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積分の新しい景色へ──単関数から見るルベーグ積分(ルベーグ積分のはじまり①)

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前回の記事では、「リーマン積分ではなぜ不十分なのか?」という疑問から出発して、ルベーグ積分がどのような発想で登場してきたのかを紹介しました。

リーマン積分は横に切る。ルベーグ積分は縦に見る。

そんな視点の違いが、積分という操作の本質を捉え直すヒントになりました。

まだ前回を読んでいない方は、以下の記事を先に読むと、今回の内容がよりスムーズに理解できます:

https://zenn.dev/kakuritunoheya/articles/c232f002813674


今回からは、ルベーグ積分を「実際にどう定義していくのか?」2回構成で解説していきます。

その前半として今回は"単関数"という特殊な関数で定義していきます。

「単関数って何?」「なぜ積分の定義はそこから始まるの?」

そんな疑問を持っている方はぜひ目を通してください。

なぜ“単関数”から始めるのか?

ルベーグ積分は、「関数の値をとっている“範囲”の大きさに重みをつけて足し合わせる」ことで面積を測るという、新しい積分の考え方でした。

でもいきなり一般の関数を扱おうとすると、どうしても抽象的になってしまって、直感的にイメージしづらくなります。

そこで、最初に出てくるのが 単関数(simple function) という、ものすごく扱いやすい関数です。

単関数とは?

可測空間 (X, \mathcal{F}) 上の単関数とは、次のような形をした関数です:

\phi(x) = \sum_{i=1}^n a_i \cdot 1_{E_i}(x)
  • (a_i \geq 0):関数の“高さ”
  • (E_i \in \mathcal{F}):その高さをとる範囲(可測集合)
  • (1_{E_i}(x))x \in E_i のとき1、そうでないとき0


図1:単関数は有限個の高さブロックでできた関数

つまり、有限個の値をとる、段差のような関数です。

積分の“最小単位”を考えてみる

「この区間では3、この区間では5…」といった段差構造の関数があったとします。
このとき、各ブロックについて「高さ × 幅(測度)」を計算して合計すれば、面積が求まります。

つまり、まさに:

高さ × 横の広さ の足し算

という発想が自然に出てくるのが、単関数です。

単関数の積分を考えてみよう

単関数は、高さが一定のブロックのような関数でした。

このような関数の積分はとても素直に定義できます。
それぞれの“高さ”に、その高さをとっている部分集合の“面積”を掛けて、すべて足し合わせるだけです。

積分の定義

単関数 \phi(x) = \sum_{i=1}^n a_i \cdot 1_{E_i}(x) に対して、その積分を以下のように定義します:

\int_X \phi \, d\mu = \sum_{i=1}^n a_i \cdot \mu(E_i)

ここで:

  • a_i はそのブロックの高さ
  • E_i はその高さをとっている範囲(可測集合)
  • \mu(E_i) はその範囲の“広さ”=測度

直感的な意味

この式はまさに:

高さ × 面積 を足し合わせたもの

になっています。

  • 「この範囲では高さ3」→ 高さ3 × 面積
  • 「この範囲では高さ5」→ 高さ5 × 面積
  • 「この範囲では高さ1」→ 高さ1 × 面積
    → 全部合計すれば、関数の“塗りつぶした面積”が得られる

まるで色ごとに区分されたグラフの面積を「色別に合計」していくような感じです。


例(イメージ)

例えば、以下のような関数を考えてみましょう:

  • 区間 [0,1),(4,5] では高さ 3
  • 区間 [1,3) では高さ 5
  • 区間 [3,4] では高さ 1

そのとき積分は:

\begin{aligned} \int \phi \, d\mu &= 3 \cdot (\mu([0,1))+\mu((4,5])) + 5 \cdot \mu([1,3)) + 1 \cdot \mu([3,4]) \\&= 3 \cdot (1+1) + 5 \cdot 2 + 1 \cdot 1 \\&= 17 \end{aligned}

まさに、**高さごとの“面積の足し算”**という感じがすると思います。


軽く触れる「単関数近似」の入口

ここまでで「単関数」を使ったルベーグ積分の“最小単位”が理解できました。
しかし、現実にはもっと複雑な関数を積分したい場面がほとんどです。

そこで次回は、任意の非負可測関数を「単関数の列」で下から近づける方法――
いわゆる 単関数近似 を使って、どのようにルベーグ積分の定義を拡張するのかを見ていきます。

「単関数の積分を積み重ねることで、イメージどおりに一般の関数も測れる」
この強力な発想を、視覚的なステップとともにじっくり掘り下げます!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
参考になりましたらいいねフォローをしていただけると嬉しいです!

次回もお楽しみに!

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