エンジニアリングチームリードとしての3年間で学んだこと
米国のEdTechスタートアップ(フルリモート)で3年間にわたりエンジニアリングチームリードとして働いていました。自分が立ち上げたSaaSのプロダクトが成長したこともあり、この3月末で会社を離れ、フルタイムでそのプロダクトに集中することにしました。このタイミングで、チームリードとして学んだことを振り返っておきたいと思います。
この投稿は、自分自身の備忘録としてまとめたものですが、同じような立場の人や、これからチームリードを目指す方々にとって少しでも参考になることがあれば嬉しいです。
チームリードとして本当に大切なことは?
最初にチームリードを任されたときは、「予定通りに機能をリリースし、ビジネス目標の達成に貢献すること」が主な役割だと思っていました。
もちろんそれも大切ですが、Julie Zhuoの著書『The Making of a Manager』を読んだとき、ある点に気付かされることがありました:
A great manager is someone who helps their team achieve strong results today, while also setting them up for strong outcomes in the future.
意訳すると、「優れたマネージャーは、目の前の成果を出させるだけでなく、将来に向けてチームを強くする土台を作る人」ということです。
自分の意識が薄かったのは、この「将来に向けて備える」という部分でした。リードとしては目の前の仕事だけを見るのではなく、チーム自体を見渡す必要があります。たとえば、
- チーム内で信頼関係を築けているか
- みんなが学び続けられる環境にあるか
- 持続的に成長できる体制が整っているか
「いまの目標達成」だけでなく「これから先のチームづくり」を意識することで、結果としてより大きな、そして持続的なパフォーマンスにつながるのだと気づきました。
ピープルマネジメント:結局は「人」
1. 良い人間関係を築く
当たり前に思えるかもしれませんが、実際には大きな効果があると感じました。良好な関係があれば、フィードバックを伝えやすくなるだけでなく、サポートもしやすくなり、より深い話もしやすくなります。
親友のように仲良くなる必要はないですが、タスクやチケットをこなすだけの関係にとどまらず、相手を一人の人間として知っておくことがとても効果的でした。
2. 定期的なフィードバック
パフォーマンスレビューで初めて耳にするようなフィードバック(サプライズ)は、本来あってはならないものです。理想的には、日頃からこまめにフィードバックを行い、レビューではそれを総括して振り返る機会にするのが望ましいでしょう。
小さなフィードバックをこまめに伝えておくと、お互いに期待値がズレませんし、成果がどこにあるかもはっきりします。また、本人にとっても「あれってどう評価されるんだろう……」という不安が少なくなるはずです。
具体的には、次のような習慣をおすすめします。
- 1on1で定期的に進捗や期待値を確認する
- タスクごとに小さなフィードバックをその場で伝える
- 数ヶ月おきに、行動特性など大きな視点のフィードバックも行う
- 360度評価(周囲からのフィードバック)も活用する
大事なのは、明確・具体的・親切なフィードバックを心がけること。何か問題があるときも、感情を交えず、落ち着いて正面から伝えるのがポイントです。
3. メンバーのキャリア成長
相手から聞かれるのを待つのではなく、こちらから積極的に話題にすると良いです。たとえば1on1の中で「キャリアのゴールはどう考えてる?」「どんなスキルを伸ばしたい?」といった話を定期的にするイメージです。
自分があとから気づいた改善点としては、「各メンバーの業務内容や成果を、もっと体系的に記録しておけばよかった」ということがあります。特に年次レビューなどのタイミングでは、蓄積した情報があると評価がスムーズになりますし、成長を正確に把握できます。
追って記録しておくと便利な項目:
- 担当した主なプロジェクトや役割
- 強みを発揮した場面
- 取り組んでいるスキルや目標
- チーム外との協働内容
- 行動傾向・パターン
- そのポジション・役割での在籍期間
これらを残しておくと、評価やフィードバック、昇進・ロールチェンジの検討も公平かつスピーディーにできるようになります。
チームマネジメント:健全なカルチャー作り
1. 情報共有にしすぎるということはない
リードの立場だと、どうしてもチームメンバーより多くの情報を持つことになります。ですが、こちらから積極的に共有しないと、メンバーはその情報を得られません。
なので、普段から「これ知ってるかな?」と思う内容は意識的に発信するようにしました。繰り返しになってもいいからこそ、ドキュメント化して周知しておくのが大事だと思います。自分自身の原則としては、
“No doc, no work.”
つまり、書面や文書として残さなければ、何もなかったのと同じ。ドキュメントを残しておくと後から振り返るとき自分自身の助けにもなります。
2. そのミーティングは役に立つのか
良いミーティングとは、単に意思決定ができる場ではなく、参加者が「聞いてよかった」「何をすればいいか明確になった」と思える場だと考えています。
ミーティングを開く前に、常に次のような問いを持ちました。
- なぜこのミーティングが必要か?
