NeRFの基礎技術を理解する ― 体積レンダリングの仕組みを学ぶ
体積レンダリングの基本:光の旅路を描く技術
3Dグラフィックスと聞くと、多くの人は「表面」がある物を思い浮かべるでしょう。家や車、キャラクターなど、はっきりとした形と表面を持つオブジェクトです。しかし、霧、煙、雲、透明なガラスや水など、中身が詰まっておらず、光が通り抜ける物体を描くには、従来の描画方法では不十分です。
そこで活躍するのが 体積レンダリング(Volume Rendering) です。この技術は、物体を「表面」ではなく「空間」として捉え、その空間内の光の振る舞いを計算することで、リアルな表現を可能にします。光が空間内のどこでどれだけ吸収され、散乱し、透過するかを細かく計算することで、霧のグラデーションや、水中の光のゆらぎといった効果を生み出せるのです。
4つのステップで理解する体積レンダリング
体積レンダリングは、以下の4つの主要なステップで構成されます。これらのステップは、まるで光がカメラに向かって旅をしてくるかのように捉えると分かりやすいでしょう。
1. レイキャスティング(Ray Casting): 視点から光線を飛ばす
まず、カメラ(視点)から画面の1ピクセルごとに レイ(光線) を飛ばします。これは、そのピクセルが最終的にどの色になるかを調べるための出発点です。レイは、ピクセルから3D空間の奥深くへと進んでいきます。
2. ポイントサンプリング(Point Sampling): 光線上の情報を集める
次に、レイが空間を進んでいく途中に、たくさんの サンプリングポイント(点) を配置します。これらの点は、空間内の各場所の色や密度(透明度)を調べるための「観測点」です。霧が濃い場所では点がより密に配置され、空気のように透明な場所では点が粗くなる、といった工夫がなされることもあります。
3. MLP(多層パーセプトロン)による予測: AIが空間の地図を作る
ここがNeRF(Neural Radiance Fields)の肝となる部分です。各サンプリングポイントについて、「その場所がどのような色で、どれくらいの濃さ(不透明度)か」を MLP(多層パーセプトロン) というAIが予測します。
このMLPは、最初はランダムな予測しかできません。しかし、膨大な数の2D画像という「ヒント」を与えられ、繰り返し学習することで、3D空間における正確な色と密度の情報を徐々に覚えていきます。この学習は、わずか数十回ではなく、何千回、何万回、時には何百万回も繰り返されます。
MLPは、この学習を通して、3D空間の色と濃さの「地図」を頭の中に構築していくのです。この地図は、特定の視点から見た2D画像と、MLPが生成した2D画像を比較し、その誤差を最小化するようにMLPのパラメータを修正していくことで作られます。
4. インテグレーション(Integration): 光線を合成して最終色を決定
最後に、サンプリングポイントごとの色と密度情報を使って、最終的なピクセルの色を決定します。これは、レイの一番手前の点から順に色を重ねていく作業です。
- 不透明度(密度) が低い(透明に近い)点なら、奥にある点の色も透けて見えます。
- 不透明度 が高い(濃い)点なら、その点で光が遮られ、奥にある点は見えなくなります。
このプロセスは、まるで複数のフィルターを重ねていくようなものです。手前のフィルターが濃ければ奥のフィルターの色は見えませんが、手前が透明なら奥の色が透けて見える、といったイメージです。
このステップを経て、カメラから飛ばしたレイが、空間内を通過して最終的に画面の1ピクセルの色として結実するのです。
NeRFがもたらす革新:2D画像から3D空間を再構築する
従来の体積レンダリングは、空間内の情報をあらかじめデータとして用意する必要がありました。しかし、NeRFは数枚の2D画像という限られた情報から、3D空間の情報をAIが学習によって「推測」するという革新的なアプローチを取ります。
「2D画像から色が分かる」とはどういうこと?
MLPは、最初から点の正しい色や濃さを知っているわけではありません。
- 予測: MLPが各点の色と濃さを予測します(最初はほぼランダム)。
- 生成: その予測をもとに画像を生成します。
- 比較: 生成された画像と、学習に使われた実際の写真とを比較し、どれくらいの差があるか(誤差)を計算します。
- 修正: この誤差が小さくなるように、MLPのパラメータをわずかに修正します。
このサイクルを、何千回、何百万回と繰り返すことで、MLPは徐々に正しい空間情報を学習していきます。この地道な積み重ねが、最終的に実写と見分けがつかないほどの高品質な3Dシーンを再現することを可能にするのです。
これはまるで、部屋の窓から見える景色を何度もスケッチし、そのスケッチを本物の景色と比べて修正を繰り返すことで、最終的に部屋の中の家具の配置を完璧に理解するような作業だと言えるでしょう。
まとめ:体積レンダリングとNeRFの関係性
- 体積レンダリングは、光が物体を通り抜ける様子を描くための基本的な描画方法です。
- NeRFは、この体積レンダリングのプロセスをAI(MLP) で実行する、最新かつ非常に強力な技術です。
- 2D画像は、AIが3D空間の色と濃さの地図を学習するための 「ヒント」 に過ぎません。
この技術の進化により、特別な機材を使わずとも、数枚の写真からリアルな3Dモデルを生成することが可能になり、XR(VR/AR/MR)や映画制作、ゲーム開発など、さまざまな分野で革命が起こりつつあります。
今回自分の中で基礎を学び直すために上記のように理解をまとめてみました。
もし誤っている場所がある場合指摘いただけたら幸いです。
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