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わかりやすさと正しさについて

2024/08/16に公開

挫折させないHoudiniドリルという書籍を執筆しました。

書影

Houdiniというツールは一般的に難度が高く、脱落者が多いとされています。そこは僕も同意するところです。しかしハードルを乗り越えさえすればそこには他のツールでは到達し得ない自由があり、より低いレイヤーでコンピュータグラフィックスそのものと会話できるかのような錯覚を覚える。そんな素晴らしいツールです。

本書は徹底的に初学者に寄り添い、タイトルにあるよう「挫折させない」ことを目標にしており、具体的には下記ふたつの大きな工夫をしています。

  1. 概念の解説項目(いわゆる座学の部分に相当する箇所)では多くのたとえを用い、イメージを想起しやすい説明を心がけました。
  2. 訓練の項目(いわゆるドリルに相当する箇所)ではひとつの課題に対し複数のアプローチを紹介し、時にはあえて悪い実装も紹介しつつカイゼンフローの体験を柱としました。

ここでは1についてのお話をしようと思います[1]。本記事がCGツールの習得を超えて、新しい知見に触れる際の参考になれば幸いです。

先に述べた通り、本書は多くのたとえや身近な例をふんだんに解説に盛り込んでいます。

  • 一蘭(ラーメン屋さん)と家庭のラーメン作り
  • 隠し味を活かしたカレーのレシピ
  • 自宅のキッチンや友人宅のキッチン
  • ティッシュペーパーとハサミを使った工作
    etc...

古今東西探しても、CGの解説書としてはチャレンジングな書籍と言えるのではないでしょうか。そしてこのたとえやイメージを用いた解説はより抽象的に物事をとらえ、様々なシーンで使える守備範囲の広い知識の獲得を目的として用意したものであり、決して目新しさのために採用したものではないことを明記しておきます。

さて、ここで皆さんにお伝えしたいことがあります。それは、情報のわかりやすさと正しさには相関性がないということです。もっと簡単に言えば、「わかりやすい説明」だからと言って「それが正しいとは限らない」と言うことです。

SNSなどでは歯切れ・聞き心地のよい解説や名言、心構えなどがバズり、ともすれば誰しもが飛びつきがちです。しかし、技術の世界ではわかりやすくかつ正しい解説を探し出すことが重要になります。特にこの問題をより難しくしているのは初学者はその解説の正誤をジャッジできないという構造です(これは新しい分野に挑戦しているので当然ですね。恥ずべきことでは全くありません)。

この度書籍を執筆するという光栄なお誘いをいただいた僕は、初学者の皆さんに安心して手に取っていただけるよう、わかりやすくかつ正しい解説となるよう最大限努力しました

現役のアーティスト・チューターとして構成や言葉の精査に心を砕くのはもちろんのこと、監修に蒸留スイさん(@jyouryuusui)を迎え、「イメージに寄せすぎて正しさから離れないよう」「基礎の学習として割愛すべきでない項目の補足」など、様々な観点でご助力いただきました。

また立役者としてお礼を述べておきたいのが編集者である加藤諒さんです。すべての読者がノイズなく読み進められるよう、非常に丁寧な校正作業を行っていただきました。また、スケジュールも後半に差し掛かった頃「より適切な説明があるのでサンプルをひとつまるまる差し替えていいですか?」という僕の無茶なお願いに対し「読者のためになるなら」と快諾してくださったプロとしての姿勢には感謝しかありません。

最後に本書の推薦文を寄せてくださった齋藤彰(@a_saito)さんに最大限のお礼をこの場を借りて。

ロジックとアートを結びつける無限のトリック
その基礎がこの一冊に。

特にゲーム分野のTAを職掌としている僕にとってこれほど光栄なお言葉はありません。

こうして僕一人では決して完成しなかったこの挫折させないHoudiniドリル。手前味噌ですが良い本になったのではないかと思っています。

多くのHoudinistに届くことを祈って。

脚注
  1. 2についての記事を書きました ↩︎

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