- 参加者にはどんな情報や結論を持ち帰ってほしいか?
- 意思決定が目的か、議論が目的か、それとも情報共有だけか?
これらの点を確認するには、前述の『The Making of a Manager』で紹介されているチェックリストがわかりやすいです。ミーティング後、参加者は以下のように感じているべきだといいます。
- 時間を有効に使えた
- 何か新しい学びがあった
- 次に何をすべきかが明確になった
- 自分がちゃんと巻き込まれていると感じた
3. チームとして動く
パフォーマンスの高いチームは、単に個々のメンバーが早く作業を終わらせるだけではありません。チーム全体がコラボレーションし、お互いを刺激し合いながら課題を共有して進めていきます。
具体的には、「フロントエンド vs バックエンド」「デザイン vs エンジニアリング」のような境界を強く引かず、早い段階から共同で取り組む姿勢が大事だと思います。
個人的に大きなヒントを得られたのが「モブプログラミング」という考え方です。全員が同じ画面を見ながら一緒に開発を進める手法で、当然いつもこの形をとれるわけではありませんが、「個人の生産性」より「集団で問題と向き合うこと」を重視するという発想は、チームコラボレーションの在り方についての視野を広げてくれました。
モブプログラミングについて参考になるトークはこちら
4. 委譲がチームを育てる
委譲(デリゲーション)は意識的に取り組まないと実現が難しいものです。特にリリース期限が迫っているときなどは「自分でやったほうが早いから」と、つい抱え込んでしまいがちです。
そのため、常に「自分がトッププライオリティとしてやるべきことなのか?」「まだチームメンバーに任せられる段階ではないのか?」などを意識する必要があります。
短期的には自分がやったほうが速かったとしても、長期的にはチームの成長を阻害しかねません。むしろ、厳しいスケジュールのときこそ、デリゲーションを試みてみる価値があります。最初は時間がかかるかもしれませんが、チーム全体のパフォーマンスを安定させ、キャパシティを高めていくには必要不可欠です。
5. 心理的安全性を担保せよ
チームリードとしての言動や態度は、自分が思う以上に大きな影響力があります。ちょっとしたリアクションやフィードバックの仕方で、メンバーが意見を出しやすくなったり、逆に萎縮してしまったりします。
- 誰かが意見を言ったときに批判や否定ではなく、まず受け止める
- 自分が知らないことは「知らない」と素直に言う
- 静かなメンバーにも発言の機会をつくる
こうした積み重ねが心理的安全性を育みます。安心して意見交換できるチームは、信頼関係が強まり、より良い協力体制を築けるものだと感じました。
タスク管理で使えるちょっとしたコツ
1. 作業を小さな単位に分割する
大きすぎるストーリーやタスクは、予想外の問題が起きたり、デッドラインに間に合わなかったりするリスクが高まります。可能な限り小さく区切った方が見積もりの精度も上がり、また見落としていたタスクの発見にもつながったりします。
2. 「Story」ラベルを意図的に使う
Jiraなどの管理ツールでは、「Story」=ユーザが感じる価値がある機能や要件というふうに、きちんと定義して使うのがおすすめです。ただのタスクや作業メモにStoryを乱用すると、進捗やゴールが見えにくくなります。
「Story」を明確に分けておくメリット:
- プロダクトや品質保証(QA)担当とスムーズに連携しやすい
- 見積もりやスプリントプランニングをしやすくなる
- リリース計画が立てやすい
もし「Story」が大きすぎると感じたら、独立性のある小さなチケットに分割して、依存関係を明確にしましょう。
チームリードにおすすめの2冊
- 『The Making of a Manager』(Julie Zhuo 著)
自分がチームリードになったばかりの頃、一番助けられた本です。1on1のやり方からチームカルチャーの話、フィードバックの伝え方などが、実践的でわかりやすくまとめられています。とても読みやすいので、ぜひ手に取ってみてください。おすすめです。
- 『人を動かす』(Dale Carnegie 著, 原題: “How to Win Friends & Influence People”)
古典的名著ですが、コミュニケーションや共感、説得力に関する原則は今でも通用する部分が多いです。例え話に古さを感じますが、大事な本質は今でも十分に生きています。
これでひとまず以上になります。
この3年間を振り返ると、たくさんの学びと素晴らしい仲間との出会いがありました。こうして文章にまとめることで、成果だけでなくマインドセットの変化や成長にも改めて気づけた気がします。
もし再び同じようなチームリードのポジションに就くことがあれば、今回まとめた内容を見返して、「何がいちばん大切だったか」を思い出したいと思います。
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