システムのSQLエラーで現場が失った心理的安全性
はじめに
こんにちは。
縁があってシステム改善や定着サポートのお仕事をやらせていただいている事務員です。
今回は、とあるオフィスが遭遇したSQLエラーによって、技術知見があまりない現場がどのような状況になったのか。
「現場の声」と「開発側の意図」の間にある見えない溝についてをプロダクト開発に携わるみなさまにぜひ共有したいと思い、執筆しました。
現場が直面した「謎のエラー」の瞬間
事の始まりは、ある職員がクライアント向けの書類を発行しようとしたときです。
業務システムに突然、謎のメッセージが表示されました。
SELECT * FROM [テーブル名(仮称:table_a)]
WHERE kancd = '[対象者ID]'
AND ymd = '[日時情報]'
AND course = '[契約情報の詳細ID]';
それに対して表示されたメッセージは:
SQL Error
Data Base Error!!
Table : Table_A
Action : Select
エラーから見える技術的な課題(開発視点)
せっかくですので解説してみましょう。
このエラーメッセージを技術的に分析すると、いくつかの重要な問題点が見えてきます:
- セキュリティ上の問題
おそらくセキュリティ上の脆弱性があります。物理サーバーとデータベースに接続されているデバイスだったので今回は軽傷です。
インターネットに接続されるプロダクトじゃなくて良かったと心から思いました。
- テーブル名の不一致
エラーメッセージの「Table : Table_A
」と実際のクエリ(仮にtable_a
)の間に大文字・小文字の不一致がある可能性があります。
これは:
環境依存の不具合: Windows環境ではケース非依存でも動作するが、Linux環境に移行すると突然動かなくなる典型的なパターン
コード品質の問題: 命名規則の一貫性が保たれていない可能性
将来的な移行リスク: クラウド移行やDBMSの変更時に顕在化する可能性がある潜在的な問題
だと考えられます。
- エラーハンドリングの欠如
もっとも基本的なSELECT操作でエラーが発生している点も重要です:
- デバッグ用情報が直接エンドユーザーに表示されています
- システム内部の問題を適切に処理せず、そのまま表示していることが分かります
- 本来なら開発者向けのログと、ユーザー向けのメッセージは分けるべきです
この2点だけでも、ユーザー体験だけでなくシステムの堅牢性にも関わる重要な問題です。
現場で「なんとなく不安」と感じた感覚は、技術的にも裏付けられた懸念でした。
現場と開発の「見えている世界」の違い
話を現場のシーンにもどします
今回のエラーメッセージを見た現場はこうなりました。
でも・・・
「他の端末では問題ないし、大丈夫じゃない?」
「また?!変なの。とりあえず再起動しとけばなんとかなる」
「気にしすぎだって!そのうち消えるから」
これが自分で開発しているプロダクトなら、すぐにエディターを開いて検証したいところです。
しかし、残念ながら現場ではこういう風に受け流されてしまいます・・・。
こういう状況、少し不安に感じませんか?
現場目線では:
- 「また変なエラー出た、仕事が止まるな・・・」
- 「エラーの意味がわからないから不安・・・」
- 「報告しても『自分の操作が悪いのでは』と思われそう・・・」
一方、開発側は:
- 「テスト環境では再現しない問題」
- 「技術的用語で記述されたエラーログ」
- 「優先度の判断が難しい断片的な情報」
こんなにも認識に溝があるんです。
「たまたま知識があった」からできたこと
プログラミングを学んでいたおかげで、私はこのエラーを理解できる立場でした。そこで:
- エラー画面をスマホで撮影(現場の証拠)
- エラー内容とテーブル名の不一致を指摘(技術的観点)
- システム構造を簡単な図に描き直し(翻訳作業)
これらを情報システム部門に直接共有したところ、「印刷のためにデータを引っ張ってくるときのエラーだ。これは開発側に報告しないといけない重要な構造的問題」と即座に理解してもらえました。
ただ、「こんなに分かりやすく現場の問題が伝わってきたのは初めて」だそうです。
つまり、問題は常にあったのに、それを「翻訳」できる人がいなかったこと。
この言葉に、現場と開発側の認識の違いを感じてしまいました。
非エンジニア現場の現実
今回はたまたま技術知見を持つ私が居合わせていたから対応できただけです。
同じ状況で、もし私がいなかったら:
- エラーは「たまに起きる謎の現象」として放置されていたかも
- 現場はエラーに慣れて「仕方ない」と諦めていたかも
- やがて大きなシステム障害につながっていたかも
そう考えると、プロダクト開発側にとって本当に必要なのは、現場の声をそのまま届けるだけでなく、「なぜそれが問題なのか」「どういう影響があるのか」を翻訳できる存在なのかもしれません。
この経験から学んだ「橋渡し」の価値
この出来事から、私が感じたのは:
-
現場の問題は「無視される」のではなく「伝わらない」ことが多い
技術的な背景知識がないと、何が重要な問題なのかさえ伝えられません。 -
「動いているから大丈夫」は危険な思い込み
表面的に機能していても、内部では問題が蓄積されていることがあります。 -
ユーザー視点と開発視点をつなぐ「通訳」が必要
現場の言葉と開発の言葉の両方を理解できる人が間に入ることで、解決が加速します。
プロダクト開発に必要な「現場感覚」
理想的なプロダクト開発では、最初から現場の視点が組み込まれているべきだと思います:
- エラーメッセージは技術者向けと利用者向けを分けて設計
- 現場で起きている「小さな違和感」を拾い上げる仕組み
- 開発チームが定期的に現場を訪れ、実際の使われ方を観察する機会
とくに、エラー表示ひとつをとっても、「SQL Error」ではなく「データ取得中に問題が発生しました。担当者にエラーコード:A123をお伝えください」
のような表示なら、現場の不安も少なくなるでしょう。
最後に
ざっくりと書いていますが、実際の現場はエラーが重大なものと分かったとたんに騒然としました。
早期発見と開発側への報告の甲斐あって大事には至りませんでしたが、私は痛感したのです。
プロダクトの成功は、それを使う人の日常をどれだけ理解しているかで決まるんだろう
そして、現場と開発の間に立ち、両方の言葉を翻訳しながら、より良いプロダクト体験を作っていくこと。
それが私のような「中間的な立場」にいる人間の小さな、でも大切な役割なのかもしれません。
みなさまのプロダクト開発では、現場の声はどのように届いているでしょうか?
この記事が「システムを導入された現場の声」を見つめ直す機会になることを祈っています。
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