- より具体的にいうとヒトに限らず、リソース(モノ・カネ・時間・情報)をチームの内側に取り込むことも体制作りのような感覚を持っています
- 本来の言葉の使い道からは外れてしまうのですが、なんとなく環境が『外側』で体制は『内側』というイメージでいます
- 体制が整っていない状況で戦うと、短期的にも長期的にも苦戦は必至なので、不足がある場合の調達は最重要タスクの一つです
- 採用なんかはそのわかりやすい例ですね
5. 『運用』 を作る
- チームを運用していくための『仕組み作り』や『ルール作り』など
- 方針にだいぶ近いですが、マネージャーはチームから一歩距離を置いて外から観測したりする必要などもあったりするので、運用を強調する意味で分けています
- システム運用から着眼点を借りてになりますが、何かをマネジメントする上で オブザーバビリティ(可観測性)、つまり 観察する能力 は最重要能力の一つだと考えています
- 課題の発見も戦略作りも全ては観察する事から始まっていますし、OODAループも最初の段階は観察ですね
- 例えば、チームの状態を観察するのに1on1・ふりかえり・ベロシティ等はその手段やシグナルとなりえそうです
- また、情報を正しく意蓄積していく仕組みを作る事もマネージャーの重要な役目です
- ただ情報が蓄積されているだけというのケースは稀によく見かけます。もろんそれが意図通りであったならそれで良いのですが、基本的には正しく蓄積するというのは 『塵や埃のようにではなく、積み木や煉瓦のように』 であるべきです。
- 他、運用について注意しておきたいのが、マネージャーが注力するべきは『運用をすること』ではなく『運用を作ること』です。
- マネージャー自身がチームを運用する事で手いっぱいになってしまうというのは、わりとありがちに感じるので注意しておきたい所です(自戒その二)
さいごに
ここまでの内容のまとめは以下の通りです。
- 最初にやった2つのこと
1. 『やらないことを握る』
2. 『取り組むべきイシューを決める』
- 継続してやりたい1つのこと
- 『勝つべくして勝たせる』
- そのために5つのモノを『作る』
1. 『勝ちの定義』を作る
2. 『方針』を作る
3. 『環境』を作る
4. 『体制』を作る
5. 『運用』を作る
いろいろ偉そうに書いてしまっていますが、この記事には 『忙しさにかまけて自分のやるべきことを見失ってしまわないように』 という、将来の自分への自戒の念と過去の自分への怨念が存分にこもっていますし、現時点でのスナップショットでしかないので一週間後にはまた考え方が変わっている可能性も高いです。
また、最後に余談となりますが、『勝つべくして勝たせる』ためのやることとして、5つのものを 『作ること』 だと記述しました。
ここであえて、『決める』ではなく 『作る』 という言葉を選んだのは一つの意図があります。
それは、これらが決められた選択肢の中から選べば良いという単純な話ではなく、分析し、設計し実装する必要があり、自分がエンジニアと呼ばれていたころから変わずに続けていること 『開発』 です。
そして、開発の世界から越境して活躍してくれるエンジニアが増えてくれると世の中もっと楽しくなりそうだという思いも込めて、最後にこの言葉を引用し、この記事の結びとさせて頂ければと思います。
"うんうん、それもまたアイカツ!だね"
「アイカツ!」 - 星宮いちご
勝つ。アイカツ。。。
まだまだ『勝った』とも『勝てる状況』とも言えない現状ですが、自信を持って言えるように来年以降も頑張っていきたいと思います!
ではではー。
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