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カウシェ開発チームのリアルなLLM活用上半期レポート

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はじめに

株式会社カウシェでバックエンド/webフロントエンドチームでエンジニアリングマネージャーをやっているs.ichijimaです。

カウシェでは2025年2月から、LLMを中心としたAI活用に全力で取り組む方針を掲げ、開発チーム内でもその推進を進めてきました。本記事では、2025年上半期におけるカウシェ開発チームのリアルなLLM活用の流れを、時系列で振り返りながら、実践的な活用事例や個人的な所感を交えて紹介します。

カウシェ社内で「vibe coding」と正式に呼んでいるわけではありませんが、世間的にはそういうノリなのかなと思っていて、本記事でも便宜上そう表現しています。

2025年1月

この頃はエンジニア個々人がChatGPTやClaudeなどを契約して利用している程度で、全社的な方針はまだ定まっていませんでした。開発ではGitHub Copilotを全員に付与していましたが、活用状況にはばらつきがありました。

PR-Agentというコードレビュー支援ツールも導入済でしたが、精度としては「補助として悪くないが、頼りきるにはまだ早い」といった印象でした。とはいえ、PRのDescriptionを要約してくれる機能は地味に重宝していました。

Devinのリリースも話題でしたが、月額500ドルという価格と性能のバランスを鑑みて、導入は見送っていました。

2025年2月

ツールの利用状況にはまだ差があり、人によってはCursorを導入していた時期です。
しかし、2月下旬にリリースされたClaude3.7の登場が大きな転換点となりました。
特にCLINEに全部賭けろという記事に強い影響を受け、これはもう使うしかないと確信しました。
この頃から、チーム全体での「まずはAIを使ってコードを書かせてみるコーディングスタイル」、つまり(便宜上の)vibe codingをみんなでやっていこうというムードになっていきます。

2025年3月

Claude 3.7 + Cline の体験があまりに良く、組織全体でもAIを起点に開発する文化の醸成が急務であると感じました。

OpenRouter経由でAPI Keyを配布し、VSCode上で使えるClineの導入を推奨。CursorやWindsurfなど、何を使うかは任意としつつ「まずvibe codingを体験してみる」ことを重視しました。

カウシェのコードベースとLLM親和性は以下の理由から、LLMによる補助が比較的スムーズに機能する構成だったことも幸いでした:

  • モノレポ構成
  • 明文化された コーディング規約
  • API仕様がprotoで記述され、E2Eテストで仕様準拠を担保

また、FirestoreからSpannerへの移行作業がちょうど進行しており、型化されたタスクにvibe codingを適用することで非常に高い効果を発揮しました。移行タスクをオンボーディング用にアサインし、みんなで「まずはAIにコードを書かせてみる」感覚に慣れていきました。

2025年4月

全社としてもAI活用にオールインしていくことが正式に発表され、チームも一気にその波に乗りました。
実装以外にも、DesignDocの作成やリグレッションテストの自動化など、さまざまな文脈でLLMの活用をやっていくぞ!という試みが活発になりました。
また、MCPサーバを使い、FigmaやShopifyなどへのLLM連携も進みました。2-3月に育休を取っていた同じEMのakifumiさんも、復帰後にその衝撃をnoteにまとめていました。

vibe codingの浸透を測る取り組みとして「LLM起点のPRにAIラベルをつける」「CursorやClineをブランチ名に含める」みたいなことをして、vibe coding率を可視化する試みも始まりました。

Claude3.7に加え、Gemini2.5、GPT-4o、DeepSeekなど多様なLLMが登場し、ついに群雄割拠の様相に。これにより、人間側に求められるLLM非依存な力が見えてきたと感じます。私としては以下の3つです。

  • 最終成果物のイメージ能力
    • 方向感覚のようなもの
    • 言語化できる方がベストだが、具体のはっきりしたイメージは難しいので、ざっくりこんな感じがイメージできれば良い
  • 最終成果物からの逆算力
    • そこに至るまでに何をしなければならないか、をちゃんと導き出せる能力
    • プロジェクトでマイルストーンを置いたことがある人は、このあたりは大丈夫なはず
    • どことどこは一緒に開発できる/できないを具体のタスクベースに落とし込めない場合、今後並列で開発していく中でかなり効率悪くなる
  • 自分の思考・意図を正しく伝える言語化能力
    • NOT 小手先のプロンプト力
    • AIから得られた回答の中でどこが自分の考えに符合していて、どこがどう違っているのかをちゃんと伝えられないと、欲しい答えに辿り着くまでの時間がかなり変わってくるはず

あとはGitHub Copilotのコードレビュー機能がリリースされ、すでに導入されていたPR-AgentとCopilotのレビュワー君の両方にレビューをしてもらえるようになりました。ただ、それぞれの性能差は正直感じられていないのが正直なところです。

