ECIES (楕円曲線統合暗号化方式)について
こんにちは。株式会社KAENのエンジニアの石野です。
先日、KAENでは法人向けパスワードマネージャーのパスクラ をリリースしました。
本記事ではパスクラで使われている楕円曲線統合暗号化方式について解説します。
ECIES(楕円曲線統合暗号化方式)とは?
セキュアな通信を実現するための暗号化方式にはいくつかの種類があります。その中でも、「楕円曲線暗号(Elliptic Curve Cryptography, ECC)」をベースにした ECIES(Elliptic Curve Integrated Encryption Scheme) は、軽量かつ強力な暗号方式として注目されています。
※ 楕円曲線暗号についてはこちらの記事で詳しく解説しています
なぜECIESなのか?
従来のRSAに代表される公開鍵暗号方式に比べ、ECCは同じセキュリティレベルをより小さい鍵サイズで実現できるという利点があります。これにより、モバイルデバイスやIoT機器など、リソースが限られる環境でも安全な通信を行えるようになります。
さらに、ECIESは単なる暗号化だけでなく、認証と改ざん検知も可能な構成になっています。
ECIESは、ECCをベースにして、高い強度の暗号化を実現しながら、同時にメッセージの認証や改ざん検知も行えるため、機密性と完全性の両方を確保できます。
ECIESの構成要素
ECIESは単独のアルゴリズムというよりは、「複数の暗号技術の組み合わせ」によって構成される暗号スキームです。主に以下の要素で構成されます:
- 楕円曲線Diffie-Hellman(ECDH):共有鍵の生成に使われます
- 鍵導出関数(KDF):共有鍵から暗号鍵を導出します
- 対称鍵暗号(AESなど):実際のデータ暗号化に使用されます
- MAC(メッセージ認証コード):改ざん検知のために使用されます
これらを組み合わせることで、安全かつ効率的な暗号化を実現します。
暗号化の流れ
- 送信者は、受信者の公開鍵を使って一時的な秘密鍵と公開鍵のペアを生成します
- 生成した一時的な秘密鍵と受信者の公開鍵からECDHで共有鍵を導出
- 導出した共有鍵から、KDFを使って暗号鍵とMAC鍵を生成
- 暗号鍵でデータを暗号化
- MAC鍵で認証タグを生成
- 暗号化データ、認証タグ、一時鍵の公開鍵をまとめて送信
復号の流れ
- 受信者は送信された一時鍵の公開鍵と自分の秘密鍵でECDHを行い、共有鍵を導出
- 暗号鍵とMAC鍵をKDFで生成
- 認証タグを検証(改ざんチェック)
- 暗号データを復号
利用されている分野
ECIESは以下のような場面で利用されています
- モバイルアプリやIoTデバイスでのデータ送受信
- ブロックチェーン(例:Ethereumのウォレットアドレス生成など)
- セキュリティトークンの発行や管理
まとめ
ECIESは、ECCの効率性と対称鍵暗号の実用性を組み合わせた暗号方式です。特にリソース制約のある環境では、その小さな鍵サイズと安全性が大きなメリットとなります。
セキュリティの観点からも、ハイブリッド暗号方式の中でも使いやすく工夫された仕組みになっています。今後もさまざまな分野で活用が広がっていくことが期待されます。
最後に
最後まで記事を読んでくださりありがとうございます。
ECIESについては日本語の情報がまだ少ないと感じたので、調べた内容を自分なりにまとめてみました。この記事が少しでも参考になったり、理解の助けになれば幸いです。
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