単関数近似でルベーグ積分の核心に迫る(ルベーグ積分の定義②)
この記事は後半です。前回を読んでいない方は、こちらを先に読んでみてください:
前回の記事では、ルベーグ積分の基本として「単関数」という特別な関数を導入しました。
単関数は有限個の高さを持つシンプルな関数で、積分も「高さ×幅(測度)」を足すだけという簡単さが特徴でした。
でも現実には、もっと複雑な関数を扱いたいですよね。今回はそんな複雑な関数を「単関数で近似する」という方法で、一般的なルベーグ積分の定義を導入していきます。
なぜ近似が必要なのか?
単関数は「階段のような形」をしているので、どうしても滑らかな関数や、細かなジャンプが無数にあるような関数は直接表現できません。
例えば、波打つような関数や、あちこちでジャンプする関数を「階段状の関数」で表すには無限に段数を増やす必要があります。
ここで出てくるのが「近似」というアイデアです。
複雑な関数を最初からピッタリ表現するのではなく、単関数の列で下から少しずつ近づけていけばいいいという考え方です。
単関数近似の定理と性質
単関数近似の定理は、次のように表されます。
任意の非負可測関数 f に対して、ある単関数の列 {\phi_n} が存在して、
つまり、各点 x で常に「単関数の値が下から徐々に f(x) に近づいていく」という形で近似できる、という定理です。
そして、このとき積分も自然に次のように定義されます:
「単関数で近づけたものの積分の極限」が、その関数の積分になるのです。
近似による曖昧さはないのか?
ここで疑問が浮かぶかもしれません。
「本物の関数じゃなくて、近似しているだけならリーマン積分と同じで曖昧なんじゃないの?」と。
実は、ルベーグ積分がリーマン積分と決定的に違うのは、「完全な形を知らなくても曖昧にならない方法」で積分を定義していることです。
リーマン積分では、各区間で「どの高さを代表値として選ぶのか」が曖昧になることがありました。そのため、「近似の仕方」で積分値がぶれてしまう場合がありました。
一方でルベーグ積分は、「下から積み上げる単関数の近似」という明確な方法を使っています。
単関数による近似は、どの時点でも「はっきりした下限値」を保証することができます。これが非常に重要です。
例えば、
• リーマン積分:「この区間の代表値、どの高さにしよう?」という曖昧さが発生する。
• ルベーグ積分:「ここまでは確実に下限値として積み上げられる」という明確さがある。
イメージで言えば、リーマン積分はぼんやりと曖昧なラインをどこかで引かざるを得ませんが、ルベーグ積分は「ここまでは絶対に大丈夫」という安全ラインを積み上げながら面積を測ります。
具体的な感覚としては:
• 最初はざっくり下の部分だけカバーする(最低限の面積が確保される)
• 段数を増やしていけば、少しずつ細かい部分を埋めていく
• 常に「これ以下になることはない」ので、安心して極限に近づける
つまり、ルベーグ積分は「単関数で下限を明確に保証する」ことで、リーマン積分の持っていた近似の曖昧さを完全に克服しているのです。
積分を「下から」近づけることの重要性
特に重要なのは、単関数近似が「下から単調に近づいていく」ことです。
なぜ下からなのでしょう?
それは、下からの近似なら各単関数が常に関数 f よりも「低めの値」をとるので、積分値を過小評価していることになり、常に安全に「最低限の値」を保証できます。
このようにして単調に下から近づけることで、最後の極限が自然に積分の正しい値へと収束していくのです。
ルベーグ積分の定義は、決して「最初から完全な関数」を測っているわけではありません。
• 単関数というシンプルな関数で始める
• 下から少しずつ近似していく
• 極限として完成させる
これがルベーグ積分の本当の姿であり、「近似」という一見遠回りに思える方法こそが、複雑な関数を扱える理由です。
僕はこのルベーグ積分の定義は聞いた時、論理が先行して堅苦しいものだなという印象を受けました。
わざわざ定義したけど使い道あるのかなというのが素直な印象でした。
ですがここから得られる定理にこそ恩恵があり、極限と積分の順序を交換できる優収束定理がその代表です。
そちらについても興味のある方が多ければ別の記事で解説しようかと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます! いいねやフォローいただけると嬉しいです。
次回もお楽しみに!
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