2025年5月

OpenAIのCodexや、GoogleのJulesが発表され、自分自身ではいよいよエディタを開くこともなくなってきました。
メンバーはCline、Cursorのどちらかをメインに使っていることが多かったです。Aiderを使ってる人もいました。
Clineで使っているOpenRouterの利用額も当初よりかなり増えてきて、活発に利用している人にはCursorへの移行をお願いしたりしました。
人ごとに利用できるクレジットの上限を設定していたのですが、人によってはすぐに上限に達してしまって、不便を強いてしまっていたので、それを解消したかったというのもあります。
AIコーディングに乗り遅れると他社と10倍以上の差がつくので、計測だけでなくちゃんとAIに触れて活用するぞ!という意志を込めて、5月末時点で全PRのうち、LLM起点のPRの割合を半分にするという目標を立ててチームに伝えました。
手段が目的になっているのですが、とはいえ無理矢理にでも全員がAIに触れ始めて、活用できている状態にしておかないと、今後取り返しがつかないぐらいの差が生まれてしまうのではないかと考えてこの活動を行っていました。
最終的に5月最終週には全体のPRのうち、68%がLLM起点で作られたPRになりました。

2025年6月

5月の下旬に出たClaude Code及びClaude Code Actionを導入しました。
Claude Code ActionはGitHubのIssueを起点に開発できるのは、他の人がどういう指示を出しているかを見れるようになったと言う点で気に入っています。と、同時にCodexを全然使わなくなってしまいました。
また、PR上でClaude含めて議論できるようになったのは面白いなと感じたところです。
IMOなコメントについて、Claudeに意見を聞くようになったのは面白く、また妥当な答えが返ってくるので普通に使えそうだなと感じています。

そしてCursor v1.0のリリースがありました。他のツールを組み合わせてやっていたことがCursor単体でできるようになったんだなあみたいな印象で、そこまで劇的な進化は感じていません。
ただBugBotとSlack Integrationは導入しています。BugBothは他のPR-AgentやGitHub Copilotのコードレビューより明らかに精度良くバグを見つけてくれています。今は3つのレビュワー君が動いているので、趨勢を見極めつつ絞っていこうと考えています。だって、PR開いた時にいっぱいコメント来ちゃうんですもの...。
Slack Integrationを使いこなせるようになるのはこれからかなあ、と言った所感です。Slackから作業を依頼する用途としてはあまり考えておらず、例えば「@Cursor ちょっと仕様について教えて。商品のランキングってどういう仕様で決まってる?売り上げた個数?売上金額?」のような感じで、他職種からのプロダクトに関する仕様の問い合わせ対応に使えそうだな〜と思っています。ただ、もうちょっと返信のスピードと価格が安くなって欲しいですね。

そして今話題のClaude Codeも全エンジニア使えるようにしました。体感として、Claude Codeは他のAIツールと比べるとコードベースの探索具合が明らかに違うように感じています。他のAIツールは表層的にしか探してくれないのを、Claude Codeは「あ、そんなとこまで見てくれるんだ」みたいなぐらい探索してくれている感じがあります。なので他のAIツールより性能は一段上な印象を受けています。
しかしこれも今だけの話で、あと1週間もすればどこかしらが同じようなことができる上位互換サービスを出してくるんだろうな〜とか思ってしまいます。それぐらい変化の激しい数ヶ月でした。

おわりに

この半年を振り返ってみると、AI技術そのものの進化以上に、それをどう受け止めて、どう日々の開発や組織のスタイルを変えていくかの方が、ずっと興味深かったと感じています。

進化のスピードが速いことは間違いなく、だからこそ「完璧に理解してから使おう」と構えていると間に合わない。大事なのは、多少雑でもまずは触ってみること、そしてその体験を通じて徐々に自分たちのやり方を形にしていくことだと思っています。

その一つの現れが、ここで便宜的に呼んでいる vibe coding のようなスタイルで、ツールに合わせるというよりは、自分たちの文脈で自然にAIと付き合っていく方法を探ってきた半年間だったのかなと。

下半期も、技術も状況もどんどん変わっていくと思いますが、変化を正面から受け止めて、自分たちの言葉と手触りで開発していく感覚は、大事にしていきたいなと思っています。

つらつらと書いてしまいましたが、カウシェで働くことに興味を少しでも持ってもらえた方はぜひともカジュアル面談をしましょう!
https://youtrust.jp/recruitment_posts/a82b92474ace4f2e2ecaa2d2ef7a3a68

直近開催するイベントの案内です!
https://kauche.connpass.com/event/360073/
https://kauche.connpass.com/event/358309/
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